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ネアのドウジンシ解読回

 魔王城の、とある一角。

 いつものごとく暇を持て余した――もとい仕事をサボっている――ローズとネアは、最近流行のお菓子を頬張って、横になっていた。


「ローズ。暇だから、なんか面白い事、して。」


「モノマネしまーす。ってならないわよ、流石に。」


「すごーい。成長したね、ローズも。」


 こんな言い草にも怒る気すら起きない。

 何もしない。というのは、思いの外気力を削がれるらしかった。


「暇なら仕事しなさいよ。」


 自分の事を棚にあげたローズの言葉に、無視を決め込むネア。


「ひ――」


 もう一度、暇だと口にしようとしたその時だった。

 ネアは忘れていたことを思い出した。


「――まじゃない‼」


 いきなり上体を起こしたかと思えば、鬼気迫る表情で部屋を出ようとするネアの様子を見て、ローズは……


「へぇー。」


 特に気にもしていなかった。






 パラレルワールドのような、並行世界は世界はいくつも存在する――というのは、この世界では常識だった。

 例外を除き、実際に別の世界に行けるわけではない。だというのに異世界は信じられている。理由は、行けないのであって来ないわけではないからだった。


 異世界転移と呼ばれている事象で、稀に異世界の存在がこの世界に転移することがあった。

 転移してくる存在は多種多様で、素粒子1つから時には惑星すら、それどころか生物やその魂だけが転移するなんてこともある。


 そんな人騒がせな現象が確認されているおかげで、はるか昔から異世界の存在は認識されてきた。転移したものがなぜ異世界からのものか分かったのかは……本人達しか、知る由はないのだろう。


