穴
「あの、シアさんこれ…ゴミになるかもしれないのですが…」
マロウは申し訳なさそうに私に紙でできた花のようなものを差し出した。
「弟たちが昨日のお礼に渡してくれと言いまして。」
私は受け取り、「素敵なものをありがとうございます。」と言った。
マロウは笑顔になり、「またいつでも遊びに来てくださいね。」と言って走っていった。
私は仕事に行く途中だったが部屋に戻り花を机に置いてきた。
「かわいいね!」アリはニコニコしていた。
(ほんと、いい子たち)
────
今日の城はなんだかざわざわしていた。
ネイチェルに聞くと、「近くにダンジョンがあったんだって。」と興味なさそうに教えてくれた。
「調査団を作ったらしいわ。」
鏡を見ながらため息をついていた。
きっとプロポーズのことを考えているのだろう。
ネイチェルが婿を複数から選んでいたことはイザトも知っている。
自分が選ばれたと薄々感じていても向こうからはなかなか聞きにくいことだろう。
このままイザトが動くのを待つか、自分から行くのか。
ネイチェルはそんなことを考えているのだろう。
(私はそろそろ屋敷に帰りたいのですが)
私がぼんやりとそんなことを考えているとドアを叩く音が聞こえた。
ミツが開けると兵士の男が立っていた。
「失礼いたします!私は騎士隊長のマイルと申します!」
マイルは大声で続けた。
「国王が調査団にシア殿にも参加してほしいとおっしゃいまして、お迎えにあがりました!」
と言った。
ネイチェルは飛び上がり、「なんでシアを連れて行くのよ!」と怒った。
マイルは困り、「国王の命令でございます…」と声は小さくなっていった。
「父上のところへ行くわ!」
ネイチェルはプンプンで国王のところへ来た。
「お父様!いったいどういうことなの?シアは私のメイドよ!!」
国王は、「シア殿は治癒魔法を使えると聞いたので…」と、娘に詰められておどおどしていた。
「他に使える者はいないの?!」
国王は下を向いて「おらん」と言った。
ネイチェルは絶句して私の方を向き、
「シアごめん。力になってくれる?」と聞いてきた。
私は「もちろんです。」と答えた。
国王は「助かります」と笑顔に戻った。
────
マイルは私に「馬に乗れるか?」と聞いた。
私は首を横に振った。
「では私の後ろに乗りたまえ。」と言って一緒に乗せてくれた。
馬はものすごいスピードで進み、私は振り落とされまいと隊長にしっかりとしがみついた。
20分ほど進むと地面に穴が開いていた。
(こんなところに…道から少しそれているけれど気がつかなかったら落ちてしまうかも)
「この穴を降りるとダンジョンらしいのです。」
確かにここはダンジョンだ。
私は炎魔法で中を照らしてみた。
穴は4m弱くらいの高さがあるようだった。
足を引っ掛けられるところもなく、垂直にストンとした造りになっている。
(落ちたら上がるのは大変そうだ)
調査団は全部で5人。
隊長は持ってきたハシゴを下ろした。
「短いね」
ハシゴは2mもなかった。
これだけあれば帰るとき上がってこれるだろう。
と、隊長は言った。
「私から降りてみます。」と言って騎士の一人が降りていった。
「見えるところに敵はいません!」と報告すると次々と降りていった。
私も身体強化をかけてから飛び降りた。
真っ暗な洞窟だった。
私は数個の炎魔法で調査団たちを囲った。
すぐそこに魔物の気配がする。
「魔物がいます!警戒してください。」
マイルを先頭に慎重に進んでいく。
狼のような魔物が飛びかかってきた。
マイルは見事な反射で返り討ちにしていた。
(この人強い)
進んでいくと人がいた形跡があった。
「落ちた人がいるみたいですね。」
調査団は地図を描きながらメモを取っていた。
「このダンジョンかなり広いです。」
私は探知でダンジョン内をザッと確認した。
「そして迷路のようになっています。単独行動は危険です。はぐれないように注意してください。」
私が言うとみんな頷いていた。
「ギャッ」短い声が聞こえたかと思うとすぐ後ろにいたはずの騎士が消えていた。
「カイトがいないぞ!」
調査団のみんなは消えたカイトを探したがどこにも姿がない。
私も気配探知をしたがこの辺りにはいないようだった。
『魔法陣があります』小声でルアンが教えてくれた。
壁に小さな魔法陣が描かれていた。
