6のまち
街を抜けた先は断崖絶壁だった。
崖下には美しい自然が広がっている。
(これはまた広大な大自然だな)
鷹なのかトンビなのかわからないが「ピーヒョロロロ」と鳴きながら悠々と飛んでいる姿が見える。
私の立っている崖の上にはベンチが数ヶ所設置してあった。
(観光名所みたい)
私は広大な大自然を目の前に途方もない気持ちになり、ベンチに腰かけた。
「ここ、進んじゃうと戻るの大変そうじゃない?」
私が聞くと「そう思う」とみんなも同意見だった。
「ここから遠視でちょっと見てみるからここを見張っておいてね。」
と言い、崖の下を遠視で確認した。
道という道はなく、倒れた木に苔が生えたりしていて本当に美しいところだった。
動物や虫のような形の魔物がたくさんいる。
さらに奥に進むとぽっかりと丸くお起きな穴が開いていて、その中に大きな獣の姿があった。
(ボスかな)
丸まって寝ているようで全体像はわからなかったが、小さい頃に映画で見たことがあるような、大きな丸っこいフォルムをしている獣だった。
(これを倒すのは嫌だなぁ)
私は意識を戻して見てきたことをアリたちに伝えた。
日が沈むにはもう少し時間があるように思えた。
私はしばらく景色を眺めてぼーっとしていた。
アリはカゴの中で眠っていた。
チュンも私の頭の上で寝そべっていた。
まわりを見てくると言っていたルアンが戻ってきた。
「小さな女の子が泣いているのをみつけたんだけど…」
困った顔をしたルアンが草むらを指差した。
私は行ってみることにした。
NPCの少女が「お花が必要なの」と言いながら泣いていた。
また『YES』と『NO』が現れたのでYESを選んだ。
ミッションスタート!とアナウンスが流れた。
この子に花を取って来てあげるミッションのようだった。
崖の途中に1本花が咲いている。
(崖の下にたくさん花が咲いていたっけ)
私は1本じゃ寂しいと思い、崖下に瞬間移動して花を数十本詰んできた。
紐を出して括り、花束を作った。
「はい、どうぞ。」
私は泣いている女の子に渡した。
「崖に咲いている花を取って来てくれたのね!ありがとう!」
(あ、やっぱりそっちの花が必要だったのか)
「たった1本だけど病気のお母さんはきっと喜ぶわ!」
と言って走っていった。
(花束だったけどな)
ミッションコンプリート!とアナウンスが流れた。
(まぁクリアしたみたいだからいいか)
そうこうしている間に夕焼け空になってきた。
「お腹空いたー!」と、アリが言うので私たちは街に戻った。
────
アリの鼻を頼りに店を選んだ。
今日の店は肉料理がおすすめのようだった。
私たちは食べたいものをゆっくりと味わった。
「おかえりなさいませ」
宿屋で受付のNPCが迎えてくれた。
(本当によく作られているなぁ)
部屋に戻りみんなでゴロゴロしていた。
「こんなダンジョン初めてね!」とチュンが言った。
「あの喋る人形みたいなのはボクもはじめて見ました。」とルアンが言う。
確かに今まで見たことがない。
私はゲームで似たような設定があるからなんとなくすぐに受け入れたが…
この世界の人間たちにはどう映っているのだろうか?
(あの子たち親に会えたかな?)
