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第7話「チート級大魔法発動!スペルは開幕挨拶とかマジ!?」

 最下層はだだっ広いフロアだった。

 中央には大きな湖がある。


『いかにもボス部屋って感じだな』

『田中、お前はあの湖に近づくな』

『でも、それじゃあマモリンが配信画面にすら入らないんじゃ?』


 かと言って、この配信のメインはクラーケンとの戦闘だ……リオンを映さない訳にもいかない。


『たまに、遠くでマモリンが応援している姿を入れる』


 それしか無いか……

 しかし、配信としてそれは面白いのだろうか?

 もし、それが面白いのであれば普段のリオンの配信はもっと伸びているはずだ……


『ある程度クラーケンを相手にして撤退する』


 そう言ってリオンは湖に歩みを進める。

 配信ハトはリオンの後を追って飛ぶ、俺はと言うと入口付近で立ち尽くすしかない。



 リオンが湖の畔に立つと、水面がブルブルと波立つ。

 水面の揺れは更に激しくなる。


 

 ザバァァァァァーーー!!!!


 

 湖の中から巨大な魔物が姿を現した。

 それは想像通りの巨大なイカの化け物だった。


 クラーケンの皮膚には肉眼で確認できる大きさの色素胞があり、それはエレクトリカルパレードのように色を変化させている。

 太い足にはビッチリと吸盤が付いていて、集合体恐怖症の人に向けて事前に注意が必要だと思った。

 そして、何より大きい!縦は5階建てのマンションくらいはあるのではないか?2本の触腕を広げると横の大きさもかなりのものだ。


 俺はその姿に完全にビビった。リアルのファンタジー世界は夢見るような場所じゃ無い!

 だが、この世界の住人であるリオンは臆する事なく近接距離でそれを見上げている。


 クラーケンの触腕がリオンに向けて伸びる。

 リオンは落ち着いた様子で魔法を唱え触手に当てる。その行為をお互いに何度も繰り返す。


 凄い!リオンが凄いのは解る!!だが!!地味だっ!!!

 前衛には前衛のかっこよさ、後衛には後衛のかっこ良さがあるだろ!?

 こう魔術師ならブァァァーー!とした詠唱のかっこ良さとか!?

 

 リオンにはそういうのが一切無かった。

 ただ直立して、伸びて来る触手にサンダー系の魔法をパシパシと当てている。

 おおよそ、これは魔術師としてリオンが有能なのだろう。

 だが!!俺達は配信者としてここに来ているんだぞ!!

 

 いや、そんな事はリオンも解っている……はずだろ?

 この後、渾身の大魔法が……

 リオンはスッと眼鏡に指をやる。

 

 やるのか!?

 と息を飲む。しかし、リオンは踵を返して配信ハトに告げる。

 

「やはりクラーケンは強いですね。残念ですが撤退します」


 残念なのはお前だぁぁーーー!!!!

 ダメだろ!?いくらなんでも!?これじゃあタイトル詐欺じゃん!?何がクラーケン討伐だ!?

 

 俺は湖に向かって走る。

 リオンがそれに気が付いて声を上げる。


「おい!こっちに来るなと」


 言ってる場合じゃないだろ!?

 見ていた感じ、クラーケンの攻撃はあの2本の触手だけだし、捕まらなければセーフだ!

 ほんの少しでもマモリンとクラーケンの絡みを配信に乗せれれば!


 だが、クラーケンに近づいて気が付いた。

 リオンがなぜ微動だにしなかったのかを……


 俺が近づいたとたん、それまで湖の中に沈んでいた足の全てが姿を現す。


 ザバァァァァァーーー!!!!


 その数、8本。2本の触腕を合わせて合計で10だ。

 先ほどまで、2本しか使っていなかったのは小さな対象がまったく動かなかったからだ……

 それを理解した時にはもはや遅かった……

 触手はウネウネと動き、俺に向かって四方から伸びる!かわす事なんて不可能だった。


「ぎゃっ!」


 俺は短い悲鳴と共に触手に捕えられる。

 短い悲鳴で済んだのは、触手の巻き付く力で息が一瞬詰まったからだ。

 幸いな事に、今すぐ絞め殺す気は無いのか触手の力はそれ以上強くはならない。と言っても極太のヌルヌルとしたそれから這い出る事は不可能だ。


「サンダーボルト!」


 リオンはなんとか俺の方に近づこうとしているのだが、他の触手を相手にしていてなかなか近づけない。

 

