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舞踏会が終わった。

翌朝、候補者たちは従者を引き連れて帰っていった。


私はもっと候補者を吟味したかったのだがメイドの仕事に追われそれどころではなかった。

ネイチェルの様子をみると黒髪メガネのヘンリがお気に入りのようだった。

彼が一番積極的で一番社交的だった。


(悪魔にもらった指輪を持ってくればよかった)

私は以前薬屋をやるときにもらった悪意を感じると色が変わる指輪を置いてきてしまった。

というか、屋敷に戻るとすぐに外して部屋の宝箱に入れてしまった。


候補者たちに近寄るチャンスはもうほとんどないかもしれない。

あとは遠視で様子を見るくらいか。


私は難しい顔をしていたのだろう。

「シア、どうしたの?」

と、ネイチェルに聞かれてしまった。


「申し訳ありません。少し考え事をしていました。」

私は笑顔で答えた。


城は舞踏会の片付けでまだバタバタしていた。

「今日はあなたたちもゆっくりして。」

と言ってネイチェルは自室で本を読みだした。

「ありがとうございます。」


フラーは「交代で休憩を取りましょ。」と言ってミツに休むように言った。

私はネイチェルのためにお茶の準備をした。

チュンが疲れてるときには甘い物と言っていたので、紅茶の横に蜂蜜を用意した。

屋敷から持ってきていたものだ。


この世界では蜂に似た魔物はいるがミツバチはいないようだった。

私はハピリナに養蜂場を作っていた。

ヤゲンは興味深く蜂の世話をしてくれた。

ミツバチのおかげで果樹園も実り多くなった。

(ミツバチがいないと受粉は運任せみたいなものだよな)


ネイチェルにお茶を出すと「これは何?」と聞かれた。

「私の大陸で取れる花の蜜でございます。お茶に入れると甘くて美味しいですよ。」

ネイチェルは匂いを嗅いでお茶に混ぜた。


「これは砂糖とはまた違う。確かに花の香りがするようですね。」

ネイチェルは喜んで残りの蜂蜜もなめた。

「世界は広いのですね。」

ネイチェルは少し悲しげな顔をした。


「シアは北の大陸にも行ったことがあると聞きました。」

(ガオルの件かな)


