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第6話「絶対に絶叫してはいけない異世界バズレシピ!」

 俺達は3層も半ばまで来ていた。

 リオンは配信者としては残念な奴だが、魔法使いとしては優秀らしく、ここまで何匹かの魔物と遭遇していたが危険な目に合う事は無かった。

 配信も大きな取れ高は無かったにしろ、魔物やダンジョンを始めて見る俺の反応がそれなりにウケていて、視聴者数に大きな変動も無くここまで来れていた。


 

『それにしても腹が減った……』

『随分と動いたからな、だが食事してる姿を配信しても面白く無い』


 確かに、食事休憩の時間を取る事で視聴者が離れてしまう可能性は考えられる。


『いや、待てよ?食べるだけじゃなくて、料理の工程も配信に乗せれば……』

『確かに料理配信は人気ではあるな』


 これは、バズも狙えてお腹も満たせるのでは?

  

『だが、食材なんか用意して来てねーもんな……』

『食材?料理を固定しなければ沢山あるじゃないか』


 リオンは周囲を泳いでいる魚に目をやる。

 確かに、形としては魚なのだが俺の世界では見た事の無い形や色をしている。

 ダンジョンに生息している時点で普通の魚とは思えない。

 

『あれって魔物だろ?』

『魔物だが、あの辺のは食材として扱われている』


 一部の魔物は食う事が出来るという事か!


『じゃあ、後は調理用具が用意出来れば……』

『簡易的な料理なら作れる程度に道具は持っているが?ダンジョンでは何があるか解らないからな』


 マジで!?となると話が早いぜ!!


『しかし、私は料理など出来ないぞ?』

『そこは俺にまかせろ!独身38歳舐めんじゃねーぜ!!』


 食材の確保をリオンに頼み、俺は料理の出来そうな場所を探した。

 果たして、異世界料理配信が開始される事となったのだ。

 

 


「皆さん、我々は食事の時間にしたいと思っています。勿論、ただの食事じゃありません」


 リオンはゆっくりテンションで俺の言った通りの言葉を配信に乗せる。


「マモリンさんによる生料理配信です。題して 【マモリンのバズレシピーINダンジョンー】 をお届けします」


 リオンのゆっくりテンションとは反対に、配信画面は一気に沸き立っていた。



 

●面白そう!


●いつものリオンの配信は途中で寝ちゃうんだけど、今日はずっと楽しい!


●マモリンがんばれー!


●リオンもまぁがんばれw




 実は俺自身も料理配信は一度してみたかったのだ。

 Vチューバーとして活動していると、実写を映さねばならない料理配信はどうしても難しい。だから、まさか異世界で実現出来るとは思わなかった。

 

「今日の食材はこちら、オーロラシーフィッシュです」


 リオンの食材紹介と共に配信ハトがこちらを映す。

 俺の前には虹色にギラギラ輝く魚。大きさは大ぶりのタイくらいで、その輝きは泳いでいる魚の中で1番目立っていた。

 俺の中では『ゲーミング鯛』と呼んでいる。こいつを料理すれば映え間違いない!!


「ではマモリンさん、お料理お願いします」


 よっしゃ!俺は腕まくりをして、ビチビチと威勢よく暴れているゲーミング鯛を押さえつける。

 大きく開けた口の中には牙が生えていて、その顔はとても怖い。さすが魔物だ。

 俺は、その腹にナイフを入れる。

 

『あ、そいつには腹の袋に毒袋があるから……』


 (ザッ!!ブシャッ!!)


「ぐぉぉあああっっっ!!!!」


 ゲーミング鯛の腹にナイフを入れた瞬間、ビュビュッ!と顔にどす黒いドロドロがブチかかる。


『そういう事は早く言えよ!!このゆっくり!!』

『いきなり腹を裂くとは思わなかったんだ』

『毒!?毒って言ったよな!?』

『安心しろ、口にしなければ影響はない……むしろ安心できないのは』


 2人で水晶を覗く。


 


●今の声何?


●おっさんの悲鳴みたいだったぞ?


