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雪まつり2日目(雪まつりと関係あるかと聞かれれば……まあ、無い)

 雪が降った。とても寒い日だった。

 一面が真っ白に染まり、それでも飽き足らず雪は降り続けている。


 そんな日、森の中に、3人の少年少女の姿があった。

 一人は、腰に杖を携えた、綺麗な金髪の少女。

 もう一人は、蒼髪の少年。煌びやかな装飾を施した剣を持っている。

 最後の一人は――真っ白だった。厳密にはそうではないのだが、最適な表現をしろと言われると、やはり真っ白が正しい。


「そんなとこいないで、一緒に遊ぼうよ‼」


 少女が最後の一人に声をかける。


「ほんとだよ。何1人斜に構えてんだ。後ろでニヤニヤ笑いやがって、キモいぞ?」


 青年も声をあげた。


「はは、ひっでえ。」


 呼ばれたからには仕方ないと言った風に、微小を崩さないまま2人に近づいてくる。


「ほらゼクス、喰らっとけ‼」


 どうやら真っ白なその人は、ゼクスという名らしかった。

 青年がゼクスに、後ろ手に隠し持っていた雪玉を投げつける。


「おいおい舐めてんのか? そんな鈍いとあたんねえよ。」


 いとも簡単に避けられ、お返しと言わんばかりに、ゼクスも隠し持っていた雪玉を投げつける。


「うおっ‼」


 青年――ロドスの方は、ゼクスの雪玉を避けられず、顔面にモロに喰らってしまった。


「ほらいったじゃん。こんな見え透いた作戦じゃ、ゼクスには当たらないよって。」


 少女の方が呆れた顔をしてロドスを見やる。


「なあ、シルヴィア。」


「うん?」


 自身の名を呼ばれ、ゼクスの方を向く少女。

 次の瞬間、少女の顔面も雪玉と衝突した。


「お前らがさっきからこそこそしてたのには気づいてたからな。」


「ま、まあ? 一緒に遊びたかっただけだから、作戦通りというか? うん。」


 嘘であった。

 ただし、負け惜しみだとかでもなかった。


 ただ、怖かったのだ。

 その身体がいずれ、自分のあずかり知らぬところで、背景に溶けてそのまま消えてしまいそうで。


「負け惜しみ乙。」


「ンな⁉ そっちも一緒に負けたでしょ⁉」


「俺は潔く負けを認めてるし?」


 ロドスに煽られ、そのまま雪合戦に発展していくシルヴィア。

 どうせこの後寒い寒いと喚くのを予想して、温かい飲み物を用意しておく……筈が、巻き込まれて結局自分も参加してしまうゼクス。


 ひとしきり遊んだ後、3人で川の字になって仰向けになる。


「は~あ、遊んだ遊んだ。」


 空は既に紅く染まっている。そろそろ帰る時間だ。


「雪に感謝しなきゃね。もうあんまり時間もないし、3人で遊べてよかったよ。」


「雪に感謝ってなんだよ。」


 ゼクスが至極当然の質問をしたが、シルヴィアやロドスにやれやれといった顔をされる。


「……そうだ‼」


 突然シルヴィアが立ち上がって、楽しそうに語りだした。


「将来偉くなったらさ、雪まつりとか作ろうよ‼ そしたらみんなで雪遊びできるし、お祭りも楽しめるじゃん‼」


「どういう祭りだよ。」


 シルヴィアの話を聞いて、馬鹿にしたようにケラケラと笑うロドス。それでも、その眼にはシルヴィアと同じくキラキラとしたものがある。

 ゼクスの方も、まあいいんじゃないかといった顔だ。


「ほら、楽しそうでしょ。」


 自慢げに笑うその顔を、魔王は今も鮮明に覚えていた。






 人差し指を天に掲げ、そして振り下ろす。

 その軌道上にあった万物が、問答無用で切り裂かれた。魔王が入学試験の実技科目で見せたものだ。


 没していく倭国軍の船を見て、魔王は一度動きを止める。


(これ以上は、一度保管しておくしかないか。)


 宙に立っていた魔王は、そのまま一歩踏み出して、落ちていく。沈んでいく船の残骸を足場にまだ残っている敵を片っ端から屠っていった。


 その作業も、5分程で完了した。


 魔王が倭国軍を見つけて奇襲してから、約15分間の出来事だった。






 ダンジョン、というものがある。

 世界各地に点在していて、内部には遠い昔は地上に生息していたとされているモンスターがいた。

 一口にモンスターと言っても、様々な種類がある。龍の形をしていたり、物語のゴブリンのような姿の物もあり、ただダンジョンに生息している動物をモンスターと言っているだけだった。

 なぜ地上に居ないのかも、なにから生まれたかも不明。ただ他の生物を襲う事は確か。そんなわけで、帝国や倭国は、ダンジョンの入り口に関所を設け、許可証を持つ者しか入れないようになっていた。