私は当たり障りのない話をネイチェルに聞かせた。

彼女は話を聞きながら一喜一憂して私を質問攻めにした。

「私もいつか旅をしてみたいわね。」

ネイチェルは窓の外を眺めた。


この国の一人娘として生まれ、いろんなプレッシャーを受けながら育ってきたのだろう。

知識や作法などを小さい頃から叩き込まれ、自由もそんなになかったのかもしれない。


「ねぇシア、私に何か魔法を教えてくれないかしら?」

ネイチェルは急に私の方を振り向きそう言った。


「魔法ですか…」

魔法は多少の素質がないとまったく発動しない。

鑑定してみたがネイチェルにはその要素がほとんどみられない。


「私に素質がないのは知ってるわ!でも何か1つくらいできることはないかしら?」

「お庭に行きましょうか。」

私はとりあえずやってみることにした。


────


「ネイチェル様はどんな魔法を使いたいと思いますか?」

ネイチェルはちょっと考えて、

「いざとなったら使える攻撃系の魔法がいいわ。」

と言った。


「私は攻撃系の魔法はそれほど得意ではないのですが…」と言って炎魔法と風魔法を見せた。

ネイチェルはたいそう喜んで、「私もやってみたいわ!」と言った。


「魔法で1番大事なのはイメージです。」

そこまで言って私はネイチェルが杖も持っていないことに気がついた。


私は近くにあった木から枝を折ってきた。

枝に(力を貸して)と念じた。

私はそれをネイチェルに渡した。

「こんな枝でもいいの?」

「確かに職人が作った杖には魔力が込められているでしょう。ですがまずは威力より適正があるかどうかみましょう。枝で十分かと思いますよ。」

私はネイチェルに向かって微笑んだ。

「わかったわ。」

ネイチェルは真剣な表情で枝を受け取った。


私は一本の木に向かい、「この木に何かをあてるイメージをしてみてください。」と言った。


「わかったわ。まずは炎を試してみるわね。」

ネイチェルは目をつぶり集中しているようだった。


枝の先に小さな炎がついてすぐに消えた。

「やったわ!シア!!見た?今、炎が出たわよ!」

私はキリナの村で出会った子供たちを思い出した。

彼らも小さな成功で喜んでいたっけ。


「ネイチェル様、すごいです!他の属性もおためしください。」

ネイチェルは続けて風魔法を試したが発動しなかった。

「土魔法はどうかしら?」

私は土属性が使えないので「地面が盛り上がるようなイメージでしょうかね?」とネイチェルに言った。


ネイチェルは地面に枝を向けた。

土はポコッと盛り上がった。

「やったわ!土が!!」

私も驚いた。

人間たちの中では属性を複数持つ人は少ないと聞いていたからである。

ネイチェルは続けて水魔法を試すと言った。

「水の性質をよくイメージしてみてください。」

ネイチェルはまた集中して枝を木に向けた。

水鉄砲のように水がぴゅーっと出た。

「シア!私、すごいわよね?」

私は大きく頷いた。

見ていたフラーも驚いている。

「ネイチェル様、無詠唱で魔法を出されるとは!素晴らしいです!」


私はすっかり忘れていた。

この世界には呪文というものがあるということを。


「ネイチェル様、申し訳ありません。私はいつも無詠唱で魔法を発動しておりまして…呪文は1つも知りません。」

私は申し訳なさそうに頭を下げた。


ネイチェルは笑って、「今までいくつもの呪文を唱えてきたわ。魔法使いに習ってね。でも一切発動しなかったのよ!」少し興奮しながらネイチェルは話した。

「それなのにあなたに言われたとおりやったらこれよ!すごいわ!」


ネイチェルはとても嬉しそうだった。

「ネイチェル様は水との相性が良さそうですね。」

私がニッコリそう言うと、「私もそんな気がするわ!」と言った。


私は花壇に向けて雨を降らせた。

「応用すればこのようなことも可能です。」

ネイチェルは目を輝かせて花壇に虹ができるのを眺めた。


ミツが走ってやってきて、

「ネイチェル様、公務の勉強のお時間です。」と言った。

ネイチェルは不満そうにミツについて行った。

「シア、また時間のあるときに教えてね!」

私は「はい」と頷いた。


────


私は休憩するように言われて詰所に来ていた。

片付けに追われる他の役職の従者たちもいた。


私がぼーっとしていると後ろから肩を叩かれた。

(また気配がしなかった)


振り向くとマロウがいた。

(やっぱり)


マロウは恥ずかしそうに私の隣に座り、

「弟たちが世話になったようで。」

と言った。


私は「助けられたのは私です。」と言った。

あの日あげたクッキーは家族みんなで少しずつ食べたのだという。

本当に仲良しの家族のようだ。

「私一人で兄弟の面倒をみるのはなかなか大変でして。」

マロウはニコニコしながら兄弟たちの話を聞かせてくれた。

「すみません!自分の家族の話なんて興味ないですよね!」と我に帰ったように謝った。

私は「そんなことないです!仲良しの家族で羨ましいです。」と微笑んだ。

マロウは安心したようで、

「時々古くなったパンや食材を持ち出していることはどうぞ内密にお願いします。」と小声で言った。

「捨てられるよりよっぽどいいと思いますよ。」と私も小声で言った。

マロウはニッコリして、「では仕事に戻ります。」と軽くお辞儀をしていなくなった。

(家族を大事にするいい人だ)


