水晶の正体
深夜の城は静かだった。
見回りの時間は把握している。
怪しまれないように人目につかない場所で(人から見えないところで朝まで寝てろ)と念じた。
見回りの兵士は物陰を探し、そこで横になり眠った。
門番も同じように目立たない場所で眠らせた。
私とムイは静かに裏門をくぐった。
中にも兵士が数人いたので、近くの部屋に行き寝るように念じた。
私たちはネビの体で見た地下へ続く廊下を慎重に進んだ。
例の地下の部屋は無人だった。
中央に大きな水晶があり、中は黒く渦巻いていた。
(嫌な予感しかしないな)
私は無人なのを確認して部屋の向こう側へ、王のいた部屋に入る。
窓から水晶の様子が見える。
立派な椅子が置いてあった。
ここから隣の部屋を眺めていたというのか。
すぐ奥に上へ上がる階段があった。
天井は銅像で塞がれているようで出られなかった。
(開け)と念じるとゆっくりと銅像は動き、上に上がることができた。
上がったところでアッシュが待っていた。
「こっちはうまく片付けてきたよ。」
アッシュも兵士たちを眠らせてきたようだ。
「先に魔法使いをどうにかしないと。」
私たちはまっすぐ魔法使いのいる部屋へ向かった。
行く途中にも見回りの兵士が数人いたが見つかる前に眠らせた。
アッシュは眠らせる魔法が得意だったようでかなり遠くにいる兵士たちを察知し、眠らせることができた。
(さすが勇者だな)
魔法使いの部屋が見えたとき、魔法使いの気配を感じた。
「来るよ!」
私は叫び、みんな戦闘態勢になった。
魔法使いは私たちに向けてすごい速さの攻撃魔法を放ってくる。
妖精たちはそれを光のキラキラや風魔法で私たちに当たらないようにそらしてくれた。
勇者もすかさず攻撃魔法を繰り出す。
生け捕りにして話を聞かないと行けないので手加減が難しい。
私は捕縛スキルを発動するが相手もうまくかわしているようでなかなか捕まえられない。
(動くな)と念じる。
一瞬動きが止まった。
「今だ!」
みんな一斉に魔法使いに向けて攻撃魔法を放った。
私は捕縛スキルを使う。
魔法使いはすぐに動けなくなった。
イモムシのようにもがいている。
何か呪文を唱えはじめたので、(黙れ)と念じた。
魔法使いは口を閉ざされ、モゴモゴしている。
それでもうるさいので、(眠れ)と念じた。
騒ぎを聞きつけた兵士や魔法使いたちが続々やって来る。
アッシュが「ここは任せて」と言うので、私は王のところへ向かった。
王もさすがにこの騒ぎで起きていた。
「誰か!誰かおらぬか!不届き者を止めよ!」
杖を振り回し大声で助けを求めていた。
へなちょこの攻撃魔法が飛んできたが、かすることなく壁に当たった。
私は捕縛スキルで王の動きを止めた。
「離せ!何をする!許さん!!」
ひたすら騒いでいる。
隣の部屋から王妃がこちらを覗いていた。
私は(そのままベッドに戻り寝ろ)と念じた。
おそらく王妃は王の悪行に関わっていない。
兵士たちも次々と眠らされ倒れた。
アッシュが拘束した魔法使いを連れてやってきた。
眠った魔法使いの横で「お前は何をしとる!起きんか!」と王は喚いていた。
魔法使いがまったく起きないのを見て、
「何が狙いだ?金か?宝石か?なんでもやるから離せ!」と王は命乞いを始めた。
「地下でやっていることを聞きたい。」
私は王を睨みつけた。
「知らん!わしは知らん!」
と、王は言い逃れを始めた。
(すべて話せ)と私が念じると口を開かないように抵抗していた王は少しずつ話をしだした。
「魔王を復活させるのだ。」
(魔王?!)
王は抵抗しながらも説明を始めた。
「この国に…勇者が…召喚されしとき、魔王は…復活する。」
王は何かに止められているかのように必死で抵抗を続けている。
とうとう気を失ってしまった。
「どういうこと?」
私はアッシュを見た。
アッシュも困惑しているようだ。
チュンが震えながら言った。
「ゼスかもしれない…」
王はその後も起こそうとしても起きてくれなかった。
何かしらの力が働いているかもしれないとチュンは言った。
「魔法使いに聞いてみよう。」
私は(起きろ)、(地下でやっていたことを教えろ)と念じた。
魔法使いも抵抗をしていたが、観念したように話をしだした。
「王から魔王復活のために病人から生気を吸い取るように言われた。あの大きな水晶に溜めている。真っ黒になったら完成だ。」
魔法使いはボソボソをやっていたことを話した。
「生気を吸い取られたあとの人たちはどこへ?」
ムイが聞くと、
「転移の魔法陣で近くのダンジョンに捨てている。」
と言った。
私たちはすぐにあのダンジョンを思い出した。
ゾンビみたいなアンデッドのたくさんいたダンジョンだ。
(捨てているって…なんてひどいことを)
「あの水晶を壊すとどうなる?」
私は魔法使いの首元を掴み聞いた。
「おそらく元の場所に戻る。体が生きていればだが。」
魔法使いは怯えながらそう言った。
私は魔法使いを投げ出し、地下へ向かった。
「アッシュ、ここをお願い。」
「了解。水晶を壊すんだね?」
私は頷いた。
地下の水晶は相変わらず黒い渦を巻いていた。
かなり真っ黒に近い。
(あと10人くらいと言ってたっけ)
私は水晶に向かい、(砕けろ)と念じた。
水晶は勢いよく砕け、中から黒いものが飛び出した。
部屋の中をぐるぐるとまわり、散り散りになって消えていった。
(これで戻るということなの?)
