戦争
────第三部 始まり────
「今日は冒険日和だね!」
アリは窓の外を見ながら言った。
晴れていて気持ちのいい朝だった。
「じゃあ今日は遠くまで行ってみようか!」
私は元気よく答えた。
アリとセキは喜んだ。
妖精たちはまだ眠そうにしている。
ゼスが消えたとされて一週間が経った。
私たちは徐々に気持ちの整理をつけ明るく振る舞えるようになっていた。
私はハピリナにこもり、作りたいものを作りたいだけ作った。
鍵をかけて封印していたモデルハウスに入り浸り、元の世界での便利なものをいろいろ思い出していた。
ハピリナで人気になったのはカメラだった。
「なんと精巧な絵じゃ!」と江戸時代の人かのように驚いていた。
私はプリンターとセットで長老の家に置いてきた。
長老は面白がってカメラを持ち歩いてはパシャパシャと写真を撮っている。
セキがドラゴン姿の写真を欲しがったので未開拓の土地で変身をさせた。
ハピリナの人たちはその姿に驚き、褒めた。
セキは赤い顔をさらに赤くして照れていた。
私はセキの美しい翼を見て思った。
(私も空が飛びたい)
そこから3日ほどいろんな空を飛ぶアイテムを作ってみた。
機械的なロケット噴射装置のようなものから腕に翼のように羽をつけて羽ばたいたりしてみたり、アリたちに笑われながらいろいろやってみた。
どれも飛ぶことはできた。
しかし長時間の旅には不向きなような気がした。
(飛行機とかヘリコプターとかかな)
私は想像してみたが大きいと何かと不便が生じそうだった。
私は床にゴロゴロと転がり、(何かないかな)と探していた。
そんなときに思いついたのだ。
(空飛ぶ絨毯だ!)
私は小さめのラグを出してそれに(お前は空飛ぶ絨毯 私の言うことをきいて空を飛びまわれるすごい絨毯)と念じた。
外で広げて座ってみる。
(飛べ)と念じてみる。
絨毯はすごいスピードで上昇して私をふっ飛ばした。
すぐにルアンが風魔法で助けてくれたが危なかった。
「練習が必要だわ。」
みんなは心配そうに私と絨毯をみつめた。
私は絨毯に『ラグ』という名前をつけた。
空色の絨毯はふかふかしていて座り心地はいい。
しかしなかなか操縦が難しかった。
レバーやコントローラーがついているわけではない。
私はラグと心を通わせるべく、空を飛ぶ練習をした。
そして昨日やっとラグは私と心を通わせることに成功したのである。
ラグは私の思うまま空を飛べるようになった。
私が喋りもしないラグに「いい子だね」と話しかけるたびにみんなは白い目で見た。
(ほっといてください)
────
私は朝食を済ませ、ククルにサンドイッチのお弁当を作ってもらい外に出た。
私はラグの上に座り北東へ進むことにした。
大きな東の大陸のその北に何かあるか調べに行くためである。
アリとセキもカゴから出てきてラグに掴まった。
「では出発進行!」
私はゆっくりと上昇させた。
アリは大興奮だった。
屋敷が足元に見えるくらいまで上がると私はそのまま北東へ進むようにラグに言った。
返事はしないがラグは徐々にスピードを上げながら北東に進んだ。
「飛ぶのって気持ちいいね!」
私とアリはラグの上でリラックスしながら空の旅を喜んだ。
飛べるチームは早々に飽きてしまったようでくつろぎながら持ってきたお菓子を食べたりしている。
(遠足みたい)
生霊で飛ぶよりも時間はかかるがこれはこれで楽しかった。
鳥が横で一緒に飛んだときはみんな嬉しそうにそれを眺めた。
北東の大陸はなかなか見えず、私たちはラグの上で昼食をとった。
────
みんな空の旅に飽きてきたようだった。
景色は変わらず海の上だった。
時々クジラのような大きな海洋生物をみかけて喜んだが、そうそう出会えるものでもなかった。
「何もないねぇ」セキは前を眺めながらつぶやいた。
ルアンが「何か見えますよ!」と叫んだ。
私たちはルアンが指差す方向を見た。
そこには大きな太い木が1本あってそのまわりには明らかな人工物があった。
大きな石がまるで美術品かのようにいろんな形で積まれていた。
「なんだろうね?」
