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朝ごはんはミカンでした。

「ぬぁぁにぃぃ!? わぁが軍が、大敗しただとぉ!?」


 帝都の城下町に、とあるおっさんの絶叫が響いた。

 なぜか。何を隠そうそのおっさんこそ、魔王領に軍を送った帝国の、軍部大臣その人であったからだ。


「なぜだ⁉ 我が軍は、今日この日の為に、膨大な金と注ぎ込んだのだぞ‼ それが、30分もたたずして、負けただとぉ⁉」


 半透明な部下に対して、持っていた杖を投げつける。実態はなく、杖はすり抜けていった。

 水晶を通じて映し出されている幻影だ。対となる水晶が読み取った風景の再現と音を伝達することで遠く離れていても時間差を作らず情報伝達を行える。


 十数年余り、地道に準備してきた、大きな戦い。そうなるはずだった。少なくとも、相手が違えば現在するどんな国にも十分過ぎるほどには通用するだろう軍。

 それが、ただ羽虫を払うがごとく簡単に殲滅されてしまったのだ。彼の憤りも相応なものだろう。


「それが、魔王が出てきたようでして……」


「な、なんだとッ……姿を見て生き残っている者は居るのか⁉」


「ひ、1人だけ――」


「そいつの帰還だけは何としてでも成し遂げろ‼ 最重要命令だ‼」


 魔王。今現在魔王領が、軍事力において他国を圧倒している要因の一つ。彼の存在は、一切顔を出さないこと、異様な戦闘力で知られていた。

 そして帝国は、もう一つ彼について知っていた。勇者が死んで一年以内には必ず、帝国のどこかに魔王が現れ、勇者に向けた手紙と花束を置いていくのだ。


 冒涜的なこの行為、魔王本人からすればれっきとした理由があるのだが、それを知る者は本人達以外に居ない。


 何はともあれ、帝国はここに魔王討伐の勝機を見出している。しかし、帝国は魔王の顔も知らないので難航していた。その顔がわかるというのなら、大きな損害もまだ報われるというものだ。


 椅子に座って、深いため息をつく大臣。


 上に立つ者にできるのは、現地の人間に期待することだけだった。






「さてまあ、こんなものだろう。」


 所かわって魔王領。

 起き抜けにネアから攻め込まれたと聞いて、取り合えず二度寝を決行した魔王はネアに再び起こされ、似たようなやり取りをした後戦場に赴き、帝国軍を殲滅した魔王。


 朝飯と言わんばかりに、近くの木からよさげな果実を見繕い、頬張っていた。


「魔王様って、食べるとき口いっぱいに詰め込むよね。」


 傍らでその様子を眺めていたシーナが、魔王に何気なく話しかける。


「ふぉーふぃふほほんはいは。」


「へー。何言ってるかわかんないけどとにかく凄いんだね。」


「ンぐ。……それでいいのかお前。」


 口の中のそれを呑み込んだ魔王の、少し含みのある言葉に、シーナは悩むそぶりもなく答える。


「これでいいんだよ。今わからなくても、後から知っていけば。時間なんていくらでもあるんだし。」


 シーナだけではない、他の親衛隊メンバーも同じくだ。

 魔王は配下達の想いを知っているし、彼女達もまた、魔王に知られていることを知っている。その上で、配下として接せられていることも。

 一部拗らせて変な方向にいった者もいるが。


「そんなもんなのか。」


 とどのつまり、まさしく魔王とその親衛隊という構図が、彼らには思いの外心地よかったのだった。


 静寂が続く。

 それを破ったのは、魔王だった。


「……死傷者は?」


「居ないよ、ゼロ。被害があるとすれば、壊された建造物とあいつらの残骸じゃない?」


「住宅街が近い。死体は最優先で片づけてくれ、子供の情操教育に悪い。」


「魔王様の言うことじゃないね。」


 なにやら緩い雰囲気になっていく。

 血まみれの魔王と周囲の凄惨な光景を抜けば、とても魔王の座す地には見えない。


「そろそろいくか。」


 次の地点に向かわんとな。と付け加え、立ち上がる魔王。

 そして、そんな魔王にスッと手を差し伸べるシーナ。


 魔王がその手に触れた瞬間、2人は転移魔法で姿を消すのだった。


 ――そして、その様子を傍らで見ていた人間がいた。


(あ、あぶねぇ……バレたら殺されるところだったぞ……)


 彼こそは、唯一魔王を視界に入れ生き残った帝国兵である。

 魔王による帝国軍殲滅を、奇跡的にやり過ごしたこの超人は、現在上官からの作戦通達を待っているところだった。


(どうやら住宅街が近いらしいな。それなら、バレる前にさっさと逃げなければ……)


