交差
私は東の大陸を一周してしまった。
かなり広い大陸だったが城もなければ街もなかった。
ときどき崩れた小屋のようなものはあったが誰かが生活しているような形跡は一切みつけられなかった。
私はムイにマップを見せながら報告をした。
「こんなに広くていい土地なのに誰も住んでいないみたいなんだよね。」
「人間たちに荒らされるよりもいいのかもしれませんね。」
ムイはマップを細かく確認しながらそう言った。
「あれ?これは何でしょう?」
ムイが指差したところには洞窟の入口のようなものがあった。
「ダンジョンの入口じゃない?」
私も目を凝らして見てみた。
「こんなのあったかな?気がつかなかったな。」
私はすぐに遠視で確認しながら地下室のモニターに映してみた。
2人でなんだろう?と確認しているとかすかに煙のようなものが見えた。
煙はどんどん黒く大きくなってそこから出てきた。
よく見ると火柱のようなものも見える。
「ちょっと見てくる!」
私はそこに瞬間移動した。
洞窟の入口のような穴から火が上がっていた。
(火事?!)
私は咄嗟に水魔法を出していた。
(どこから火が?)
私は火元を探すべく水魔法をかけながら中に入っていった。
火は奥からどんどん出てきた。
私はビシャビシャになりながら奥へ進んでいった。
道はどうやら下に向かっているように見えた。
坂になっていてまるで螺旋階段のようになっていた。
やっと煙が収まり、辺りは水蒸気が上がっている。
(火元はどこだろう?)
かなり水をかけたのでもしかしたら下に溜まってしまったかもしれない。
進んでいくと声が聞こえてきた。
「どうしよう!どうしよう!」
たくさん人がいる気配がした。
私は透明化で姿を消してゆっくりと近づいた。
そこには町があった。
私が知っている家とは少し違う形の少し小さな家がたくさんあった。
そこには少し小さな人たちがたくさんいた。
「コボルトね。」
チュンが小声で教えてくれた。
燃えていたのはどうやら家らしい。
1つがまる焦げになっていた。
そのまわりにコボルトたちは集まり、水浸しになってしまった辺り一面を見て「どうしよう」と困っているみたいだった。
私は自分のせいでこんなことになってしまったとわかり、急いで水を蒸発させた。
シューッという音とともに水は消えた。
コボルトたちはびっくりしている。
「いったい何が起こったんだ?」
「水が消えた。」「水が消えたな。」
「コボルトって凶暴な種族?」
私はチュンに小声で聞いた。
「誰だ!誰かいるぞ!」
コボルトたちは私に気がつきキョロキョロし始めた。
「コボルトは凶暴なんかじゃないぞ!」
「凶暴なわけないじゃないか!」
「優しいいい種族だぞ」
コボルトたちは騒ぎ出した。
私はみんなの前に姿を表した。
「ごめんなさい。」
急に私が出てきたのでコボルトたちは一斉に尻もちをついた。
「何だお前は!」「どこから来た!」「お前が水をかけたのか!」
コボルトたちは一斉に喋る。
「火事なのかと思って水をかけました。ごめんなさい。」
私が謝ると、
「そうだ!火事だった!」「危なかった!」「他の家も燃えるところだった!」
また一斉に話しだした。
奥の方から髭の立派なコボルトがやって来た。
「ここはコボルトの里じゃ。お前が火事を消してくれたのか?」
と聞かれたので「はい」と正直に答えた。
髭のコボルトは「ありがとう」と頭を下げた。
「わしはこの里の長、ナキと言います。あなたはいったい何者じゃ?」
私は「この土地を探索していたら煙が見え、火もあがっているようだったので消そうと思って…」
通りすがりであることを伝えた。
「旅のお方か。これは助かった。本当にありがとう。」
私は「シアと言います。西の大陸から来ました。」と自己紹介をした。
「これはこれは!妖精もご一緒とは!」
チュンとルアンを見て驚いていた。
コボルトたちは私に近づくことなく一定の距離を保ってこちらを観察している。
