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償い

私は魔王城に来ていた。

魔王はメメちゃんを撫でながら私の話を聞いている。


昨日の出来事を詳しく話すために呼ばれた。

レイとユイが泣きながら現れて「シアのところへ行く」と言ってきかなかったという。

魔王は必死になだめて2人を留めたらしい。


魔王城に着くなり2人は私をみつけて飛びついてきた。

「もう大丈夫だよ。」と私が言うと、2人はモリスのいる集落に帰っていった。

「またすぐに遊びに来るね。」と手を振って消えていった。


そして私は今、魔王に何があったのか順番に話をしている。

チュンはずっと不機嫌だった。

不機嫌な顔をして泣かないようにしているんだろうと私は思った。


「メイヤがゼスを道連れにして天に昇ったということか。」

魔王は窓から外を眺めながら独り言のようにつぶやいた。


「ほんとにバカよ。バカメイヤ。」チュンはまだ怒っている。

私もぼんやり外を眺めた。

良い天気だ。


「わしにはゼスの気配が完全に消えたように思うが、シアはどう思う?」

魔王は私の方を向き聞いてきた。


私も魔王を見る。

「あの場での嫌な気配はなくなりました。」

魔王はそれを聞いて頷いた。


「その洞窟に他に問題がないか調べたほうがいいじゃろうな。」

魔王は立ち上がった。


「私が見てきます。」

私も立ち上がった。


「辛いじゃろ…まだ…」

魔王は悲しい顔を私に向けた。

外から鳥の鳴き声が聞こえた。


「大丈夫です。私もきちんと気持ちを整理したいので。」

私は魔王をまっすぐ見据えてそう言った。


「ではシアよ、調査を頼む。」

魔王は部屋を出ていった。


私はとりあえず屋敷に戻った。


────


悪魔たちに報告をして地下室へ向かった。

途中でククルが「新作よ!」と作り笑顔で焼菓子を持ってきた。

私は「美味しそうだね。」と作り笑いを返した。

「やることが終わったらゆっくりいただくね。」


ククルは「取っておきますね。」と優しく微笑んだ。

そして私を抱きしめた。

「ありがとう。」


地下室に行くとムイがモニターで何かを探していた。

私に気がつくと「小屋がないんです。」と言った。


リビルドの城の北には2つの猟師小屋があった。

その一つが地下の洞窟に繋がっている。


「1つしか確認できないんですよね。」

似たような小屋だし、雪が積もっているのでよくわからないだけかもしれない。


私は「行ってみるよ。」と言った。

ムイは今日は私もついていきますと言った。

昨日置いていかれたのをちょっと怒っている。


私は小屋のある場所に瞬間移動した。


────


雪が積もっている。

木々が生い茂り視界はよくない。


(この場所のはずなんだけど)

私は周辺を探知した。


ムイは歩き回っている。

小屋がない。

ここにあっただろう広さの木の生えていない場所はある。

しかし小屋がなければ地下に繋がる穴もない。


私は一帯の雪を蒸発させた。

草も生えていない石がコロコロと転がっている土の地面が見えた。


(この辺のはずなのに)


