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ネイチェル

悪魔がニヤニヤしながらこっちを見ている。

そして近づいてくる。


(嫌な予感しかしない)


「シア、仕事だ。」

悪魔は真面目な顔を作ろうとしている。


「はい。」私は業務的に返事をした。

「詳しくはムイに聞け。」


悪魔は執務室に入っていった。

私は地下室へ向かった。


────


「ダイオに行けって書いてるけど。」

私は嫌な顔をした。

ムイも苦笑いをしている。


依頼内容はこうだ。

『姫が婿をとるので、その選定の補助(必要なら誘導)と結婚までの期間の従者の補助』とある。


つまり変な婿を取ろうとしたら阻止するということだ。

「人間たちと魔族の関係性を悪くしないためにも重要なお仕事です。」

ムイは淡々と言った。


確かにあの姫はガオルにたぶらかされてもう少しで魔王の妻になるところだった。

さすがに魔王とまではいかなくても反魔族思想の持ち主と結婚すると後々面倒なことになりかねない。


「でもこれ、私がやるべき仕事なのー?」

私は全然気乗りしない。


「相手側からの指名らしいですよ。青い服の従者さんならって。」

(あの説明に行ったときの話か…特に何もしてなかったのにな)


────


そうして私はダイオの城へ行くことになった。

国王も姫も私が『呪物』であることなんて知らないだろう。

しかし勇者召喚で集められた魔法使いたちがまだいるかもしれない。

気を抜けない任務になるだろう。


私は遠視でダイオの城を偵察した。

特に変わったことはないようだ。


「では行って参ります。」

私はムイとククルに手を振った。


────


城下町の目立たない場所に瞬間移動した。

ダイオの城下町は賑わっていた。

通りには買い物をする人や食事をする人たちがたくさん歩いている。


私はトランクを片手に城へ向かった。

(早く決めてくれたらすぐに帰れるのにな)


私は門番に名前を告げた。

門番は裏門の方へ行くようにと言った。

私は城壁に沿って裏側へと歩いていく。

裏門には荷物を積んだ荷車をひいた人たちがいた。

従者や業者はこちらを使っているようだ。


私は裏門の門番に名前を言った。

すぐ近くに姫の従者らしき人が待っていて、

「シアさんですね、こちらへどうぞ。」

と中に入れてくれた。


「私は姫様の直属の従者たちをまとめております。ニーノと言います。どうぞよろしく。」

ニーノは早足で歩きながら自己紹介をした。

「シアです。よろしくお願いします。」


城の中は忙しそうにしている人がたくさんいた。

(さっきまでのんびりしていたのにな)


城の一番奥にあたるところに従者の詰所があった。

ここで働いている人たちが休憩したり食事をとったりするらしい。

その奥にドアがたくさん並んでいた。

「住み込みの従者たちの部屋です。シアさんはここをお使いください。」

ベッドと小さな机と椅子に洋服を数着かけられるくらいの小さなクローゼットがついていた。

「お風呂とお手洗いは共用になります。これがメイドの制服になりますので着替えて荷物を整理して10分後くらいに詰所に来てください。」

ニーノは早口にそう言うとニコッと笑った。

「承知しました。ありがとうございます。」

私はトランクを置いて着替えをした。

(こんなフリフリのついた服、着たくないな)

制服は黒と白で一見地味だがいたるところにレースやフリルがついていた。


「アリのカゴをぶら下げて歩くわけにはいかないのよ。」

屋敷で留守番するか聞いたが、アリも妖精たちも一緒に行くと言ってきかなかった。

「とりあえず部屋にいてね。」

人間たちには見えない魔法がかかっているが何があるかわからない。


私は詰所に向かった。

ここの廊下もパタパタと走り回っている人がたくさんいた。

詰所につくとニーノと同じメイド服を着た女性が2人いた。

「こちらがフラーで、こちらがミツよ。」

「シアです。よろしくお願いします。」


「実は急に舞踏会をすることになってね、3日後なんだけど。それで城の中がバタバタしているの。姫様の婿候補の王子様たちが集まることになって。それの受け入れ準備なんかで忙しいのよ。」

(なるほど)

「私たちは主に姫様の身のまわりのお世話になるからさほど業務内容は変わらないけどね。」


「では参りましょう。」と言われ、私はメイドたちについていった。


「ネイチェル様、そろそろお時間です。」

姫は外でお茶をしていた。

「もうそんな時間なの…なんだかゆっくりできないわねぇ。」

ネイチェルが私の方を見た。

「あなたが聖女様のところにいた…」

「シアです。ご挨拶を」とニーノに言われ、

「シアと申します。よろしくお願いいたします。」

と頭を下げた。

「シアね、よろしく。」

(聖女の従者という設定だったか)


