勇者 アッシュ
私とムイは牢屋に入れられたみんなと仲良くなった。
暇があるとみんなは昔話をしていた。
聞いているだけで面白く、みんなの人柄がよくわかった。
私とムイも屋敷のある土地の話をした。
こことは違い雪が降ることもなく一年中暖かいと言うと「そんな土地もあるのか…」と羨ましそうにする声も聞こえた。
土地は豊かで野菜や薬草も豊富に取れるという話をすると「行ってみたいのぉ」と、ゲルが笑っていた。
また階段を降りてくる音が聞こえみんなは静まった。
兵士はゲルの部屋を開け、連れて行った。
「また取り調べか?」と、ゾイドは首を傾げていた。
────
その日ゲルは戻ってこなかった。
(牢屋を出されたのかな?)
次の日、ゲルがいたところには新しい人が連れてこられた。
若い魔法使いは『メロ』という女性だった。
私たちのときのようにゾイドは「何をして連れてこられた?」と聞いた。
メロは特に何をしたわけでもなく、言われたとおりに働いていたと言った。
メロは、「あっ!」と言い、「目が反抗的だ」と言われたと話した。
(それだけで?)
遠視さえできれば中の様子がわかるのに。
私は歯がゆい思いをしていた。
夜になり私とムイは冷たい床の上で寝転がっていた。
熱いシャワーが懐かしい。
壁を向いて寝ているといきなり金髪が目に入った。
私が声を出す間もなく、ぐにゃりとする感覚があり暖かい部屋の中にいた。
目の前にはあの金髪男、勇者がいた。
私が声を出そうとすると口を手で塞がれた。
「お願いだから騒がないで聞いて。」
と真剣な顔で言われた。
私は仕方なく口を閉ざした。
「私は勇者のアッシュです。」
勇者は笑顔で自己紹介を始めた。
ここはどうやら勇者の部屋のようだった。
広く豪華な造りでテーブルにはフルーツが盛られていた。
「食べる?」と聞かれたが、私は首を横に振った。
勇者は私に「私はあなたの敵ではない。」と話した。
「敵ではないというアピールを全力でしていたのですが、気がついてもらえましたか?」と笑顔で聞いてきた。
(あれが?)
私は「ぜんぜん」と答えた。
勇者は肩をおろしがっかりしていた。
勇者は自分は魔王討伐のために召喚されたと言う。
しかし召喚されたときにはもう魔王はいなくなっていたという。
(ガオルのことか)
急に異世界にやって来て初めは楽しかったと言う。
街の人には騒がれ、みんなにチヤホヤしてもらったと言う。
「それにも飽きてしまったけどね。」
と、遠い目をした。
私はずっと考えていた質問をしてみた。
「私が『なんなのか』をわかっていますか?」
勇者はまっすぐ私を見つめ、「私と反対側にいる相手、悪役でしょう?」
と言った。
そこから勇者は独自の異世界感を話して聞かせた。
・勇者は主人公
・魔王を討伐する役
・魔王には自分と敵対する『もう一人の召喚された』悪役が存在する
・その最大の敵と戦い打ち破る
・元の世界に戻る or この世界で楽しく暮らす
というストーリーを目を輝かせて語った。
「でもね」と勇者は続けた。
「初めてあなたを見たときに自分は間違っていたと気がついたんだ。」と言った。
ちなみに初めて会ったと言うのは、目が合ったと初めて感じたときのことだった。
「私はあれからあなたをずっと探していた。」と言う。
だからあの日会えて嬉しかった。と祭の日の話をした。
「ここの王が何か悪いことをしていると感じたのは祭の数日前だった。」と言う。
勇者は兵士をみるように言われているらしく、毎日決まった時間に兵士たちの訓練につき合っていたと言う。
どうやらその時間に王はコソコソと悪そうな顔をした奴らに会い、自分には向けないような悪い顔をしていたと言う。
