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黒い亡霊

リリが来てから私はさらに警戒を強めた。

北の大陸にも近づかないようにしていた。


アッシュにも近寄らないように言っておいた。

勇者も依代にするには十分強いと思われる。


リリはチュンにイジられながらも屋敷での生活を楽しんでいるように思えた。

「しばらく寝ている間に文明は進んだのね!」とコーヒーを飲みながらしみじみとしていた。

(ちょっと違うかもしれない)


私を守るために屋敷に居るはずだったが結界を張った以降は私の横にいるだけで特に何をするということはなかった。


悪魔たちはゼスがどうやって封印を破るつもりなのか調べているようだった。

今は不用意に動き回ってはいけないと言われている。

私たちは屋敷の中でできることを考えながら過ごしていた。


ムイはモニターを駆使して雪の大陸の監視を続けていた。

アッシュと密に連絡を取り合い、城の中の小さな変化も報告させていた。


私はスキルを眺め、組み合わせて何かできないかと考えていた。

スキルの特性を理解せずに使っているものが多いようでうまく使い切れていない気がしている。


「魔物とか虫とかに憑依して洞窟内を見に行くことはできないかな?」

私はリリに聞いてみた。

「憑依してるときにその魔物が殺されてしまったらシア殿はどうなりますか?」

と聞き返されて答えられなかった。

試してみたことはないし、失敗したら怖い。


やはり今できることは少なそうだった。


私ががっかりしているとレイのスマホから連絡が来た。

私は「レイ久しぶり!」と受けたが出たのはモリスだった。


「シアさん申し訳ない!レイとユイが拐われた!」

とパニック状態でモリスは叫んでいた。


どういうことなのか聞くと、見たことのない黒いものが集落を襲ったという。

急に真っ暗になり、気がつくと2人が消えていたのだという。

みんなで探したが集落にはいないという。


(黒いもの)

と聞いてガオルを思い出した。

私はもしかして!とスノードームを確認したがそこにはまだガオルが封印されているようだった。


私はモリスにこっちでも探してみると言って通信を切った。


私は神経を集中させてレイの気配を探した。

(シア…)

かすかにレイの声が聞こえる気がした。


(シア…私のことは心配しないで…)

脳内で聞こえる。

レイはテレパシーのスキルも持っていたっけ?

もしかしてそれも覚えてしまったのか?


(心配しないでってどういうこと?どこにいるの?)

私はレイに届くように話しかけた。

(私とユイは大丈夫だから探さないで…)


(どういうことなの?)


(シアに出会えて私もユイも幸せだよ…)


それを最後にレイの声は聞こえなくなった。

私はパニック状態になり、探しに行かないと!と右往左往した。

しかしどこを探せばいいのか全くわからない。

もう行くとしたらあの小屋の下しかない。


リリは何かを感じ取ったようで私の両腕を掴んだ。

「行ってはダメ!ゼスの思惑通りになるわ!!」

リリは泣きそうになっている。


「でも…レイたちが…」

(きっと怖い思いをしているはずだ)

「助けに行かないと…」

リリは離してくれない。


「ゼスは封印を解いたの??」

リリは首を横に振る。


「じゃあいったい誰がレイたちを…」


ムイが「アッシュかもしれない。」とつぶやいた。

アッシュに連絡がつかなくなり、姿も見えなくなったと言う。


「なぜアッシュが2人を?!」

私は頭が爆発しそうになっていた。

レイたちのことが心配でいてもたってもいられなかった。


「リビルドの城に行ってくる!」

私は瞬間移動しようと思ったがリリに掴まれていてできない。

「お願い、離して…」

涙が溢れるのがわかった。


レイの身に何かが起きている感覚がする。

リリは泣きながら私を掴んでいる。


何がどうなっているのかわからなかった。


ムイが「いた!」と叫んだ。

アッシュとレイたちはあの小屋にいた。


レイとユイは黒い何かに引っ張られているように見えた。

レイは「お願い!早く!」と叫んでいる。

ユイは何かを悟ったかのような穏やかな顔をしていた。


アッシュは泣きながら「できない…」と震えている。

「もう時間がない!!覚悟を決めて!」

レイは叫んだ。


アッシュは2人を剣で斬りつけた。

凄まじい光が辺りを照らした。

黒いものは消え去っていた。


「ありが…と…」


レイとユイはその場に倒れた。

2人は微笑んでいた。

微笑みながら2人寄り添う形で倒れていた。


アッシュは泣き崩れている。


「どういう…ことなの…?」

私は今何を見たのか全く理解ができなかった。


アッシュが2人を殺したの?


リリは相変わらず私を掴み泣いている。


ムイは顔面蒼白で声も出せない様子だった。

アリとセキは「そんなはずない!」とカゴの中から出てこない。

妖精たちも飛ぶことさえ忘れたようで床の上に座っていた。


アッシュは震えながら起き上がり、2人を抱えて消えてしまった。


小屋は無人になった。

物音ひとつしなかった。


「嘘だよね?」

私はムイを見た。

ムイは私から視線をそらした。


「アッシュはどこに?どこに消えたの??」

私は遠視で探し回った。

リリに押さえつけられても遠視はできた。


気持ちが動転していて探知すらまともにできない。

(こんな時に…こんな大事なときに…)


リリは一言、「勇者のせいじゃない」とだけ言った。


(じゃあ誰のせいだって言うの?)


────


みんな言葉を失っていた。

長い沈黙が流れた。


「アッシュを探さないと。」

私はまだ信じられないでいた。

(アッシュがあの2人を…そんなわけない)


リリはまだ私の腕を掴んでいた。

「今あなたが動けば尊い犠牲が無駄になるわ。」

リリは涙が止まらないようだった。


「犠牲って何?何を知ってるの??全部話しなさいよ!」

私は泣きながらリリを睨みつけた。


「ゼスはもうすぐ出てくるわ。」チュンが震えながら言った。

「きっとすでにその影響は出てるはず。かつての配下たちが集まってるのよ。」


「じゃあ、その配下がレイたちを?アッシュも配下だって言うの?」

私の頭の中はごちゃごちゃで理解が追いつかなかった。


「勇者は…勇者は…ゼスの配下なんかじゃないわ。」リリは何か言いかけてそれだけを言った。


「ゼスがいつ来るかわからないわ。すでにこの屋敷も囲まれているかもしれない。」とリリが言うと、

「そのようですね。」

ムイが窓の外を見て言った。


黒い亡霊のような姿をした人型のものがたくさん屋敷を取り囲んでいた。


「ご主人様も父上も魔王様の城に行ってるようです。」


私は急いで階段を上がった。

モヤモヤを出してククルたちをハピリナに避難させた。

「あとで迎えに行くから待ってて。」

ククルたちは騒ぐことなくモヤモヤをくぐった。


「絶対に許さない!」

私は屋敷の外に出た。

アリとセキも本来の姿になった。


「みんな、無理だけはしないでね。」

みんなは黙って頷いた。


私は黒い亡霊のような者たちに向かっていった。



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