私は双子のことを思い出した。
この階層まで私たちより先に来ていたのを見るとかなりできる人たちなんだろう。
(自分で言うのはなんだけどね)
私は持ってきていた食料を出してみた。
腐りそうなものはあまり持ってきていない。
「これ食べる!」アリが焼菓子をみつけた。
私は元の大きさに戻してやった。
急に夜のお菓子パーティーが始まってしまった。
(こんな日があってもいいか)
私たちは楽しい夜を過ごした。
────
朝になった。
宿屋の食堂で朝食を済ませた私たちは昨日の崖の上まで来ていた。
「普通の人たちはロープとか使って下に降りるのかな?」
ロープをかけられそうな木や岩が丁寧に置いてある。
私は崖下まで瞬間移動した。
チュンたちもその自然の美しさに感動していた。
「私が生まれた頃はね!」と昔はもっと自然豊かだったと説明してくれた。
「人間が必要以上に欲張って木を切りすぎるのよ!」と途中で怒っていた。
襲ってくる狼のような魔物たちを倒しながら、昨日見た大きな獣のところまでやってきた。
近くで見るとやはりあの映画に出てくる丸っこいフォルムのそれにしか見えなかった。
「倒したくないんだよね。」と私が言うと「わかるわ。」とチュンも言った。
「何かを守っているようにも見えますね。」とルアンが言った。
確かに身動きせずに丸まっている。
「浮かせてみましょうか?」と言ってルアンが風魔法を使ったが大きすぎてなかなか上がらない。
私も(浮け)と念じた。
丸まった状態で獣は宙に浮いた。
大きな顔をこちらに向けた。
ウサギのような耳に猫のような顔をしていた。
(かわいい)
こちらを攻撃してくる様子はない。
獣が寝ていたところに穴が開いていた。
「あそこ入れそうだね。」
私たちはその穴に向かった。
人が1人通れそうな穴が開いている。
「ボクが見てくるよ!」とアリが飛び込んだ。
「ヒャッ」と短い声がして「すぐ下が部屋になってるみたい!」と言った。
私たちも続けて穴に飛び込んだ。
本当にすぐ下が部屋になっていた。
(あの巨体が寝ていてよく崩れないな)
私は真上の獣をゆっくりと降ろした。
ドスンと音がして真っ暗闇になった。
私は炎魔法で部屋を照らしてみる。
テーブルと椅子が部屋の中央に置いてあった。
テーブルの上には木の枝が数本あった。
それに触れるとまた『YES』『NO』と出てきた。
私はYESを選ぶ。
『箱を作れ』ミッションスタート!とアナウンスが流れた。
「枝で箱を作れってことなのかな?」
箱を作るには本数が足りないようだった。
「枝を大きくしてくり抜いて箱を作る?」
ルアンが「違うと思う。」と言った。
(確かにそんなことできるの私くらいか)
部屋には他にものがない。
私は枝をくっつけたり離したりしてみた。
「骨組みにしかならないよね。」
と私が言うと、ルアンが「ちょっと貸して」というので任せてみた。
枝をうまく並べて立体に見えるようにした。
箱に見えなくもない。
ミッションコンプリート!とアナウンスが流れた。
「ルアン!すごいよ!」
みんなに褒められてルアンは照れている。
机に置いてある枝で作った箱の中に鍵が現れた。
私はそれを手に取った。
枝は勝手に元のバラバラの状態になった。
私たちはまた鍵穴を探した。
この部屋にはドアも窓もない。
ドアの形の隙間を探したがどこにもみつからない。
私は疲れて床に寝そべった。
「お行儀悪いわよ!シア!」とチュンに怒られた。
「はーい」と言い、起き上がろうとしたときテーブルの裏が目に入った。
穴が開いている。
私は鍵をさしてみた。
鍵はまわり、カチャッと音がした。
テーブルの裏がこちら側に開いた。
「お行儀悪いこともたまには役立つのね。」とチュンが笑った。
私は重力に逆らって扉をくぐった。
────
出た先は街ではなかった。
細い一本道があり、道の左右は崖になっていた。
下は真っ暗闇で見えないがかなり深そうだった。
「落ちたらヤバそうだね。」
私は身震いした。
道の先には明かりが見える。
どうやらここを進むようだ。
私はゆっくり慎重に進んでいった。
道の真ん中まで来ると向こう側から何かがこちらへやってくるのが見えた。
(ここで戦うの?!)
