⌘宙良
俺は寒いのが苦手だ。
雪なんか大大大嫌いだ。
なんで日本という国には冬なんてものがあるんだ。
日本の季節に無言でクレームをつけている俺は、家の玄関を開けた瞬間、今朝の占いに少しだけ感謝した。
家の前を通りすぎようとするアイツをじっと念力をこめて見つめてたら、アイツの第六感がはたらいたのかこっちを向いた。
「あー、おはよう。久しぶり。」
厚すぎも薄すぎもない、少し乾燥した唇から白い息と共に発せられた声ににやけそうな口を隠すようにマフラーを鼻まで上げた。
「おはよう。」なんてアイツには返せない。
「おう。」とだけ返しといた。いつものことだ。
「寒いねー。」
ごく自然に並んで歩いてくれる姿に少し上機嫌になったが、ばれないように素っ気ない返事をした。
寒さは少し和らいだ気がする。
「今日は山羊座2位だったー。」
その情報は知っている。占いはあたるものなんだろうか。確か今日のラッキーカラーは青だったかな。
璃央のほうをそっと見ると、肩まである髪をハーフアップにしている髪ゴムが青いのが見えた。
ガキくさいと思いながらも可愛いと感じてしまう俺は馬鹿なのだろうか…。
…これからは少しだけ占いを信じてみよう。
返事がないことが気になったのか、璃央が俺のほうを見上げてきた。
…その上目遣いはわざとか。ねらってるのか。新学期早々襲いたくなるじゃないか‼抑えろ。朝から盛るんじゃない。
あ、返事だった。えーっと、今更なんて返せばいぃんだ?
うーん…
「…おう。」
やっぱこれしかでてこねーよ‼
ちらっと隣を見ると、…ふて腐れてる‼
だよなー。3回連続あの返事は冷たすぎるよなー…。
どーするよ…この空気どーするよ。何か話さなきゃダメだよな。でも何を…
…うーん…考えすぎた…。
「あ。」
あ、ヤベ。声にでちまった。仕方ない…
「わりぃ。俺先行くわ。」
最低だな。俺。
璃央は一度前を見て、納得したように返事をした。
ほんとごめんな。
璃央から視線を外すと、少しスピードを上げて歩きながら、俺はポケットから眼鏡をだした。そして大通りにはいる直前、俺の学校生活に欠かせない眼鏡をかける。
この眼鏡によって俺は…
超地味な空気の薄い男となるのだ。