私はスピードを緩め、気配探知をしてみた。
小さな魔物の気配はするが、それ以外の気配は感じられなかった。
私は少し高度を上げて慎重に見て回った。
小高い丘の上は石のオブジェでいっぱいだった。
少し進んだ先に家が見えた。
「何か住んでるみたい。」
私は人型の何かの気配を感じた。
そこは魔族の村のようだった。
尖った耳に背中には羽が生えていた。
チュンをそのまま大きくしたような美しい種族だった。
気配を消していたがラグを透明化するのを忘れた。
下から私たちをみつけたようでそこの住人たちは飛んできてラグのまわりを取り囲んだ。
「何者ですか?」
小さな杖をこちらに向けて美しい女性が私たちに声をかけてきた。
私は両手を挙げて「旅の者です。上から失礼しました。」と言った。
その女性はクスッと笑い、「歓迎します。村へどうぞ。」と言ってくれた。
私たちは羽の生えた美しい人たちに囲まれながらその女性の家に招かれた。
「私はこの村の長、イシホと言います。」
大きなテーブルに案内されると女性は自己紹介してくれた。
私は自己紹介をした。
私はどう見ても不審な私たちを疑いもせず受け入れたことを疑問に思っていた。
お茶を淹れてきてくれたイシホに聞いてみた。
「私たちは臆病な種族です。それがゆえに悪いものとそうじゃないものの区別がすぐにつきます。」
どうやら私たちに敵意がないということがすぐにわかってもらえたらしい。
そしてこの先にある大きな魔族の街が人間と交戦状態であると教えてくれた。
元々この大陸は魔族がたくさん住んでいて人間の姿はほとんど見られなかったという。
しかし近年では人間が増え、魔族の街を襲うようになってきたと言う。
魔族たちは勤勉で働き者が多い。
手先も器用だったので武器や防具なんかもいいものを作り、狩りをしたり農業をしたりして生活をしていた。
そこに人間がやって来て食べ物や道具を奪っていくという。
私は(またか)と思った。
人間を信じようとするたびに裏切られてしまう。
「我々は戦いに適した種族ではありません。私たちが戦地でできるのは怪我の手当や物資の調達くらいです。」
イシホは悲しげにそう語った。
今も村の有志たちが戦地である街にいるという。
「心配することしかできない。我々は弱い種族なんです…」
私たちはなんて言葉をかけてあげたらいいかわからなかった。
「ボクたちがそんな人間やっつけるよ!」
セキがカゴから出てきた。
アリもうんうんと頷いている。
隠れていた妖精たちも姿を現した。
「まぁ、可愛らしいお仲間さんたちですね。」
イシホはニッコリと笑った。
私たちはイシホに「ごちそうさまでした。」とお茶の礼をして屋敷に戻ることにした。
ラグをまるめて持ち、瞬間移動した。
(ごめんねラグ、急いでるからまた今度ね)
────
私は地下室でムイにその話をした。
笑顔で出ていったのに緊迫した顔で帰ってきたので心配そうな顔をしている。
「なるほど、そんなことが。」
私は生霊を飛ばした。
言っていた大きな街から人間たちの住むところまで、マップを埋めるために。
この大陸はそんなに広くなかった。
大陸というよりは大きめの島という感じだった。
島の北側には家がびっしりと建ち並び、人間たちが暮らしていた。
木を切り倒し、森を破壊して家を建てたようだ。
森は不自然な形で残り、動物たちのすみかも狭まったことだろう。
森を越えると言っていた大きな街があった。
確かに見た感じはこちらの方が発展しているように見える。
よく見ると煙が上がっていた。
人間たちが魔族たちの家に火のついた矢を放っていた。
「シア!燃えちゃうよ!!」アリが叫んだ。
私はムイに「行ってくる」と言った。
「私はこちらで監視を続けます。」と言って耳にインカムをつけた。
私はアリたちを連れて街の端に瞬間移動した。
「傷つけるのは禁止だよ。」
私がそう言うとみんなは少し不満そうだった。
「追い返すだけってことね。」チュンも不満そうだったが了承してくれた。
私たちは散り散りになった。
(覚悟しなさい)




