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たのしい肝試し  作者: 死苔妖斎
3/6

3怪目 トイレの花子さん

「ハァハァ⋯⋯エレベーターとか無いのかよここ⋯⋯!」


「あるわけないだろ、廃校だぞ」


「廃校じゃなくてもないだろ。にしてもさすがにな⋯⋯真夏だからなぁ」


 よく大人が「高校生は体力が無限にあっていいよな」なんて言うが、全っ然そんなことない。普通にめっちゃ疲れるから。疲れるけど顧問が怖くて走ってるだけだから。


 それに今は真っ暗だ。懐中電灯で足元を照らしながら7階まで上るのはなかなか骨が折れる。


 7階に着くと、すぐ目の前にトイレがあった。


「女子トイレ行くぞ」


「いいのか?」


「女子トイレの、奥から7番目の個室のドアを7回ノックするらしいんだ」


「そんなに個室あるのかよ」


 入ってみると、個室は4つだった。


「おいパッソ、話が違うじゃねーか」


 びしょびしょズボンのアルトがフリチンで言った。ズボンとパンツを水道で洗って、廊下の窓に干してきたのだ。


「2周目ってことじゃないの? だから奥から3番目でいいんじゃない?」


「そんな適当でいいのかよ」


 アルトとパッソがよく喋ってるけど、なんというか、俺の入るタイミングがない。もしかしたら俺、この3人の中だと1番外側だったりする?


「さ、ノックするぞ」


「ああ」


 ゴクリ⋯⋯


「やっぱ怖いからアルトやって」


「はー」


 コンコンコンコンコンコンコン


「うるせぇ!!!!」


 中から野太い怒鳴り声が返ってきた。


「おいヤベーよ、花子さんじゃなくて誰か入ってたんだよ」


「誰かって、廃校の7階だぞ?」


「だってこの声、思いっきりおっさん⋯⋯あれ、でもここって、」


 ガチャ


 アルトが言い終える前にドアが開いた。


「うるせぇよ」


 中から出てきたのは、体格のいい50代後半くらいのおばさんだった。


「ふ〜っ」


 煙を吐くと、タバコを便器の中に投げ捨てた。


「あ、あの、どちら様で⋯⋯?」


「あぁん?」


 アルトを睨みつけるおばさん。


「花子だよ。お前が呼んだんだろ? てかお前、フリチンで女子トイレ入ってきてんじゃねーよ」


 確かにThe花子さんといった服装をしている。


「あ、すいません⋯⋯」


「ちっ、しょうがねーな。これ履けよ」


 そう言っておばさんはパンツを脱いでアルトに渡した。茶色いシミがついている。


「え」


「履けよ」


「さすがにそれは⋯⋯」


「死にてえのか?」


「履きます」


 そう言うとアルトは歯を食いしばりながら、静かに涙を流しながらパンツを履いた。


「なんかチクチクする⋯⋯」


「あ?」


「すいません、こっちの話です」


「こっちの話ってなんだよ。オレのパンツに文句があんならハッキリ言えよオラ」


 花子さん、一人称オレなんだ。


「え、えっと、あの、さっき丸呑みしたウニが胃の中でチクチクしてて⋯⋯」


「⋯⋯そうか。ならいいわ」


 よかった。


「ほんじゃ早いとこ済ませようか。さぁ、願いを言え」


「えっ、そういうタイプなんですか!?」


 急に元気になるアルト。それにしても、花子さんにそんな話あったか⋯⋯?


「お金持ちになりたいです!」


 安直! 正直! すげーアルトらしい!


「お前今いくら持ってる?」


「32000円くらいです」


 めっちゃ持ってるやん。


「じゃあとりあえず3万渡せ。増やしてきてやるから」


「ほんとですか!? やったぁ!」


 アルトはケツに挟んで持ち歩いていた財布から諭吉を3人取り出すと、すぐに花子さんに手渡した。


「じゃあ行ってくるわ」


「⋯⋯どこに?」


「行ってくるわ」


「あ、はい⋯⋯」


 花子さんはそのまま階段を下りていった。どこへ行ったのだろうか⋯⋯


「なぁパッソ、あの人なんなんだよ」


「ギャンブル中毒の花子さんだよ。7階のトイレの7個目の個室を7回ノックしたら出てきただろ?」


「え、じゃあ増やしてきてやるっていうのは⋯⋯」


「パチンコだろうな」


「そんな⋯⋯」


 絶対返って来ないじゃん。どうやって励まそうかな⋯⋯


「ま、まぁ、パンツは手に入ったわけだしさ⋯⋯」


「3万で変なババアのウンコついたパンツ買ったのかよオレ! カッコつけるために全財産持ってきたってのにクッソー!」


 余計にヘコんでしまった。


「次どこ行くー?」


「パッソお前アルトこんな状態なのにそんな⋯⋯! 元はといえばお前が花子さん行こうって言ったんじゃねーか!」


「でもあんな変なおばさんにいきなり3万渡すか? おれビックリしすぎて突っ込めなかったよ」


「まぁそれは俺もそうだけど」


「なんで本人の前でそんな話するんだよお前ら」


「で、次どこ行く?」


「鬼じゃん」


「パンツ脱いでいい?」


「ダメ。そういえばおれ、腹減ったわ。家庭科室行かね?」


「行ってどうするつもりだよ」


「ガムとかないかなと思って」


「あるわけないし、あったとしても腹の足しにはならないだろ」


「そうか⋯⋯あ、そうだ、缶詰あったら嬉しくない?」


「じゅるり」


 行くことになりました。

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― 新着の感想 ―
 相手がオバサンとはいえ女性の前で──では、巻き上げられても仕方ない?  しかし、「あんな花子さんはイヤだ!」を想像の斜め方向で上回っていました。  う~ん、面白い。
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