東へ
私たちはシエナに会いに来ていた。
よろず屋につくとお客が数人いた。
私たちは客が帰るのを待ってシエナに声をかけた。
「シアさん!ひどいじゃないですか!」
シエナは挨拶もしないで消えた私たちを責めた。
そして改めて「ありがとうございました。」と言った。
いつものように準備中の札を下げ、裏庭へ案内された。
小屋につけた鉢植えは青々と茂っていた。
「順調です、そしてこっちには…」と温室とまではいかないが天井をガラス製にして光が入るようにと設計した小さな小屋のようなものを建てている最中だった。
「大工さんが仕事のないときにちょっとずつ作ってくれているの。」とシエナは嬉しそうに説明してくれた。
「これができたらもっとたくさん採れるようになると思うわ。」
シエナは遠くを見る目でそう言った。
(ちゃんともっと先を考えてくれていたんだね)
シエナに「またそのうち遊びに来るね」と別れを告げ、病院へ向かった。
病院は前と違い患者が減っているように見えた。
エトはすぐに私たちをみつけ駆け寄ってきてくれた。
「シアさん!気がついたらいなくなっちゃって悲しかったですよ!」とエトにも怒られた。
ムイが「やっぱり」という顔をしていた。
エトはもう交代の時間だからと言って私たちを自宅に招いてくれた。
帰ると父親もいて、その後のダンジョンの話をしてくれた。
「安全にルールを守って使えるように整備しています。」
と父親は今進めている計画を話してくれた。
今は昼間だけ開放していること、出入口を封鎖できるようにして夜間はカギをかけていること、中に入るときには時刻や名前を台帳に記入して出入りをチェックしていることなどを話してくれた。
「今はうるさく管理していますがみんながそれが当たり前だとわかったら管理をやめる予定です。」と言った。
(ちゃんとやっていてくれたんだね)
「おかげで薬草もたくさん採れたし、魔物から得られる素材も役立ってるよ!」エトは嬉しそうに薬草をみせてくれた。
薬草のおかげで病院の仕事も楽になったそうだ。
「よろず屋でも薬草を売り出したのもよかったみたい。」
必要な人の手にも渡るようになったらしい。
「お金儲けじゃなくてみんなが健康に暮らしていけるようにみんなで考えるようになりました。」
と父親は最後に話してくれた。
「安心しました。」
私たちはエト家族に別れを告げて例の食堂に向かった。
アリがどうしても寄りたいというからだ。
「セキにも食べさせてあげたい!」
セキも喜んでいる。
私はセキにも(人間には見えない)と念じた。
食堂はいつものように混んでいた。
私たちが入ると「いらっしゃい!久しぶりね!」と娘は覚えていてくれたようだった。
「今日はどうしますか?」と聞かれ、「しばらく来れないと思うから少し贅沢をしたい」と言った。
娘は「おまかせください!」と言って厨房に入っていった。
すぐにテーブルは美味しそうな料理でいっぱいになった。
「野菜があるね!」と言うと「新鮮なダンジョン産だよ!」と教えてくれた。
(野菜なんてあったっけ?)
チュンが「食用の植物もたくさん生えていたわよ。」ともぐもぐしながら教えてくれた。
みんなお腹いっぱいになった。
そして心も満たされた。
(いい街だな)
私たちは銀貨を渡し店を出た。
「多すぎだよ!」と娘は言ったが、「気持ちだから受け取って欲しい」と言って置いてきた。
街の外れの人目のないところまで来ると私たちは船に瞬間移動した。
船は変わることなく夜の海に浮いていた。
「乗りたい!動かして!」とセキに頼まれたので小舟を引き上げてから(近くの島まで移動しろ)と念じた。
船はゆっくり真っ暗な海の沖に出ていった。
私はもれなく船酔いを起こし、船尾で吐いていた。
それを見かねてセキが「もういいや」と言った。
なんとか島まで到着し、降りることができた。
私は無人なのを確かめ船を手のひらサイズにした。
(思い出にとっておこう)
すぐに屋敷に瞬間移動した。
────
屋敷では遅くなったにも関わらず悪魔とニヤが出迎えてくれた。
レイも来ていて「見てたからわかった。」と言った。
私たちは再会を喜び遅くまで近況を報告し合った。
レイは毎日ユイに会いに行っていた。
あの集落の人たちとも打ち解けて今では仲間のように扱ってくれているらしい。
「メメちゃんも大きくなったよ!」と喜んで報告してくれた。
最近では魔王と一緒にメメちゃんのところへ行くらしい。
「もう私がいなくてもメメちゃんは大丈夫だと思う。」
と、レイは真剣な顔をして私をみつめた。
「私、ユイと暮らしたい。」
集落の人たちと魔王には了承済だった。
私はレイを抱きしめて、「家族と一緒に暮らせるのはとても幸せなことだよ。」と言った。
レイは泣きながら「ここのみんなも家族だよ。」と言ってくれた。
みんな笑顔で「みんな家族だね!」と笑った。
私たちは久しぶりに1つの寝室で寝ることにした。
レイは猫の姿になったが、前よりも大きく毛も艷やかになっていた。
(いつの間にか成長してたんだね)
私たちは久しぶりにゆっくり眠った。
────
朝になり、ククルは腕によりをかけた!と豪華な朝食を用意してくれていた。