それから何度か王の動向を見ていて、『自分が悪役なのかもしれない』と思うようになったと言う。
それからは人々の前に現れても主人公のように振る舞うのはやめてしまったということだ。
(だから笑顔を振りまくのをやめたのか)
「あなたが薬屋を開いたときには本当に嬉しかった。」と目を輝かせて言った。
これで自分は悪役ではなく、本当の主人公である私と合流する流れがきた!と思ったと言う。
「もう主人公は諦めました。」と悟った感じで勇者は言った。
「主人公パーティを全力で支えるヒロインの位置を狙います!」と声高々に言った。
(こいつ頭悪そうだな)
「と言うわけで、薬屋が捕まったと言う噂を聞いていてもたってもいられなくなってここに連れてきてしまった」と言った。
廊下から兵士の声が聞こえた。
「転移魔法は得意じゃないのでバラバラになったらごめんね。」と言って私を牢屋に戻した。
「また来ます」と言って消えていった。
(バラバラになったらどうしてくれるんだ)
私は手足がついているか確認した。
ムイは私がいなかったことに気がついていた。
「大丈夫ですか?」と小声で聞かれた。
私は今のことを話して聞かせ、「どう思う?」とムイに聞いてみた。
チュンが「私も見ていたけど勇者から悪意は感じなかったわ。」と言う。
そういえば指輪が赤く光ることはなかった。
私たちは「うるさいぞっ!寝ろよ!」と、誰かに怒られたので話をするのは朝になってから。とした。
────
勇者のことは相変わらず気に食わなかったが、話には納得できるところが多数あった。
(まだ情報が足りない)
朝になり、私たちは牢屋から出された。
取り調べでもされるのかと思ったが釈放されて門の外に出された。
「薬を売るのは諦めろ。売っていたらまた取りに行く。」と兵士に脅された。
私たちは薬屋に戻った。
────
戻った薬屋は棚から商品が消えていた。
とりあえずシャワーを浴びることにした。
ムイと順番に入っている間にチュンが食事を用意してくれた。
久しぶりに温かい美味しい食事をした。
「チュン、いつもありがとうね。」
チュンは「私にかかればこのくらい朝メシ前よ。この料理はククルのレシピを改良してね。」と照れながら早口で喋った。
ムイはコーヒーを目をつぶり愉しんでいた。
下から「誰かいるー?」と声が聞こえ、急いで下に行くとオイセがいた。
私はオイセを椅子に座らせた。
「牢屋に入れられたと聞いて心配してたのよ!」
と言った。
私は「もう薬を売れないかも。」と話すと、
「そうだと思った。」と悲しい顔をされた。
「仲間たちにもここの噂は信頼できる人以外にしないようにと言ってたんだけどね。ごめんね。」と言われた。
私は「オイセたちのせいじゃない。」と言ってネビの話をした。
「またあの男!」とオイセはテーブルを叩いて怒っていた。
「薬は売るなと言われたけど、マッサージくらいならできるからね。」と言って、オイセを見送った。
「ここで帰るわけにはいかないよね。」
と私が言うとみんな無言で頷いた。
私は『薬屋 ライト』の看板を外した。
────
私たちは閉店を装ってこっそりと常連客たちを中に入れた。
常連客たちは相変わらず椅子に腰掛けおしゃべりをしてお茶を飲んだ。
そして「調子が悪い」と聞くたびにマッサージを装って回復魔法をかけた。
常連客たちは『お茶代』と言って銅貨を1枚2枚と置いていった。
そんな必要はないと言ったのだが、「気持ちだから」と言われたので受け取ることにした。
牢屋から戻って2日目の夜、寝ようとしていたら店の方から物音がした。
(泥棒?)