鎧をまとった戦士のようなものが数体こちらへ向かってくる。
手には大きな剣を持っていた。
(落ちろ)と私はその戦士に向かって念じた。
戦士たちはくるっと横を向き落ちていった。
「怖かった。」
私はふぅーと息を吐いた。
アリが下を見て「かわいそうー」と言った。
(私たちが落ちるわけにはいかないでしょ)
細い道をなんとか渡りきって明るい方へ進んだ。
一瞬眩しくて目を閉じた。
やっとのことで目を開けるとそこは街だった。
後ろを振り返るとあの細い道は跡形もなく消えていた。
ここは『6のまち』だった。
今までの街とは少し違っていた。
お店も前より多く、豪華な造りになっていた。
よく見ると店だけではなく普通の家もあった。
NPCもたくさんいる。
子供たちも走り回り遊んでいる。
ダンジョンの中だと言われなければ普通の街に見えるだろう。
酒場もあり、横に受付があって壁にはたくさんの依頼書が貼ってあった。
内容や報酬が書かれている。
「狼の毛皮3体分 報酬5000ゴールドだって。」
私はカードのアイテム欄を見てみた。
狼の毛皮は10個持っていた。
「ここで精算できるシステムになってるんだね。」
私は試しにその依頼書を持って受付に行ってみた。
「これなんだけど、アイテムは持ってるみたいなんだけどどうしたらいいですか?」
と聞くと、「カードをこちらにかざしてください。」と言われ、読み取り機のようなものにかざすと「ピコンッ」と音がして、「狼の毛皮3体分 間違いなく受け取りました。報酬をご確認ください。」と自動音声のような声が流れた。
私はカードを確認すると『報酬 5000ゴールド』と明細が記載され、ゴールドが増えたようだった。
「ここで暮せばお金持ちになっちゃうね!」とアリが笑った。
(確かに)
「でもそんなにお金は必要ないね。」
と私が言うと、「食べる分と宿泊代があれば十分ですね。」とルアンが言った。
私たちは頷いた。
────
私たちは今日は無理に進まずにこの街を堪能することにした。
武器屋や防具屋も明らかに上等そうなものが並んでいる。
必要ないが見ているだけでも楽しい。
アクセサリー屋があって、チュンは目を輝かせて見ていた。
「1つ買ってあげるよ。」と言うとかわいいペンダントを選んだ。
「10000ゴールドまたは銅貨10枚になります」
私はカードをかざして精算した。
チュンのサイズまで小さくしてあげると喜んでつけた。
アリとルアンにもほしいものがあったら言ってね、と言うとアリは食べ物を選び、ルアンはアリのカゴのようなものがほしいと言った。
確かに妖精たちの休む場所がなかった。
「気がつかなくてごめん…」
私は少し落ち込んだ。
「いいんだよシア!ボクたちは飛べるから!」
と、ルアンは焦っていた。
「いざとなったら服の中に潜り込むから問題ないわ。」と、チュンが言った。
私は店をまわりちょうどいいものがないか探した。
妖精たちは入ってみて確かめたり楽しそうだった。
革細工の店に来ると革で編まれたちょうどいいサイズのベルトにつけるバッグがあった。
妖精たちは中に入ってみて中からも外が見えるしこれがいい!と言った。
「20000ゴールドまたは銅貨20枚です」
私はまたカードをかざした。
「そんなに使って大丈夫?」とルアンに聞かれて残高を見た。
「まだ10万ゴールドくらいあるよ。いざとなったらアイテムを換金すればいいし。」
と言うとみんな笑顔で「お腹空いた!」と言った。
いつの間にかアリも妖精たちとバッグの中にいた。
「アリは専用があるでしょ!」とチュンに怒られていたが、「こっちの方が楽しいもん!」と言われ、チュンは「しかたないわね」と、ちょっと嬉しそうだった。
私たちはいいにおいに誘われてレストランのような店に入った。
そこはあの日入ったメイヤのレストランに似ていた。
私たちはそれに気がつくとなんとなくしんみりしてしまった。
「贅沢をしよう!」
私は気を取り直して次々と注文をした。
テーブルには豪華な食事が並んだ。
私たちはおしゃべりをしながらゆっくりと食事をとった。
(メイヤの作った料理の方がおいしかったな)
私はあの美しい二本の漆黒の角を思い出していた。




