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舞踏会

キグナスは地方の領主の三男だった。

ネイチェルの国は中央と呼ばれ、この大陸では1番偉い人の娘になる。


客人は謁見の間で王と王妃に挨拶をする。

その時にネイチェルが呼ばれ「うちの娘です。」と会わせるのが通例になっているようだった。


その挨拶の儀式を終えてキグナスは客室に案内されていた。

夕食までゆっくり過ごすようにと王に言われていた。

2間続きになっていて手前の部屋で従者が寝泊まりをするらしい。

(貴族も大変ね)


ネイチェルはキグナスを気に入ったようだった。

確かに見た目はかなりいい。

しかしニコッとも笑わず無愛想な男だった。


私はネイチェルが爪のお手入れをされている間にキグナスを遠視で観察することにした。


────


「頭の悪そうな姫だったな…」

キグナスはため息まじりに従者に向かって話をしていた。

「一人娘ですから甘やかされて育ったのでしょうね。」

お付きの男とは親しいような会話だった。

「父上がどうしてもと言うから来てみたが…時間の無駄だな。」

「ダンスの練習だと思って辛抱してくださいね。」

2人はクスクスと笑っていた。


(こいつはダメだな)


────


ネイチェルは上機嫌だった。

あと4人も来るのにこの調子で大丈夫なんだろうか。


夕食のときもニコリともしなかったが王の質問には卒なく答えていた。

ネイチェルは舞い上がってしまったようでぼんやりとキグナスを眺めていた。


2人はほとんど会話もなくキグナスは部屋へと帰っていった。


「ステキよねぇ!キグナス様!」

フラーは「はい!とても素敵なお方ですね!」と姫と同じ目をしていた。

ミツはそれには同調せずに淡々と仕事をしていた。

(ミツの方が男を見る目がありそうだ)


「明日はヘンリ様とテト様がおいでになります。」

ミツがネイチェルの髪の毛をとかしながら明日来る二人について説明していた。

(明日はもっとマシなやつが来るといいな)


ネイチェルは明日に備えて早く寝ると言ったのでメイドたちも早めに解放された。

アリが『お腹空いた!!』と小声でもうるさくするので助かった。

私は急いで自室に向かった。


曲がり角で一人の従者とぶつかってしまった。

「ごめんなさい!」

私は気がつかなかったことにびっくりした。

(この人、気配を消している)


「こちらこそ気がつきませんで申し訳ない。」

いつも執事の後ろで雑務をしている男だった。

「シアさんでしたよね。私はマロウと言います。お見知りおきを。」と言ってニコッと笑った。

私は「どうも」とだけ言ってその場を去った。

(何者?)


気配を消していてもわかる。

彼はかなりできる人だ。

まったく隙がなかった。


私は自室に戻りさっきの男を遠視で探した。

執事に指示されて大広間の飾りつけをしていた。

(特に怪しいことはしていないか)


しかしさっきの笑顔が気になる。

わざと私にぶつかったのではないかとも思えてきた。

(暇なときにまた観察しよう)


アリと妖精たちは冷蔵庫から食べ物を出していた。

「シア!電子レンジもほしい!」

炎魔法で温めてやろうかとも思ったが面倒なので電子レンジも出して冷蔵庫の上に置いてやった。

念のため家電には(人間には見えない)と念じておこう。


私は寝る準備をしてベッドに入った。

ここの風呂は狭くて混んでいて入った気がしない。

屋敷が懐かしい。


寝るまでの間、さっきのマロウという男を観察した。

遅くまで指示された仕事をしていた。

終わると城を出ていった。

城外から通っている者も多いと聞いていた。


暗い道を一人歩いていた。

街の大通りから中に少し入った薄暗い道にある粗末な建物に入っていった。

中には子供たちが待っていた。

「お兄ちゃんおかえりなさい!」

「遅くなってごめんよ。」とマロウは言って、懐からパンや干し肉を取り出した。

10歳くらいの男の子とそれよりちょっと小さい女の子、5歳くらいの男の子の3人は「いただきます!」と言って美味しそうに食べている。

(このパン、城からくすねてきたのか?)


見た感じ両親はいないようだった。

このマロウという男も20歳になってるかどうかというところだろう。

(案外苦労してるんだな)


私は疑うようなことをして申し訳なく思った。

きっと兄弟のために働くいい兄なんだろう。


私は寝ることにした。

明日は婿候補が2人も来る。


────


翌日、ネイチェルはキグナスをお茶に誘っていた。

いつもの庭で2人は向かい合っていた。

キグナスは今日もニコリとも笑わない。

ネイチェルは恥ずかしそうにしているだけで会話は弾んでいないようだ。

キグナスはあっという間にお茶を飲み干して立ち去った。

(こんなやつ絶対いやだろ)