 軽食を腹に入れ終えた兵士は、静かに移動を再開するのだった。






 帝国軍が魔王領に攻め込んできた晩。


 魔王城で働くメイド、ティアナ。

 彼女が何やら、こっそりと部屋の様子を窺っている。その視線の先には――


「この程度でへばってどうする。俺が開けている間は、親衛隊が起こした問題の後始末はお前がやるのだぞ?」


 膨大な量の書類と睨めっこしている魔王と、死にそうな顔で書類を眺めているディエスが居た。かれこれ数時間はこの様子だ。


 的確に、素早く書類を片付けている魔王と、所々間違えつつも、少しずつ書類を片付けているディエス。これでは、どちらが王かわからない。

 そして、げに恐ろしきはそんな2人を以てしても未だ終わらぬ仕事の山だろう。


「何してんのさ。」


 後ろから同僚に声をかけられた彼女は、肩をびくりと震わせ後ろを振り返る。


「な、なんだ。驚かせないでよ……」


 ホッと安堵の息を漏らすティアナ。

 そんな姿に同僚は疑問を抱く。


「何そんなにビクビクしてるんだい?」


「いやだって、従事長にこんなとこ見られたら……」


「あぁ……」


 なにやら納得したような顔をする同僚。

 従事長はどうやら、部下たちからは恐れられているようだった。


「……それで、結局何してんのさ。」


「うん。それが、魔王様にお食事を運んできたんだけど、忙しそうだし……どうしよう。」


「そんなもの、普通にいけばいいじゃない。」


 そういって、普通に扉に手を掛ける同僚。

 ティアナが止めようと口が開く……が時すでにお寿司――遅し。


「魔王様ー、ご飯持ってきたよー。」


「あぁ、カレンに……奥にいるのはティアナか? すまんな、わざわざ。」


「魔王様に対して、口の利き方がなってないですね。」


「クルルのが酷くないか?」


 予想外の対応に、少々面くらってしまうティアナ。

 というか、貴女カレンって名前だったんだ……なんて口が裂けても言えない。実はカレンも、ティアナの名前を憶えていなかったのだが、これはまた別のお話。


 この魔王城で働いてる魔人は多い。そりゃそうだ、城なのだから。

 その中でも、ティアナは特に目立った活躍もない、目立たない従者だった。そんな彼女の名前を憶えていると言うことは、この城で働く魔人全員の情報が頭に入っている可能性も高いわけで……


「魔王様って……凄いんですね……」


 喉から辛うじて捻り出せたのは、その一言だけだった。






 日付が変わって少し経った頃。

 ようやくディエスは書類の山から解放されていた。


「助かったぞ、ディエス。俺は今の帝国に疎いからな。」


「あまりお役に立てた気はしないのですが……そもそも、なんで帝国軍が今日の戦いで失った分を、魔王様が補填するんですか?」


 そう。さっきまで魔王とディエスが書類を片付けていたのは、この為だった。補填と言っても、あくまで帝国の損害を通貨で以てして補填をするだけだが。残骸を買い取る、という名目で。


「今回、帝国側の損害は酷いだろうからな。弱った所を他国に狙われて、食い潰されるのは拙い。」


「なら、あそこまで酷く追い込まなくても良かったのでは?」


「なぜ戦争相手に手心を加えにゃならんのだ?」


 この時ディエスは、きっと魔王様は書類に頭をやられたのだと、そう思うことにした。


 魔王が窓を開け、バルコニーに出る。

 夜特有の冷たさを持った風が、ディエスの頬を撫でる。


 ぶるりと震え、体に冷えを感じたが、バルコニーの魔王を見てある考えが浮かび、そして一人で顔を赤くさせているディエス。


 肩越しに一部始終を見ていた魔王は、少し考える素振りを見せた後、ディエスを呼び寄せた。


 お互い身長は高いほうだが、それでもやはり男女の差か、魔王の方が身長が高い。自らの鼻先あたりの高さで潤むディエスの瞳を見て、そして――


「ひゃ⁉」


 抱きしめた。


「今日は、いろいろとこちらの事情に付き合わせたからな。多少は報われたほうが良いだろう。」


 近くにあった椅子を手繰り寄せて、ディエスを抱きかかえたまま座る魔王。対面ではない。座るときに抱え込むように、守るように態勢を変えた。とは言え、互いの顔がすぐ近くにある。


「よくやった。」


 位置的に丁度、耳元で囁くように。

 ディエスの気持ちも、実は扉越しにその様子を見ていたネアの気持ちも、語るのはきっと野暮なのだろう。


 そんなこんなで、夜は更けていくのだった。

適当に付けたタイトルなので後々変更するかもしれないです。

変更したら多分きっとメイビーお知らせできればします

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