第1話「召喚ガチャ大当たり!……だと思ったのに」
「やったぞ!召喚ガチャ大当たりだ!」
目の前で喜んでいる『コスプレ眼鏡男』は一旦置いておくとして……
何が起こった?
俺はついさっきまで、自宅で生配信中だったはずだぞ?
一瞬モニターに吸い込まれるような感覚がして……目が覚めたら、知らない部屋だった。
夢か?そう思って頬をつねってみる。
痛みがあった……いやそれ以前に、何かがおかしい。
つねった頬の感触がツヤスベなのだ。俺は38歳のおっさんだぞ?そんなはずはない。
両の手の平で、顔全体をさする。髭の剃り残しなど一切ない、スベスベツヤツヤの肌。
指先にサラサラとした物が触れた。それが自分の髪だと気が付くのに数秒かかる。
髪を触ると、するりと指が通った上にいい匂いがした。
何かがおかしい。
いや、その『何か』にもう気が付いてはいた……
先ほどから視界に入る自分の着ている服……それは、レースのミニスカートだった。
もし、38歳のおっさんが来ていたら大事件だ。
服、身に着けているアクセサリー、指先のネイル……すべてに見覚えがあった。
これは『マモリン』だ。
マモリンとは、俺が配信で使っているアバター……つまり、皮だ。
どうやら俺の姿はマモリンになっているらしい。
どう考えても夢……いや、VRゴーグル装着状態なのだが、そうでは無い。
手に触れる物はリアルに触れている。
「混乱しているようだね、無理もない」
存在を一旦置いておいた、コスプレ眼鏡男が話しかけて来る。
「簡潔に言うと、キミは転移をしてこの世界に来たんだよ」
転移……?つまり、異世界転移というやつか?
聞き飽きるくらいその手のコンテンツが世の中に産まれては消えている事は知っている。
食わず嫌いで触れた事は無かった……なのに、俺は今更それに触れたのか?しかも、リアルに?
「キミをこの世界に呼んだのは私だ『召喚の魔導書』を使ってね。高くついたが、最後の賭けに出て正解だった……」
そう言って俺のつま先から頭、そして顔をジッと見る。
「コラボ相手として申し分ない。これで、私の配信も視聴者が増える」
更に肩を震るわせて続ける。
「結局だ……世の中は顔の良い女が配信するだけで数字を稼げるんだ。私が命をかけて配信している『高難度ダンジョン攻略配信』がだ!露出の高い服を来てクネクネ踊っているだけの動画に軽く再生数抜かされてるなど!おかしいだろうっ!?」
そう言って俺の肩をガシッと掴む。
「そこでキミにだ……私のコラボ相手として動画出演して貰いたい!」
なるほど、良く解った……
俺はスーっと息を吸い込む。
「案件相談はまずDMだろっ!!凸って来んじゃねぇ!!」
部屋に 野太いおっさんの声 が響いた。
しばらく2人で声を失う。
「は……なんだ?その声は?」
「いや……何と言うか……俺の素の声だが?」
再び静寂が挟まる。
「キミィィィー!?どういう事だ!?キミィィ!?!?」
「こっちが聞きてーっ!そもそも、この姿は配信のアバターで『皮』なんだよ!中身は38歳のおっさんだ!!ボイスチェンジャーどこ行った!?」
「ボイ……?」
「声を変換するソフトだよ、それを使えばおっさんでも美少女声を出せる」
「異世界には……そんな無慈悲なチートアイテムがあるのか……」
コスプレ眼鏡男はヨロヨロと後ずさりして膝を着いて崩れ落ちた。