それから間もなくしてテト様の馬車がついた。

ここから南の海沿いの領地を治める領主の次男だそうだ。

フラーが到着を知らせるとネイチェルは謁見の間に向かった。


テト様は小柄で童顔なタイプだった。

緊張してギクシャクしていたがキグナスよりは好感がもてる。

年齢はネイチェルと同じ18歳だということだ。

年よりも若く見える。


ネイチェルは自室に戻り化粧を直していた。

「テト様はかわいいタイプね!母系本能がくすぐられるわぁ〜」

こちらもなかなか好感触のようだ。

私は遠視でテトを観察してみた。


────


「緊張したー!もう、疲れちゃったよ。」

テトは従者の女の子にブツブツ文句を言っていた。

「テト様!来たばかりではありませんか!ご夕食には他国のご子息もいらっしゃるそうですよ。しっかりしてくださいね。」

「わかってるよ!国の代表としてがんばりまーす。」

(ちょっと頼りないな)


────


すぐにもう一人の候補のヘンリ様が到着した。

今回の1番年長者で25歳だという。

黒髪にメガネで落ち着いた雰囲気の男だった。


通例の挨拶を済ませるとすぐに夕食の時間になった。

今日は王と王妃と姫、そして三人の婿候補が一同に集まる。

(こういうとき婿候補同士って気まずくないのかな)


私の心配をよそに昨日よりも和やかな雰囲気で会話も弾んでいた。

ヘンリはとても頭のきれる男のようで会話のセンスもよかった。

他の候補にも気を使えてうまく場を回しているようにみえた。

(この中では1番だな)


ネイチェルもヘンリに褒められて嬉しそうにしていた。

私は(ヘンリがんばれ)の気持ちになっている。


明日はもう2人も到着して5人が揃うことになる。

(荒れなければいいけど)


食後にヘンリは「ネイチェル様、少しお話しませんか?」と誘っていた。

ネイチェルは頬を赤らめ楽しそうに会話をしていた。

私はヘンリに怪しいところがないか慎重に調べた。


部屋に戻ったヘンリはすぐに寝てしまった。

お付きの従者もおしゃべりなタイプではなかった。

(要観察だな)


────


ネイチェルは今のところヘンリ推しのようだった。

ミツもそれには賛成なようで心なしか機嫌がいい。

「明日はカヤク様とイザト様がいらっしゃいます。」

と、お決まりの情報を話して聞かせていた。


それを聞くと、「なんだか疲れたわ」と言ってすぐに寝てしまった。

連日の接待は大変なんだろう。


私は休むように言われて自室へと向かった。

ちょうど詰所からマロウが出てきた。

手にはパンを持っていた。

目が合ってしまった。


マロウは気まずそうにしている。

「見た目によらず大食いなんですね。」と、私は微笑んだ。

きっとまた兄弟のために持っていくんだろう。

マロウは、「ありがとうございます。」と言って裏門の方へ歩いていった。

私が気がついていることはバレたようだった。

(やはりマロウはできるやつだ)


