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第15話「推しVチューバーと異世界で出会ったんだけど!?」

 その日、俺とリオンは街の市場に買い出しに来ていた。


「うわー、これなんだ?食いたい」

「それは、ドリアードの種子だ。田中は魔物素材ばかり食べたがるな」

「そりゃ、魔物とか俺の世界では絶対に食えないからな!」


 俺は興味津々で市場を歩く。

 活気に満ちていて、買い物客、店員の声が飛び交っていた。

 その時、聞き覚えの声が聞こえて足を止める。


「え?」


 思わず声が漏れるほど驚いた。

 いや、たぶん聞き間違いだ……だって、この世界で聞こえるはずが無い……


「ルドリックさん、ミリアンラさんも早く早く。見てドリアードの種子が出ているわ」


 聞き覚えのある声が俺の方に近づいて来た。

 いや……ここまで来ると、それが聞き覚えではなく ()()()()()() になっていた。


「う……嘘だろ……この声」

「どうした?田中?」

夏野向日葵(なつのひまわり)……ナツヒマ!?」

「誰だ?」

「お……俺が元の世界で推してたVチューバーだ」


 まさか!?そんな……と声の主を探す。

 そうだ、ドリアードの種子を見つけて喜んでいた。その売り場は俺の目の前にある!

 

「ドリアードの種子。これにハチミツかけて食べると最高に美味しいのよね」

「……」


 俺の真横で女の子がそう声を上げている。

 声は……間違いなくナツヒマだ。似ているとか、そういう事じゃ無い。俺がナツヒマの声を聞き間違う訳が無い。

 だが……人物が違う?いや、厳密にはまったく違う訳では無い……

 明るい茶色のポニーテール、そこにヒマワリの種をモチーフにした髪飾り、そういう所はナツヒマそのものだ……

 だが、服装はVの頃と違って、この世界の人が来ているようなワンピースだ。

 そして、最も違う部分は……ちょっと……いや、かなり体格が大きくなっていた。

 ……ダイレクトに言うと太っていたのだ。


「ナツ……ヒマ……さん?」


 俺の呟きに女の子の動きが止まる。そして、ゆぅーくりとコチラを見る。

 その顔は犯罪現場でも見るような……見てはいけない物を見るような顔。


「だ……誰?なぜ……私の事……知って」

「あ、やっぱりナツヒマ……夏野向日葵さん!?嘘……あ!そういう事か!!ナツヒマもこの世界に召喚されたんだな!?」


 俺の中で全ての線が繋がる。

 元の世界で突然活動休止したナツヒマは異世界に召喚されたからだ。


「あ……あなた……じゃあ元々は()()()()に?」

「あの世界というか、元の世界というか……俺もVチューバーしてて、ナツヒマさんみたいな事務所所属じゃ無くて個人勢だけど。それでこいつに召喚された」


 リオンを指差す。


「そ……そう」


 ナツヒマは都合が悪そうに視線を逸らす。

 その理由は解る。俺が知っているナツヒマはアイドルVだ。スリムな体にアイドル衣装を着ていたからだ。と言っても3D素材なんだけど。

 今は……その面影は髪型にしかない。3D素材だったナツヒマはリアルの人間と同じく太っていた。

 

 

「あら、ナッちゃんのお友達かしら?」


 そこに老夫婦らしき男女が現れてそう声をかけて来た。


「ルドリックさん、ミリアンラさん……そのお友達とかじゃなくて……」


 ナツヒマは慌てたように返す。

 俺が挨拶しようとした横で「え!?」とリオンが声を上げる。

 

「そ……そちらは!レジェンドのトラウスご夫婦!?」

「レジェンド?誰だ?」

「冒険者なら誰でも知ってる!数々の高難度ダンジョンを制覇した伝説級の魔術師夫婦だ!今発見されているダンジョンの地図を作製したのはお二人だと言っても過言ではない!」

「という事はナツヒマを召喚したのは……」


 老夫婦は「あらあら」と言って俺を見た。


「あなたも異世界からいらしたのね」

「えっと……そうです、このリオンに呼ばれて」


 俺はリオンを指差す。リオンは少し得意げな顔を見せている。

 そういえば、召喚の書を扱うにはそれなりに魔術に長けていないと出来ないという話だった。

 

「呼ばれた、という事は召喚したのだな?」


 おじいさんの方がギラリとした目でリオンを睨む。


「えっと……そうですが……」


 思った反応とは違う反応が返って来てリオンはたじろぐ。『あなたもそうでしょう?』という目を向ける。

 

「まったく、召喚などど言う物に魔法を使いおって!けしからん」

「ええ……しかし、ルドリックさんも召喚されたんですよね?こちらのお嬢さんを……」


 ルドリックは額に青筋を立ててリオンを睨む。

 それをミリアンラが「まぁまぁ」と制して続ける。


「私達は意思を持ってこの子……ナッちゃんを召喚した訳では無いのよ」

「と言うと?」


 俺とリオンは食いつく。

 しかし、ミリアンラはウフフと笑う。


「どうかしら?私達の家はすぐそこなのよ、丁度美味しいケーキも買ったし、帰ってゆっくりお話ししましょう」


 その言葉にナツヒマは「え!?」と声を上げる。

 しかしリオンは「是非!!」と即答した。

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