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旅の目的

 十七歳という青春真っ盛りで夢に夢見るたった一度の人生の中で最も尊い時に、このクソったれな異世界に召喚された。

 人付き合いが不器用で寡黙。けれど、スポーツ万能。成績そこそこの俺は正にモテ期(※あくまでも自己評価です)モテ期到来のはずだった。


 学校の中庭であの綺麗で清楚な先輩に呼び出されてウキウキで歩いている時にそれは起こった。


 そして気付けば知らないおっさん達に俺は囲まれていた。

 怒りに震え、ゆっくりと立ちあがろうとした時に、俺の頭の中に膨大な知識と記憶が激しい頭痛を伴って流れ込んでくる。

 そのせいなのだろうか。俺はアカシックレコードに繋がったのだと、自然に何も疑問に思わずに理解した。

 また肉体的にも精神的にも自分ではっきりと手に取るように分かるほど向上していたことも知る。


「勇者よ、世界を救ってくれ」


 無駄にデカい王冠を頭に載せ、目が痛くなるほど派手な服とマントを着た中年のジジイが、俺の感情を無視してそんなふざけた事を言ってきた。


「我々人間を魔族からお救いください」


 周りの黒ローブの男達も声を揃えてそんなふざけた事を口にする。

 そのくせ、完全武装のフルプレートの鎧姿で剣や槍を手にして構える兵士達がぐるりと俺達の周りを取り囲んでいた。


 ああ、そういうことか。

 俺は奴等に都合よく呼ばれた訳だ。

 この異世界の記憶が流れ込んでくる。まるで騙されるなと言うように。

 自然と笑いが溢れる。

 俺の青春をこんな理不尽な形で奪われた怒りが笑いとなって表現される。


「テメェ、人の人生をなんだと思ってんだ!」


 まず一番偉そうなジジイを殴り飛ばした。そして驚く。なんで俺はこんなに素早く動けるのかと。

 だがそんな考えはすぐに消えた。

 俺は次々とこの場にいる奴等を殴り飛ばした。

 一面に血の雨が降る。血が霧のように舞う。

 そんな中で俺はきっと笑っているのだろう。

 何もかも理不尽に奪った奴等を殴って。


 この場にいた愚か者達が全員気を失い倒れたのを確認してその場から出ると、適当に捕まえた奴をボコって城の宝物庫の場所を聞き出し、そこへ向かった。

 その途中で駆けつけてきた兵士達を魔法の試し撃ちがてら派手に吹き飛ばす。

 そして宝物庫に辿り着き、頑丈そうな宝物庫の大きな扉を力を込めて蹴破った。

 中には沢山の金銀財宝と武器がある。それを空間魔法で全て収納すると、俺はまたあの召喚された部屋に戻った。ある事を思いついたからだ。


 召喚陣に細工を施す。ついでにまだ気を失って倒れている派手なジジイの横っ腹を蹴っ飛ばした。


「まあ、取り敢えずこんなもんか」


 少しはスッキリした。

 最後に部屋の壁を爆裂魔法で吹き飛ばして外に出て空に舞い上がる。


 下には多くの兵士達が集団で城に流れ込む様子が見てとれた。そこに嫌がらせがてら雷撃魔法のライトニングアローを無数に撃ち込んでやった。


「魔王は倒してやる。だが、貴様らは絶対に許さん!」


 そう叫んでから爆裂魔法や雷撃、アイスランスなどの多種多様な魔法を城に目掛けて試し撃ちした。


 これが後のブラッディレインと畏怖され後世まで語り継がれる、俺の最初の伝説となった。


 そんな懐かしい夢から目が覚めると左半身が少し重苦しくて温かい。


「な、なんでお前が!」


 掛けてある布団からはみ出た彼女の体は布一枚纏っていない。

 俺は恐る恐る布団を軽く捲ると何故か全裸だ。

 い、いつの間に俺は服を脱いだのだろうか。


「もう、うるさい……」


 城まで転移魔法で送り返した筈だ。

 そ、それに、俺の初めてがこんな形で……


 不思議と怒りが沸々と湧いてくる。


「テメェ、シャーサ! なにしてくれてんだ!」


 ガバッと勢いよく布団を捲り上げてシャーサの頬を痛くないように軽く何度か叩いて起こした。


「んもう、なによ。まだ眠いの……」


 こ、こいつ。ふざけやがって。

 しかしよく見るとシャーサは上半身だけが裸だった。下はちゃんと履いている。

 しかも俺が立ち上げたファッションブランドのおしゃれ下着で、とてもお高いシルクのやつを。


「くっ、こんなヤツに着られるとは」

「ねえ、私もお金出してるの忘れてない」


 片目だけ薄目を開けてシャーサがそんな事を口にした。


「あん。押しかけ女房気取りか。しかも俺の初めてを無理やり奪いやがって。いいか、お前とはもう金輪際二度と会わん!」

「なに訳の分からない事を。コータ初めから全裸だったわよ。それに何もしてないし。私も初めてはもっと素敵な感じがいいし」


 なに急に顔を赤らめてんだ、このビッチが。

 全然かわいくねぇんだよ。まあ、少しは綺麗だとは思うけどな!


「で、も。たくさん出たね、コータ」


 俺は恐る恐る色欲の本体に目をやる。

 なんとなくだが、スッキリしているような気もしないでもない。


「寝ぼけて私にあれを無理やり咥えさせるから、ちょっとびっくりしちゃった。

 でも、あんな強引なのも嫌いじゃないわ」


 目も、口も大きく開く。何も言葉が出ない。所謂、絶句したということだ。

 けれど、暫しフリーズした後に土下座した。


「記憶がなくて済まない!

 けれど責任は取る。結婚しよう」


 俺はベッドが深く沈み込むほどに、頭を深く深く下げた。


「嫌よ。そんな愛情もなく責任感だけでプロポーズされてもゴメンだわ。私はコータにちゃんと愛されたいの! コータに私を好きになって欲しいの!」

「そうか。なら、お互い同意の上で何も問題などなかった。現状維持の知り合いでいいな」

「良くないわよ! なんでそんなに極端なのよ!」

「だって、好きとか思ったことねぇし」


 シャーサは目に特大の涙を浮かべた。


「なんでよぉーー!」


 彼女は涙腺が崩壊して激泣きしながら俺に抱きつくと、更に声に出して大泣きし始めた。


 ああ、恋の一方通行は切なくなるほど大変だな。


「コータが言わないで!」


 しまった。またつい口に出していたか。

 はぁ、朝からほんと、まいるぜ。


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