────


翌朝、私はネイチェルにおつかいを頼まれた。

注文していた香水を取りに貴族御用達の道具屋のような店に向かった。

私は地図を見ながら店を探した。

フラーの描いた地図はとてもわかりにくい。

私がキョロキョロしていると一人の少年が話しかけてきた。

「お姉さん迷子?」

と言ってニコッと笑った。

マロウの1番下の弟だった。

私は地図を見せて「ここに行きたいんだけどね。」と言った。

「この地図なんか変だね。そのお店はあっちだよ!」と私が探していた場所と反対方向を指差した。

見ると確かにそこにあった。

私はお礼だよと言ってカバンからアリのおやつ用のクッキーを渡した。

アリは怒るかと思ったが「かわいい子だね!」とニコニコしていた。

「いい子だったね。」と私も言った。


店はまだ開いていなかった。

ドアを叩いてみたが返事はない。

私はしかたなく店の前で待っていた。


さっきの子がお姉ちゃんを連れてやってきた。

「お姉さんごめんなさい。このお菓子を僕にくれたって姉に証明してください。」

そう言われて私は首を傾げた。

「そのお菓子は私があげました。」と言った。

お姉ちゃんは「こんな立派なお菓子見たことなかったから…どこかで盗んできたかと思ったの。ごめんなさい。」と謝った。

弟は「知らない人から食べ物をもらってごめんなさい。」と言った。

2人してなんだか落ち込んでしまった。


「私はシアよ!お城で働いているの。ほら、これで知ってる人になったわよ。」と言った。

2人はニコッと笑って「私はロンダ、弟はノックです!」と教えてくれた。

「うちのお兄ちゃんもお城で働いているよ!マロウって名前だよ!」と、弟は嬉しそうに話してくれた。

私は「その人のことなら知ってるよ。」と2人に言った。

「うちの兄がお世話になってます。」とロンダはペコリと頭を下げた。

私はそれがかわいくてクスっと笑ってしまった。

2人もクスクスと笑いだした。


お店から人の声が聞こえた。

私は2人に「またね」と言って店に入った。

「またね!シアさん!」と元気な声が聞こえた。


────


私がおつかいを終えると残りの2人の候補者が相次いで到着した。

ネイチェルもバタバタと忙しそうだった。

私たちメイドも忙しくついて回った。


カヤク様とイザト様は知り合いのようだった。

到着して顔を合わせると笑顔で挨拶をしていた。

「カヤク殿、お久しぶりです。」

「イザト殿!こんなところでお会いするとは!」

2人は似た感じの剣士というイメージの男たちだった。

気さくで話しやすく、従者たちにも優しかった。

「舞踏会の準備が整い次第お迎えにあがります。」

と言われ、2人は各自の部屋に入っていった。


私は2人の様子をみたかったが、ネイチェルがバタバタしていてそれも無理だった。


「髪型が気に入らないわ!」

ネイチェルは結ってもらった髪の毛をグチャグチャにしてイライラしていた。

メイドたちは困り顔をしていた。

チュンが出てきて『私に任せて』と言った。

私は心配だったので『ルアンもお願い』と言った。


「ネイチェル様、私が試してみてもよろしいでしょうか?」

ネイチェルはやってみなさいよ!と言ってブラシを渡してきた。

『やってるふりしてね』と言われ、髪の毛を触った。

チュンが指示を出してルアンが風魔法を器用に使ってセットした。

最後にチュンがキラキラをかけるととても美しい姿になった。

メイドたちも「ステキです!」と言ってくれた。

ネイチェルは「さすがね。」と気に入ってくれたようだった。

赤いドレスに着替えたネイチェルはとても美しかった。


────


舞踏会には近隣の貴族たちが大勢集まっていた。

独身の娘もたくさん来ていて婿候補たちを羨望の眼差しで見ていた。

優雅な音楽が流れた。


私たちメイドもお酒を運んだり軽食を運んだりと忙しかった。

王が現れ、「本日はようこそおいでくださいました。ごゆっくりお楽しみください。」と言うと歓声が上がった。


ネイチェルも出てきてその美しい姿をみんなに見せた。

候補者たちもネイチェルをみつめていた。


ヘンリが1番にネイチェルをダンスに誘った。

ネイチェルは頬を赤くして踊っている。

(かわいいじゃないか)


候補者たちは順番にネイチェルと踊った。


キグナスだけは今日もやる気のない感じで椅子に座り酒を飲んでいた。

お酒を運んでいた私を捕まえると、

「お前、なかなかかわいい顔をしておるな。酒につきあえ。」と言った。

私は迷ったがキグナスのグラスにワインを注いだ。

隣に座るように言われたので座ってキグナスを観察した。


見た目だけならこの男が1番美しいだろう。

クールなタイプが好きな人には推せるかもしれない。

「こんな茶番やってられんのよ。」

キグナスはちょっと酔っているようだった。

「キグナス様、飲み過ぎは体によくありませんよ。」と私が言うと、「お前名前は?」と聞かれ、「シアです。」と答えた。


「シアか、よく聞け。俺は国に好きな女がいる。だから本当はこんなところに来たくなかったんだ。」と、投げやりな感じで言った。

(なるほど、だからやる気がなかったのか)

「国のためにいらっしゃったのですね。ご立派でございます。」と私が言うと、ニコリと笑った。

「明日帰る。もう来ることはないだろう。」と、嬉しそうに言った。

(それでいいと思います)


キグナスのお付きの者が現れ、キグナスを部屋に連れて行った。

(候補者 1名脱落)


ネイチェルは4人と踊り嬉しそうにしていた。

ネイチェルを4人の男たちが囲み、楽しそうに会話をしていた。

ここでもヘンリが活躍していた。

みんなに気を使い、みんなが話せる雰囲気を作っていた。

(コミュ力高いな)


夜も更けてお開きの時間になった。

カヤクとイザトはこれから帰るという。

他の3人より近いところから来ているらしい。


王と王妃に挨拶し、ネイチェルに「またお会いしましょう。」と言って2人は帰っていった。

(仲良しだな)


残った人たちは「ではまた明日」と言って部屋に戻っていった。

ネイチェルも疲れたようで「お風呂の準備をして」と言うとミツは走っていった。

フラーと私は髪をほどき、ドレスを脱がせた。

「お湯はもう少しお待ちください。」と、ミツが焦っていた。

私は風呂に向かい、お湯に手を突っ込み炎魔法で温めた。

「適温かと思います。」とミツに言うと、「いつの間に!」と言って、大急ぎでネイチェルを風呂に入れた。


寝間着を着せたり髪の毛を乾かしたりとメイドたちが忙しく世話を焼くと「ありがとう、おやすみ」と言ってネイチェルはすぐに寝てしまった。


私たちも休むことにした。

今日は1日バタバタしてみんな疲れていた。


私も休みたかったが候補者たちの観察もしないといけない。

私は順番に見て回った。

候補者たちも疲れているようで従者と話したりする様子はみられなかった。


私も寝ることにした。


────


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