牢屋
私は聖女のところへ来ていた。
ここは聖女が国王を務める国の城下町に作られた孤児院である。
不幸な事故や病気で親を亡くしてしまった子供たちが暮らしている。
総勢10人程度のところに昨晩5人加わった。
その5人は初めての朝食をとるために食堂に座らされていた。
この施設の管理を任されている寮母が前に立つ。
子供たちは静かに見ている。
「今日から新しい家族が増えました。遠くからここに来てくれました。みなさん仲良く暮らしましょうね。」
と、優しく言ってニッコリと笑った。
子供たちは元気に「はい!」と返事をした。
「ではお祈りをします。新しいみなさんはみんなのお祈りをみて、自分もできるように覚えてね。」
と言ってお祈りをはじめた。
5人はまわりを見て真似をしている。
「では、いただきましょう。」
「いただきます!」
5人はキョロキョロし、戸惑っていた。
寮母と世話係が近づき、「安心して召し上がれ。」と言った。
「食べていいの?」
「食べていいよ。」
5人は美味しそうに完食した。
食後はみんなでお片付けをする。
食器を運び、皿洗いを始めた。
「お当番があるから、そのうちみんなにもやってもらうわよ。」
と世話係の女性が5人に説明していた。
「ぼくお皿洗いできるよ!」
「わたしも!」
「それは頼もしいなぁ!新しいお当番表を作っておくね。今日は遊んできていいよ!」
と言って子供たちを体育館のような少し広い部屋に連れて行った。
そこにはボールや積み木や人形などのおもちゃがあったり、テーブルの上でのお絵かきもできた。
「みんな!この子たちも遊びたいって!」
と言うと遊んでいた子たちが集まってきて
「一緒に遊ぼう!」と連れて行った。
私はナナとヤヤが2人で遊んでいるところでやっと声をかけた。
「シア!!」
私は「ここはどう?」と聞いてみた。
「みんなとっても優しいよ!」
とヤヤが元気に言った。
「こんなに優しくしてもらっていいのかな…」
とナナが下を向いて言った。
「ナナとヤヤがここのみんなと仲良く暮らしてくれるなら、お母さんも安心すると思うよ。」と言うと、
「そうかな?」と言うので頷いた。
「何かあったら大人の人に相談してみて。私もすぐに助けに来るよ。」
2人は笑顔になった。
一人の少女が近づいてきて、「私はエイミ、一緒に遊ぼ!」と2人を誘いに来た。
2人は私を見たので微笑んで頷いた。
「私はナナ!」「私はヤヤ!」
2人はエイミに連れられてみんなのところへ行った。
みんな笑顔だった。
(聖女 いい仕事してますな)
私は安心してその場を去った。
────
戻るとムイが「どうでしたか?」と聞いてきた。
ムイも姉妹が心配だったようだ。
「任せておいて大丈夫みたい。」
と言うとホッとしていた。
「開店しますか!」
お店の前にはもう人が来ていた。
「シアさん遅いわよ!」
と常連客が入ってくる。
「今日はここの調子が悪くてね。」
膝を指差して言う。
チュンが適切な薬草を教えてくれた。
「これをお茶にして飲むと楽になりますよ。」
と渡す。
「へぇー、お幾らかしら?」
「えっと、銅貨1枚?」
「安いわねぇ!商売にならないでしょ!」
と言われたが、その人は銅貨1枚を置いて嬉しそうに帰っていった。
その後も似たようなお客さんたちがたくさんやってきた。
私はムイご指名のマダムたちがたくさん来ていたのでムイにここを任せて2階に上がった。
ネビの動向が気になったからである。
あの男は確実に裏と繋がっている。
私は遠視でネビの家を見た。
手下のような男が「小屋に誰もいませんでした。」と報告しているところだった。
「なんだと?、逃げられたか?!あいつら手柄を独り占めする気だな。」と悔しそうにテーブルを叩いた。
城に行ってくると言ってネビは部屋を出た。
────
私はそのままネビのあとを追った。
ネビは慣れた足どりで城へ向かう。
裏門へやってきて門番に何やら渡して中へ入れてもらっていた。
私は中が見れないのでそこで断念した。
(城の中の誰かとも繋がっているということか)
ムイはマダムたちを上手くさばき、最後の客を見送っていたところだった。
静かになった店内で私は今見てきたことを話した。
「ナナたちの母親が心配ですね。」と言う。
子供たちがあんなめに遭っていたのだから、母親にもなにかあったに違いない。
私たちはどうにか城へ入る手立てはないかと考えていた。
それは突然やってきた。
騎士の格好をした男が兵士を連れてやってきたのである。
「不当に価格操作をした罪で商品を没収する。」
と言い出した。
「価格操作なんてしていません!」
「正規の価格で売っていないと苦情がきている。」
(まさかネビが?)
