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雪まつり①

 葉が落ち、昼が短くなってきた頃。

 ついに魔王領に雪が降り始めた。


「魔王様、寒いの?」


 魔王様のお部屋にて、魔王が、今日は普段着の上にコートを羽織っているのを見て、遊びに来たネアが不思議そうにしていた。


「何をそんなに不思議そうにしてるんだ?」


「ここ、部屋の中だし。魔王様、去年はそこまで弱くなかった。」


「言っておくが、今年は例年より寒くなるぞ。」


 魔王の言葉通り、去年の今頃と比べ、平均気温は3度程下がっていた。

 残念なことに、魔人にとっては大差ないので、魔王の言い訳にしか聞こえない訳だが。


「……ま、雪降ってるし。」


「そっか、夕方から、雪まつりだね。」


 魔王領では、夏以降に初めて雪が降った日から3日間、雪まつりと呼ばれる催しが開かれる。

 勿論、真夜中に雪が降ったり、予想よりも早くに降って誰も準備できていない等、その日から行えない理由があれば先延ばしにされたりするので、明確な取り決めなどないのだが。


「雪、積もる?」


「さあ、どうだろうな。」


「積もるといい。」


 空模様に期待をはせて、窓辺から空をじっと見ているネア。






 そんなこんなで時刻は暮六つ、城下町の大通りには、ぽつぽつと屋台が並び始めた。

 道には薄っすらと雪が積もっていて、一歩一歩あるごとにサクサクと小気味いい音が鳴っている。


「晴れてよかったわね。」


 そう言ったのはシーナだった。

 業務で忙しい魔王に代わって、シーナがネアと一緒に屋台を回っていた。


「……シーナ、あれ買って。」


 そういってネアが指すのは肉の串焼き。

 種類は塩かタレだけ。どちらも普通の串焼きなのだが、祭りの雰囲気のせいか、多少値が張っていても欲しくなってしまう謎の現象。


「いや、自分で買いなさいよ。」


 しかし、シーナには通用しなかったようだ。


「ケチ。」


「あんた、自分の金はどうしたのよ。」


「使い切った。一文無し。」


「はぁ⁉」


 魔王直属の部隊である親衛隊ともなれば、三食部屋付きであっても一般人よりも給金は多い。

 しかし言葉通りに、ネアの財布は今すっからかんだった。ドウジンシ以外の転移してきた物の研究に金を使ったのだが、そんなことが言えるはずないので、黙ってシーナの呆れ顔を受け入れるしかないネア。


「だから、奢って。」


「いやいや、だからって私が奢るわけ――」


「シーナ。魔王様に頼まれたの、なんだった?」


 ネアの言葉に、言葉に詰まり、逡巡した後、ハッとする。


「……そういう事。」


「……しょうがないわね。」


 しぶしぶながら、ネアの要求を呑むシーナ。

 実は全部ネアの妄言で、魔王がシーナに奢りを擦り付けたわけではないのだが、自室で忙しくしている本人には知りようもない事である。






 遂に日も暮れ、星が見え出した頃。

 未だ雪はやんでいなかったが、人気の多い場所は既に雪かきも終わり、新しい雪も熱気ですぐに溶けてしまうようだった。

 そして今仕事を終わらせた魔王は、雪まつりに繰り出そうとしていた。


「すまなかったなシーナ、助かった。」


「別にいいけど。今度埋め合わせはしてよね。」


「……? ああ。」


 単にネアを連れて回った事に感謝する魔王と、奢らされたシーナとで若干にすれ違いを感じながらも、深く突っ込まない魔王。


 魔王は今、コートのほかに防寒着がないか探しているところであった。

 というのも先程、普段着の上にコートの格好で外に出たところ予想以上に寒く、一度撤退してきたところだった。


「なかなか見つからないね。私の貸そうか?」


「ユニセックス仕様の奴持ってるのか? いやそれ以前にお前の服尻尾の穴空いてるだろ。」


「……いいんじゃない?」


「いいわけないだろ。」


 魔人には、生まれた時点での魔力の量や質によって角や尻尾、羽根の形質が異なる。基本的にはあまり差異はないのだが、稀に持っていない者や特徴的な物をもっている魔人も存在している。