 ダンジョンに潜る理由は様々だ。

 モンスターの肉を持ち帰って研究者に売るためだったり、モンスターの生態の調査やダンジョン内で稀に発見される宝箱を求めていたり。

 各々の理由でダンジョンへ入る者の事を、人々は冒険者といった。


 ここまで長々とダンジョンについて綴ったのは、魔王が今そのダンジョンに居たからだ。


 魔王領東側の近海にはダンジョンがある。世にも珍しい海中にあるダンジョンだ。

 魔王領ということもあり、普段は人の姿などないのだが、たった2人で船を動かしている冒険者を見かけ追いかけてきたのだ。


「――ッ‼」


 ダンジョンの奥へ進んでいると、なにやら叫び声が聞こえてきた。

 更に歩を進めると、やがて一体のモンスターと遭遇した。その足下に探していた人間2人組が転がっている。


「さっきので貯蔵が十分過ぎる。この2人まで殺せば、逆に生産が追い付かなくなる。そういうわけでこのエサを貰っていいか? どうせお前らは飯などいらんのだから。」


 魔王が話しかけた、レイスという種類のモンスターは人型に近いためか、稀に知能が高い固体がいる。

 話し合いで済むならその方がいいと判断して、魔王はモンスターに話しかけたわけだった。


 しかし、魔王の言葉を理解しているのかいないのか、手に持った杖を向けてきた。

 次の瞬間、モンスターは自身の首から下を目視する。自分の頭部のみが敵に掴まれているのを認識するのに、数秒を要した。


「さて一体、どうしたものか。」


 薄暗い部屋の中に、魔王の呟きだけが響くのだった。






 ダンジョンで拾った2人組を適当なあばら家に放り込んで、一旦魔王城に帰ってきた魔王は、正座させられていた。


「なぜ俺は正座させられているんだ?」


「どこをほっつき歩いておられたのですか。」


 魔王の目の前に立つのは、魔王城の我らが従事長イオフィエルさんである。

 魔王城に帰ってすぐ、他の連中が自分を探してるのを感じ取った魔王は、コソコソと移動し何とか目的地までついたところで残念ながらバレてしまったのだ。


「どこと言われてもな、攻め込もうとしていた倭国軍を滅ぼしにいっただけだ。」


「はぁ。なぜ我々にお話にならなかったのですか? その程度の些事、我々が――」


「今日は雪まつりだろうが、お前らには任せられん。」


 話は終わりだと告げて、背を向ける魔王。

 立ち去ろうとした魔王だったが、その場で動かなくなる。上体を捻って後ろを向けば、恨めしそうに魔王を見るイオフィエルがいた。


「うご――」


「外しませんよ。」


「……まだ『うご』しか言ってないが。」


 魔王が急に動かなくなった理由は、足に巻き付く鎖だった。

 半透明で何やら神々しい事から魔法、それも聖属性魔法であることがわかる。


「言っていただかなくて結構です。『動けないんだが、外してくれないか?』とでも言うつもりだったんでしょう?」


「いや、『動けない、助けてくれ』って言うつもりだった。」


「情けない魔王様ですね。」


「それで? いつになったら解放してくれるんだ?」


 疲れたように魔王が言うと、呆れてジトーっとした目をするイオフィエル。

 外す気がないのを悟った魔王は、次なる策を打つことにした。


「……どうせこのままエ〇い事する気なんでしょ‼ 同人誌みたいに。同人誌みたいに‼」


「急にどうしたのですか? 魔王様。」


「最近ネアにお笑いというのを教わってな。実践してみた。」


「よくわかりませんが、色々間違ってると思いますよ。それと、パクリはよくありません。」


「ああ、俺もそう思う。」


 なお、当然異世界の物だとバレたのでネアが参考にした本の数々は灰と化し、ネアの叫び声が響いたと言う。

 しかし魔王は知らない。燃やしたのはほんの一部で、ネアにはまだまだ在庫があることを。

 閑話休題。


「しかし、堕天使のくせにこんな大層な聖属性魔法を使っていいのか?」


「堕天してません。」


「堕天してないのに魔王に仕えてるのか? 天使が。なんとも冒涜的な話だな。」


 そう。実はこの従事長、元々神の使いたる天使だったのだ。

 それがなんやかんやあって今の地位に至ったのだが、詳しくはまた別の機会に。


「そうだ確認するのを忘れていた。イオフィエルは今日ちゃんと嘘をついたか?」


「へ?」


「聞いていないのか? 最近の流行だそうでな、一日一回嘘を吐くらしい。」


「……聞いたことないですけど。」


「そりゃあ今から流行らせるからな。」


「じゃあ流行ってないじゃないですか。」


「おっと、バレたか。それで……」


 よっ、と掛け声とともにスポっと鎖から足が抜けて、自由になる魔王。


「あ。」


「天使は総じて魔力操作が苦手だからな。面倒な絡み方をして集中を鈍らせれば、簡単に抜け出せる。」


 これが、魔王の第2の策だった。

 狡くても良いのだろう。魔王だから。


「そういうわけだ。他の奴らにもよろしく言っといてくれ。」

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