私はすぐにあのダンジョンへ向かった。
「チュンついてきて。」
────
あのダンジョンへ入ると明らかに様子が違った。
ゾンビだらけだったのに物音ひとつしていない。
いたるところに人が倒れているのが見えた。
私は近づき、息があるか確かめた。
「ダメね、息をしていないわ。」
チュンが目を伏せて言って何かキラキラしたものを出した。
辛そうに歪んでいた顔が平穏な表情に変わる。
「私にできるのはこれくらい…」とチュンが悲しげにいった。
「息のある人を探そう。」
私たちは手分けして生きている人を探した。
なかなかみつからず、チュンは倒れてる人のところをまわりキラキラをかけていた。
「シア!この人、生きてるみたい!」
アリが女の人をみつけた。
私とチュンは回復魔法をかけた。
その後も数人助けることができた。
私は手遅れだった人たちに向かって「あとで必ず埋葬してあげるね。」と言い、助かった人たちを薬屋に瞬間移動させた。
棚を隅に寄せてスペースを作りベッドを出してその人たちを寝せた。
チュンが「ここは任せて」と言うので、妖精たちにここを任せて私は城へ戻った。
────
魔法使いは勇者の前で泣いていた。
「申し訳ありません!なにとぞ命だけは!」
アッシュは目を合わせず返事もしなかった。
「どうでしたか?」ムイは心配そうに私に聞いてきた。
「数名は助かったけど大多数はダメだった。」
私は俯いてそう言った。
アッシュとムイも悔しそうに俯いた。
「私がもっと早く気がついていたら…」
アッシュは拳を握り壁を殴った。
魔法使いは飛び上がりブルブルと震えている。
「魔王のためにやっていたと知っている者は?」
私が聞くと数名の名前をあげた。
私はアッシュに「この人たちのこと、任せてもらっていい?」
と聞いた。
アッシュは頷いた。
私は王と魔法使いに(魔王復活などない)(私たちのことは何も覚えていない)(魔王を復活させようとする者は悪)と念じた。
それから先ほど名前の上がった人たちを探し、一人一人に同じように念じた。
最後にネビのところへ行った。
ぐぅぐぅ寝るネビの姿に腹が立ったが他の人たちと同じように忘れるように念じた。
魔法使いを拘束した時点で結界は崩れてしまっていたようだった。
遠視で城の中の様子をみることができるようになっていた。
「兵士が起きだしたみたい。そろそろ戻ろう。」
私たちは城をあとにした。
────
「あの者たちを許してやるなんて心の広いお方ですね。」
アッシュは少々呆れ顔でそう言った。
薬屋はチュンたちのおかげで元気を取り戻した人たちが困惑していた。
私は「病気で意識がなかったが治療が効いた。」と説明した。
困惑しながらも感謝を告げて帰っていった。
一人の女性が「子供たちを残してきた」と言うので話を聞くとナナとヤヤの母親だった。
「今、安全なところに預けている。」と伝え、連れてくるので家で待つように言った。
母親は安心し、家に帰っていった。
私はすぐに孤児院へ向かい寮母に事情を話し、寝ている二人を薬屋に運んだ。
ムイと二人で母親の元へ向かい、ベッドに寝かせてきた。
(起きて母親がいたらびっくりするだろうな)
残念ながら他の子供たちの親は助かった人の中にはいなかった。
孤児院で楽しく暮らしてくれることだろう。
私たちは一段落して薬屋の2階でチュンの淹れてくれたお茶を飲んだ。
「アッシュはこれからどうする?」
アッシュは少し悩み、
「私はこの国に残って国を立て直す手伝いをしようと思います。」
と言った。
(この国にはまだまだ問題があるもんね)
「シアさんたちは?」
アッシュに聞かれたが答えられなかった。
「とりあえず報告してから考えるよ。」
魔王や悪魔にまずは報告しないと。
外は明るくなってきたようだった。
「では私はこれで」と言いアッシュは消えていった。
私たちは一度屋敷に戻ることにした。
「その前にダンジョンに戻らないと。」
私たちは数時間かけて倒れていた人たちを埋葬した。
どの人も安らかな顔をしていた。
(早く来れなくてごめんね)
私は魔法使いの話を思い出した。
(ゼスがどこかで復活を待っているのかもしれない)
私は拭えない不安感でいっぱいだった。




