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魔王城

(眠い…)


ほとんど眠れないまま夜は明けた。

皮肉にも外は良い天気のようだ。


”魔王城へ行く”


この屋敷の悪魔でさえ恐ろしいのにそのボスである魔王に会うだなんて考えただけで震える。


私は重い足取りで身支度を整え広間に向かった。

悪魔は私を見つけると一緒に朝食を取るように言った。


ククルの作った温かいスープとパンが用意されていた。

いつもは美味しい食事も今日は食べた気にならなかった。


(行きたくないな…)


仮病でも使おうかと考えていると


「よし、出発だ。」


悪魔はそう言うと自分の近くに来るように言った。

ムイと私は悪魔の隣に立つ。

悪魔はムイと私の腕を掴み何かを唱えた。


一瞬目眩がした。

閉じてしまったまぶたをゆっくりと開ける。


そこには見たこともない暗く禍々しい大きな城があった。

あんなに良い天気だったのに上空はなんだか薄暗く、今にも雷でも落ちてきそうな空だった。


「行くぞ。」


悪魔は城の方へ歩いていく。

ムイは私を悪魔の方へ促した。

しかたなく悪魔についていく。


途中に門番やら警備中らしき人のような見たことのない姿の者がたくさんいた。


そっとムイにあの人たちは何か聞くと「魔族の方たちですよ。」と教えてくれた。

悪魔やムイのように美しい身なりの者はあまりいなかった。


城の中はひんやりとしていてやはり薄暗かった。

長い廊下はまっすぐと続き、大きな部屋に繋がっていた。


部屋の突きあたりは数段の階段状になっており壇上の真ん中に大きくて立派な椅子が置いてあった。


悪魔は階段の少し手前で止まり片膝をついた。

ムイと私もそれに倣った。


ほどなくしてその人は現れた。


魔王だ。


悪魔でさえ目線を合わせることなくひれ伏しているようだった。

私も同じように床をみつめる。


「よく来たなライハライトよ。」


まるで少女のような声だった。


(これが魔王様?!)


私は怖くてその姿をまだ見ることができていない。


「面を上げよ。」


そう言われ私は恐る恐る顔を上げる。


壇上の椅子に腰掛けていたのは小さな女の子だった。


(あれ?見覚えがある…)


悪魔がくれたあのスノードームの中にいる女の子によく似ていた。


私はキョトンと間抜けな顔をしていただろう。


「魔王様、ご機嫌麗しゅうございます。」


悪魔は慣れた雰囲気で挨拶をする。


「ライハライトよ、堅苦しいのはやめておくれ。」


そう言われ悪魔はくすっと笑い立ち上がった。


「これが噂の呪物でございます。」


そう言うと私を魔王と思われる少女の前に差し出した。


「シアと申します。」


私はなんとか名前を言いペコリとお辞儀をした。


「私は魔王ミュキラスじゃ。よろしくな、シアよ。」


(やっぱりこの少女が魔王なんだ)


