休日
(そろそろ帰りたいのですが)
私はネイチェルの『イザト様の素晴らしさ』を聞かされていた。
フラーとミツはため息まじりに「素敵ですねぇ〜」と喜んだ。
ネイチェルが他の候補者の名前をあげないことからも考えてほぼ決定だろう。
私もあの人なら大丈夫だと思う。
私の仕事は終わった。
あとは帰るだけなのだが。
「ネイチェル様、お婿様が決まるまで手伝うようにと言われておりまして…」と言うと、
「もう少しいてよ!」とネイチェルに止められる。
私は帰りたくても帰られない状態にいた。
「今日は城下町に行くわよ!」
ネイチェルは私たちに「洋服を貸しなさい」と言った。
私も服を差し出したが、「シアのは小さいわね。」と返された。
私は自分とネイチェルの体を比べてみた。
(チッ)
フラーのワンピースに着替え、私たちもメイド服ではなく私服に着替えた。
「潜入調査よ!」
私たちは裏門から城を出た。
ネイチェルはイザトに感化されていて、自領を大事にするということを学んだようだ。
それがこの行動の源にあるのはわかるが…
ネイチェルは遠足にでも行くように楽しんでいた。
街につくといろんな店を見ては「これは何かしら?」とメイドたちを質問攻めにした。
アクセサリーを売ってる店に来ると、「これを買うわ!」とブレスレットを選んだ。
「銅貨15枚だよ。」
と言われ、ネイチェルは金貨を1枚出した。
「足りるかしら?」
店主は目を丸くした。
私はすぐに金貨をしまうように言い、銅貨15枚を自分の財布から出した。
「本物かと思ってたまげたぜ!」と店主は笑っていた。
ネイチェルは「本物なのに…」と不思議そうにしていた。
私はベンチにネイチェルを座らせ、世間の物価について説明した。
庶民は金貨なんて見たことがないと説明すると衝撃を受けていた。
「私はなんて無知なのかしら…」
その後も「これを食べる」「これを買う」と買い物を楽しんだ。
私の財布はどんどん軽くなっていった。
「シア、ごめんなさいね。城に戻ったら細かいお金を用意させるわ。」
と言いながら飴細工を買おうとしていた。
ネイチェルは両手にたくさんの荷物を抱えた。
フラーたちは「お持ちします!」と言ったが、自分で持ちたいのと言って聞かなかった。
「ネイチェル様、そろそろお時間です。」
ミツがそう言うとネイチェルは悲しそうな顔をした。
「楽しい時間が過ぎるのは早いわね…」
私たちは急いで城に戻った。
ネイチェルが部屋につくと講師の先生が待っていた。
「遅刻ですよ。」
ネイチェルは着替える間もなく講義を受けた。
(次期国王も大変ですな)
私はメイド服に着替えようと部屋に向かった。
途中でマロウに会った。
相変わらずマロウの気配はさっぱりわからなかった。
「シアさん珍しい格好ですね。」
マロウはにこやかに話しかけてきた。
「ちょっとわけありで…」
と言うと、マロウは頷いた。
「弟たちがシアさんに会いたいと言ってるのですが、お休みとかありますか?」
と聞かれ、自分に休みがなかったことに気がついた。
(完全なブラック企業だわ)
「休みをもらってぜひ遊びに行きます。」
と私はマロウに言い、すぐに着替えてネイチェルの部屋に戻った。
この講義が終わったら休みをもらおう。
ここに来てから2週間、1日も休んでいない。
フラーやミツはいない日があった。
きっとそれが休みだ。
私だけ休みをもらってないじゃないか。
私はネイチェルを睨みつけた。
メイドの仕事じゃない魔法を教えたりもしているのに…
ネイチェルは私に気がついて首を傾げていた。
講師が部屋から出ていくと、
「シア、なぜ怒っているの?」と聞いてきた。
私は休みがないことをネイチェルに言った。
ネイチェルは笑って、「シアがいないとつまらないもの!」と言った。
「ごめんなさいね。いつでもお休みを取っていいのよ。」と言うので、「では明日はお休みさせていただきます。」と言った。
ネイチェルは「明日はイザト様が来るからいてほしかったのに…」と悲しげに言った。
「イザト様がいらっしゃるなら余計私は不要でしょう。」
と私は言った。
ネイチェルは頬を赤らめた。
「明日はゆっくり休んでちょうだい。」
────
私はマロウを探し、明日家に行くと伝えた。
マロウは急でびっくりしていたが「私も休みなのでちょうどいいです。」と言ってくれた。
私は家の場所をメモして「では明日」と言って仕事に戻った。
(休みを勝ち取ったぞ!)
