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第8話「やらかし炎上配信者のその後」

 あの一生忘れられない配信から10日が過ぎていた。


 俺達は、あの日以降リオンの家に引き篭もっている。

 俺は元の世界になんか戻れていないし、食料も底を付きかけていた。


 俺達は完全に『やらかした』のだ。

 

 あの配信は、突如美少女がおっさん声で喋り出し大魔法を発動!視聴者そっちのけで抱き合う2人……と言う所でブチ切れて終わっていた。


 クラーケンに捕まった事で、配信時間を大幅に超過。

 3時間の枠を超えてしまい、視聴者に弁解も謝罪も出来ずに配信を終えてしまった。


「なぁ、リオン元気出せよ。言ったろ?一から配信者として頑張ろうぜ」


 リオンは首を振る。


「いや、あれだけの視聴者をダマして配信したんだ。もうどこのギルドにも相手にされない……配信者として終わりだ」

「リオン……」

「安心しろ。元々私には向いていなかったのだし、大人しく魔術関係の仕事を探すさ。田中の返還まで少し時間がかかるが、必ず元の世界に返してやる」


 リオンはそう言うが、魔術に長けていながら向かない配信者をしていたという事は、配信者として配信するのが好きだったんだろう。

 配信者として、その気持ちが一番大切なハズなのに……

 声がおっさんの俺にはどうする事も出来ない……



 リリーン


 その時、玄関の呼び鈴が鳴った。

 俺とリオンはビクリとする。

 

「ついに来たか……住所特定凸」

「ま……マジかよ」


 リオンはガタリと立ち上がる。


「甘んじて受けるしか無いな」

「リオン、俺も一緒に頭を下げるぜ!」

「田中……」

「当然だろ?俺達はコンビなんだからな!」


 リオンは頷く。

 2人で玄関扉の前に立つと、意を決して扉を開いた。

 

 そこには、皮ジャケットを来た男と女が姿勢よく立っていた。

 2人は、俺を見て「本物だ」と声を漏らして続ける。


「突然の訪問失礼致します。我々は冒険者ギルドの者です」

「リオン様に至っては、常日頃から当ギルドに貢献して頂き感謝致しております!」


 リオンは首を傾げる。


「貢献?出来るほどの配信はしていなかったが?」

 

 その言葉に男が首を振る。


「いいえいいえ!第一級魔術師の配信というだけで!別に!視聴者数とかそんなのはどうでも!!」


 いや、大事だろ!

 そんな事より、何やら思っていた凸では無いようだが……一体?


「今日はお二人にお願いがあって伺いました」


 俺とリオンは顔を見合わせる。


「実はお二人に、ギルド公式配信者として広告塔になって頂きたいのです」

「は?広告塔?」

「いや、俺達炎上配信者だが?」


 俺が言葉を発すると2人の眼が輝く。


「わわ、本当に声がおじさんなんですね」

「配信のやらせじゃ無かった」


 2人はまるで有名人でも見るように俺を見る。


「そうだ、残念ながらやらせでも合成でもなんでもねぇんだ」

「そういう事だ、我々は配信者として……」


 その言葉を遮って2人は話す。


「その通りです!!お二人の活躍は大人気で冒険者ギルドに問い合わせが殺到しているんですよ」

「え?」

「お二人の配信をまた見たいって!なのにあれ以降全然配信されなくて、今や配信界の話題はお二人で持ち切り」


 そんな事があるはずない。

 

「だって……俺は中身がおっさんで」

「その見た目と声のギャップに中毒者が続出しているんですよ!!何より、配信最後に見せたマモリンの雄姿はとても感動致しました!男の僕も漢気を感じてカッコ良かったです!!」


 男はテンション高く拳を握って話す。


「それからリオンさん。眼鏡とったら美形って女の子の間で話題なんですよ!わ!私もそう思います!!」


 女の方はリオンを見て顔を赤らめる。今はモサリオだが、もうそれすらいいと言うように。


「お二人の配信を沢山の視聴者が待っているんです!」

「我々冒険者ギルドだけでなく、多くのギルドが全面的に配信をバックアップしたいと声が上がっているんです!」


 そして二人は声を揃えて言う。


 

「さぁ!配信を始めましょう!!」


 


 ――――――――

 


「はい。今日はここ、森林のダンジョンを攻略したいと思います」


 相変わらずのリオンのゆっくりテンションで今日の配信も始まった。


「すげぇー!リオン!!ここにメチャクチャでけぇ花があるぞ!?」

「あ、マモリン……その花は食虫……」


 バクッ!!


「ぐぉわぁぁぁぁーーーー!!!!何だぁぁ!?暗い!!生ごみ臭い!!」

「ファイアーボルト」


 ボッ!!


「ぐえっ!魔物だって早く言えよ!!このゆっくり!!」

「たなか……マモリンがいつも突っ込むからで」


 


●毎度おなじみの入りで安心するわー


●中毒性高すぎる


●マモリン今日も可愛い!応援してる!


●リオン眼鏡取って~!



 

「私はダンジョン攻略の配信者なので……容姿はマモリン担当ですから」

「固い事言うなよ!ほら」


 リオンの眼鏡を取る。


「田中!!やめろ!!私は眼鏡が無いと何も見えないんだ!!」


 そう言ってリオンは俺を追いかけた……つもりなのだろうが、食虫花に自ら喰われに行く。


 バクッ!!


「ヒッ!!暗い!!生ごみ臭い!!」

「ぶはは!!だせぇ!!」

 



●可愛いのに声と言動クソだなwww


●イケメンなのに残念過ぎるwwww


●でもそこが中毒になっちゃうんだよね

  



 人気配信者として今日も俺達のダンジョン攻略が始まる。


 実は『返還の書』の資金はとっくに溜まっているのだが、しばらく戻る気はない。

 この世界には、俺とリオンの配信を楽しみにしてくている視聴者がいる。

 きっと元の世界にも待ってくれている視聴者がいるだろう……だからいつかは帰ろうと思う。


 でも、まだもう少しだけ待っててほしい。

 今は、リオンとの配信が楽しくて仕方が無いのだ。

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