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ドラゴン

私たちは島の南側にある翼の生えた種族の住んでいる村を訪れた。

私たちが行くとイシホは笑顔で迎えてくれた。


「あなたたちが去ったあと、人間たちは来なくなったと聞きました。」

有志で戦地に行っていた仲間も帰ってきたという。

「このまま来なければいいですね。」

私はきれいに晴れた空を見ながら言った。

「そうですね。」イシホは悲しげな顔をした。


きっと人間を信じようとして何度も裏切られてきたのだろう。

その気持ちは痛いほどわかる。


イシホは「これを」と言って赤く光る石をくれた。

「これは?」

私が聞くと「あなたに渡すようにと啓示を受けた。」と言う。

イシホもその石についてはほとんど何も知らず、村に昔から祀ってあったものだと言う。

「そんな大事なものをいただいてよろしいのですか?」

ルアンはその赤い石に魅了されたような顔をしてイシホに聞いた。


「すべては神の思し召しです。」


私たちは礼をしてラグに乗り込んだ。

ここから先はラグでまたのんびり冒険をしようという話になっていた。


────


「天使のような種族だったね。」

私はみんなにそう言った。

「天使も絶滅したみたいよ。」

チュンはおやつを頬張りながら言った。


(過酷な世界なんだな)


島を越えてさらに北東に進んでみた。

急に霧がかかった。

前がまったく見えなくなった。


「これじゃ進めないね、引き返そう。」

私がそう言った途端、ラグは急に落下しだした。


「ラグ!飛んで!!!」

私たちはスルスルと落ちていった。

ルアンが風魔法をかけようとしているが効かないようだった。


「ひゃーーーーー」


ポヨンという感触がして私たちはどこかの地面についたようだった。

ルアンに初めて会ったときを思い出した。


霧が濃くて少し先も全く見えなかった。

「みんないる?」

私は手探りで何かないか探した。

みんなは私にしがみついた。

「ここはどこかしら?海の上ではないようだけど。」

チュンも不安そうだった。


ふわふわした足場を少しずつ進んでいった。

急に足場がなくなるかもしれない。

気配探知も遠視も効かなかった。

(もしかして魔法が使えない?)


私は炎魔法で照らそうとしてみた。

やはり発動しない。


妖精たちも気がついたようだった。

「魔法の使えない結界の中なのかな?」

私はゆっくり進みながらいろいろ考えていた。


急に足元がふわふわじゃなくなった。

岩場に出たようだった。

何か音がする。

懐かしいような悲しいような…

寂しげなメロディーが聞こえてくるようだった。


私はそれに吸い込まれるように進んだ。

少しずつ音は大きくなってきた。


霧がはれてきた。

だんだんまわりの様子が見えてくる。

私たちはどうやらトンネルのようなところを進んでいた。

明かりがぼんやり見える。


私は何も考えずにその明かりに向かって歩いた。

みんな何も言わなかった。

その場の雰囲気にのまれていた。


────


明かりに近づくと眩しくて前が見えなくなった。

私は手で目を覆い進んだ。

私たちは光の中にいた。


「ここはどこだろう。」

私はぼんやりとつぶやいた。

さっきまで聞こえていたメロディーは聞こえなくなっていた。


ただ眩しくて、目を開けていられなかった。


セキが「このにおい、知ってる!」と言って小さなドラゴンの姿になって飛んでいってしまった。

「セキ、待って!何があるかわからないよ!」

セキはもう遠くまで飛んでいってしまったようだ。


私は薄目を開けながらセキが飛んでいった方に少しずつ進んでいった。


目が眩しさにだんだん慣れてきた。

そこは昔絵本で見たような楽園のような場所だった。

木々が生い茂り、滝や川が流れていた。

虹がかかり水面はキラキラと輝いていた。

数え切れない種類の植物と動物たちがそこにいた。

悠々と歩く動物たち。

ひらひらと舞う蝶や鳥たち。


あまりの美しさに目は奪われていた。


私はハッとしてセキを探した。

「セキ!どこ行ったの?」

妖精たちも飛び回りセキを探してくれた。

アリはこの景色に興味津々で「あれは何だろう?」とキョロキョロしていた。


一瞬薄暗くなり突風が吹いた。

私は埃を避けるように目を細めた。


目の前が真っ赤だった。

(なんだろう?)


