6怪目 最終回
アルトについていくと、屋上に出た。もちろん俺たちは汗だく。上に行ったり下に行ったり⋯⋯もう俺死のうかな。疲れたわほんと。疲れてること以外、何も分からん寒っ!
真夏なのになんでこんな寒いんだ? さっきの変な雪女のせいか?
「おい、アレ見ろよ⋯⋯」
パッソが指さす方を見てみると、スーツ姿の大柄の男と小柄のジジイが並んでいた。
「大丈夫かこれ? 怒られたりしないよな⋯⋯?」
不安そうなアルト。なんで屋上なんか連れてきたんだよ。
「君たち⋯⋯」
「慶虎(けいとら)校長、ここは私が」
ジジイがなにか言おうとしたの止めながら、デカい方が1歩前に出て喋った。なんで1歩前に出るんだろう。舞台かな。⋯⋯校長?
「君たち、トイレはここじゃないよ」
「大巨(エルグランド)教頭、違います。⋯⋯君たち、うちの生徒じゃないだろ」
もしかしてこの2人、ここの人!?
にしても、大ってエルって読まなくね⋯⋯? あ、Lってことか。すげー名前だな。ていうか俺なんで文字見えてるんだ? 作者と同一存在になってる? んで俺独り言多っ。
「オレたちは高校生で、ここには肝試しに来ました」
ありのままを話すアルト。知らない大人に怒られて声が出ない俺とは大違いだ。
「ほう、では殺そう」
「え?」
校長の突然の殺害宣言に驚きを隠せないパッソ。俺とアルトは頑張って隠した。
「殺さないでください」
「殺します」
「やめてください。嫌なので」
「いいえ、殺します」
アルトがなんとか交渉しているが、校長が聞き入れる様子は全くない。ロボかよ。
「殺します」
いつの間にかパッソがあっち側に行ってこんなことを言い出した。なんで?
「なぜあなたがそっちに行くのですか」
「私は強い方につくのです」
「そうですか、では絶交です」
「はい、そうしましょう。私には生き残ることが最優先ですから」
⋯⋯なんでこいつら敬語なの?
「君は僕たちの仲間ということでいいのかな?」
「はい、よいです」
「ではよろしく」
「はい、宜しくお願いいたします」
教頭と手を握りあうパッソ。
俺たちはどうなるんだろうか。警察でも呼ばれるのか? それとも親か?
「では、殺しますね」
そうだった。殺されるんだった。突き落とされるのかな。ジジイはともかく、エルグランドが厄介だな⋯⋯
「すぐ殺してあげますからね」
ゆっくり近づいてくるエルグランド。
「待ちな!」
後ろから野太い声が聞こえた。物語の展開的にもう少しピンチになってから現れた方がかっこいいのに、今なんだ。
振り向くと、トイレの花子さんがいた。そういえば今ノーパンなんだよなこの人。
花子さんはアルトに近づくと、何かを渡して去っていった。助けてくれるんじゃないんだ。
「アルト、なに貰ったの?」
「23万円」
「えっ!? めっちゃ増えとるやん!」
「冬ソナの甘デジで6万発出したらしい」
「伝説じゃん。どうすんの? その金」
「デリヘル呼ぶわ。最近Twitterで可愛い娘見つけ」
「あ」
アルトの頭を巨大な手が掴んだかと思うと、一瞬にして目の前から消えてしまった。
「キェェエエエエエ」
アルトの叫び声のしたほうを向くと、ちょうど落ちていくアルトの手と、パッソが見えた。マジかよ⋯⋯2人とも⋯⋯
「次は君です」
モウダメダー( ˙-˙ )
「よっこいしょっ」スカッ
「あれ?」
ん?
「すり抜ける!?」スカッスカッ
もしかしてエルグランド、幽霊!?
でもアルト投げ飛ばしたよな? じゃあアルトも幽霊だったのか⋯⋯?
「もしかして、幽霊⋯⋯?」
えっ俺?
「なわけ⋯⋯俺はれっきとした人げ⋯⋯あれ?」
俺、ここに来る前どこにいたっけ? 何してたっけ? あれ? 高校の初めての夏休みだから2人と⋯⋯
「俺は幽霊⋯⋯なのか?」
「幽霊でしょ。こんなすり抜ける子いませんでしたよ」
「確かに、言われてみれば俺だけあんまり会話に入れなかったし⋯⋯いやでもさっきパチンコの話したよな? 幽霊と当たり前に話してたってことになるぞアイツら」
「そういうことなんじゃないでしょうか」
「えっ」
「彼らは君に会えて嬉しかったんじゃないかな。だから普通に話してたんだと思います」
「だとしたら途中全然会話に入れなかったのはなんなんだよ」
「そこまでは知らん」
そうか⋯⋯そうだったのか。俺はもう⋯⋯
「カブ君⋯⋯」
悲しげな表情で俺を見るエルグランド。その後ろで鼻をほじる校長。
悲しげな目で幽霊の俺を⋯⋯
幽霊の⋯⋯
⋯⋯じゃあコイツら何!?!?
「お前らはなんなんだよ! この学校の校長と教頭の霊じゃないならただのヤバい人殺しじゃないか!」
「僕たちはこの学校の校長でも教頭でもないただのヤバい人殺しですけど?」
「マ?」
「マ。肝試しに来た子どもたちを殺して楽しんでます」
「ヤバ。ドン引くわ」
「なぁカブ、そろそろ帰ろうぜ」
「アルト!? いきなり現れたのはいいとして、生きてたの!?」
「いや、幽霊なう」
「そっか⋯⋯」
「帰ろーぜ」
「パッソは?」
「下でまだ苦しんでるよ」
「そっか⋯⋯」
「ま、俺たちのこと裏切ったんだからしゃーないな」
「なぁアルト」
「ん? なんだ?」
「俺っていつ死んだの?」
「そうか⋯⋯やっぱり覚えてないのか」
「うん、ごめん⋯⋯」
「謝ることないけどさ、なんというか、伝えづらいんだよな⋯⋯」
そんな酷い死に方だったのか⋯⋯? でも、ちゃんと聞いておかないと。
「覚悟は出来てる。教えてくれ」
「そうか。じゃあ話すぞ」
ごくり。
「お前、ユーチューバーだったじゃん」
「えっ、そうなの!?」
「うん。で、登録者2人記念に消しゴムの大食いやりますって言って」
えっ。俺そんなバカだったの?
「めちゃくちゃ消しゴム食って」
食ったんだ。
「食って食って食って」
そんなに?
「食って食って食って食って食って」
マジで?
「食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って食って」
次聞きたいな。
「それでも足りなくてお前、親の金に手をつけて消しゴム買ってきて」
えっ。
「食って食って食って食って食って」
もしかしてめちゃくちゃ美味しい⋯⋯?
「食って食って食って食って食って食って@yahoo.co.jp」
連打して変なとこ押したな。
「食って食って食って食って食って」
ユーチューバーってすげぇなぁ。
「首が回らなくなって自殺したんだよ」
死んだ理由お金なんだ。
「どうだ? 思い出したか?」
「いや全然。俺の食欲どうなってんだよ」
「こっちが聞きてえよ。オレもう罪悪感でどうにかなりそうだったんだからな」
「なんで?」
「オレが2人目の登録者だからだよ」
「それはごめん⋯⋯」
「そんじゃ帰るぞ」
「帰るって、どこに?」
「天」
「かっけぇ⋯⋯!」
こうして俺たちは天に帰った。
天国には綺麗なお姉さんがたくさんいて、濃厚なサービスを毎日提供してくれた。
来世はスタバ店員になりたいな。