(番外編)俺は勇者
俺は勇者。
名前はアッシュ。
やっと寿命をまっとうしたと思ったのに、目が覚めると俺は異世界にいた。
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俺はイケメンだった。
そして勉強もできた。
それに運動もできた。
完璧な人間だった。
高校生の俺は最強だった。
みんなに好かれて毎日がとても幸せだった。
しかしある日、俺は病気になった。
進行性の難病で筋肉がだんだん動かなくなり、やがて心臓も止まると言われた。
俺は荒れた。
今までの人生で挫折や絶望を感じることなんてなかったからだ。
人を遠ざけ、まわりで心配してくれている人たちを傷つけた。
何もかもがどうでもよく感じてしまって人のことも自分のことでさえも何も考えたくなくなった。
だんだんと自由を奪われていく感じは俺の心を蝕んでいった。
学校にも行けなくなり、大学進学も諦めるしかなかった。
できることがたくさんあったのに。
やりたいことがたくさんあったのに。
いつの間にか俺のまわりには人が寄りつかなくなっていた。
介護の人が最低限の世話をしてくれるだけだった。
話すこともできなくなってしまった。
大事な人に感謝を伝えることもできなくなってしまった。
俺は後悔した。
残りの時間をどうして残される人たちのために使わなかったのかと。
俺のことを心配してくれたたくさんの人を傷つけてしまったことを。
悔いても悔やまれない後悔をした。
俺は死んでしまった。
話すことも笑うこともできないまま。
(ごめん、みんな)
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俺は目を開けた。
こんな俺でも天国に来れたんだ、と思った。
たくさんの人に囲まれ、みんな喜んでいた。
(俺が死んでこんなに喜ばれるなんて)
俺は少し悲しくなった。
「勇者様バンザイ!」
人々は俺に向かってそう唱えている。
おかしな天国に来てしまったのかと思った。
俺はここでうまくやっていけるだろうか。
俺がぼーっとそんなことを考えていると、1人の変な格好をしたおっさんが話しかけてきた。
(コスプレか?)
「勇者様、突然召喚されて驚きのことでしょう。」
おっさんは紫色の布をまとい、手には杖のようなものを持っていた。
まるでゲームに出てくる魔法使いだった。
(勇者 召喚 ん?俺が??)
そこから俺は質問をしまくった。
そして自由に動く手足を見て喜んだ。
普通に動けるということの尊さをひたひたと感じた。
生きているということの素晴らしさを!!
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その後、俺は勇者という主人公設定を楽しみ、それから絶望することになる。
そんな俺に光が射した。
1人の美少女の存在だ。
彼女は突然現れた。
最初はなんとなく感じただけだった。
俺を見ている美しい瞳を。
そして出会うことができた。
すぐにわかった。
(運命の人だ)
俺は必死に気がついてほしくてアピールをした。
彼女もこちらに気がついていたがすぐにいなくなってしまう。
(シャイなんだな)
ここに転生した姿もイケメンだった。
美少女とは言え、イケメンを前にすると照れてしまうのかもしれない。
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そしてとうとう俺は彼女の仲間になれた。
ともに悪党をやっつけたのである。
今の俺には国の再建という大きな仕事がある。
本当は彼女に隣で支えてもらいたかったのだが、真の主人公にはまだやることがあるのだろう。
俺は寂しかったが彼女は定期的に会いに来てくれる。
オバケのような透きとおった姿で話しかけてくれるわけでもないが。
俺はその彼女の邪魔をしないようにいつもアイコンタクトだけしている。
彼女はそれを見るといつも消えてしまう。
(今日も俺はがんばっているよ!)
というメッセージが伝わったからだろう。
だから今日も頑張っている。
俺を支えてくれる人がいる限り。
俺を頼りにしてくる人がいる限り。
主人公ではなかったが、今の俺にはできることがたくさんある。
前の人生でできなかったことが今できる。
それに気がついた。
後悔はしたくない。
もうまわりを悲しませたくない。
勇者と呼ばれるこの第二の人生を大事にしよう。
自分だけのためじゃなく、まわりの人も幸せになるように。




