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旅の目的(ニ)

 今滞在している場所は魔族領から南東の国、ゴーサス王国。この国から西に行けばメーザス王国で、そこから北西にあの滅びたゼスティア王国がある。また、今いるゴーサスから北東にシャーサのエルフ国、エルフェリア皇国がある。


 俺はストーカーのシャーサを連れてとある目的の為に宿屋を出た。


「ねえ、どこに行くの」

「メーザスだ。もうこの国に用はないからな」

「というか、何を探してるのよ。コータに分からないことなんてないでしょ」


 こいつが言うようにアカシックレコードから情報を引き出せば大抵のことは分かる。けれど答えが分かっている人生を送って楽しいか。与えられた力を使って他力本願なイージーな人生なんて虚しくならないか。

 人は知恵を絞り、創意工夫と努力を重ねて成長していくからこそ充実した時を送れるのではないのか。


「俺より年増のくせにまだまだだな。それに探しているのは米だ」

「米? なによそれ。それに私はまだ十七歳だからね。年増なんて失礼なこと言わないで!」

「それ、俺と出会った時も言ってたよな。私、十七歳ですって」


 こいつらエルフはほっておけば千年は生きるらしい。んな長生きしても退屈なだけだよな。俺はそんなの御免だな。


「私の歳のことはいいの。だ、か、ら、その米とやらの事を教えて!」


 グイグイ顔を近づけるなっつうの、ウザい。

 俺はシャーサの顔を片手で押して距離をとる。


「俺の故郷である日本の主食だ。ライスとも言う。それはもうお肉にも魚にも何にでも合う万能で美味しいソウルフードだ」


 シャーサはゴクリと喉を鳴らした。

 たぶん意味は分かってはいないが、俺との今までの付き合いから美味しいものだと想像したのだろう。


「美味しいの?」

「ああ、美味い。もし手に入ったらシャーサに俺特製絶品チャーハンを食わしてやろう」

「ほんと。絶対だよ、約束だからね!」

「ああ、俺は約束は違えない。安心しろ」

「さあ、はりきって探そう!」


 シャーサは行く先も知らないのに俺の手を掴んで笑顔で先に歩き出した。

 なんかこういうところは出会った頃と変わらないな。


 あれは召喚されて三月も経っていない頃だったと思う。魔族領の南東部で魔王四天王の一人、ポークくんと何度も激しく闘っている時だった。

 その頃の俺はまだ力を十全に使い熟せなくて、あの屈強な巨体で豚の顔を持つポークくんと互角の闘いを繰り広げていた。当然、深い傷も負うし疲労も溜まる。そんな俺が夜、木の枝で休息を取っているとシャーサがたった一人で俺の前に姿を現した。とても大きな革袋を両手に持って。


「貴方が勇者タロウ様ですね。私はエルフェリア第一皇女シャーサといいます。貴方のお手伝いに来ました!」


 彼女をよく観察すると服は所々破れているし、今ニッコリ笑っているが顔には土が付いて、その端正な顔を汚している。

 そりゃあそうだろうな。こんな敵だらけの場所で、たった一人で俺を探して歩き回っていたのだから。

 そんな風に思っているとシャーサは俺のいる木の枝まで軽く跳んで横に来ると革袋から青い液体の入った小瓶を取り出して俺にいきなり掛けた。


「エルフ特製のポーションです。これで体力、気力バッチリですよ。そして。えっと、あああ、これこれ」


 いきなりの事に気後れしているとシャーサはまた枝からポンと飛び降りて地面にテントを置いて、その周りに小さな石を八個、円を描くように置いた。


「タロウさん、これで安全です! ちゃんと背を伸ばして寝ないと疲れが取れないですよ!」


 あのサイズの革袋から、それより大きいテントが出てきたという事はあの革袋には収納魔法が付与されているのだろう。それにあの置いた石で結界を張ったのか。

 そんな事をアカシックレコードで確認しているとシャーサがまた枝の上に跳んできて、俺を軽くヒョイとお姫様抱っこし、そのまま下に飛び降りた。


「考えるのは後です。今は体を伸ばしてゆっくり休んでください。私はその間に精のつく食事を用意しますから」


 にこやかに笑って、俺をテントの中に放り込むと彼女は鼻歌混じりで火を起こし料理に取り掛かっていた。俺はその様子をテントの入口の布を少し捲り覗いていた。


 なんて強引な女なんだと思ったが、悪意も敵意も感じなかったので好きなようにさせる事にした。

 それにテントの中には布団が敷いてあって枕もある。俺は久々のその誘惑に負けて布団の上で仰向けになって寝た。久々にとても快適にゆっくり寝られたと思う。


 目を覚ますとシャーサが俺の額を優しく撫でながら唄を歌っていた。

 それは子守唄の歌のように安心して眠りにつけるような優しい歌だった。


「あ、目が覚めましたか。タロウさん、素敵な銀の髪ですね。それに男性なのに細くてサラサラです」


 え、銀?


「俺、黒髪のはずだけど」

「いいえ、綺麗な銀色ですよ」


 シャーサは手鏡を出して、俺の顔を見せてくれた。確かに俺の髪は銀色だった。というより、白髪がマナで淡く輝いて銀色に見えている。


「そっか。なんでもないつもりだったけど、怖かったんだな、俺は」


 少しうつむいて独り言のように小さく口に出してしまった。そんな俺を彼女は優しく抱きしめてくれた。


「怖いに決まってるじゃないですか。誰からも支援が受けられずに、ずっと一人で戦っていたのですから。でももう大丈夫です。私が全力でサポートしますから!」


 少し体を離して彼女はニッコリと無邪気な笑顔を見せた。

 俺はそんな彼女を心から信用した。出会ったばかりのシャーサを。



「初めて会った時は良い女だと思ったんだけどな」

「え、今でもコータに尽くす良い女じゃないですか」

「いや、ストーカーの間違いだろ」

「なんですか。そのストーカーってやつは」

「嫌われてるのに無理やりしつこく付きまとうヤツのことだよ」


 シャーサはガバッと勢いよくこちらに振り向くと、青い顔で俺に静かに訊ねた。


「嫌いなのですか」


 その目には薄っすらと涙が浮かんでいる。


「んな訳ないだろ。言葉の綾だよ」

「ほんとですか。ほんとにほんとに、そうですか」

「ああ、嫌いじゃない。寧ろ、この世界で一番信頼してる。

 さあ、米を求めて次の街にいくぞ」


 今度は俺が彼女の手を掴んで先を歩いた。

 米がある事は分かっている。ただ食されていないだけで、必ずある。

 このウザい友にチャーハンを食わせる為に、俺は軽やかに足を踏み出した。


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