 そして魔王領では、個人が異世界転移してきた存在を許可なく所有することは重罪であった。


 場面は先程の数分先。

 ネアは自室で、一昨日拾ってきた異世界転移してきた何かを、熱心に見つめていた。


 もう一度言おう。魔王領では、個人が異世界転移してきた存在を許可なく所有することは重罪である。


「う~ん。」


 難しい顔をしてそれを見つめているネア。

 十数ページほどの書物の様であったが、ネアには異世界の言語がわからない。


 他国には一応、異世界の言語を解読しようと試みる組織が存在しないこともないが、難航していた。転移してきたものの中にも、言語の違いがあるので仕方ないことなのだが。

 そして、個人の所有が難しい魔王領においては、そんな組織存在すらしていなかった。


「むむむむー」


 なんとか一人で解読してみようと頑張ってはいたが、ネア一人には限度があった。

 もう飽きてきた頃。疲れ果てまともに動かないネアの頭は、思いついてしまった。魔王様ならどうにかできるかもと。

 そう、寄りにもよって魔王領の法を定めた魔王を頼ると。


「フフフ。うまくいく気しかしない。」


 魔王に解読してもらい、あわよくば珍しい物を提供したとして……なんて考え、なんというか……気持ち悪い笑みを浮かべるネアであった。


 一方、ローズの方は、サボりがばれてディエスにしばかれていた。






 帝国でも随一の学校、国立魔術第一学園。通称第一。

 選ばれた人間しかくぐれない狭き門、というもので、そんな入学試験はまだ雪も降らないうちに実施される。


 ローズとネアと、どうせサボるだろうとディエスを魔王城において、クルルとシーナに攻めてきた帝国の軍隊の相手をさせて、魔王は第一の試験会場に赴いていた。

 勿論、いつもとは違う、帝都側に指定された正装で。


 試験内容は筆記、実技、面接の3つ。

 筆記は文字の読み書きに計算、地学等々。実技は魔法の出来。面接は公認圧迫面接。


 筆記は全て満点、実技は無詠唱の切断魔法と言い張って、面接は得意の営業スマイルで。全てつつがなく? 終わらせた魔王。門を出ると、そこにはクルルとシーナがいた。


「無傷か。随分と成長したみたいで何よりだ。」


「まあ当然よね。」


 ふふんと自慢げになるクルル。

 後ろでブンブンと揺れる羽根と尻尾をみて体力の増加も確認する魔王。


「これなら、いつもの訓練を多少厳しくしても問題ないな。」


「それは話が違くない⁉」


 わーわーと喚くクルルを無視して、シーナの状態を確認する魔王。

 本人達以外にクルルとシーナの姿は見えていないので、端から見れば空中をジッと見つめるようにしか見えないのだが……


 そんな時、魔王の背後で金髪の少女が、何もないところで、こけた。


「わぶっ⁉」


 きれいに顔面から地面と衝突する様をみて、呆れる魔王。


「大丈夫か?」


 なんて言って手を差し伸べる魔王。

 いつものような無表情ではなく、作った苦笑いを浮かべて。


「あばばばば。すいません、大丈びゅ……」


 そのまま俯いて動かなくなった少女。


「えぇっと……まあほら、誰にでも失敗はあるから?」


「なんで疑問形なんですか。」


 顔を上げた少女にハンカチを渡して、笑う魔王。


「笑っとけ。その方が人生楽しいぞ? 多分。」


「うぅ……ありがとうございます……」


「おう。気をつけてな。」


「はい。ありがとうございます。」


 そういって去っていく金髪少女。


 その後姿を眺めながら、クルルがつぶやく。


「今の子、見覚えなかった?」


「知らないわよ。あんな小娘。」


 先程謎にハンカチを凝視していたシーナが不機嫌そうに答えた。

 代わりに、クルルの問いに魔王が答える。


「3つ前の、帝国の騎士団長の孫だな。あれ。」


「ああ。それで。」


 三つ前の騎士団長と言われ、思い当たる節があるクルル。

 何を隠そう当時の勇者パーティーの1人であった。


「あれは有能だったからな。さっきの娘も化けるかもな。」


 街路樹の並ぶ道を並んで歩く3人。


「そんなこと言って、ほんとは見て分かったんじゃないの?」


 そんなこと言いながら、魔王の腕にしがみつくシーナ。


「んな⁉ 何してるのよ、シーナ‼」


「だって寒いしぃ。」


 語尾にハートが付きそうな程甘い声を出すシーナ。


「別にいいよね? 魔王様。」


「好きにしろ。」


 そんな様子を見て、呻くクルル。

 暫くして、クルルももう片方の腕にしがみ付く。


「さ、寒いからだからね⁉ 勘違いしないでよね‼」


「そうか。」


 別に聞いてないだとか、テンプレだなだとか、そういうことは心のうちに秘めておく魔王であった。






「さて、なにか申し開きはあるか?」


 時刻は暮六つ。

 帝都から帰ってきた魔王は、早速ネアを叱る羽目になっていた。


「流石に驚いたぞ。お前が自慢げに同人誌を見せてきときは。」


 魔王の手元にはネアが拾った異世界の本。目の前には正座させられているネア。


「ドウジンシ?」


 猫をも殺す好奇心も、ネアは殺しきれないらしかった。

 デコピンは喰らったが。


「痛い……」


「そりゃあ痛くしたからな。」


「体罰‼ Domestic violence‼」


 妙に発音のいい抗議を無視して、魔王は話を進める。


「まあ、俺の失言だったのは認めよう。」


「じゃあ、教えて。」


「そうもいかない。異世界の知識も、あまり教えたくないんだ。」


 そういわれてもなお食い下がろうとするネアを見て、だが、と付け加える魔王。


「お前に一方的に我慢しろ言うのも違う。お前はさっき、これを解読してほしいといったな?」


 魔王の問いに頷くネア。


「なら、解読魔法を教えてやる。」


「解読魔法?」


「簡単に説明するなら、音以外に対して使う翻訳魔法みたいなものだ。みたいなというか実際そうなのだが。」


 翻訳魔法、というのは読んで字のごとく、自分や他人の話す言語を好きな言語に翻訳する魔法だ。


「そんなの、あるの?」


 ネアの疑問は当然だろう。それがあれば他国で異世界の書物の研究などされていないのだから。


「俺がつくった。」


「どおりで、聞かないと思った。」


 魔法というのは、別に使えなくても作ることはできる。所謂オリジナルスペルというもので、簡単には作れないものの魔力の本質さえ分かっていれば、才能など必要ないので、当然魔王も習得済みだった。


 魔法が使えないというのはやはり、作るうえでも致命傷ではあるのだが。


 そんなこんなで、ネアは魔王に解読魔法を教えてもらうのだった。






 深夜。魔王と夜勤の見張り以外の全員が寝込んだであろう時間帯。

 ネアは自室のクローゼットに仕込んである取っ手をつかんで、思いっきり引っ張る。


 次の瞬間には、クローゼットの服の隙間から、別の部屋の風景が覗いていた。

 空間拡張魔法であった。


 そして、その部屋の奥に、おびただしい数のドウジンシがあるのだった。


「パパはやっぱり、私たちには、詰めが甘い。」


 その夜、ネアの笑い声が魔王城のどこかで聞こえたとか聞こえなかったとか。

もう年も終わりますね。

よろしければ是非来年もよろしくお願いします!

それではよいお年をお過ごしください。

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