悪魔もニヤも賑やかな食卓に嬉しそうだった。
ムイはずっとニヤに雪国での話をしていた。ニヤは微笑みながら黙って聞いていた。
朝食を済ませ、私はレイとユイのいる集落へ向かった。
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ユイは私をみつけるとすぐに抱きついてきた。
「レイと暮らせるのね!」
私と来たことで察したようだった。
すぐにモリスが来てくれて家に招いてくれた。
テーブルにお茶を用意してくれてレイとユイのその後の様子を話してくれた。
2人は共鳴するかのようにお互いのスキルを吸収したという。
今では2人とも遠視や瞬間移動ができるという。
(チートな双子 誕生)
「今はうちでレイも一緒に暮らそうと思っていますが、2人は新しく家を建てたいと言っています。時間はかかるだろうけどそれも見守りたいと思っています。」
とモリスは話してくれた。
別れ際にレイに「私もセキが持っているやつが欲しい。」と言われた。
どうやらスマホでゲームをしている様子を見られていたらしい。
私はレイとユイ用に同じものを出してあげた。
アリは「4人でゲームしよう!」と喜んでいた。
集落の人たちにも挨拶をして私はレイに「またね」と言って屋敷に戻った。
(幸せに暮らせますように)
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私はこれから何をしようかと地下室で考えていた。
ゼスがどこかで封印されているとするなら場所を特定したい。
魔王や悪魔もその存在を知らないという。
私はマップを確認してみた。
屋敷のある大陸の西側にダイオの城がある大陸があり、その北にリビルドの城がある雪の大陸がある。
今いるこのサザナの大陸から東側は広い海が続いているようでその先の情報はない。
ムイも行ったことがない。と言っていた。
私はサザナ周辺のマップを作るために探索に出ることにした。
長椅子に横になり生霊になる。
(まずは東に何があるのか確かめよう)
私はひたすら海の上を東に向かった。
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ときどき無人島のような小さな島があった。
見た感じ手付かずの大自然という感じだった。
(この世界も地球のように球体なんだろうか?)
しばらく進むとジャングルのような雰囲気の背の高い木が立ち並ぶ森が見えてきた。
屋敷のある辺りより少し暖かく湿度も高そうな感じがする。
魔物の気配はあるが人間や魔族の気配はしない。
私はマップを開拓するために海岸線を北上した。
砂浜があったかと思うと急に崖のような小高い丘が現れたりなかなか高低差が激しい地形が多く見られた。
相変わらず人の気配はしない。
もう少し北上すると港町のような町が見えた。
漁港のようで漁船のボートのようなものも数隻あった。
ボートは穴が空いて沈みかけていたり、ひっくり返って陸に打ち上がっていた。
私は注意深く人を探したがまったく気配はしない。
内陸に進むと家が数軒あった。
そのどれもが廃墟のように朽ちていて住んでいる様子はみられなかった。
作りも古いというか原始的な石を積み上げて作ったような造りになっている。
(かなり前から人が住んでいないみたいだな)
その付近一帯を探索したが魔物以外の気配は全くしなかった。
私はさらに海岸線を北上した。
距離にすると300kmくらいは進んだだろうか。
海岸線から見えるところに街や村はまったく見つけられず魔物以外の気配すらなかった。
まだ北に大陸は続いていたが同じような風景に飽きてしまい、私は内陸の方へ進んだ。
相変わらず背の高い木が多く、地上は薄暗い感じがした。
先には山がある。
木に覆われていたので緑色のこんもりした感じの山だった。
探索を始めて小一時間経つが魔物以外の生命反応は探知できなかった。
ダンジョンの入口を2つほどみつけたが草が生い茂り人の出入りしてる形跡はなかった。
私はスピードを上げてマップ開拓に励んだ。
半日かけて飛び回ったが街や村はみつからなかった。
疲れたので一度戻ることにした。
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地下室で今広げてきたマップを確認してみたがほとんどがジャングルのような森で覆われていた。
(人間や魔族のいない大陸なのかな)
ムイにも見てもらった。
「ここよりもずっと大きな大陸のようですね。」
と興味深くマップを観察していた。
屋敷のある大陸からその大陸まで広い海に隔たれていて、距離にすると500kmくらいはあった。
この距離をこの世界にある船で行き来するのはかなり困難があるだろう。
お互いにその存在すら気がついていない可能性すらある。
私は休憩が終わるとまた続きを始めた。
(できるところまで進んでみよう)
気候もいいし、住むには良さそうな土地である。
広い草原はテレビで観たサバンナを思い出すものだった。
大きめの魔物たちものんびり暮らしている様子が見えた。
(すてきなところだな)
私はマップ開拓を進めた。




