オープニング
注意
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「フハハハ!! よくぞここまでやって来た、勇者共!!」
暗い空間に、笑い声が響く。
そして、それに呼応して、また別の声が響く。
「魔王! 今日ここで、お前の野望は潰える!!」
天に稲妻が走り、雷鳴が轟く。
一瞬だけ、互いの姿が映し出された。
短く切った金髪。整った顔立ち。逞しい肉体は黄金の輝きを放つ鎧に覆われている。手には聖剣レリーフ、勇者のみが扱える魔を断つ光の剣だ。
この者は勇者。ヒガナ帝国の皇帝陛下に魔王討伐の任を与えられた者だ。
長い黒髪とつり上がっている目。女性特有の柔らかい肉体を守る為に、黒のローブを着用している。もっとも、このローブはそれだけではない。
彼女は魔術師。勇者の幼馴染であり、勇者と苦楽を共にした、旅の仲間だ。
翡翠色の髪に、六芒星の紋様が入ったタリスマン。着用している黒いキャソックには、能力を認められた僧侶であることを示す刺繍が入っている。
彼は僧侶。勇者が陛下に紹介された旅の仲間。多くの命を救える、帝国でも有数の実力者だ。
燃えるような赤い長髪。整った目鼻立ち。鋭い眼光。握り締めた大剣も、着用している鎧も、歴戦の猛者達によって祝福を与えられた聖遺物だ。
彼女は戦士。勇者が旅の途中で出会った、同じく魔王討伐の意思を持った強者であり、今はもうかけがえのない大切な仲間だ。
そして、その4人が相対する者。
玉座に構え、4人を見下ろしている者。
艶のある、白銀の長髪。端正で、繊細な顔立ち。何より、光の無い、深淵というより虚無の方が正しい。そういう瞳。
彼は魔王。魔人達の王である。
ここは魔王城の最上階、謁見の間。
謁見の間と言っても、この魔王は基本的にここで謁見しないので、配下達からは『魔王様のお部屋』と呼ばれている。
そんな『魔王様のお部屋』で今まさに、魔王と勇者一行が対峙していた。
「来ないのか魔王! ならば此方から行くぞ!」
勇者声が、開戦の合図となった。
瞬く間に魔王に肉薄した勇者。攻撃魔法を発動させる魔術師。勇者と戦士に強力な補助魔法をかける僧侶。勇者の後ろで居合いの構えを取る戦士。
勇者の魔法と剣の複合技が、魔術師の雷撃と炎を纏う風刃が、戦士の居合斬りが、同時に魔王に当たる。
個人の実力は勿論、強い結束力と信頼が必要なチームプレイだ。
そして、魔王はそれを全て受けた。
避ける事も、防ぐことも無く、ただ何もせず無防備に。
結果として、魔王には傷一つついていない。それどころか、戦士の大剣が折れてしまった。
「グッ……そう上手くは行かないかっ!」
戦士はすぐさま新しい大剣を取り出す。先程のよりは弱いが、これも十分強い。
「とんでもない硬さだ。僧侶、魔王に負担魔法と妨害魔法を!!」
勇者に指示され、魔王にデバフとレジストをかけようとした僧侶だが、魔王によって制止されてしまう。
「やめておけ。」
「なんだと?」
「それじゃ俺へ攻撃が届くことはない。俺のこれは防御力とかじゃ無いからな。」
魔王の言葉に顔を顰める勇者だったが、次の言葉に衝撃を受けてしまう。
「そして何より、俺は魔法が一切使えない!」
魔王なのに魔法が使えない。その事実は、4人に大きな衝撃を与え、戦いの空気を壊してしまう。
「「……はぁ!!??」」
脳が存在する生物には、その脳の中に魔核と呼ばれる部位があり、そこから漏れ出た魔力は自身の感情や意志によって形質を変える。
それが魔法を唱えるという行為だ。
とどのつまり魔法とは、人によって唱えられる数や質は違えど、誰にでも扱える技術であったのだ。
故に現代の戦闘において、魔法は必須技能。現に、魔王の親衛隊達も魔法を使っていた。
それが、魔王は使えない。
「馬鹿な! お前は素の力で私たちの攻撃を防ぎきったのか!?」
「別に防いでないが。まあ、そうなるな。」
戦士の言葉に反応する魔王。
その態度で、勇者達は察してしまった。魔法が使えないという弱点をわざわざ晒したのは、勇者一行を敵とすら認識していないと。