私はマイルに魔法陣を指差して言った。
「探知しにくい罠があるようです。カイトさんは魔法陣の転移魔法でどこかに飛ばされたようですね。」
マイルは魔法陣を見ながら言った。
「追いかけるぞ。」
私たちは無言で頷いた。
────
魔法陣で飛んだ先にカイトはいた。
「隊長!申し訳ありません!戻ろうにもどうしていいかわからず…」
マイルは返事もせずに目の前に広がる景色に目を奪われていた。
「ここは、なんだ…」
私たちは大きな森の中にいた。
まるでジャングルのようなその森には魔物がうじゃうじゃいるようだった。
戻れる魔法陣がないか探したがただ自然が広がるばかりだった。
「ここから出口を探すのか…」
調査団のみんなはため息をついた。
地図を描いていた人も書くのを諦めたようだ。
「ここがダンジョンである以上、出口は必ずあります。人の痕跡があったのですからもう少し調査をしましょう。」
私はマイルに言った。
マイルは「離れないように!慎重に進むぞ!」と言った。
みんなは「はい!」とやる気を取り戻した。
魔物を倒しながら進んでいく。
人の気配はない。
私も魔法を駆使して援護した。
ときどきケガをする団員をチュンと一緒に治療した。
道は平坦ではなく、丘になっていたり急に崖が現れたりした。
途中で人間の服の切れ端のようなものが落ちていた。
(間違いない 誰かいる)
私たちは声を出して探したが魔物が集まってきてしまい静かに進むことにした。
神経を張り巡らせて進むので団員たちは疲弊し始めた。
「少し休憩しよう」マイルは見通しのいい丘の上を選び火を起こそうとした。
私はそっと炎魔法で薪に火をつけた。
「シアさんの魔法は実用的なものが多くて羨ましいです。」
マイルは薪を足しながら笑顔でそう言った。
私たちは食事もとり少し元気を取り戻した。
私は回復魔法をみんなにかけた。
団員たちは「楽になった!すごいな!」と喜んでいた。
私は気配探知で少し遠くまで探してみた。
(誰かいる)
「ここから1kmくらい先に人間2人の気配があります。」
団員たちは「そんな遠くのことがなぜわかるんだ。」と怪しみだしたがマイルは「探知出来る魔法がある。シア殿はそれを使えるんだろう。」と言ってくれた。
団員たちはなるほどと頷いた。
(やっぱり人間はめんどくさいな)
私は気配の方へみんなを導いた。
途中で魔物が襲ってくる。
(こんなところに人がいるなんて)
いつからいるのかはわからないが、かなり熟練した人たちだろう。
気配が近くなった。
相手もこちらの存在に気がついたようで静かに身を隠したようだった。
私が近いですと言うと、
「城の調査団です!助けに来ました!」と叫んだ。
「私は隊長のマイルです。」
そう言うと木の影からボロボロの男女が出てきた。
私はすぐに駆け寄りチュンと一緒に回復魔法やらをかけた。
『薬草も』とチュンが言うのでバッグからとりだして口に入れた。
顔色の悪かった2人はすぐに血色いい顔に戻った。
痩せこけていたが命の危険はないようだ。
「ありがとうございます。」
彼らは数週間前にあの穴に落ちたという。
魔物を倒しながら食べられる植物を探しなんとか生き延びてきたらしい。
仕事で護衛していた馬車ごと落ちたらしく、乗っていた御者と商人とははぐれてしまったのだと言う。
私はもしかしてと思い、
「マロウの両親ではありませんか?」と聞いた。
「そうです!あの子たちは元気でしょうか?」と母親が私を掴んで聞いてきた。
「みんな元気でお二人のことを心配してますよ。」と笑顔で言った。
2人は泣いていた。
「みつかってよかったが、出口を探さないとな…」
マイルは辺りを見回して途方に暮れていた。
帰還アイテムは人数分しか持ってきていないという。
私は「この2人は私に任せて先に出口に向かってください。」と言った。
マイルは少し悩んで、「あなたを信じましょう。シア殿。」と言い、団員たちに帰還アイテムを使うように指示をした。
団員たちは消えていった。
私はマロウの両親に「これから瞬間移動をしますが私がそのスキルを使えるということは秘密にしていただけますか?」と聞いた。
2人は真剣な顔で頷いた。
私は穴の近くの木陰に2人を連れて瞬間移動した。
団員たちは穴から出てくるところだった。
私は上から登るのを手伝った。
「先に戻っているとは思いませんでした。」とマイルは笑った。