私は雪を蒸発させながら探し回った。

かなりの広さを探したが小屋の形跡は何もない。

「どういうことでしょうか?」

ムイは首を傾げている。


チュンが出てきて言った。

「メイヤがどこかに隠したのかもしれない。」


自分の最後の場所を人に見られたくなかったんじゃないかしら?とチュンは言った。

「ほんとにキザで嫌な男…」

チュンは目を伏せた。


私は穴も掘ってみたがどこまでも土ばかりで洞窟の形跡もなかった。

しかし見覚えのあるものが出てきた。

熊のぬいぐるみだ。

私がガオルに捕らわれていたときに出したものだ。


泥だらけのぬいぐるみを手に取った。

「洞窟は土で埋められちゃったみたい。」

アリは「かわいそうに」と言いながら泥だらけの熊を撫でた。

ルアンが風魔法で土を飛ばしてあげていた。

「持って帰る」とアリが言うのでアリサイズにしてあげた。

アリは自分とセキの入っているカゴにぬいぐるみを詰めた。

「狭いよー」セキに文句を言われたがアリは「家に帰るまで我慢して!」と言った。

セキは「しかたないなぁー」と言って熊を撫でた。

「一緒に帰ろう。」


────


魔王に小屋も洞窟もなくなっていたと報告した。

魔王は「そうか。」と言っただけで、「帰ってよいぞ。」と言って私たちを部屋から出した。


私たちは屋敷に戻った。


ククルが私たちをみつけて、「お茶にしますね!」と言ってキッチンへ走っていった。

アリとセキはぬいぐるみを家に置いてくると言い、寝室へ向かった。

私とムイはククルが走っていったキッチンに向かった。


キッチンからコーヒーのいい匂いがする。

ムイは深呼吸でその匂いを愉しんだ。


私は紅茶をもらい、さっきの新作を口に入れた。

優しい甘さのホロホロとしたクッキーだった。

「ククルありがとう。すごく美味しいよ。」

私は精一杯の笑顔を見せた。

ククルはゆっくり頷いて自分もクッキーを口に入れた。


誰もおしゃべりをしないゆったりとした時間が流れた。


────


メイヤはチュンへの罪滅ぼしのためにゼスを道連れにしたのかもしれない。

チュンもそれをわかっているだろう。

一人の若者の命を奪うきっかけになってしまったメイヤ。

悪魔のくせに何百年も悔いた。

そして最後には自分の身を賭してチュンのために敵討ちをした。


私はメイヤが悪い男には思えなかった。

変なお辞儀をする料理上手な男。


悪魔もいつもより悲しげな顔をしていた。

「悪魔が逝ったか…」とつぶやいていた。

悪魔同士がどのように繋がっているのかはわからない。

しかしたくさんいる種族ではないだろう。

仲間が減ってしまうのは悲しいことだ。


ライハライトは悪魔だが、本当は心優しい人だ。

何も言わなかったがきっと心は傷ついている。


私たちはメイヤの話をしなくなった。

きっとみんな心の中で思っている。


(ありがとうメイヤ…お疲れさまでした)


────


目に見える脅威はなくなった。

魔族たちも城下町とハピリナを行き来し、毎日慎ましく平和に暮らしているようだ。


聖女は賢者を尻の下にひいているようで、賢者は聖女の言うままに国のために働いている。

孤児院では子供たちがのびのびと暮している。

戦争がないのでそこで暮らす子供が増えることはなかった。

そのうち必要なくなるかもしれない。


アッシュはリビルドの大陸のために日々働いているようだった。

辛く険しい冬を乗り切り、人間たちが健康に暮らせるために。

港町を整備して他の大陸との繋がりを作りたいと言っていた。

アッシュに任せておけば大丈夫だろう。

人間の力を信じている。

争いがまったくないわけではない。

ズルをしたり自分だけ得をしようとする者もいる。

そんな人たちをも含めてアッシュは人間を愛そうとしているようだった。


私にはまだできないことだった。

どこかで許せない気持ちがまだある。


すべての種族が平等に暮らせる未来はまだ遠い。


だから私にはまだやることがある。

まだ見ぬ土地で迫害を受けている人たちがいるかもしれない。

そんな魔族たちがまだどこかにいるかもしれない。


気持ちに余裕ができたらまた出かけよう。

この世界はまだまだ広い。


────


アリはぬいぐるみが気に入ったようでお風呂できれいにしてあげていた。

ルアンが風魔法で乾かすとふわふわになった。

ベッドで自分と同じくらいのサイズのぬいぐるみと寝ている。


セキはハムスターの姿が気に入ったようでドラゴンの姿になることが少なくなった。

アリと一緒にカゴの中にいるのが好きなようだった。


妖精たちは相変わらず、チュンが怒涛のようにおしゃべりをしてルアンがニコニコそれを聞いていた。


ありふれた日常が私には愛おしかった。

呪うことで気持ちを繋いでいたかつての私はもうここにはいない。



────第二部 完────



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