昨日寝る前にいろいろ想像した魔王とは全然違うものがそこにいた。


赤いマントを羽織ってはいるものの見た目は10歳くらいの可愛らしい少女だった。

サラサラの長いストレートの髪の毛はツインテール。

大きな瞳は黒くほんのり赤みがかかっていた。


魔王は私をジロジロと見てはニコニコと笑っていた。


「どうぞお手柔らかにお願いしますよ。」


悪魔は呆れた表情で魔王に向かい言った。


「わかっておる!」


魔王はぷくっとほっぺを膨らまし

「ついて来い。」

と来たときとまた違う長い廊下を進んで行った。

私も悪魔に言われあとをついていく。


薄暗い廊下は続く。


魔王はたくさん並ぶドアの1つの前で止まり入って行った。

部屋の中は廊下の雰囲気とはまるで違う温かな居心地のよい部屋だった。


屋敷の地下室のように壁際には本棚があり、ぎっしりと本が並んできた。

ソファや机とテーブルもあり元の世界の図書館を思い出させる。


「シアはここにいるがよい。」


魔王はフカフカの長椅子に座り私に向かえに座るように言った。

悪魔とムイは部屋の隅で何やらヒソヒソと話をしている。


私は魔王と向き合った。


魔王は終始ニコニコとしていた。


「レベル83とは!がんばっておるな!」


魔王はどうやら鑑定スキルを持っているようで私のステータスやらスキルのことを言い当てては褒めてくれた。


「こんなにたくさんのスキルを持ってるやつはなかなかおらんぞ!」


部屋の隅から見ていた悪魔はそうだろう!と言わんばかりのドヤ顔をしていた。


魔王に褒められた私はなんだか照れくさくなってしまった。

元の世界では褒められることなんてなかったからかなり新鮮だった。


「悪魔からお主のことは詳しく聞いておる。この部屋を自由に使ってよい。いつものように人間どもに痛い目に遭わせてやれ。」


「一人の方がよいのじゃろう?頼まれていた資料は机の上じゃ。ではまた夕食の頃使いを寄こす。」


そう言って魔王は悪魔とムイを連れて部屋を出ていった。


急に広い部屋に一人にされてしまった。

私は不安になりドアを開けて廊下に出た。


もう誰の姿もなかった。

下手に移動して迷子になってもよくない。


私は心を決めて机の上にあった資料とやらを見ることにした。


数枚の紙には戦場と思われる谷の場所の地図と重要人物と思われる戦士やら魔法使いの肖像画が描かれていた。

どうやらこの人たちが今回のターゲットらしい。


とりあえず地図を頼りに遠視をしてみる。

身分証のナビゲーション機能がかなり役立った。


はじめての場所ではあったがそこはすぐにみつかった。


大勢の魔族と思われる人たちと鎧をまとった人間たちが戦っていた。

私がその場に居たら瞬殺されるだろう。

剣や魔法が飛び交い、戦場はカオス状態だった。


前線から少し下がったところにターゲットを数人みつけた。


私は意識を部屋に戻しどうするか考えた。


(痛めつけてやれって言ってたっけ…殺さなくていいってことかな?)


やはり殺すことには抵抗がある。


私はとりあえず生霊を戦場に向かわせた。


(とりあえず撤退させてみるか)


私はターゲットの司令官と思われる戦士に撤退の命令を出すように念じてみた。


戦士はビクッとしてすぐに大声で撤退の合図を出した。

周りにいた幹部のような人たちが何ごとかと戦士に言い寄ったので私は幹部たちの口を閉じた。

そして戦士の命令に従えと念じた。


人間の軍隊はみるみるうちに撤退していった。

魔族のリーダーらしき巨人は深追いさせることなく自陣を整えるように命令した。


日が落ちかけている。

魔族たちはその場でキャンプをすることにしたようで前線はしっかりと見張りを立てながらテントを建て野営の準備を始めた。


私は人間たちが撤退していった方へ向かった。


人間たちも近くの村で野営をするようだった。


私はさっきの戦士に「戦争なんて馬鹿らしい。家に帰りたくなる。」と思うように念じた。


戦士は荷物を背負いみんなに

「俺は帰る。」

と言い走って去っていった。


幹部たちもそれに倣い荷物をまとめてその場を去っていった。


残された兵士たちは困惑し野営地は混乱状態になった。

ある兵士が「俺たちも家に帰ろう。」と言うと兵士たちは待ってました!と言わんばかりに荷物を背負い方々へ消えていった。


野営地はあっという間にただの村に戻り、静かになった。

みんな戦争がしたくて集まっていたわけではなさそうだった。


私は安堵し、居心地のよい部屋に戻った。

目を開けるとすぐにムイがやって来ていつものように

「お疲れ様でした。」

と笑顔で言った。

そして夕食だと言い屋敷の広間の10倍くらいはありそうな広い部屋に案内された。


立派な大きなテーブルに椅子がたくさん並んでいる。


その端に魔王と悪魔は座っていた。

楽しく談笑しながら酒を飲んでいた。

少女にしか見えない魔王もワインのような酒を飲んでいた。


(どうも似合わない…)


