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旅の目的(七)

「白騎士くん、だいぶ楽しんだようだな」


 本気を出さずに力比べでもしているように遊びながら闘っていた白騎士くんだが、最後はサーペントを口から両手で真っ二つに裂いて仕留めていた。

 そんな白騎士くんは満足そうに腕をエル字に曲げて力こぶを叩いている。


「まあ、何よりだ。倒してくれてありがとう」


 その労いの言葉を聞いてうなづいた後に、白騎士くんはその場から消えた。


「召喚獣って、獣じゃないの」

「まあ、色々あるんだろ。とにかく細かいことは置いておいて帰ろうぜ」


 俺はシャーサの手を取って歩き出した。

 途中、討伐した証拠がないと気付いてサーペントを取りに戻ったり、キラーベアを倒して回収して村へ帰った。


 サーペントなどを村に渡して、まだ御使い様と俺を呼んで熱狂冷めやまない村人から逃げるように次の場所に向かった。


「もう日が暮れるよ」

「ああ。シャーサをペガサスちゃんに乗せてあげようかなと思ってな。夜なら誰にも見られることはないだろ」

「え、ほんと。やったあ!」


 日が暮れた後、ペガサスちゃんを呼ぶと彼女は嬉しそうに頬をスリスリしていた。


「だいぶ懐いてるね」

「まあ、ペガサスちゃんとは一番長い付き合いだし。それに彼女が居なければ魔王領をあんなに早く移動出来なかったしな。本当に助けられたよ」

「ん、彼女? この子メスなの! ちょっと離れなさいよ! あなたにも少し話があるわ」


 シャーサは俺とペガサスちゃんを引き離すと、そのままペガサスちゃんを連れて少し離れてコソコソと会話をしていた。


「あいつら会話が成立するのか」


 そんな疑問を持ちつつ、二人を眺めた。

 ペガサスちゃんは普通の馬よりも一回りか二回り大きい白い翼を持った馬で、とても高貴な感じがする美しいペガサスだ。それにとても賢いし。どんなピンチでも俺を見捨てることもない情の厚い優しいペガサスでもある。


