新しい仕事
現在のスキル
・生霊操作
・念動力
・物体干渉
・呪詛
・使役
・遠視
・火炎耐性
・水耐性
・雷耐性
・毒耐性
・気配感知
・付与魔法
・調教
・召喚魔法
・テレパシー
・サイコメトリー
・憑依
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よくわからないスキルの名前が増えた。
レベルも上がっているので無意識に使っているようだ。
地下室だから外の様子はわからないが朝から雨が降っている。
そろそろムイが昼食を持ってやってくる時間だ。
このところムイは仕事を持ってこない。
「悪魔を倒そうとすると呪われる」
という噂が各地で囁かれているらしい。
悪魔はずっと上機嫌で何か呪文を唱えながら大釜の中の得体のしれない液体を混ぜていたりしていた。
怪しい煙と臭いを放つ液体…
何を作っているのか聞くことはなかったがきっと恐ろしい代物に違いない。
ムイが階段を降りてきた。
(今日のお昼は何かな〜?)
ククルの作る食事はどれも美味しかった。
最近の私の楽しみと言えば食事くらいしかなかった。
「シアさんお昼ですよ。」
ムイはパスタのような麺料理を持ってきた。
「いただきまーす!」
いつも料理を置いてすぐ上の階に戻ってしまうムイだったが今日は違った。
ムイは私を心配そうにみつめながら
「賢者がシアさんを探しているようです…
みつかると面倒なことになります。」
と悲しげに話す。
「この屋敷はご主人様が結界を張っておりますのでみつかることはまずないでしょうが…」
確かにこの屋敷に訪問者はない。
魔物も近くに住んではいるが侵入してきたこともない。
「シアさん本体がこの屋敷を出ることはないでしょうが、どうかお気をつけくださいね。」
「はい」
私は賢者の話を聞いてからできるだけ王都を避けていた。
今まで生霊としていろんなところに行ったがこちらの存在に気がつかれることはなかった。
しかし賢者には察知する能力があるかもしれない。
呪い返しというものがある。
呪っている最中の姿を見られると呪いが返ってきてしまうものだ。
藁人形に釘を打ちつけているわけではないのでそうそうに見られることもないだろうと思ってはいたが…
「しばらくお仕事はないと思いますのでご自由に鍛錬などにお時間をお使いください。」
「ありがとうございます。」
ムイはぎこちない笑顔を向け階段を上がっていった。
私はベーコンとキノコの入ったトマトっぽい味のパスタのようなものを食べながら午後から何をしようか考えた。
(よくわからないスキルのことを把握しないと…)
もはやスマホのレベルを超えた性能を持っている身分証を取り出した。
(機能が増えても使いこなせないな…)
・遠視
これは生霊をとばさなくても遠くの様子が見えることだと思う。
生霊として見に行くよりも魔力を使わずに見たい場所の様子がわかる。
見えるだけで干渉はできないので視察段階のときに使える。
・調教
これは魔物なんかを手なづけることだろう。
使役はされている側はされている時の記憶がなくなるが調教はそうじゃないだろう。
何かを調教してもこの屋敷に連れて帰るわけにもいかないだろうし、今のところ使いみちはわからない。
(調教は後回しかな…)
・テレパシー
・サイコメトリー
(テレパシーはこちらの思念を送るものだとしてサイコメトリーってなんだろう?)
私はまた辞典のような分厚い本のページをめくる。
”物や場所に残る記憶を読み取る”
と書かれていた。
私はスノードームを手に取りサイコメトリーを発動させてみた。
頭の中に情景が浮かぶ。
悪魔はある家を燃やすそうとしていたが女の子の部屋の机の上にあったこのスノードームをみつけ手に取るところだった。
この部屋の女の子がどうなったのかまでは見えなかったが家は爆発したかのような轟音を轟かせ燃えた。
悪魔は空から見下ろし得意げに眺めていた。
私はスノードームを落としそうになり慌てて持ち直した。
(やっぱり悪魔を怒らせるのは得策じゃない)
悪魔にもらった物はこの部屋にたくさんあるがこのスキルを使う気にはならなかった。
(恐ろしすぎる!!)
