一日目「始まった日」
――16年前――
「霊夢ぅ~。異変っぽいぜぇ~」
掃く必要のない場所を箒で掃く霊夢のもとへ、魔理沙がやってくる。
「珍しいわね。いつもは、あんた一人で解決しようとしてるのに」
「ああ。私にはもうお手上げだぜ。霊夢、あとは任せた〜」
魔理沙は飽きたんだな。そう霊夢は直感で感じた。
「それで? どういう異変?」
「それは、被害者さんから聞いてくれ」
そう魔理沙は言うと、手招きをする。すると、二人の影が見えた。大妖精とチルノだった。
「被害者…ってのは引っかかるけど。で? 二人とも、どうなの?」
妖精共のすることだ。どうせイタズラだろう。そう霊夢は思っていたが、二人の表情を見てその考えは消え去った。
「ヒック……霊夢…さん……。妖精さんたち…がっ…!」
「大ちゃん……ぅぅ…おい霊夢! 大ちゃんをこれ以上泣かせたら…! 許さないからな……」
二人は泣いていた。深刻な問題。それは目に見えていた。
「つまり。最近妖精たちを見なくて。心配だってこと」
魔理沙と霊夢で二人を落ち着かせ、話を聞く。
「はい……その辺をいつも飛んでいる妖精さんたちが……いないんです」
3日ほど前から、少しずつ妖精が減っている。そう言っている。魔理沙も、「そういえば最近見ないな。つまんないぜ」と言っているし、本当のことだろう。
「とりあえず怪しいことがないか探すことにしますか。四人で探すわよ」
霊夢もまずは情報がなければ動けないと思い、幻想郷中を探すことにした。
「大妖精とチルノは里の方へ。私は妖怪の山へ行くわ。魔理沙は森へね」
行き場所をそれぞれ確認すると出発する。が、霊夢は気づいた。大妖精が飛んだ瞬間。
「大妖精? …そ、その足……?」
「足? ……? ぇ…え? なに……これ……?」
「大……ちゃん……?」
大妖精の足が消えていることに。しかも、徐々に薄れ、体の方まで消えかけていた。
「ぁ……チル…ノ……ちゃん?」
「大ちゃん! どうして!? どうしたら止まるの!」
大妖精の体は光となり、空へと消えていく。チルノは泣きながら、その光を掴んで戻そうと必死になっている。
「……? これ……が……ね…」
もう声も小さくなってきている。霊夢と魔理沙はどうすることもできず、ただ見ていることしかできなかった。
「チル……ノ……ちゃん…」
「なに! …ぅ…大ちゃん! 聞こえ……ないよっ…。もっとあたいを怒る時くらい大声だしてよっ!……」
途切れ途切れの声で大妖精は言う。そして、もうほぼ消えかけている手で、チルノの手をつかむ。
「ひと……りじゃない……よ…さみし……くないよ……チルノ…ちゃん」
もう霊夢は見ていられなかった。目の前で起こっていることを、どうにもできない自分も、辛かった。
「なに言ってるの!? …ぅく……一人なわけないじゃん! …これからも大ちゃんと一緒にいるんだもん!」
チルノは大妖精の手を握り返す。だが、
「あっ……」
その手は、チルノが掴むより前に消えてしまった。残るは肩より上。
「チルノ……ちゃん…。一緒……にはいられない…けど。ずっと……覚えててね……まだいる? …チルノ…ちゃん……」
大妖精の目は、もう見えていなかった。
「いるよ…っ! 覚えてるよ! だから……だから! 消えないで大ちゃん!!!」
「あはは……ごめんね…。チルノちゃん……。ありがとぅ…………」
そして。大妖精は声とともに消えていった。三人は、どうすればよかったのか。なぜこうなるのか。たくさんの思いが頭の中を埋め尽くしていた。
可愛そうです。