兵士たちはカウンターの中に入ろうとした。
「やめてよ!」
騎士は「この者たちを捕らえよ。」と言って私とムイを捕まえた。
私はムイと目を合わせ頷いた。
逃げるのも倒すのも簡単だったが私たちは捕らわれた。
城の中へ行くチャンスが来たのである。
兵士たちは中にある商品を根こそぎ袋に詰めて持ち帰るようだった。
(誰の指示だろう)
私たちはぞろぞろと城へ向かった。
城までの道で顔見知りの人たちに会った。
兵士に何か言おうとしたので私は顔を横に振った。
その人は思いとどまり私たちを不安な顔で見送った。
正門をくぐり抜け、城の中へは行かずそのまま地下へ続く階段を降りた。
その先には薄暗くジメジメした牢屋があった。
私たちは空いていたところに2人まとめて押し込まれた。
中は10くらいに分かれていて、それぞれに人がいるようだった。
「よう、新入り何をした?」と向かいに入っている男が話しかけてきた。
「俺は剣士のゾイドだ、よろしくな。」と言って笑った。
「私はシア、もう一人はムイ。薬屋です。」
と自己紹介をした。
「薬屋が何をしたっていうんじゃ。」
と、隣から声がした。
角度的に見えないがどうやら年配の男性がそこにいるようだった。
「わしは魔法使いのゲルじゃ。」
私は「価格操作の罪とかで連れて来られました。」と、ここに来た経緯を説明した。
「安く売った罪で牢屋に入れるなんて…」
と奥の方から女性の声がした。
「ここには大陸中から集められた『使えなかった』猛者たちが入ってる。」とゾイドが説明しだした。
どうやら魔王討伐に備えて軍隊を作るから加わってほしいと頼まれて城に来たというのだ。
「何が軍隊だよ。民から金を奪う取り立て屋だったよ。」
とゾイドは嘆きながら言った。
税金だと言って街の人からお金を徴収する係をやらされたと言う。
「おかしいと思うじゃねえか。必要以上に集めていたんだから。」
牢屋の中からため息が聞こえる。
「それに変だと気がついたのがここにいる奴らさ。」
「城のやり方に疑問を持っただけでここに?」
と聞くと頷いた。
(なんて横暴な)
「勇者が来てからここは変わっちまった。」
と、元々この城下町に住んでいたという僧侶の男が話してくれた。
「教会で街の人たちを治療していた」と話す男が言っていたのは「勇者が来てから金を集めだした。そして治療することを禁止された。」ということだった。
街は病人がたくさん出て、病人は裏門から城の中へ運ばれて行ったと言う。
「その先を知っていますか?」と聞くと、「裏門は警備が厳重で関係者以外は立ち入れなくなってる。」と教えられた。
(裏門の警備が厳重?)
聞けば聞くほど不可解なことが多かった。
勇者が来てからと言うことは、やはり勇者が裏で何かをしているということか?
階段を降りてくる音がした。みんなは口を閉ざし静かになった。
兵士がやって来て「薬屋の店主は?」と聞かれ、ムイが返事をした。
「来い」と言ってカギを開けた。
私もついていこうとしたが、お前はいいと蹴り戻された。
「私が」とチュンが耳元で囁いてムイについていった。
兵士の気配がなくなってから、「隊長の取り調べだな。」とゾイドは言った。
「洗脳でもするような取り調べで考えを改めさせようとしてくるんじゃ。」と、ゲルは言った。
「殺されることはないから安心しな。」と誰かが言った。
牢屋の中はまたため息が聞こえ静かになった。
私は奥に座り寝ているふりをして遠視で見えないか試してみた。
中も結界が効いているようでだめだった。
(ムイたち大丈夫かな)
────
小一時間経っただろうか、ムイが兵士に連れて来られ、また牢屋に戻された。
「大丈夫?」
ムイは殴られたようで顔が腫れていた。
「痛みだけ取ったわ。」とチュンが小声で話した。
「黒幕は誰だと聞かれました。私は街の人の手助けをしたかっただけだと言っても信じてもらえず…」
「それで殴られたのね。」
またどこかでため息が聞こえる。
「やはり何かあるようです。」と、ムイがまわりに聞こえないように言った。
「しばらくこのまま調べましょう。」
みんなは無言で頷いた。
「お腹空いた」と言うアリにこっそり角砂糖を出してあげた。
妖精たちも「それでいいわ」と角砂糖をポリポリ食べていた。
牢屋の中には何もない。
この冷たい床の上で寝ることになるだろう。
ゾイドにいつからいるのか聞くと、「1ヶ月くらい前かな?いや、2ヶ月?」と曖昧な返事をした。
時間の感覚もなくなるという。
他のみんなも「それくらい」と教えてくれた。
殺す気はないようだ。
少なくとも食事は与えられている。
トイレは日に数回兵士が連れて行くシステムだと言う。
生かして何をするというのか。
その日、私たちは粗末なパンと少しの水を与えられ冷たい床の上で寝た。
(勇者は何をしているんだろう)




