メイヤ
私はアッシュを連れてあの小屋に来た。
どうしてもこの小屋の下を確かめなければいけない。
近づくだけで足がすくんでしまう。
闇が私を覆い包んで身動きがとれなくなるような感覚になる。
この先は危険だ。
この先に行ってはいけない。
頭の中で心の中の声が響き渡る。
しかし、このままではまた大事な誰かが傷つけられてしまうかもしれない。
私はアッシュに(他のものに魔力を奪われない)と念じた。
ゼス相手にどこまで効果があるのかわからないが。
私も(絶対に悪いものには屈しない)と強く念じた。
足が動いた。
私はゆっくりと小屋にかけたハシゴを降りていく。
アッシュもついてくる。
洞窟はジメジメしていて凍るように寒かった。
私は炎魔法で辺りを照らしてみる。
明らかに強く嫌な気配がある。
アッシュも同じ方向から感じているようだった。
私たちは洞窟の狭くなっていってる道の方を進んだ。
さっきまで戦っていた黒い姿の者たちも全くいない。
洞窟は私とアッシュの歩く音と時々滴る水滴の音しかしない。
心臓が早鐘を打っている。
「シア殿!」
後ろからリリがやって来た。
「黙っていくとはひどいです!私がご主人様に叱られます!」
と怒っていた。
「言ったら止めるでしょ。」
リリは当たり前ですという顔で睨んでいた。
3人とアリとセキ、そして妖精たちでゆっくりと奥へ進んでいく。
みんな集中しているのか静かだった。
しばらく進むと大きな扉が見えてきた。
「この扉、見たことあるわ。」
私はあの時見たあの扉だと確信した。
(開くかな?)
私は扉を押してみた。
全く動かない。
アッシュも押したり引いたりしてみたがびくともしない。
「シア、私たちに任せて!」
いつの間にか後ろからレイとユイがメメちゃんと一緒に来ていた。
「物にも命があるのよ。」
メメちゃんはそう言うと扉を押しながら何かつぶやいている。
レイたちも同じように何かつぶやいた。
「レイたちは戻って…もし操られるようなことがあれば…」
私は二度と2人を失いたくなかった。
「悪いものに操られるくらいなら死ねって、私たちを呪って。」
レイは私の目をまっすぐみつめてそう言った。
ユイも頷いている。
「そんなことできないよ…」
(悪いものに操られそうになったらハピリナに飛ばされる)と念じた。
効き目があるといいけど…
「絶対に無理はしないでね。」
私は2人の覚悟を尊重した。
引き続きレイとユイは扉を相手に何か唱えている。
ギギギッ
扉はゆっくりと向こう側へ開いていった。
「2人はもう戻って!」
2人は首を横に振る。
────
私たちは扉の向こう側へと進んでいった。
石碑がある。
その向こう側には私があの時に出したいろんなものがそのまま落ちていた。
あの時と違うのは…
石碑のまわりは黒いモヤモヤが渦巻いていた。
リビルドの地下で見たあの水晶の中を思い出した。
チュンが浄化と昇華を試している。
セキは封印できないかと石碑に向かって「封印!」と叫んでいる。
(セキのスキルも適当だからな…)
アリが「壊したくなるけど壊したら封印解けちゃうよね?」と聞いてきた。
「多分、壊したらだめな気がする。」
ここにゼスがいるのは確実だろう。
チュンがずっと震えている。
リリがご主人様がいらっしゃいます。と言った。
私は辺りを見まわしてみた。
まだメイヤの姿はない。
来たはいいがどうすべきなのかまったくわからなかった。
下手なことをして取り返しのつかないことになれば大参事どころじゃ済まないだろう。
アッシュは近づき、触らないように石碑を観察している。
「このモヤモヤは霊的なものですかね?」
私は(止まれ)と念じてみたがまったく反応はない。
「私の呪いは効かないみたい。」
私がそう言うとレイが隣にやってきて、
「あれを試してみる。」
と言った。
私は少し後ろに下がった。
アッシュも隣りに来た。
レイはモヤモヤに向かって何かを唱えだした。
ユイもレイの隣で同じようにした。
黒いモヤモヤがピタッと止まった。
かと、思うと「キューーーッ」と鳴ってシュッと消えてしまった。
「やった!」
どうやら黒いモヤモヤは怨霊の類だったようだ。
私は私の生霊がシュッと消える想像をしてしまい身震いした。
モヤモヤが消えたので石碑に書いてあるなにかが見えた。
私には読めない文字だった。
ルアンが解読してくれた。
「魔王ゼスをここに封印する」
「封印が弱まったら……崩れてて続きが読めないですね。」
ルアンは悔しそうにそう言った。
(肝心なところがなくなっている)
急に足元がグラッとした。
石碑が振動している。
「壊そうとしてる!」
チュンが叫んだ。
私はレイたちに「もうダメ!帰って!」と言った。
この先はきっと危険だ。
私は2人とメメちゃんに向かって(魔王城へ瞬間移動しろ)と念じた。
すぐにレイたちは消えた。
(うまくいった)
私は石碑に向かい(崩れるな)と念じた。
ポロポロと崩れていたのが止まった。
「これはこれはみなさま、お待たせして申し訳ない。」
変なお辞儀をしながらメイヤがあの従者と共に現れた。
「ここからは私の仕事、みなさんはお帰りいただきたい。」
メイヤは真剣な顔でそう言った。
「どうするって言うのよ!」
チュンはメイヤの顔の前で叫んだ。
メイヤは微笑んで「光の妖精よ、私の罪が消えることはない。だが悔いていることを知ってほしい。」とチュンに向かって言った。
メイヤはリリに目配せをした。
リリは私たちとメイヤの間に結界を張ったようだった。
というより、メイヤと石碑を閉じ込める形で結界を張った。
「リリ!?どういうこと??」
「ご主人様の仰せのとおりに。」
リリはそう言いながら泣いていた。
無愛想なあの従者も膝をついて震えながらメイヤを見守っていた。
「何をするつもりなの?!」
私は嫌な予感がした。
メイヤは私たちに向けてまたあの変なお辞儀をした。
そしてクルッと石碑に向かい何かを唱えだした。
石碑はガタガタと揺れ出した。
リリはずっと結界を張る呪文を唱えている。
従者もそれに倣って唱えだした。
私たちはメイヤに近づくこともできず、ただその様子を眺めた。
(何をするっていうの?)