私はそのまま上を見た。

「セキ?」

赤い大きなドラゴンがいた。

その隣にも赤いドラゴンがいた。


ぐるっと見渡すと赤いドラゴンたちに囲まれていた。

(セキじゃない…)

私は驚いて声が出なかった。

それはアリも妖精たちも一緒のようだった。


「ママー!ドラゴンがいっぱいいるよ!」

小さな赤いドラゴン姿のセキが嬉しそうに飛んできた。


「いっぱい…いるね…」


私はドラゴンの鼻息で飛ばされてしまった。

ルアンがいつものように風魔法で助けようとしてくれたが発動しなかった。

私はドスンと地面に落ちた。

「いてて…」


「ごめんなさい!」

急に辺りが明るくなって目の前に人が現れた。

「えっと、大丈夫です。」

ドラゴンたちは消えていた。

(夢でも見てるのかな)


「セキという名前をもらったのね…」

目の前にいた女性がセキを見て泣き出した。

「立派になったな…」

その横の男性も涙ぐんでいた。

「泣くなよ、とうちゃんかあちゃん!」

「そうだよ!恥ずかしいよ!」

若い男女が笑顔でこっちを見ていた。


(もしかして)


「セキの家族ですか?」


私は大声を出してしまった。

4人は私を見て頷いている。

セキはキョトンと4人を見た。


「ボクの家族?」

父親と思われる男性がセキを抱きしめた。

セキは思わず人型になった。


並ぶと似ている。

髪型はみんな違うが髪色はみんな美しい赤色だった。


私がポカーンとその様子を眺めていると母親が「こちらへどうぞ。」と木陰にあるテーブルに案内してくれた。

私は言われるがままに椅子に座った。


セキはどうしていいかわからないようでキョロキョロと落ち着かない様子だった。


「私が父のオドだよ。こちらが母親のケイ、隣が兄のヒノ、その隣が姉のヨナだよ。」

セキは言われた順に顔を見ていた。

私を見て「ママはママじゃないの?」と、聞いてきた。


私が困っていると「お前を産んだのはこっちにいるケイだよ。その人は育ての親になるね。」と父親が説明をした。


セキは首を傾げている。

私は「あの、私はシアと言います。セキの卵は箱に入っていて…ダンジョンでみつけまして…」とみつけたときの話をした。


オドは「大事に卵を温めていたんだけど嵐が来て…誰かに盗まれてしまって。」と悲しい顔をした。

「もう会えないと諦めていました。」ケイは泣きだしてしまった。

「私がちゃんと見ていなかったせいで…」

彼らの話を聞いてもあのダンジョンの話とは結びつかなかった。

どうやってあそこに来たのかは謎のままだった。


「ドラゴンは絶滅したと聞いてるけど!」

チュンが出てきて4人に向かって言った。

4人は悲しい顔になり「そのとおりです。」と言った。


「ここは存在しているようで存在していない場所」と言った。

まったく意味がわからなかった。

「私たちも存在していないようで存在している」とも言った。

頭がこんがらがった。


詳しく聞くとこの世界は私たちがいた世界とは違う世界だという。

好きに行ったり来たりができるわけじゃないと言われた。

「なぜ私たちは来れたのでしょうか?」


私はポケットが熱くなっているのに気がついた。

イシホにもらった赤い石だった。


「それはこちらに存在するものです。」

オドはその石がここに引き寄せたのだろうと言った。


人間たちが勇者を召喚しドラゴン狩りを始めだすと一気にその数は減っていったという。

このままでは本当に絶滅してしまうと思って嘆いてたとき、光に導かれてこの地にたどり着いたのだという。


ここには人間は一人もおらず、広大で豊かな自然が広がるばかりの土地だった。

まるで楽園にやって来たのだと思ったという。

しかしある日、この平和な土地に凄まじい嵐がやってきた。

大きなドラゴンの体ですら飛ばされてしまうような強い風が吹いたりした。

その混乱に乗じて卵は消えてしまったのだという。


「まさか会えるなんて…」

母親はセキを抱きしめた。

セキは「お母さん?」と言ってにおいを嗅いでいる。

「お母さん!」セキも母親に抱きついた。


「セキよかったね。」私は嬉しそうな家族の姿をみて涙ぐんでいた。


優しい時間が流れた。

このままここに居たくなるような気持ちがしてきた。

(でもムイが心配するな)


「ここから帰る方法を知っていますか?」

4人はみんな首を横に振った。


「この子を探すためにこの世界からの出口を探したの。それは必死にね。」

母親はそれでもみつけられなかったと言った。


「帰れなくなったの?」アリが心配そうにカゴから顔を出した。カバンから角砂糖をひと粒出してあげた。

ポリポリと食べながら「どうしようか」と言った。

(どうしよう)


ここでは私のスキルが何も使えないようだった。

スマホも圏外のようだし、インカムも通じない。

来た道を戻ろうにもあのトンネルはどこにもみつけられなかった。


私たちはしばらくこの楽園の中を探索した。

本当に美しいところで美味しそうな果物もたくさん実っていた。


とりあえず食べるものに不自由はしないだろう。

川を流れる水も透き通るほどにきれいだった。

まさに手付かずの自然がここにあった。


セキは兄姉たちとドラゴンの姿で追いかけっこをしたり楽しそうに過ごしていた。

(きっとこれが本来の姿なんだろうな)