私は少女と酒という元の世界では見慣れない光景に違和感を覚えた。


魔王は私をみつけると悪魔の向かいに座るよう言った。

私は恐る恐る椅子に腰掛ける。


(殺さなかったこと、怒られるかな…)


「人間どもは家に帰ったらしいな!」


魔王は大笑いしながら私に向かい、よくやった!と褒めた。

冷や汗をかいてた私は怒っていないだろう雰囲気に安堵した。


「今日はゆっくり休め!」


魔王は食べ切れない量のごちそうを運ばせふるまってくれた。

私は緊張しながらも昼飯抜きだったことを思い出したくさん食べて飲んだ。


魔王は終始戦場であったことを話し悪魔と笑っていた。

まるでその場で見ていたかのように話す。

私が不思議に思っていると


「わしも遠視が使えるのよ。」

とニヤリと笑った。


(なるほど)


「さすがにシアの生霊は見えなかったがな!」

と大声で笑った。


(魔王にも見えないのか…)


私は少し自分のことを誇らしげに思った。

気配遮断は魔王にも通用している。


「しばらく人間どもは攻めてこないじゃろ!明日は遊ぼうぞ!」

無邪気な笑顔で魔王はそう言うと眠そうな顔をし、従者に連れられ部屋をあとにした。


悪魔も立ち上がり「私たちもそろそろ休むことにしよう。」

と部屋を出ていった。


私はさっきの図書館のような部屋にベッドはあったかな?と考えていたがムイが

「寝室にご案内します。」

と言うので図書館で寝るのは免れたようだ。


案内された部屋は高級ホテルのような豪華な造りだった。

フカフカのベッドは天蓋付きだった。

まるでお姫様の部屋のようなところに一人にされた。

部屋にはお風呂もあった。

私はたっぷりとお湯をはり、ゆっくりと湯につかった。


今日一日の疲れがどっと出てきて風呂で溺れそうになった。

慌てて風呂からあがりベッドに飛び込む。


(ふかふかでなんて気持ちいいんだろう…)


寝不足だったのもあり私はすぐに眠りについた。


夢の中でスノードームの少女が犬と踊っていた。



────


「起きろっ!!」


という少女の可愛らしい声がしたかと思うと布団の上に何か重いものを感じて私は目を覚ました。


目を開けると目の前には魔王がニコニコと私が寝ている上で飛び跳ねていた。


「街に出かけるぞ!」


魔王は寝ぼけている私の頬を叩くと従者に「支度を手伝え!」と言い私を着替えさせた。


私はされるがままに魔王に腕を引っぱられ城をあとにした。

そこには馬ではなく竜のような魔物がひく馬車のような乗り物があった。

魔王と私はそれに乗り込む。


馬車のように道を進むのかと思ったらその乗り物は空を飛んだ。

竜は羽を広げ羽ばたいた。


ものすごいスピードで空を飛ぶ。

すぐに魔王の言っていた街についた。


どうやらここは魔族の住む城下町のようだった。

小高い丘の上に魔王城が見える。

離れた場所から見る魔王城はやはり薄暗い雰囲気ではあったが圧巻の存在感を放っていた。


(こんなに存在感のあるところに住んでいて人間に攻めて来られたりしないのかな…)


私が疑問に思っているとすぐに魔王が

「人間には見えないように魔法をかけてあるのよ!」

と教えてくれた。


私がまさか心を読まれてる?!とビクつくと

「なんとなくわかるのよ。」

と、魔王はニヤリと言った。


どこまで本当かわからないが滅多なことは思わないようにしようと私は悟った。



魔王は従者を振り切り私を引っぱってはいろんなところに案内してくれた。

街の人々は魔王の姿を見ると恐れるわけでもなく「魔王様!おはようございます!」「魔王様!今朝取れた○○です。お召し上がりください!」などと声をかけてきた。


魔王は明らかに街のみんなから慕われていた。


(いい街だな…)