────
私はマロウの兄弟へのお土産をバッグに詰めていた。
昨日の夜にカリナのところへ行ってお菓子をもらって来ていた。
「きっと喜ぶね!」とアリが嬉しそうに言った。
アリもカリナにたくさんお菓子をもらっていて上機嫌だった。
私はネイチェルに捕まる前に…と早めに城を出た。
街の店も見てお昼ご飯になりそうなものを買っていこう。
私はカフェのような店でサンドイッチを持ち帰り用に作ってもらった。
5人分は結構な量になって両手に荷物の状態になった。
マロウの家までヨロヨロしながら進んだ。
家の前についたが両手が塞がっていてノックができなかった。
私は「こんにちは!シアです!」とドアの前で叫んだ。
すぐにドアが開いて兄弟たちが出てきた。
「シアさん久しぶり!いらっしゃい!」
すぐに荷物を運ぶのを手伝ってくれた。
マロウは苦笑いして「何をこんなに持ってきたんですか。」と言った。
私は「張りきりすぎてしまいました。」と、ちょっと反省した。
「この子は次男のサス、そしてロンダとノックです。」
「はじめましてサス、シアです。」
サスは照れながら挨拶をしてくれた。
兄弟たちは私の腕を引っ張り、自分たちの大切なものを見せてくれたり、兄弟たちのおもしろい話などを聞かせてくれた。
マロウが「いい加減にしてお茶でも飲んでもらおう。」と言い、テーブルに案内してくれた。
「こんなものしかありませんが。」と熱々のお茶を出してくれた。
私は持ってきたお土産を次々と出した。
「これ全部、国から持ってきたのですか?!」
私は出してからハッと思った。
さすがに昨日の夜に取りに行ったとは言えない。
「そんな感じです。」と濁して答えた。
兄弟たちは見たことのないお菓子に大興奮だった。
「食べてもいいの?」と、ロンダは不安そうな顔をして聞いてきた。
「美味しいかはわからないけど、せっかく持ってきたから食べてもらいたいな。」
と私が言うと、「ありがとう!」と笑った。
「お昼ご飯を食べてからね!」
私はそう言ってサンドイッチを出した。
兄弟たちは喜んだ。
「お兄ちゃん!パンに何か挟まってるよ!」
マロウは「こんなにたくさんありがとうございます。」と恐縮していた。
食べながら両親のことを話してくれた。
マロウの両親は2人とも傭兵の仕事をしていたと言う。
1ヶ月ほど前、街の商人に頼まれて荷物の護衛の仕事をしたという。
近くの街までだったのだが、それから2人は帰ってこなかったのだという。
死体があったわけでもなく、その商人も消えてしまったので最初は行方不明だと思って探したが見つからず、今はもう諦めていると言った。
(遺体もみつかっていないのか)
兄弟たちは楽しそうにお菓子を食べていた。
「マロウさんはいいお父さんでいいお母さんですね。」
私がそう言うと笑っていた。
「そうだといいのですが。」
お茶を飲んでいると突然マロウの家のドアを誰かが叩いた。
「シアさん!いるんでしょ?」
マロウはびっくりしてドアを開けた。
「ごめん…なさ、すぐ来て…」
ドアの前にはミツが青い顔をして息を切らせていた。
「ごめんなさい、お邪魔しました。」
私はただ事じゃないと思いすぐに城へ戻った。
城の中は騒然としていた。
人が取り囲んでいたのはイザトだった。
急に倒れたという。
ネイチェルは泣きながら、
「聖女様の弟子なら治せるでしょ!」と叫んだ。
私はイザトの様子を確かめた。
チュンが「これなら治せるわ。」と言ってキラキラをかけてくれた。
私も治癒魔法をかけた。
イザトは目を覚ました。
キョロキョロしている。
ネイチェルは抱きついた。
そして泣いた。
「兄からもらった水を飲んだだけなのですが。」
私は水を鑑定した。
水には毒が含まれていた。
私は少し悩んでそのことを言うのをやめた。
「そのお水はちょっと古かったのかもしれませんね。」
とだけ言った。
ネイチェルはイザトを部屋に連れていき、長椅子に横にならせた。
「もう大丈夫ですよ。」とイザトは笑顔で言ったが、「ダメ!もう少し休んで!」と隣にピッタリと寄り添った。
イザトの毒はすっかり抜けているし私は2人を部屋に残して出てきた。
(しかしあの兄め!こんなことをするなんて…)
私は呪いを思い出し、今の兄の状況を確かめた。
兄は顔はアザだらけで足は包帯でぐるぐる巻きにされて吊られていた。
どうやら骨折でもしたのだろう。
(生きてただけよかったね)
これに懲りてくれたらいいけど。
私はまた近くにいた虫に憑依して兄のところへ行った。
「また何かしたら次は命がないと思え!」
私は虫の姿で叫んできた。
兄は悲鳴をあげていた。
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ネイチェルとイザトは部屋で過ごしていた。
夕方になり、「帰らないといけない」とイザトに言われ、ネイチェルは駄々をこねていた。
私はみかねて、「イザト様はもうすっかり元気なはずです。また来てもらいましょう。」と言った。
イザトも「すぐにまた遊びに来ますよ。」と言った。
ネイチェルは渋々イザトを見送った。
イザトは手を振り馬を走らせて行った。
ネイチェルは私を睨みつけた。
(余計なことを言ったかな)
「イザト様を助けてくれてありがとう。」
抱きついてきてネイチェルは泣いた。
「あなたがいなかったら今頃…」
私は「間に合ってよかったです。」と言った。
そして「結婚はいつ決まりますか?」と聞いた。
ネイチェルは私から離れ、「そんな、どうしましょう。」と急に恥ずかしがった。
「女からプロポーズしてもいいのかしら?」と聞いてきた。
私は「そんなものに男も女も関係ないですよ。」と言った。
(この世界のことは知らんけど)
ネイチェルは微笑んで「そうね。」
と言った。
何かを覚悟した目になった。
私は確信した。
近いうちに屋敷に戻れると。
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