●マモリンが出したみたいで草なんだけどw


●というか、そうとしか聞こえなかったんだけど……




 案の定ザワついていた……

 まずい、どうにかごまかさなければ!焦っていると、リオンが視聴者達に向かって言う。


「いや、驚きましたね。オーロラシーフィッシュってまるでおじさんのような声を上げるんですね。もう一度やってみましょう」


 リオンがそう言うと、配信ハトが俺の手元をズームする。

 なるほど……そういう事か。俺は再びゲーミング鯛の腹にナイフを入れる。

 

 ビュビュッ!


「ぐおぉぉぉぉ!!」


 俺の絶叫が画面ではまるでゲーミング鯛が発しているような画角になっていた。

 

 ビュッ!


「ぎゃっっああ!!」


 ゲーミング鯛は魔物なだけあって、なかなか死なない。内臓をブチまけながら凄い形相でビチビチと暴れている。その様子と、俺の野太い悲鳴は完全にマッチしていた。アニメならセッティングされた声優に賞賛の声が上がるだろう。




●知らなかった!大発見!マモリン凄い!


●魚なのにおっさん声ww


●シャチグマもだったけど、魔物っておっさん声なのかな?




『あ……危なかった』

 

 額を拭う。

 

『もうこの手では流石にでごまかせないからな!気を付けろ!』

『解ってるよ』


 その後、料理は無事に完成した。

 突発的に作ったにしては美味く出来たと思う。リオンも褒めてくれた。


 危ない状況だったが、結果、この料理配信はまたまた視聴者に大ウケした。

 可愛いマモリンが、顔を汚しながら一生懸命料理する姿は視聴者に支持されたのだ。



 

 その後、再び最下層を目指して出発した。

 その頃には、ついに視聴者が5ケタに突入していた。



 

●この配信今日初めて見てるんだけど過去のも面白いの?


●過去にはマモリンがいないからダメw


●マモリン最推しになった


●リオン!マモリンをちゃんと守るんだぞ!お前は死んでもいいw


 


 特に、マモリンの人気は凄かった。

 リオンにしてみれば、元々そのつもりで俺を召喚したんだし計画通り……のハズなのだが。

 

『やばい……怖い……これで、お前の中身がおっさんだとバレたら炎上して2度と活動出来なくなる……』


 完全に視聴者数にびびっていた。

 だが、この勢いのまま無事に配信を終える事が出来れば、間違いなく資金は稼げるだろう。そうなれば、俺は元の世界に戻れるし、リオンだって当面の生活費を稼げるはずだ!


 だが、俺達の最終目的は『クラーケンとの映える戦い』だ。

 リオンが言うには倒す事は難しいらしい……しかし、視聴者が盛り上がるものにしないといけない。

 その時に、マモリンがただ戦闘を見ているだけというのは一番ダメな気がする。


『なぁ?俺は戦えないのか?』


 その問いにリオンは眼鏡を指で上げる。


『異世界召喚者は元々の魔力量がケタ違いの者が多いと研究結果が出ている』

『え!』


 来た来た!!チート設定!!

 

『だがっ、魔法を使うにはスペルをハッキリと口にする必要がある』

『スペル……呪文の事か』

『そうだ、声に出して発音する必要がある。だから田中は事実上配信で魔法は使えない』


 くそっ!せっかくのチート設定が無駄だなんて!!

 そもそも、俺のキャラ設定は ()()()()()使()() なのに!!

 マモリンが大魔法をブチかましたら間違いなく大バズするのにっ!!


『まぁ、そう言う訳だから田中はクラーケンの前では大人しくしていろ』


 確かに、もし命を落としでもしたら俺に自動モザイクがかかってしまう。そんなバッドEND配信、絶対にウケ無い。それ以前に死にたくない……


 クラーケンは大人しくリオンを応援する姿で手を打つか。資金としては目標は達成出来るだろう。

 だが、ここまで盛り上がった配信が、そんな尻切れトンボみたいな終わり方でいいのか?

 視聴者を裏切っていないか?

 俺達は 配信者 なんだぞ?

 

 答えが出ないまま最下層を向かえてしまったのだった……

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