日が暮れて夜になった。

「今日はもう休んでまた明日考えましょう。」オドは家に招いてくれた。


人型の姿のときに寝る場所とドラゴンのまま寝られる場所の両方あると教えてくれた。

「その日の気分で変えてるんだよ。」と兄のヒノが教えてくれた。

なんだかステキな生活である。


私はふかふかのベッドを貸してもらった。

あまりに気持ちよくてすぐに眠ってしまったようだ。


────


いいにおいで目が覚めるとケイは朝食を用意してくれていた。

「フルーツや野菜くらいしかなくて…」と盛り付けられたフルーツといいにおいのお茶をいただいた。

飲んだことのない優しい味のお茶だった。


私はベッドと朝食のお礼を言って外に出た。

きっとムイは連絡のつかない私たちを必死で探し回っていることだろう。


赤い石を眺めてみるが特に反応はない。

(この石でこちらに来られたということは…)


私はカバンの中にあちらの世界に繋がりそうなものがないか探した。

いつかの不死鳥の羽が出てきた。

金色の美しい羽だ。


(私たちの世界に帰りたいの お願い…)


すると羽は光りだした。

眩しくて直視できなかった。


いつの間にか目の前にトンネルの入り口が現れた。

ここを通れば帰れるかもしれない。


私はセキを見た。

セキは私の方へ歩いてくる。

「帰るの?」


私はセキを抱きしめた。

「セキはこのまま、ここに残る方がきっと幸せだと思うよ。」と言った。

セキは「なんで?!」と言ったが家族たちを見ると黙ってしまった。

やっと再会できた家族とまた離れ離れになるなんて、私なら身を引き裂かれる思いをするだろう。


セキは私の顔と家族の顔を交互に見た。

私は赤い石をしっかりと握り、セキには不死鳥の羽を渡した。

「もしかしたらまた会えるかもしれないよ。」

と笑って赤い石を見せた。


セキは泣きそうなのを我慢しているようだった。

「ママ…アリ…」そして妖精たちの顔を見た。

みんな泣きそうなのを我慢していた。


「きっとまたすぐに会えるわよ!」

と、チュンが言った。

「そうだよ、私たちだって家族なんだから!」

私は今できる一番の笑顔をセキに向けた。

セキの家族たちは泣いてしまった。


私は「またね!」と手を振ってトンネルに飛び込んだ。

アリはカゴから出てこない。

妖精たちも私にしがみついてセキを見ないようにしている。


私は走った。

よく見えないトンネルの中を。

セキが見えなくなるまで必死に走った。


やがて霧の中に出た。

もうセキは見えない。

また悲しげなメロディーが聞こえてきた。


私は歩いた。

ふかふかの道を。

前に進んだ。


急にガクンッとして躓いてしまった。

私はラグの上にいた。


ラグは私を乗せるとすごいスピードで霧を抜けていった。

気がつくと海の上を飛んでいた。


きれいな夕焼けだった。

(いつの間にか夕方になっちゃったのか)


私はセキがいなくなったのを確認した。

夢ではなかったようだ。

寂しさがこみ上げてきた。

私たちは泣いた。

セキー!と叫んで泣いた。


ムイが心配してるだろうことを思いだして私はラグを掴みその場で瞬間移動をした。


廊下にムイがいた。

「おかえりなさい。」と言って私たちが泣いていることに気がついた。

ムイは駆け寄ってきて「どうしたんですか?」と心配そうな顔をした。

私はムイの腕を掴み、「セキが…セキは家族に会えて…」私はそれ以上言葉にできなかった。


ムイは私を寝室まで連れて行ってくれた。

ベッドに座らせてくれて、「明日ゆっくり聞きますね。」と言って微笑んだ。


私はそのままベッドで泣いた。

アリも一緒に泣いた。

妖精たちは泣いている私とアリに寄り添って頭を撫でてくれた。

その日はみんなで一緒に眠った。

ぐしゃぐしゃな顔のまま疲れて眠った。


────


翌朝、私は悪魔たちにセキのことを話しに行った。

一晩連絡もせずに留守にしたことも謝った。

悪魔たちは「はて?」と首を傾げた。

「シアさんは朝出発して夕方帰って来られましたよ。」とムイが言った。


(時間軸まで歪んでいたのか)


それでもセキはここにいない。

赤い石はあるけど不死鳥の羽はない。


夢みたいな出来事だけど夢ではない。


(存在していないようで存在している)

私はオドの言葉を思い出した。


セキはここにいないようでここにいる。

きっとそういうことだ。


私は泣くのをやめた。


きっと今頃、家族で楽園を飛び回っている。

大きなドラゴンの姿で。

きっと笑顔で。




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