────


私は暇をみつけては候補者たちの動向を探った。

特に悪巧みをしているような人はいなかった。


キグナスは意中の相手がいると言っていたので確認してみると一人の従者に恋をしているようだった。

(身分の差はあるけど…)

私はキグナスの情熱を信じて候補者から外した。

(うまくいくといいね)


テトは魔法の訓練に時間を費やしていた。

そこそこの素質があるようで、魔物退治の実戦訓練もしていた。

(悪くない)


カヤクは剣技の修練に重きを置いているようだった。

年配の従者相手に指導を受けていた。

(剣技だけなら私よりかなり上だな)


イザトは領地をまわり、困っている街の人たちを助けていた。

慕われているようでたくさんの人たちから声をかけられていた。

(人柄は申し分ないな)


ヘンリは、と言うと、地下室のような場所で水晶を眺めていた。

(嫌な予感がする)


ブツブツと何かを唱え、水晶に手をかざしていた。

城に来たときのような爽やかな表情は全くなく、不気味なニタニタ笑いをしていた。

(この表情…)


私の元の世界での姿にそっくりだった。

きっと何かを呪っているに違いない。

私はもっと探ろうとしたがニーノに呼ばれてしまった。

「ちょっと手伝って。」

私はニーノについてネイチェルの部屋に来た。


部屋の中がビショビショである。

ネイチェルはエヘヘと笑った。


「部屋の中で魔法を使いましたね?」

私が怖い顔を見せると、「我慢できなくて。」と笑った。


私たちは濡れた床や家具を拭き取った。

私は水を蒸発させた。

「それは何?」と聞かれ困った。

(なんだろう?物質変換?炎魔法?まさか呪詛の類?)

「おそらく炎魔法の応用です。」

私は無難な回答をしておいた。


「使いこなせると便利ね!」

ネイチェルは目を輝かせた。

「魔法の練習は外の広いところでお願いします。」

私は軽く睨みつけた。

「はーい!先生!」

ネイチェルはおどけて笑った。

(憎めないところのある姫様だな)


しかし今日始めたばかりにしてはかなりの量の水を出せたようだ。

もしかしたら本当に素質があるのかもしれない。

「ネイチェル様、本気でやるのでしたら杖をご用意してはどうでしょうか?」

ニーノがそう言うと、

「そうね!明日杖職人を呼びましょう!」

と言った。

(買いにいくという発想はないのね)


────


翌日、杖をたくさん持った職人がやってきた。

「姫様ご機嫌麗しゅうございます。」

面識があるようだった。

「今日は私に使える杖はあるかしら?」

何度か試したような口ぶりだった。


「本日は新作を多めにお持ちしました。」

杖職人はテーブルに何本も杖を出した。


「こちらはダンジョンでみつかりました。」

と、次々と説明してネイチェルに持たせた。


「庭に移動しましょうか。」

また部屋を水浸しにされては困る。


────


ネイチェルは杖職人のオススメの杖を何本も試した。

同じようにやっているはずなのに全く何も出てこない。

「呪文を唱えてみてはどうでしょう?」

ニーノは魔導書らしきものをネイチェルにみせた。


ネイチェルは一生懸命詠唱していたが変わりなかった。


ガッカリした顔になった。

杖職人は焦って「またいい品が入り次第お持ちいたします!」と言った。

ネイチェルは「もういいわ。」と言って枝を取り出した。

杖職人は「そんな太くて不格好な枝で…」と言いかけてやめた。

ネイチェルは昨日よりも数段威力のある水魔法を見せた。


私たちはびっくりして言葉が出なかった。

「私には枝で十分みたい。」

ネイチェルはそう言って笑った。


杖職人はペコペコと頭を下げていなくなった。

私たちはそのままネイチェルの魔法の特訓につき合わされた。


「確かに太くて重くて腕が疲れるわね。」

(木からポキッと折っただけですから)


