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第13話「化けの皮が剥がれましたわぁぁーー!!わたくしのぉぉ!!」

「セリーナ!!まかせろ」


 マモリンが何やら詠唱を始める。魔法を使ってハチ達を一掃する気だ!


「待ってください!!だめですわ!!」

「え?」


 ハチを払いながら必死に叫ぶ。

 だって……そんな事したら……この子達が……


「マモリン、ハチは園芸の大事なパートナーなんだぞ」


 リオンが眼鏡をクイッと上げて言う。

 そしてわたくしを見る。

 

「ですよね?セリーナさんが昔の配信で言っていました」

 

 そう、そうだ……わたくしが昔に言った事。


 『ハチ達は、わたくしの大切なパートナー』


 事実、このハチ達のおかげでこの庭園はここまで大きく美しく出来たのだ……


 嫌でも昔の事を思い出す。


 あの頃のわたくしは『園芸』を配信していた。

 特にバラが好きでそれを育てる記録として配信を始めてみただけだった。

 主役はバラ達であって、わたくしは顔出しなんてしていなかったし、勿論今みたいに着飾ってなんていなかった。

 髪は三つ編み、泥で汚れたオーバーオール。邪魔な爪は短く切っていた。


 初めて苗から育てたバラが咲いた時は本当に嬉しかった。

 そのバラは枯れる前にブリザードフラワーにして髪飾りにした。

 その流れを、園芸が好きな視聴者さん達と共有し一緒に喜んだ。

 人気なんてまったく無かったけど楽しかった。 

 

 それで良かったはずなのに……

 ある日、配信鳥に不調が起きてわたくしの顔が映ってしまった。


 綺麗なバラを見に来てくれているのに、わたくしの土だらけの顔を映してしまって視聴者さん達に謝った。

 わたくしになど誰も興味無いと思った。だけど、意外にも引き続きの顔出し配信を望む声が多かった。

 その頃の視聴者さん達はお友達のように気が知れていたし、それならば……と顔を隠さないで配信をするようになった。


 恥ずかしくないように、化粧も少しずつ勉強した。

 すると、みるみる視聴者さんが増えて行った。

 そうなると、少しずつお金も入るようになって、良い園芸の道具を購入出来るようになった。

 自分の努力が庭園の美しさに反映される事が嬉しかった。


 だから、もっともっと視聴者さんの望む事を配信しようと思った。

 結果……気が付けば、庭の世話はお金で他人任せ。

 『園芸配信者』という肩書はどこにも残っていなかった。


 苗木のお世話だけは唯一続けていた。

 それくらいはしないとバラ達に顔向けできない……それは自分都合の足掻きみたいな物。



 ブブブブブ


 ハチ達が襲い掛かって来る。

 わたくしの事なんて忘れてしまったのね……

 

「自業自得ですわ……」


 なんだか全部がどうでも良くなった。

 いつのまにか、分厚い化けの皮を被っていたのはわたくしだった。


「あぶない!!」


 マモリンがわたくしをかばうように覆いかぶさる。


「あなた!顔……」


 その頬が赤く晴れていた。ハチに刺されたのだ。

 配信者として、何より大切な顔なのに……

 わたくしを守るために……


「顔なんか別にいい、元に戻るんだしな!それに俺はダンジョン攻略配信者だ、怪我なんて日常茶飯事だぜ!」


 それでも、女の子が顔に怪我するなんていい事の訳が無い。

 でも、マモリンはそんな事はまったく意に介さずに言う。

 

「でも!セリーナはそうもいかない!セリーナの配信は綺麗なセリーナを見て元気になったり自分もそうなりたいって憧れたりする女の子達が沢山見ているんだろ!?だから絶対にセリーナは傷つけさせない!!」

 

 わたくしの事をかばいながらそう口にするマモリン。

 見上げるその顔は少女なのだけど、とても凛々しくて……


「か……かっこいいですわ」


 口から自然とそう漏れた。


「リオンでもどうしたらいい!?ハチを傷つけずにこの場をやり過ごす方法」

 

 リオンは眼鏡に手を当てしばらく考える。そしてハッとした顔を見せて叫ぶ。

 

「池だ!庭園の反対側に水辺のバラ用にビオトープがありますよね!?」


 またしても、リオンは最近の視聴者が知らない情報を持ち出す。

 しかし、もうそんな事気にしていられない!


「ありますわ!!」

「よっしゃー!!行くぜ!!」

「きゃっ!」

 

 マモリンに強く手を引かれて走る。

 高いヒールの靴は途中で脱げる。でも、もう何も気にならない。


「あった!飛び込むぞ!!」



 バシャッァァーーー!!!!



 3人で水に飛び込むと大きな水しぶきが上がった。

 ハチ達はしばらく水の上を飛んでいたが、落ち着いたのか巣箱に戻って行った。


「良かった、諦めたみたいだ」


 バシャリと3人で水から体を出す。もうそれぞれ髪も服もビショビショだ。

 眼鏡が取れたリオンはもはや別の意味で別人だ。

 いや、化粧も付けまつげも全部が落ちているであろうわたくしも別人だろう……

 

 「良かったな」と言ってわたくしの姿を改めて確認したマモリンは「あ……」とした顔を見せる。

 配信鳥は意気揚々とわたくし達の姿を映す。

 きっとコメントは凄い事になっているだろう……


「も……もう……ダメですわ……」

「セ……セリーナ……あの」

「セリーナさんはどんな姿でも素敵です!!」

 

 マモリンとリオンがそれぞれの反応を返す。


「もうダメですわ……」


 わたくしは震える。


「楽しすぎますわぁぁ~!!」

「え?」

「セ……セリーナさん?」


 わたくしは声を出して笑う。

 ドキドキハラハラした。ちょっと怖かった。

 でも、マモリンに手を引かれて思いっきり走って、3人で水に飛び込んだ時なんか大冒険をした気分だった。


 わたくしは本来おしとやかなんかじゃない。お嬢様を演じていた。

 身に着けていた華やかな飾りも今は全部取れてしまった。だけど、見た目だって今の姿が本来のわたくしなのだ。

 マモリンとリオンは驚いた様子でわたくしを見ていたが、すぐに顔を見合わせて笑う。

 

 視聴者さん達は幻滅している事だろう……そう思って配信画面を覗く。


 

●お嬢様のこんな自然な笑顔初めて見たわ

●お化粧してなくても素敵だわ

●セリーナってツンツンしてて苦手だったけど一気に推しになった!

●3人とも楽しそうでこっちまでずっと笑ってる




 こうして、その日の配信は幕を閉じた。

 当初の目的の通り『化けの皮』をちゃんと剥がす事が出来た。

 マモリンの……では無くて、わたくしのになってしまったけど。

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