どうやって戻ったのか聞かれると思ったがマイルは何も聞かなかった。
私はマロウの両親を先に街まで連れて行ってほしいと頼んだ。
「シア殿はどうされると?」
「私は商人と御者を探してみます。」
マイルは「一人で…」と言いかけてやめた。
「シア殿なら一人でも大丈夫そうですな。無茶だけはしないでください。夜になるまでみつからなかったら戻ってください。また改めて調査団を派遣しましょう。」
私は頷いて穴の中に飛び込んだ。
マロウの両親はあの森には自分たちしか居なかったと言った。
考えられるのは1つだ。
商人と御者は洞窟のどこかにいる。
私は魔法陣に触れないように進んだ。
馬車の一部分のような木片が落ちていた。
しばらく進むと奥から煙があがっている。
「誰かいますか?」
私は人の気配を感じ話しかけた。
そこにはボロボロの2人の男がいた。
「助かった…」
年長者の男はそう言うと倒れてしまった。
「お父さん!」
若い方の男が倒れた男を揺さぶっている。
私はすぐに回復魔法をかけた。
お父さんと呼ばれた男はゆっくりと目を開けた。
2人も痩せこけていたが食料を渡すとモリモリ食べて元気そうだった。
出口に戻るまでの間、何があったのか話をしてくれた。
彼らはマロウの両親と一緒にあの穴に落ちてしまったのだと言う。
どうにか登ろうとしたが無理だったと言う。
しばらく人が通らないか待っていたようだが誰も通らなかった。
みんなは疲れてしまい他の出口を探すことにした。
幸いなことに積荷は食料だった。
それで食いつないでいたのだがマロウの両親は突然消えてしまったのだと言う。
魔物が出てくるので、夜になると馬車を壊して作った木材を少しずつ燃やして魔物を近寄らせないようにしていたと言う。
「馬車の木材もなくなる寸前でした。」
私はハシゴまで来ると先に登って上から2人を引っ張り上げた。
「歩けますか?」
2人に聞くと、「はい!」と元気よく答えた。
外はもう薄暗くなっていた。
向こうからは荷車を引いた馬が見えた。
「シア殿!ご無事で!」
マイルが叫んでいた。
「人が落ちないように囲いをしようと思いまして。」
マイルは親子を見て驚いていた。
「もう見つけたのですか!!」
2人はマイルにお辞儀をした。
4人で囲いをつけた。
「遭難者の方に手伝っていただいて申し訳ありません。」
マイルは恐縮して言ったが、
「シアさんに回復魔法をかけていただいたので元気です!」
息子の方が力こぶを見せて笑った。
私と親子は荷車に乗せてもらい街へ向かった。
真っ暗になっていたが足取りは軽かった。
街につくと、「後ほど調査団の者が話を聞きに伺うと思いますのでよろしくお願いします。」とマイルは言って親子と別れた。
私はそのまま荷車に乗って城まで戻った。
城につくとマロウが待っていた。
「シアさん!話を聞きました!」
マロウは私の両手を掴みブンブンと振った。
両親は家に戻り兄弟たちとの再会を喜んでいるらしい。
マロウも一度家に帰ったが2人の顔だけ見てまた城に戻ってきたと言う。
「マロウさんも早く帰りなよ。」
私が言うと、「はい!でもお礼が言いたくて!」
マロウはまた改めて、と言い走って帰っていった。
マイルは馬を厩舎に戻して来て私のところに来た。
「報告を一緒にしていただけますか?」
私たちは国王のところへ向かった。
────
報告はほとんどマイルがしてくれた。
「要救護者を発見したので帰還アイテムにて帰還いたしました。」と報告した。
私は続けて商人たちのことを報告した。
「洞窟の奥で救助が来るのを待っていたようです。」
とりあえず囲いをつけてきたことを報告した。
「早急に対処しないとまた行方不明者が出るかもしれません。」
国王はゆっくりと頷いた。
「明日ゆっくり対策を考えよう。シア殿も参加していただけるかな?」
私は頷いた。
「今日は疲れただろう。ゆっくり休んでくれ。」
────
私は部屋に戻った。
アリたちは「お腹空いたー!」とレンジで何かを温めて食べた。
私はマロウが気になって少し覗いてみた。
親子は食卓を囲み嬉しそうにスープを飲んでいた。
決して豪華な夕食ではなかったがそこには笑顔が溢れていた。
(いい家族だな)
私は純粋に羨ましかった。
もらった紙の花はまだそこできれいに咲いていた。
私は手に取り微笑んだ。




