表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

第11話「浅っさいエピソードを曝け出して実力を思い知るがいいですわ!」

「きっかけかぁ……何年か前に年の離れた妹が重い病気になってさ」

「びょ……え?」


(いきなり深すぎますわぁーー!!)

 

 リオンも初めて聞く話のようで、興味深げにマモリンを見ている。


「妹はさ、絵を描くのが好きだった。特に自分で考えた『魔法少女マモリン』はお気に入りだったんだ」

「マモリンって……あなた様の事ですわよね?」

「そう、俺は病気の妹を元気付けたくてマモリンの配信素材を技術のある友達に作ってもらったんだ」

「配信素材を技術のある?ああ、衣装やヘアメイクとかの事ですわね?」


 マモリンは「そ……そう」と笑う。


「それで、マモリンの姿で妹に向けて応援動画を作ったんだ」

「でも、妹様は声がイメージと違ってガッカリしたんでは無いです事?」

「こ……声は……えっと……別の女性に当てて貰った」


 マモリンはしどろもどろでそう返す。

 

(来た来た来ましたわ!こういうのですのよぉぉぉーー!!心温まるエピソードなんていらないんですわっ!!)


「まぁ、嘘をお付きになったんですの?」


 わたくしはそう言って、大袈裟に「あ」と口を押える。


「申し訳ございません……マモリン様は妹様の事を思ってなのに……」

 

 その言葉にマモリンは首を振る。

 

「別にいいよ、その通りだしな。でも、マモリンのイメージってのもあったけど、中身が()ってのを隠したかった。だって妹にとってマモリンはマモリンなんだから」

「ご家族の声だと、正体がバレてしまいますものね……」


 マモリンは頷く。

 

「妹のために動画を撮って励ました。『手術なんかマモリンの魔法で怖くないよ!』って感じで」

「では、妹様のためにだけに動画を撮っていたんですの?」

「そう、慣れない作業で大変だったけど、妹が喜んでくれたから頑張った」


 そう言って過去の苦労や不安だった心境を懐かしむように笑う。


「その……それで……妹様はどうなりましたの?」

「手術は成功して今は元気だ」


 わたくしはホッと胸を撫でおろす。


「良かったですわね。きっとマモリン様の動画のお陰ですわ」

「いや、それが……元気になってから話してくれたんだけど、妹はマモリンは俺だって最初から気が付いていたんだ、その上で嬉しかったって言ってくれた」

「そのお気持ち自体が嬉しくて頑張れたんですわね」


 わたくしの言葉にマモリンは照れたように笑う。わたくしも一緒に笑う。庭園は温かい雰囲気で包まれた……


(違いますわー!!!!温かい雰囲気で包まれてどうしますのぉぉぉ!?これじゃあマモリンの好感度を上げてしまってますわ!!!!)


 配信画面を見ると案の定コメントもほっこりとしていて、マモリンの好感度も上がっていた。

 わたくしは「こほん」と咳ばらいをする。


 「あの……ですが、その後『配信者』としてご活動を続けたのはどうしてですの?」


 結局、そのギャップがウケると思ったから続けた……そんな所だ。

 マモリンは「それがさ……」と続ける。

 

「俺がやった、マモリンでもう一人喜んでるやつがいてさ」

「妹様にしか見せていなかったのにですの?どなたですの?」

「この皮……衣装を作ってくれた友達だ。そいつは自分の作り上げたものが動いて喋る事に凄く感動したみたいで……たまにでいいからまた動画にしてくれって」

「確かに、苦労して作った衣装を着て華やかに活動して頂ける事は嬉しい事だと思いますわ」


 わたくしが『この庭園』を配信場所にしているのはそれに通ずる物があるからよく解る。


「俺は友達に感謝もあったし、それならって事で配信を始めた。それがきっかけだ」


 わたくしはリオンと共にマモリンの話に聞き入っていた。


(てっ!!だから聞き入っている場合じゃありませんわぁぁーー!!)


 真面目な口調で「あの……」と問う。


「その間も声は女性の方に当てて頂いていましたの?」


 マモリンはリオンをチラリと見る。やはり、話すと都合の悪い事がある!さぁさぁボロを出しなさい!


「声は……リオンとの初めての配信を見てくれたら解るんだけど……『話せない』って設定で」


 マモリンは歯切れ悪く返す。

 

(きたきたきた!!きましたわぁぁぁーー!!!!)

 

 わたくしは「まぁ!」と大袈裟に驚きを見せる。

 

「それでは、先日の配信で意に反して声を出してしまうまでは、視聴者様方を騙して配信していたと言う事ですか!?」


 わたくしは「あ!」と口を押える。


「申し訳ございません、わたくしったら騙してた……なんて、でも喋れるのにそれを隠していたというのは……」


 さぁ、弁解の余地も無い。慌てふためいてボロをボロボロ出すといい。

 しかし、マモリンは慌てる様子は見せずに頷く。


「その通りなんだ。俺は、不自然さを隠すために自分の本来の声を隠したんだ、どこかでずっと罪悪感はあった」


 当初は『ギャップがウケる』と思ってパッと出したのかと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。

 しかし、嘘を付いていたというのは事実だ!さぁ、もっとボロボロボロを出しなさーい!!