商品もないのにな、と思いながらも気配を消して店を見るとそこには金髪男がいた。
「おじゃまします!」と笑顔で言った。
勇者は「監視が厳しくてなかなか出てこれなかったと言った。」
「今もどこかから見られてるかもしれない。」と言うのでチュンが「上に上がってもらったら?」と言った。
指輪は青いままだ。
ムイが頷いたので渋々上のテーブルのある部屋に通した。
勇者は元の世界にあったものをみつけては、「コーヒー豆!コーヒーメーカー!!」と喜んでいた。
「どこから持ってきたの?」とうるさく聞いてきたので、
「今日は何をしに?」と話を戻した。
勇者は改めて「みなさんよろしくお願いします。勇者のアッシュです。」と自己紹介をした。
そして勇者はムイの顔を見た。
「ムイです。」
それから妖精たちを見た。
「見えてるのかしら?」とチュンが小声でルアンに言った。
「目が合ってますね。」とルアンは勇者を見ていた。
「見えてますよ!かわいいお二方!」
妖精たちは「え?なぜ?」と飛び回った。
「私は光の妖精 チュンです。」
「ボクは風の妖精 ルアンです。」
「妖精!!そんなチート級の仲間がいるなんて!」
勇者は大興奮だった。
「そしてそちらのカゴにいらっしゃるのは?」
とアリの入っているカゴを指差した。
「ボクのことも見えるの?!すごいね!」
アリはカゴから出てきた。
「ボクはアリ。闇の守護神だよ!」
「守護神!この世界にはそんなのまでいるんですか!」
勇者はそう言って、「やはり私は主人公ではないようですね。」
と言った。
「そしてシアさんですよね。みなさんよろしくお願いします。」
勇者はペコリとお辞儀をして、「アッシュとお呼びください!」と言った。
「あまり時間がないので単刀直入に言いますね。王は悪いやつでした。罪のない人を牢屋に入れ、病人を作りだし、集めて何かやっています。」
アッシュは一気に続けた。
「その何かまではまだ調べることができていません。かなり優秀な魔法使いが地下のどこかにいるみたいでかなり強い結界を張っています。私が近づこうとしても関係者以外は立入禁止と言われて見に行くこともできません。」
「シアさんのスキルでも見ることはできませんか?」
と聞かれ、「城の中はすべて見えない。」と正直に言った。
「やはり私が探るしかなさそうですね。」とアッシュは言って、「そろそろ、見回りの兵が来るので戻ります!転移魔法が失敗して何か落としていったら拾っておいてくださいね!」と言って消えていった。
私は何か落ちてないかと見たが成功したようだ。
(足でも落としていったら面白いのに)
アリに「また悪い顔してる」と言われた。
(するどいな)
「今の話、信じていいと思う?」
と聞いてみた。
「私は信じるわ!あの人、ちょっと頭が悪そうな瞬間があるけど、能力はかなり高いと思うわ。」とチュンが言った。
「ボクたちのこと見えてましたしねぇ。」とルアンが不思議そうに言った。
「ボクはやっぱり好きじゃないけど、悪い人ではない感じだよね。」と、アリにはまだ嫌われていた。
みんなはムイの方を見る。
「私も彼から悪いものは感じませんでした。」
ムイは、無表情でそう言った。
「指輪は赤くならなかったから悪意がないことはわかったね。」
と私が言うと、「とりあえず敵意はないとして考えましょうか。」とムイが言った。
しかし主人公だ悪役だと言い出すなんて彼はかなりアニメやゲームが好きな人だったんだろう。
見た感じ私と同じくらいか年下の感じがした。
彼の前の人生がどんなだったのかはわからないけど、元の世界で死んでしまったのはわかる。
私は自分のことを思い出して少し心がモヤモヤした。
「今日はとりあえず寝ようか。」
あくびをしていたアリを見ながら言った。
「そうですね。」
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国王が何か悪いことをしているのなら、勇者が内部から探るのは危険かもしれない。
(あの勇者はとりあえず転移魔法のレベル上げするべきだな)