『おい、田中。私が近づくまで大人しくしていろよ。クラーケンは獲物を生かしたまま水の中に引きづり込んで食事する。水に引っ込まれたら終わりだ』


 ええ!?めちゃくちゃマズイし怖すぎる……

 俺はなんとか自力で這い出れ無いかと体をよじる。だが、そうするとクラーケンは触手の巻き付きを強くする。

 その時、触手の先端が胸に触れた。


「ひ!?」

 

 変な声が出て慌てて口を堅く紡ぐ。

 え?え?え?女の胸ってこんな?……へぇ!?……すげぇ。


 いやいや、違う!!感心してる場合じゃねーだろ!?

 俺は身をよじる、だがそうすると触手がさらに動いて……


「ひゃっ……!」

『おい!?田中!?』


 気が付くと配信ハトが俺の真横を飛んでいる。

 このハトは的確に配信者が喜ぶ『映え』を察知してそれを映す。つまり……今の俺のこの姿は配信者達にメチャクチャ受けている!

 

 解る!解るぜ!俺も男だ!美少女に触手!最高だよなぁ!!

 可愛い喘ぎ声なんかも出たら最高だよなぁぁ!!

 だが、声が出るのはマズいんだってっ!!

 

『た……田中……凄い数値を叩きだしている……絶対に、今声を出すな』


 耳元で震えるリオンの声。

 いや、そんな事言われても……俺は知らない性感帯の扉を開けてしまったのだ……

 意識しないでおこうと思えば思うほど、そこに全集中してしまう。


『むりぃ、声でるぅぅ』


 もうダメだ!おっさんの喘ぎ声を配信にのせてしまう!!

 そう思った時にリオンが叫ぶ。


「わぁぁぁ!!大変だ、私まで捕まってしまいました!!」


 なんとリオンも触手に捕まっていた。いや、これはあえてだろう。

 狙い通り、配信ハトがバタバタとリオンの方に飛んで行く。

 助かった……と思ったが、2人共捕まったらマズイんじゃ……!?


『リオン……助かった、けどどうする!?』

『安心しろ、わざとお前の触手の横の触手に捕まった』

 

 言われてみれば、そのお陰で俺とリオンの距離は一気に縮まっていた。


『これなら魔法攻撃が届く』


 本当に魔術師として有能すぎる。本当になんで配信者やってんだよぉぉ……

 

「サンダーボルト!」

 

 リオンが放った魔法は、俺に巻き付く触手に当たる。

 触手が緩まり、俺の体は触手から開放されビシャリと地に落ちた。

 

 次にリオンは自分に巻き付く触手に向けて詠唱を始める。

 その時だった!クラーケンの触手がもう一本伸びる。


「!」


 詠唱が止まる。

 新たに伸びた触手がリオンの口を塞いだのだ。


『まずい!詠唱が出来ない』


 頭に響くリオンの声。その酷く慌てた様子で、状況がかなり悪い事が解った。


『なんとか出来ないのか!?』


 触手から逃れようとリオンはもがく。だが、触手は更にまとわり付く。

 その時、触手がリオンの分厚い眼鏡に触れ、それをそのまま絡め捕って行った。


「え……?」


 思わず声が漏れた、おおよそその声は視聴者には届いていない。

 小さかったと言うのもあるが、そんな事より視聴者達もまったく別の部分で唖然としていたからだ。


 


●え?待って……誰?このイケメン


●リオンか?ウソだろ……


●今日いち驚いたんだけど……


●実は美男美女配信者コンビだったって事!?




 なんと、眼鏡を取ったリオンはメチャクチャイケちらかしていた……

 人は眼鏡1つでここまでモサ男に変われるのか!?と驚くレベルだ。

 先ほどまで、モサオタ男が触手に絡まれいるという、どちらかと言うと見たく無い図だったのに、今やイケメンが触手に絡まれてもがいている『超映え』になっていた。




●こんな顔良くて一級魔法使いとか……好きになっちゃう


●あの喋り方も急に可愛く思えて来たわ♡


●おかしいと思ってたんだよ!マモリンみたいな美少女がリオンの配信に付き合うの!そういう事かよぉ~


●あのさ、それよりこの状況大丈夫なのかな?


●マモリンは戦えないんだよね?


●確かに……やらせ配信じゃ無ければかなりマズくないか?