「妖精なんてみたことない。」「妖精って小さいな。」「飛べるなんて便利だな。」
「お客は久しぶりだ。ぜひ話を聞かせてくれ。」
ナキは手招きしてついてくるように言った。
私はコボルトたちの視線を集めながら奥へとついていった。
ナキが「中へどうぞ」と言ってくれたが、ドアは小さくて入れそうになかった。
「大きな人だな、ではそこへどうぞ。」と切り株を指差した。
私はそこに座った。
小さなカップにお茶を淹れて持ってきてくれた。
「いただきます。」
一口で飲み干してしまった。
ナキは里のことを教えてくれた。
コボルトたちはめったに外に行かないという。
昔、人間たちに村を襲われてからここに逃げてきたのだという。
それから数十年地下で暮らしているという。
地下と言うのに暗さを感じない。
「ヒカリゴケがびっしり生えてますね。」
ルアンが嬉しそうに壁を見ていた。
アリとセキが「お腹が空いた!」と出てきた。
ナキは「これはこれは!喋るネズミとは珍しい!」
アリとセキは出てきて「ネズミじゃないよ!闇の守護神、アリだよ!」
「ボクはドラゴンのセキだよ!」
セキは小さなドラゴンの姿を見せた。
「守護神とは!聞いたことしかありません!ドラゴンとは!!絶滅したと聞いてますが!!」
コボルトたちはザワザワと私たちを見ながら何か口々に喋っている。
「今日は珍しいお客様が来た記念の宴じゃ!食べ物と酒を用意しろ!」ナキが大声を上げるとコボルトたちは喜び食べ物や酒の用意を始めた。
私たちは圧倒されて言われるがまま接待された。
コボルトたちは踊ったり歌ったりとても楽しそうだった。
妖精たちはお祭り好きなので一緒に踊ったり歌ったりしていた。
アリとセキは美味しい料理に大興奮だった。
私もすっかり楽しくなっていつの間にかコボルトたちと仲良くなっていた。
私はナキに地上にはもう人間がいないことを伝えた。
しかし人間への恐怖心はかなり強いようでこのまま地下で隠れて暮らすと言われた。
人間は自分たちと違う姿のものに明らかな嫌悪感をいだき、迫害し、排除しようとする。
見た目が違うだけでこんなに愉快な人たちなのに。
ハピリナにいる魔族たちもそうだった。
醜いから怖い。怖いから束になって排除する。
何もしていないのに。
またブスだった頃を思い出した。
何気ない一言で傷ついていた身も心もブスだった頃を。
今の私はこう思う。
『人にされて嫌なことは他の人にしない』
どこまで自分の言動に責任が持てるかわからない。
だからこそ簡単に下手なことを言っちゃダメだ。
そう心に刻んで生きる。
せめて自分のまわりは幸せでいて欲しい。
そのための努力なら惜しまない。
大事な人たちの笑顔を守りたい。
(私、変わったな)
卑屈になって下ばかり見ていたのに。
今はこんなに笑っていられる。
たとえ悪役ポジションだとしても。
夜になったようで「そろそろお開きにしようか」とナキが言った。
みんなは片付けを始めた。
「泊まっていってほしいんじゃが、シアが眠れるベッドはここにはないのよ。」
ナキは残念そうに言った。
「十分楽しませてもらいました!今日はもう帰ります。」
私はナキと握手をして螺旋状のスロープまで見送ってもらった。
「また来てもいい?」と聞くとナキは悲しそうな顔をした。
「また運命が交差したら出会えるかもしれないな。」
ナキは微笑んでそう言った。
私は意味もわからず手を振った。
コボルトたちも手を振った。
────
私は瞬間移動で屋敷に戻り、ムイにその話をした。
「コボルトは数十年前に絶滅したと聞きましたが…」
ムイは首を傾げている。
「そんなことないよ!」
と私はあの洞窟の入口のような穴を探した。
「あれ?ここにあったよね?」
ムイもその入口は見たと言っているがまったくみつからない。
いくら探してもみつからなかった。
私はあれが夢だったのではないかと思い始めた。
(夢だとしたらいい夢だったな)