「お待たせ」

「ああ。なんか満足そうだな」

「ええ。互いに満足した結果を得られたわ」

「ちなみにどんな」

「レディ同士の話を詮索するなんてヤボなことはしないで」


 やはりシャーサはあほの子だった。

 何がレディ同士だ。馬鹿な事を言うのも大概にしろ。

 俺はペガサスちゃんに跨り、シャーサに手を伸ばして彼女を横座りに俺の前に乗せた。


 ふわっと空を駆け登っていく。

 星の海を泳ぐように優雅に空を駆けた。


「すごい。世界が、とてもきれい」


 シャーサが珍しく女の子らしいセリフを口にして、うっとりとしている。

 そんな彼女を乗せながら星の海を予定より長く駆けた。

 もちろん下に水田がないか確認しながら。


 そして気付けば夜も明けて、美しい朝焼けを迎えた。


「はぁ。これは夢なのかしら。こんなに世界が美しいなんて知らなかったわ」


 乙女モード全開のシャーサがまたそんな事を口にした。


「だな。世界は本当に美しい」


 つい俺もくさいセリフを吐いてしまった。


「かっこつけないで」

「なんでだよ。乙女モード全開のシャーサには言われたくねぇよ!」

「全然似合わないし。それに私は、乙女なの」

「何が乙女だよ。百歳オーバーのお前が乙女な訳ねえだろうが!」


 シャーサに下から頭であごを突き上げられて軽く仰け反る。だが、とても痛い。


「イテッ! な、何すんだよ、この暴力女!」

「レディに歳のことを言うからよ。それにエルフの百歳は人間でいう十代ですから。失礼なことは言わないで!」


 手であごを摩りながらシャーサに疑いの白い目を向けた。


「な、なによ!」

「べつに」

「なんかあるなら言いなさいよ。男の子でしょ!」

「俺。もう二十三だし。男の子じゃねえし」

「あああああ、一々細かいことを! 言葉の綾ってあるよね、そんなのも理解できないほど、おバカさんなんですか、コータは!」

「あほの子のお前だけには言われたくねえよ!」


 俺とシャーサはペガサスちゃんに乗ったまま取っ組み合いを始めた。

 そんな俺たちをペガサスちゃんが呆れた瞳で眺めていたのは気のせいだと思う。


 二人で疲れ果ててぐったりした頃には元ゼスティア領内に入っていた。

 そしてふとあるものを目にする。


「ああああ、あった! 稲だ、お米だ、水田だ!」


 ペガサスちゃんを旋回しながら降下させて地上に降り立った。賢いペガサスちゃんは翼を隠して大地を駆けた。俺の目的地を目指して。


「なんで気が付かなかったんだ、俺は。それにスタート地点のゼスティアに、強く望んでいた物があるなんて意地悪過ぎるだろ!」

「皮肉なものね」


 水田近くを駆けていると、ようやく人を見つけた。ペガサスちゃんから飛び降りて声を掛ける。


「あの、これの実を売ってください!」

「へっ? いきなり言われても」


 俺は壮年の男の人の両肩を掴んで頼み込んだ。


「金に糸目はつけません! お願いします、売ってください!」


 俺の誠意に気後れした男性は俺たちを村まで連れて行ってくれた。


「あれを欲しがるなんて珍しい人だな」


 村長に俺を紹介した後、彼が食糧庫に案内してくれた。

 そして袋に入った大量のお米が俺の目の前に山のように積まれている。

 袋から何粒か手に取り確かめると、それは確かに念願のお米だった。自然と笑みが溢れる。


「ふっ、ふわっははは! 漸くだ、漸く見つけたぞ俺は!」

「あの、これを売れるだけ売ってください」

「エルフの嬢ちゃん。別に構わないが本当に良いのかい。こいつは家畜の餌だぞ」

「ええ、構いません。あるだけ売ってください。それと毎年収穫後にもお願いします」


 喜びに震える俺を尻目にシャーサが商談をしてくれていた。


「ありがとうございます。では後ほどコーシャ商会の者をこちらへ寄越しますので正式な契約はその者と交わしてください。きちんと相場より高値で買い取らせて頂きますのでご安心ください」

「こ、コーシャ商会って、あのエルフェリアの大商会か!」

「そんな大したものではありません。まだ商会設立から僅かしか経ってませんし」

「いやいや。うちの娘なんか、コーシャ商会の服を買うのが夢だって毎日言ってるくらいだぞ」

「それは光栄ですわ」


 まだ二、三年しか経ってないのに他国に知られるほど有名になったもんだ。

 まあ、今までにない、おしゃれ服だからな。下着はともかく、日本のおしゃれがこっちで受け入れられるとは思わなかったぜ。俺が普段着で着たいだけだったのに。


 買えるだけ買って、収納魔法でしまう。

 そしてシャーサと村を散策する事にした。

 意外と大きい村で、村の名はコメダ村というらしい。さすがにその名を聞いた時はズッコケた。


「良かったね」

「ああ。これで醤油と味噌があれば完璧なんだけどな」

「造ればいいじゃん」

「まあ、そうなんだけど。あれ意外と重労働なんだぞ。作るのにかなり長い日数も掛かるし」

「そうなんだ。でも欲しいんだよね。お母様に頼んであげるよ」


 ええぇ、女皇様にか。

 会うと無言でプレッシャーかけてくるからな。早く結婚しろって。


「まあ、保留に。あ、チャーハンに醤油は必要不可欠なのに。なんでこんな大切なことを忘れていたんだ俺は」

「ダメじゃん」

「よし。今すぐエルフェリアに帰るぞ」


 俺はシャーサの手を握ってエルフェリアの首都へ転移した。そしていつも泊まっている少しお高い宿に行って部屋を借りた。


 醤油と味噌の造り方と、そのレシピをアカシックレコードから引っ張ってくる。それを紙に書き出してシャーサに渡す。ちゃんと材料もこちらの世界にある物に自動で変換されるので大助かりだ。

 後でアーカシャの管理人の彼女にはお礼を言っておこう。まあ、こちらからは会えないので、あっちが会いに来てくれたらの話なのだが。


「後、土鍋も作らないとな」


 それも同じように書き出してシャーサに渡した。

 後はシャーサが商会を通して手配してくれる筈だ。俺はただ待てばいいだけ。


 商会に行くシャーサを見送り、俺はベッドにいって目を閉じた。


「そういえば徹夜してたな」


 疲れもあったのか、すぐに意識は閉じて深い眠りについていた。

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