「でも勘違いしないで欲しいのは、俺は他の奴が同じ事をしていてもそれは悪いと思ってない」

「どうしてですの?」

 

 そんな事は無いはずだ。本来の自分を隠して配信するなんて……そんなの悪い事に決まっている。


「声だけじゃない、例えば見た目とかも全部なんだけど……配信者はさ、自分であって自分じゃ無いと思うんだ。配信画面の中に居る『別の人物』なんだよ」

「別の人物……ですの?」


 マモリンは「そう」と頷く。


「視聴者さんは、その『別の人物』を応援してくれているんだ。だから、配信中はその人物として生きなくちゃいけない」

「その人物として生きる……」

「だから、配信中は自分自身も『そいつ』をリスペクトしないといけないし、『そいつ』を応援してくれてる皆に答えなくちゃいけない」

「画面の中の自分と、日常の自分は違う人物……そう言いたいんですの?」


 マモリンは頷く。

 

「配信者の皆が見ているのは、『日常の俺』という人間じゃ無いんだ。『画面の中のそいつ』なんだよ、だから……騙してるって言えばそうなんだけど、そんな負の言葉で一くくりにするのも違うと思ってる」


 マモリンは「難しいな……」と苦笑いする。

 わたくしは配信画面に目を向ける。



●なんかマモリンが言おうとしてる事解る気がする

●身近な友達や知り合いじゃないんだしな、俺はそれでいいと思う

●でも、結局声を出しちゃって美少女のイメージぶち壊したんだよなw

●確かにあの時はちょっとガッカリしたな、見た目が凄い好みだっただけに



 そうよ!そうなのよぉーー!!それは結果視聴者さんを裏切ったという事ですわ!!さぁさぁ!!皆様もっと言ってやってくださいましぃぃー!!!!


「だからさ、声出しちゃった時は正直リオンにも迷惑かけたし、視聴者の皆も驚かせたけどさ、結果それで良かったと思ってる」

「どうしてですの!?言ってた事と矛盾しますわ!」


 わたくしは、ついつい声が大きくなって慌てて口を紡ぐ。


「マモリンは元々『誰かを元気にしたい!助けたい!』っていう思いで妹が考えた魔法少女のキャラクターなんだ。だから、俺の魔法で自分もリオンも助かったし、結果視聴者さん達も元気に出来た、だから今の方が『本当のマモリン』になれたって感じてる!」

「本当の……その前までは違ったんですの?」

「まぁ……ゲームして遊んでたくらいで、魔法少女らしい事は何もしていなかった」


 過去の自分を思い出すようにマモリンは笑う。


「その上でこうやって応援してくれてる奴等は本当に有難いし、俺はこれからもそいつらのために元気になれる配信をしたいって思ってるんだ!」


 なんて楽しそうにキラキラした笑顔を見せますの……

 配信画面に目を向けると、マモリンを応援する声で溢れていた。わたくしの視聴者達も同じように応援している。

 な……何よ何よ、口で都合のいい事を言うのは簡単だって事、わたくしは解ってますわ。


「マモリン様、素敵ですわ。だって、「今後も頑張ります」と言いながらスグに消える配信者様も多いですもの」


 わたくしは「ほほほ」と笑う。この世界は続けて行く事こそが大変なのだとわからせる目でマモリンを見る。


「確かに大変な事もあるもんな、俺もなんだかんだで6年続けて来れたのは、一人でも見てくれてる視聴者がいたからだよ」

「え?6……」


 わ……わたくしと同じ歴?

 その時、それまで石像のように座っていたリオンが口を開く。


「6年と言えば、セリーナさんと同じですね」

「ほ……ほほほ、そ……そうですわね」

「セリーナさんの配信も、最初の頃と随分雰囲気が変わりましたよね」

 

 そんな事、どうでもいいんですのよ!今は変に好感度が上がってしまったマモリンからボロを引き出さないといけませんの!


「ほほほ、そうですわね最初の頃はお化粧や衣装もっとシンプルでしたわね。恥ずかしいですわ」


 わたくしはリオンに当たり障りなく返して早く話題をマモリンに戻そうとする。


「そうでしたね、この庭も雑草しかありませんでしたし。小さなバラの苗から始まって、それをここまでの庭園にしたセリーナさんは素晴らしいです!」

「ほほ……え?」


 笑いが引きつる。今なんて言いましたの?『雑草?小さなバラの苗?』それって……わたくしがまだ……


「最初は園芸配信者でしたものね」


 そう、『園芸配信者』として顔出しもしていない初期の初期の話ですが?視聴者も一桁で……無かった事にしている時期で。

 

 わたくしが自ら消した 黒歴史 をなぜこの地味眼鏡が知っていますの?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