魔王は今までで最高のドヤ顔を見せ、

「いい街じゃろ!」

と言い、私は「はい、とても。」と返事をした。


そして急に暗い顔つきになり、


「戦争なんてしたいわけじゃないのだよ…」


と言った。



(魔王から仕掛けたわけじゃなかったのか)


この魔王は私が知っている魔王のイメージとは全然違う見た目と心の持ち主だった。


いつしか”この人の力になりたい”と思うようになっていた。


それほどに魅力的な少女だった。


従者にそろそろ帰りますよ!と怒られた魔王は渋々さきほどの乗り物に乗った。


竜がひく馬車は空を駆け抜けあっという間に魔王城の門まで移動した。


「魔法で瞬間移動もできるんじゃが、わしはこの乗り物が好きでな!かっこいいだろ!」


魔王は愛くるしい笑顔で竜を撫でた。


私は笑顔で頷いた。「はい、とても!」



城に戻ると悪魔とムイは娯楽室のようなところでくつろいでいた。


「おや、おかえり。」


悪魔はニヤニヤしながら出迎えてくれた。


「魔王は面白いだろう。」


私はこくりと頷いた。

悪魔は嬉しそうに笑った。


その後も魔王は私の腕をひっぱり城の中を連れ回した。


城は悪魔の屋敷とは比べものにならないくらい広く、一人でいたら迷子になるだろうという造りをしていた。


小一時間私を連れ回した魔王は急に「疲れた!昼寝する!」

と言い私を図書館のような部屋に置いていった。

またこの部屋で一人にされた。


私はゆっくり本棚にある本を読むことにした。


悪魔の屋敷にはない本がたくさんあった。

小説のような物語や料理のレシピが書かれた料理本などもあった。

私はいろんな本を読みあさり、あっという間に外は真っ暗になっていた。


ムイがやってきて「ご主人様は先に屋敷にお戻りになられました。」と言った。

ムイは私の世話をするように言われ残ったと言う。


休戦状態なのだから悪魔も仕事がないのだろう。


(私も戻ってもよかったのでは…)


と思ったが、夕食での魔王を見ると


(なるほど、そういうことか)

と思わされた。


魔王は私を友達とでも言うような扱いをした。

瞳をキラキラと輝かせ武勇伝から従者や町の人の笑い話まで聞かせてくれた。


元の世界で友達のいなかった私にはとても新鮮でとても楽しいひとときだった。


私は魔王のことが大好きになっていた。



それから1週間ほど私は魔王城に滞在した。

ほとんどを魔王と遊んで過ごし、ときどき進軍してくる人間たちを撤退させた。


魔族の野営地は見張りと数人の部隊を残してこちらもそのほとんどが撤退していた。

交戦する前に撤退させていたので両陣営ほぼ無傷だった。


それに魔王は満足気で撤退させるたびに褒めてくれた。


「ずっとここにいればいいのに!」


また可愛らしいほっぺをぷくっと膨らませ魔王は私を迎えに来た悪魔に向かって駄々をこねた。


「1週間の約束です。」


悪魔は荷物をまとめた私とムイの腕を掴みまた何かを唱えた。


まためまいがしたかと思うともう悪魔の屋敷に戻っていた。


たった1週間離れていただけなのになんだか懐かしさを覚えた。


(また行きたいな…魔王城…)


魔王のふくれっ面を思い出し私はくすっと笑った。

悪魔はそんな私に「またそのうち連れて行ってやる。」

と言ってくれた。


ククルはご馳走を用意して待っていてくれた。

久しぶりのククルの料理は魔王城に比べると質素に感じたが食べるとなんだか懐かしく、体中に染み渡った。


(帰ってきたんだ)


そう私に思わせた。

いつの間にかこの屋敷は私のホームになっていた。


”私の居場所”


心地よい響きだ。



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