私はネイチェルに少し時間をくれと言って枝を預かった。

私は部屋に戻り、ルアンに相談した。

「ネイチェルにふさわしい杖にしてあげたいんだよね。」

ルアンは目を輝かせて杖のデザインを考えてくれた。

見事に描かれた杖の姿になるようにと枝に念じた。

枝はシュルシュルと削られていった。


「素敵じゃない!」

チュンも褒めてくれた。

「仕上げは私に任せて!」

チュンは杖にキラキラをかけた。

持手が白色になり、全体的にキラキラと輝いた。

「でもそのへんに生えてた木の枝なんでしょ?すぐ折れない?」とアリが聞いてきた。

(確かに)


私は(お前は強い 簡単には折れない ネイチェルの言うことをよく聞くいい子だ)と呪いをかけた。

「多分大丈夫でしょ!」

私はネイチェルのところに向かった。


ネイチェルは部屋で何かの講義を受けていた。

私は静かに部屋に入り終わるのを待とうとした。


ネイチェルは私に気がつき、「もうできたの?!」と駆け寄ってきた。

講師の男に「ネイチェル様!」と怒られたが聞いていなかった。

私は「終わられてからにされては?」と言ったが「早く見せて!」と言うので渡した。


ネイチェルは杖をまじまじと見ていた。

(枝のままの方が好きだったのかな)


私の方を向き、

「一生大事にするわ!」

と涙ぐんでいた。

(ただの枝だから壊れるかも)


ネイチェルが部屋を飛び出そうとしたのでニーノは通せんぼをした。

「お庭に行くのはこれが終わってからです。」

講師の男も「さぁ、再開しますよ。」と言った。

ネイチェルは渋々と椅子に戻った。

『後でね!』

と私に目配せをした。

私はニッコリ頷いた。


────


ネイチェルは講義が終わると私の手を引っ張り庭に出た。


「試すわよ!」

ネイチェルは花壇に向けて杖を構えた。


そこには見事に雨が降った。

細かい霧のような雨は太陽の光を浴びてキラキラと光った。

そして美しい虹が現れた。


メイドたちは呆然とその景色を見ていた。

私もびっくりした。

(飲み込みが早すぎるじゃないか)


ネイチェルは飛び上がって喜んでいた。

そして私に飛びついてきた。

私をギュッと抱きしめて「こんなに嬉しいことはないわ!ありがとう!」と言った。

私は「ネイチェル様は素晴らしい素質をお持ちのようですね。」と言った。


ネイチェルはとうとう泣きだしてしまった。

「小さい頃からいくら勉強しても、いくら練習しても全然だめだったのに…」


ネイチェルはニーノに「あの木は特別かもしれない。」と言った。

ニーノにあの木を切られないように…と何かを命令していた。

ニーノは走っていった。


(本当に特別な木なのかもね)


(いや、普通の木にしか見えないけど)


────


それからその木は立派な囲いがつけられた。

「後世まで大事にするわ!」

ネイチェルはそれを見て満足そうだった。

(まぁいいか)


ネイチェルはニーノに睨まれながら暇があると私を庭へ連れてきた。

いつの間にか完璧に水を操られるようになっていた。

(魔法を教えるために来たんじゃないのにな)


私も時間をみつけては候補者たちを監視した。

みんな相変わらずの生活で特に目立った行為もみられなかった。


ヘンリの観察を続けると水晶に向かっていたのは、

「あの男、許さん。腹を下してしまえ。」

などと水晶に向かってブツブツと言っていた。

(懐かしいなぁ)

私は思わずニッコリしてしまった。

いつかの私を見ているようだった。


ヘンリも「しね!」とか「ころす!」とか過激なことは言わないタイプのようだ。

(これならほっといても大丈夫かな)

鑑定しても『呪詛』タイプのスキルは一つもなかった。

趣味でやっているだけのようだ。


────


ネイチェルは魔法を楽しんでいた。


(ちょっとかわいいな)


虹を作り笑っているネイチェルは美しかった。


────

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