石碑の動きがだんだんと激しくなってきた。
終いにはくるくると回りだした。
チュンが「開けなさいよ!私を中に入れなさいよ!」と泣きながら叫んでいる。
「メイヤ!そんなこと!許さないわよ!!」
石碑が大きな音を立てて砕けた。
その瞬間大きな黒い雲のようなものが現れ、広がったかと思うと1ヶ所にギュッと集った。
(からだを…よこせ…)
私の頭に直接話しかけてきた。
私は抵抗した。
(絶対にお前なんかに負けない)
10cmくらいになった黒い球のようなそれは私に向かって飛んできた。
結界にぶつかり跳ね返った。
リリたちの結界の呪文が早まる。
(からだ…を…よこ…せ)
頭の中で繰り返しそう言っている。
メイヤは黒い球を捕まえた。
両手でしっかりと握りしめ、それを自分の胸に押し込んだ。
そしてこっちを向き「光の妖精よ、やることはわかっているだろう?」と言った。
チュンは泣きながら「バカ!!」と言い、昇華の呪文を唱えだした。
「何をするつもりなの??!!」
私はどうしていいかわからずアッシュを見た。
アッシュは何かを察しているようで私の手を握った。
「私たちに今できることはありません。」
黒い球は抵抗を続けていた。
メイヤの体は結界の中でバタバタと飛ばされていた。
リリたちはずっと結界の呪文を唱えっぱなしだ。
メイヤが結界にぶつかるたびに骨の折れる音やキズができる様子が見える。
しかし絶対に黒い球を離さなかった。
「もうやめて!死んじゃう!!」
私は結界を壊そうとしたがすぐにアッシュに止められた。
私は何もできない自分に腹が立ち涙が止まらなかった。
(もうやめて…こんなの見たくない…)
チュンは泣きながらも昇華の呪文を唱え続けた。
見たことのある光が差してきた。
メイヤの動きが止まった。
結界の中が虹色に輝いた。
メイヤは黒い球ごとキラキラとなって消えていった。
チュンは黙ってそれを眺めていた。
リリたちも黙って眺めた。
そして私たちも。
真っ暗だった洞窟はキラキラと輝いた。
そして消えた。
黒い球も。
メイヤも。
真っ暗になった。
私はハッとして急いで辺りを照らした。
「メイヤは?!どこに行ったの??」
私は探し回った。
パニック状態で探し回る私をアッシュが捕まえた。
「終わったんだよ。」
アッシュはしっかり私の腕を掴み、俯いてそう言った。
石碑もなくなっていた。
結界も解かれていた。
リリたちはさっきまでご主人様のいた場所にいた。
「私たちもご主人様のところへ行きます。」
と笑顔を見せた瞬間足元から黒い粉のようになって消えていく。
「リリ!どういうことなの!?」
私が近づこうとするとチュンが通せんぼをした。
「行かせてあげて…」
チュンは涙をこらえて私を止めた。
サラサラとリリと無愛想な従者は笑顔で消えていった。
「ご主人様と運命を共にする契約だったのよ、きっと。」とチュンはいつもの調子のように言ったが声は震えていた。
残された私たちは3人が消えていった空間を黙って眺めていた。
まだどうしてこうなってしまったのか頭が理解してくれなかった。
アッシュはそっとハンカチで涙を拭いてくれた。
私は泣いていることにさえ気がつかなかった。
────
チュンが「帰るわよ!」と言って扉の向こうへ行ってしまった。
ルアンもそれに続いた。
アッシュが「帰りましょう。」と言って私の腕を引っ張った。
私は重い足を動かした。
小屋の下までやって来た。
妖精たちはもう上にいた。
「上がれますか?」と、アッシュに聞かれたので私は頷いてハシゴを上がった。
「私の転移魔法だと城まで数回かかりますが1度城で休んで行かれますか?」
アッシュは心配そうにこちらを見ている。
「瞬間移動で帰れるわ。」
私はアッシュを掴みリビルドのアッシュの部屋に瞬間移動した。
「じゃあ、私は悪魔の屋敷に戻るね。」
アッシュにそう言うと腕を掴まれた。
「落ち着いたらまた会いに来てくださいね。」
私は頷いてアッシュの手を離し、屋敷に瞬間移動した。
───
屋敷に戻ると悪魔たちが心配した顔で近づいてきた。
ルアンが「報告は私がしておきます。」と言ってくれた。
アリとセキもルアンについていった。
私はチュンと一緒にお風呂にまっすぐ向かった。
チュンはお風呂に入るなり「バカメイヤ!!」と言って大泣きした。
「何カッコつけてんのよ!ほんとムカつくわ!!」
私もそれを聞いて大泣きした。
2人でわんわん泣いた。
目を閉じるとあの変なのお辞儀を思い出す。
「これはこれはシア殿。」
漆黒の二本の美しい角。
メイヤ────