そして、それは正しかった。
魔王は自らの存在意義の為に、勇者の前でそれらしく振る舞っているだけで、言葉に混じる感情などただの演技だった。
「……撤退だ。」
ボソリと、勇者が呟いた。
その判断に、その場にいた者は誰も口を出さなかった。
勇者一行が去った後。
魔王の座る玉座、その影が蠢き女性が這い出てくる。
腰まで伸ばしたピンクブロンドの髪、ルビーの様な瞳。特徴的な軍服に身を包んでいる。
魔王親衛隊の1人、ローズ・マリアだった。
「どうだったの? 今代の勇者は。」
「ああ、先代よりも成長を感じる。」
ローズの問いにそう返した魔王の顔には、何の感情も無い。
血塗れの聖剣を弄び、飽きて、粉々にしてしまう。
「壊しちゃってよかったの?」
「最近の勇者達は聖剣に頼り過ぎだったからな。聖剣が復活するまでの数百年は、自力で立ち向かってもらう事にした。」
実をいうと聖剣は、過去魔王が仲間と作製した魔道具だった。効果は、魔王とそれに準ずる者達に対して絶大な殺傷力を持つことと、自己の強化修復である。
「そんな事より腹が減った。親衛隊を全員集めろ。」
魔王の言葉に、ローズは目を輝かせる。
「今日は一緒に食べるの?」
魔族特有の黒い尻尾を、千切れそうなくらいにブンブンと振るローズ。
その姿を見て、魔王も暫く同じ食卓についていなかった事を反省する。
「ああそうだ。分かったら早くあいつらを呼んでこい。」
「あいあいさー!!」
眩しい程の笑顔で、掛け声と共に敬礼を決めるローズ。直後、駆け足で他の親衛隊達の下へ向かって行った。
その姿を見て魔王は一言。
「あいつ馬鹿だなぁ。転移魔法使えばいいのに。」
そう呟くのだった。
翌朝。
魔王と魔王親衛隊の計6人は、魔王城の会議室に集まっていた。
「ではこれより、『勇者様お疲れ様会』開催についての会議を始める。」
つい先程叩き起こされたばかりの魔王が、全員に声をかけた。
そして、その魔王に苦言を呈する者がいた。
「あの、魔王様? それよりも先ず何か羽織って頂けませんか?」
「? 何か問題あるか、ディエス。」
魔王にディエスと呼ばれた女性は、部屋全体を見回す。
「逆に、この状態でまともに会議が出来るとは思えませんが。」
集まった者は魔王を除いて、全員が顔を赤らめ半分は魔王の方を向こうとしなかった。
何故か。
魔王は今、上裸だった。
昨晩酒に呑まれて、絶賛二日酔い中の魔王に、普段の様な服装は少々苦しかったらしい。
「別に、そんな恥ずかしがることじゃない。そもそも、魔王様は戦闘中もっと酷い。無抵抗でいるから、いつも服が燃え尽きる。」
「この状態も酷いとは思ってるんだな。」
魔王に言われ顔を背けたのは、ネア・コンスター。
人間で言う11歳程の姿のその少女は、魔王親衛隊最年少にして、自称魔王の娘だ。
魔王が育てたのは事実である為、この状況でも唯一魔王と顔を合わせられるツワモノである。
「貴方が慣れてるだけでしょう!」
そんなネアに語気を強くして反論するのは、同じく魔王親衛隊、クルル・デアハートだ。
但し、今は両手で顔を覆っている為声が籠もっていて聞き取りづらい。
「クルルが初心なだけ。ローズのがまだマシ。」
「え、私?」
いきなり名前を出され困惑するローズ。
4人がワーワー争っている間、ドサクサにまみれて魔王を更衣室へ連れて行こうと手を引く者がいた。
肩下辺りまで伸ばした青髪に、自身の髪と同じ色を持つ瞳の少女。
シーナ・ロザリオ。単純な膂力に於いて、魔王軍一を誇る彼女には、流石の魔王も抵抗の余地なく連れてかれる。
引き摺られながら、まだ自分達が居なくなった事にも気付いて無いであろう4人を思い出し、後処理を全てディエスに任せる事を決めた魔王だった。
ディエス・ヴィレッタ。魔王親衛隊隊長の彼女は、魔王に面倒事を押し付けられやすい可哀想な魔人であった。
ぼちぼちの投稿ですが楽しんで頂けると幸いです。
並行して他の作品も書いているので、気が向けば是非そちらもご一緒に。