 その通りだった。

 リオンに絡まる触手は更に本数が増えて、完全に逃げ切れない状態だ。


『リオン!待ってろ、何か武器になる物を探すから!!』


 俺は慌てて周囲を見回す、だが武器になりそうな物は見当たらない。

 そうこうしている間に、クラーケンの触手が再び俺にも伸びて来る。


「!!」


 間一髪で避けるがビシャリと地面に転ぶ。

 まずいまずい……俺まで捕まったら今度こそ助からないぞ!だが、ただの人間の俺にあんな怪物どうしたら……

 その時だ、頭の中にリオンの声が響く。


『田中、もういいお前は逃げろ』

『え?でも……』

『この配信で返還の魔導書の購入資金は稼げただろう、ダンジョンを出たら冒険者ギルドに行くといい。そこで相談しろ、魔導書を使用出来る魔術師を紹介してくれるはずだ』


 まさか、リオンは自分を犠牲にして俺を逃がすと言う事か!?

 

『気にするな、元々巻き込んだのは私なのだし……それに田中は元の世界でも人気配信者なんだろう?待ってる視聴者がいるはずだ。私は……今日で解っただろう?配信者に向いていないんだ』


 だから俺だけでも元の世界に戻れとリオンは言うのか?

 確かに、俺の配信にはそれなりに登録者数も視聴者もいた。配信を待ってくれている奴等も多いだろう……


『だが……だからってそれは人数の問題じゃねーんだよ』

『田中?』

『お前にもいただろうが!最初の数人!あいつらはお前の配信をいつも見に来てくれてる視聴者なんだろ!?』

『それは……そうだが』

『じゃあ!待ってる人数とか関係ーねえ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() 大事なのはソコだろうがっ!!』

『田中……』


 俺は仁王立ちするとクラーケンを見据える。


『リオン、2人で出ようぜ。そしたら俺がウケる配信のやり方教えてやる。一から頑張って、資金はまた稼ごうぜ!』

『田中……ありがとう……』


 リオンはそう言うと、水晶の付いた杖を投げる。

 俺はそれを拾い上げる。


『教えてくれ、このイカ魔人をぶっ飛ばせるスペルをよぉ』

『魔法は言葉を魔力にする。思いの強い言葉その物が強い魔法になる』

『思いの強い言葉?』

『そうだ、田中が大切にしている言葉だ。それが強いほど魔法は強くなる』


 なるほど。

 なら ()() しかないな……

 

 俺はスゥゥーと息を吸い込む。

 そして、精神を集中しその言葉に全ての感情を乗せる!


 

 「みんなぁー!♪宙色(そらいろ)マジカルブイチューバー!マモリンだよぉ♬今日もブイっとチュー♡っとみんなの心を魔法で癒しちゃうからねぇ☆いっくよぉぉーー!!!!」



 それは開幕挨拶だ。

 マモリンを応援してくれている奴等を笑顔に、そして俺自身が力強くなれる。

 Vチューバーにとってとっておきの魔法の言葉だ!!

 


 それを振り付きで全力で発動する!!



 もちろん声はおっさんだぁぁぁっっ!!!!

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……



 凄まじい魔力が杖に集まる。

 それは星のような煌めきを集め、やがて宇宙のように渦を巻く。


 「いけぇぇぇーー!!!!」

 

 それをクラーケンに向かって放つ。

 星の束が天の川のように流れ飛んでいき、クラーケンにブチ当たる。


 「ぐおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 クラーケンは大きな唸り声を上げて水の中に沈んで行く。

 その声はまるでおっさんの爆音イビキのようだった。

 


 バシャァァァーーーンッッ!!!!

 

 

 大きな水しぶきが上がり、大きな虹がかかった。

 

 「やったぜぇぇ!!見たか!!おっさんの俺が全力で考えたモエキュン魔法少女の開幕挨拶と振付はよぉぉ!!効いただろうがぁぁ!!」


 俺はガッツポーズを決める。

 そうだ!それよりも、リオンは!?


 「田中ぁぁ!!凄いぞ!!素晴らしい魔法だった!!」


 リオンがずぶ濡れで駆けて来る。その姿はまごう事無き 水も滴るいい男 だ。


「リオン!!テメェこそ!!なんつーポテンシャル隠してたんだよっ!!」


 

 俺とリオンは抱き合って喜んだ。


 配信を忘れて……

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