テレパシーというスキルのことを考えているときにそれは急に起こった。
急に目の前にあるビジョンが見えたのである。
長い杖を持った青い髪の男がなにやら呪文を唱えている姿である。
男はビクッとしキョロキョロしている。
「どこだ!?どこにいる!!?」
私の心臓は壊れそうなほどバクバクした。
これはヤバいことだとはっきりわかった。
(みつかってはいけない!!)
慌ててそのビジョンを遮断した。
危なかったと思う。
あの賢者は私の何かを察知したに違いない。
まだ心臓がバクバクと早鐘を打っている。
新しいスキルを覚えたようだ。
・気配遮断
(これは…レベルを上げておかないと!)
それから私は常に気配遮断を心がけた。
ムイやククルは私をみつけてはびっくりしていた。
目の前にいても気がつかれないほどになるまで気配を消すことができるようになった。
(これでも安心はできないな…)
私はあの青い髪の男がこちらを振り向くような気がして思い出すたびに身震いした。
恐怖から私のレベルはさらに上がった。
レベルが上がるにつれて上がりにくくなってきているのだが。
レベルに上限があるのかもわからない。
私のこのレベルが強いのか弱いのかもわからない。
(鑑定っていうスキルほしいなぁ)
他の人と比べることができたら自分の強さもわかるのに。
身分証を眺めるが鑑定というスキルはない。
そんなに都合よくなんでも覚えられるものではないらしい。
あのビジョンから3日ほど経ったときにムイが仕事を持ってきた。
「これはご主人様のための仕事ではないのてすが…」
いつものように依頼内容を書いた書類ではなく、地図を持ってきた。
「今ここで魔王軍と王都の軍隊が戦争をしていまして…」
ムイは改めて魔王軍とは悪魔が所属している陣営であったり、その敵が人間側であり、ずっと交戦状態であることを説明した。
悪魔には上司にあたる魔王という存在がいて、その魔王のために働いているのだという。
その魔王とやらも賢者が私を探しているという噂を耳にしたらしい。
「魔王様がシアさんに興味を持たれたようで…」
ムイは困った表情で続けた。
「シアさんにも戦争に参加してほしいと言うことです。」
(私が戦争に?!)
「あの…私…殺したりするのはちょっと苦手なんですが…
それに私…防御系のスキルは全然持ってなくて…
足手まといになると思うのですが…」
私はなんとか断ろうと言い訳を考えてみたがムイは
「もちろんシアさん本体を戦場に連れて行くようなことはいたしません!」
と目を丸くして言った。
(ここからまた呪えばいいのかな…)
「魔王城へ招待されました。」
「えっ???」
(魔王城って魔王様が住んでる城ってこと?!)
私は血の気が引いていくのがわかった。
「ご主人様が明朝出発するので準備しておくようにと申しております。」
必要な物は部屋に用意したと言いムイは去っていってしまった。
私はまだ理解が追いつかずにポカンとしていた。
(この屋敷をでるということ??)
生霊として何度もこの屋敷を出ては遠くへ行っていたが本体はこの屋敷を一度も出たことがない。
不安がよぎる。
しかも悪魔とお出かけすることになる。
ムイも同行すると言っていたのが救いだ。
私は自室に戻ってみた。
いつもの黒い素朴なワンピースではなく、同じ黒ではあるがレースをあしらったドレスのような服が置いてあった。
(これを着て行けということかな…)
鏡の前で合わせてみると悪魔にもらった美しい姿にとても似合っていた。
大きめのショルダーバッグも置いてあった。
私はとりあえずいつもの着替えと辞典のような分厚い本を詰めた。
ククルにもらった水入りの瓶と苦団子も念の為入れておいた。
(旅行にでも行くみたい)
しかしそこには修学旅行前のウキウキはなかった。
魔王というワードに恐怖しかなかった。
(やらかしたら消されてしまうのかしら…)
その日はなかなか眠れなかった。