 親衛隊のディエスの羽根は他よりも大きいのだが、これもその例であった。


「魔王様まだー?」


 下の階から、魔王を急かすローズの声が聞こえた。


「ほら、皆待たせてるわよ。」


「……仕方ないか。」


 魔王がそう呟いた瞬間だった。

 『世界』に、ノイズが走る。

 それを見て、不快感と安心感がごちゃ混ぜになったような気持ちを憶えて、顔を顰めるシーナ。次の瞬間には、魔王は厚手のコーデを羽織っていた。


 地味な色で特に装飾もないが、手触りも良く質の良い代物だ。


「さて、行くか。」


「……」


 そんな魔王の姿を見て、シーナが昏い顔をして俯く。


「時間をかけて知っていけば、それで満足なんじゃないのか?」


 振り返らず、魔王が声を上げた。


「……教えてくれないのは……隠されてるのは、いやだ。」


「魔王の秘め事を知りたいと? 傲慢だな。」


 そう吐き捨てて、数瞬おいて、まあ、と言葉を繋げる。


「いつか教えてやろう。」


 シーナが顔を上げたのと魔王が振り向いたのは、同時だった。

 振り向いた魔王の顔には、この間の入学試験の際に見たのと同じ笑みが張り付けてあった。






「珍しいね。君がわざわざ励ましてやるだなんて。」


 今日と明日の狭間にて、魔王の隣に座るそれが呟いた。

 フードを目深に被っており姿は見えないが、声で女性であることは容易にわかる。


「……雪まつりの由来を知ってるか?」


「今年も降ってくれた雪に感謝する、だっけ? 未だにふざけた理由だと思っているけど。」


「だが、それが事実だ。あの顔は雪まつりにふさわしくなかった。」


「だから励ましたって?」


 はあ。と、大きなため息を吐き、あからさまに呆れていることを示すそれに、魔王は咎める事もしない。それが、2人のいつも通りだったからだ。


「それで、結局教えてやるのかい?」


「教えたくはないが、約束した以上仕方あるまい。」


「……そっか。」


 しばしの沈黙が訪れた。

 そしてその後、ドサッと、魔王が押し倒された。両の手首を掴まれ、腰のあたりにそれが乗っていて、魔王は身動きがとれなくなっていた。


「僕も知らないのに、シーナには教えるのかい? 嫉妬しちゃうなぁ。」


「言っておくがお前には教えないぞ。それを知っているのは少ないほうが良い。」


 憤るそれと対照的に、魔王はいつも通りだった。これもまた、いつも通りだからだった。

 しかしその事実が、魔王のその認識が余計に、それを刺激した。


「……僕が何もしないとでも? 君程度ならどうとでもできるんだよ。」


「いや、出来ないな。」


「このッ――」


「いい加減にしろ、リヴァイ。お前が生きているとバレるだけでも、面倒なんだぞ。」


 ピシャリと、その言葉はリヴァイと呼ばれたそれの頭を冷やすには、十分だった。


「……ごめん。」


 言って、リヴァイは魔王から離れる。


「……」


 身を縮こませ、すっかり気を落としてしまったリヴァイを魔王は反省したと判断し、言葉を紡ぐ。


「あのな、さっきまでの話をもう忘れたのか? 雪まつりなのにそんな顔をするな。」


「……ごめんってば。」


 それでも俯いたままのリヴァイを、魔王は引き寄せて、その体を抱えた。


「~~ッ⁉」


「……少しは気が治まったか?」


「……うん。」


 先程とは違う理由で俯くリヴァイを見て、こっそりその体で冷えた指先を温める魔王であった。






 雪まつり2日目。

 魔王は魔王領東方に出向いていた。海を越えたその先にある倭国が、出兵してきたからだった。

 雪まつりのお陰で、魔王領は軍までもお祭りムード。せっかくなのでそれを壊すまいと、他には少し空けるとだけ言って魔王単身で殲滅にきた。


 魔王による侵略の影響で、各国は手を取り合い、魔王を討とうとしていた。最初の内は。

 長い時が流れ、幾つも代が代わり、やがて魔王への恐怖も薄まり、そして今各国は再び他国との戦争を企んでいた。


 その目的のために、やはり魔王領が邪魔。もはや世界が魔王を狙っているのは、そういう理由でしかなくなってしまった。


 侵略を続ける魔王領は、世界的に見ても広い領土を持つ。その為魔王城は大陸の中心近くに位置しているのに、領土の東側は海に面している。

 そして、その海を越えた先に倭国があった。


(最近、表に顔を出しすぎだな。)


 だとか、そんなことを考えながら、ふらふらと宙を歩いている魔王。


 降り積もる雪を見て、足を止める。

 昔のことを思い出していた。


 過去は変わらない。故に、信じられる。


 少しして、再び歩き出した魔王の歩調は、先程と比べて、少し速かった。






 魔王領を目前にした倭国軍は、今一度作戦の確認を行っていた。

 乗組員たちの顔は、いかにも死地に向かうところといった、神妙な面持ちであった。


「我々はこれより、魔王領へ侵入し、近場の制圧と拠点の設立を目指す‼ 目的は、魔王領の国力の低下と侵略を目指す‼」


 改めて作戦確認を行い、全員の顔が強張った。


「知っての通り、魔人は一般人であろうとも我々より遥かに強い。しかし恐れてはならない、十人単位で囲え。それだけいれば奴らであろが倒せる筈だ。」


 筈、という言葉。当たり前だ、戦争を始めた当時より今の今まで、戦死した魔人など聞いたこともない。

 それほどに、強力な種族。


「……思い出せ‼ 家族を、友を、故郷を蹂躙され、多くを失った日々を‼ 我々は今日より失ったものを、奴らから取り立ててやるの――」


 そこから先、言葉が紡がれることはなかった。

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