────


ネイチェルは自室でドレスを選んでいる。

舞踏会で着るドレスだという。

「どれもパッとしないわねぇ。」

鏡の前でドレスを合わせながら不満そうにそう言った。


『この姫なら色白だから赤や濃いめのピンクが映えるんじゃないかしら』

いつの間にかチュンが隣にいて囁いた。

(部屋にいろって言ったのに)


「ねぇ、シアならどれを選ぶ?」

ネイチェルは挑戦的な目をして私を見た。


「ネイチェル様は肌の色が白く美しいので赤や濃いめのピンクが映えるかと存じます。」

私はチュンが言ったままを伝えた。


ネイチェルはニコッとして、

「シアはなかなかセンスがいいわね。」

と赤いドレスを合わせていた。


「これにするわ。」

ネイチェルは赤いドレスを選んだ。

髪飾りやアクセサリーもどれにするか聞かれ、チュンの言うままを伝えた。


「さすが聖女様に仕えていただけあるわね!気に入ったわ!」

チュンのおかげでスタートは上々だ。


その後もネイチェルのあとを追い回し、世話をした。

あっという間に夜になっていた。

メイドたちは交代で休憩や食事をとったが、かなりの時間を姫様と共にする大変な仕事だった。

(私には向いていない)


ネイチェルが寝室に入ると私たちはやっと解放された。

「シアさん初日お疲れ様でした。」フラーがにこやかに声をかけてくれた。

「ありがとうございます。」私もにこやかに返した。


「今は舞踏会の準備でバタバタしてるけど通常なら2交代でやってるわ。朝からと昼からとって分けてね。」

「承知しました。」

「食べれるときにちゃんと食べてね!体力勝負よ!」ミツが私の背中をバンッと叩いた。

(ミツさんは体育会系だな)


私はげんなりして自室に向かった。


部屋に戻るとアリが怒っていた。

「つまんないよ!チュンだけズルいよ!!」

(だから屋敷で待ってろって言ったのに)


チュンとルアンは飛び回ってるからいいとして、アリを連れて歩くには工夫しないと無理だ。

見えなくしていてもポケットに入れれば膨れるだろうし。

歩き回ってて踏まれてもかわいそうだし。


私は妖精たちが入っていたベルトにつけるバッグの小さいバージョンを具現化した。

仕事で使いそうな道具も入れておけば怪しまれないだろう。

「ハンカチやナイフと一緒でもいいならここに入る?」と、アリに聞くと、「やったー!」と喜んだ。

「ナイフを持ち歩くつもりなの?」チュンが驚いている。

この世界にハサミはない。

私はちょっと考えてハサミを具現化した。

(ナイフよりいいか)

あとは取り出すふりをして必要なものを必要なときに出せばいい。


「あと問題はご飯だね。」

食事の時間が短すぎるのと量が少なすぎる。

「ちっちゃい冷蔵庫出してよ。中身入れておいてくれたら勝手に食べるよ!」

ここに冷蔵庫を出すのはどうだろうか。

みつかったら面倒なことにならないか。

私は少し考えたがクローゼットの奥に小さい冷蔵庫を出した。

ククルのところに瞬間移動して食べ物をもらってきた。

冷蔵庫にパンパンに詰めるとアリたちは喜んでいた。

「朝と夜はこれでお腹いっぱい食べられるね!」


────


翌朝、早起きをして詰所に向かった。

王室のみなさんが起きる前にお支度の準備などで忙しい。

メイド長は1日のだいたいの流れを説明する。

今日から舞踏会に参加する王子や貴族の息子たちがやってくるという。

他の従者たちはその準備で忙しそうだった。


この大陸の1番大きな城がここで、城ほどではないが大きな屋敷に住んでいる領主たちの子息が候補に上がっているらしい。

全員で5名くると言うので部屋の準備や食材の調達など普段しないこともしなくてはいけないようだった。


「結婚相手を選べるなんてステキよねぇ。」

フラーは羨ましそうに言った。

「いい人がいるといいですね。」

ミツは少し心配そうだった。


フラーはノックをしてネイチェルの部屋に入った。

「ネイチェル様、朝でございます。」


ネイチェルは「まだ眠いわ〜」と起きてこない。

「本日はキグナス様がおいでになりますので、ご接待がございます。」

ネイチェルは不機嫌な顔で起きてきた。

メイドたちは慣れた手つきで着替えをさせた。

ボウルにお湯をはり、顔を拭いた。

着替えが終わると髪の毛を整えた。

(私にはできない仕事だ)


あっという間に美しい姫様の出来上がりだ。

フラーはお茶を飲んでいるネイチェルにキグナス様という人の情報を説明している。

失礼のないように前情報を入れるようだ。


「結婚なんて…めんどうだわ…」

ネイチェルは悲しげに言った。

(ガオルの件でトラウマになってなければいいけど)


────


午後になり1台の馬車がついた。


キグナス様がやってきた。

スラッとした長身で茶色のサラサラヘアー。

遠目で見ても見た目はかなり美しい男だった。


(婿候補1人目、どんな人かな)



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