第4話「相方がゆっくり実況過ぎるから俺が体を張るしかない!」
「実は彼女、配信に興味はあったけど、生まれつきの病気で声が出せません」
俺はコクコクと頷く。
「それで一緒に配信しましょう。という流れで、今日を迎えました」
2人で速攻考えた流れだった。俺は水晶をチラ見する。
[リオンがついにコラボ!ムネアツ]
[マモリンちゃん可愛い!応援!]
少ない視聴者ではあるが、俺の突然のコラボに否定的な奴はいない。可愛い見た目も好印象のようだ。
『マモリン』は空をイメージした水色の髪、そしてインナーカラーは夜空をイメージした群青色で小さな星が散りばめられている。
衣装はレースを基調とした清楚感あふれる色調、ミニスカートの下に履いているタイツは左が空にかかる虹、右が宇宙をイメージしている。
このデザインを考えたのは俺では無いのだが……その経緯も含め、俺は『マモリン』の事を第二の俺自身として大切にしている。
喋れない分表情や仕草でアピールしよう!
俺は配信ハトに向かって笑顔を振りまく。しかし、俺のやる気をよそに……
「では、早速ダンジョン攻略を進めたいと思います」
リオンはそう言うとスッとダンジョンに入って行く。
開幕トークとかさぁ、今日の配信の意気込みとかぁ!?何か無いのかよ!?
こいつ、本当に配信者としての素質ゼロすぎる!このままでは視聴者一桁で終わりかねないぞ!
幸いな事に、ダンジョン内の景色はとても映えだった。
噴水や人魚を模したモニュメントがあり、サンゴ礁のような植物が色とりどりに生えていた。
リオンはと言うと、その景色に特別注目する事も無く黙々と足を進めている。
マジでこいつに着いて行くだけだと、最下層のクラーケンに会うまで何も起きない!!
周囲を見回すと大きな貝がある事に気が付いた。
有名な絵画の女性がマッパで立ってるあれみたいなやつだ!その中央にはキラキラとした大きなパールのような石まである。
(メッチャ映えだっ!!)そう確信して貝に駆け寄る。
ハトは俺の方に取れ高があると解っているのか、後を追って飛んで来た。
貝の前に来ると、笑顔を作ってピースをする。
(マモリンは、今日初めてダンジョンに来たという設定にしよう!見る物全てが珍しくてウキウキしているのだ!)
設定というか、実際にそうなのだが、そういうキャラ設定で挑む事で本来の俺はしないような女の子らしい可愛い行動が出来るようになる。
俺は貝の中の真珠に手を伸ばす。
「あ、おい……それを取ると……」
リオンがそう言った途端。
バクッツ!!
上半身に衝撃を感じて目の前が真っ暗になる。
「ぐぉわぁぁぁぁーーーー!!!!何だぁぁ!?暗い!!磯臭い!!」
突然の事に大声を出す。
これって!?もしかして、貝に食われてる!?!?パニックになって足をバタつかせる。
「ライトボルト」
リオンの声が外部から聞こえた。
揺れるような衝撃と共に上半身の圧迫感が無くなる。
俺は後ろに大きな尻もちを着いた。
目の前を確認すると、貝が完全に開いた状態で中から身をデロリと出していた。一部から煙がプスプスと上がっていて、磯焼きの香りが漂う。
助かった……と思ったのもつかの間、リオンの慌てた声が頭に響く。
『おい!早々にまずい事をしてくれたな!』
『まさか……声が?』
『くぐもっていたからハッキリとは聞こえなかったが、まごう事無きおっさん声が漏れていた……』
恐る恐る水晶玉を覗く。
[おっさんみたいな声、聞こえたよね?]
[リオンの声とは明らかに違ったよな?]
[マモリンちゃんの訳無いし……]
ザワザワとしている視聴者たち。
これは早々にマズイぞ……俺とリオンが固まっていると、一人の視聴者がコメントする。
[普通に魔物の声だろ?だって魔物の中から聞こえたんだし]
[確かに……マモリンちゃんじゃないとするとそうだよね]
[魔物って汚い声出すんだな……]
[それにしても、マモリンちゃんダンジョン初めてなんだね]
[初々しい行動カワイすぎる♡]
[リオン!女の子を危ない目に合わせたらダメだろ!]
[そうだ、お前はどうなってもいいからか弱いマモリンちゃんを守ってやれよ]
視聴者達が勝手に勘違いしてくれて命拾いした。
それにしても、俺の声に対する評価が酷すぎる……これは絶対にバレたら終わりだ。
いや、そんな事よりも……
『おい!?こいつ何だよ!?』
俺は足元で磯焼きになった貝を指差す。
『パールシェル、海辺によくいる魔物だ。無防備に近づくな』
クラーケン以外にも魔物がいるのか!?と思ったが、よく考えればダンジョンと言えば魔物がいて普通かもしれない。
『という事は、危険なんじゃ無いのか!?』
『そりゃそうだろう。ダンジョン攻略配信だぞ?』
そういうジャンルのゲーム配信じゃ無くて、リアルなんだからそりゃそうなんだが、異世界に来たばかりで全然実感が沸かない。
『とにかく気を付けろ、田中のせいでこれ以上視聴者が減ったら……』
リオンが水晶を見て言葉を止める。どうしたのかと思って、俺も水晶を覗く。
『え?……視聴者が……一気に……50超えて』
どうやらマモリンの起こした 普通ならやらない行動 は視聴者にウケたらしい。視聴者は今現在も増え続けている。
俺は『やった』とリオンを見る。
リオンは震えていた。嬉しくて震えているのかと思いきや、その顔は蒼白している。
『え?……え?……2桁とか……ヤバい……怖い』
『え?……』
ヤバいのはテメェーだっ!!俺は配信に乗らない角度でリオンのケツを叩く。
『ここからだ!ガンガン同接増やして行くぜ!!』
俺は拳をグッと握る。
リオンはと言うと、地味な顔をより地味にして増えていく数字にビビリちらかしていた。