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薬屋

私たちは食堂を探していた。

この街で最高の食堂を。


午後から行ったダンジョンはなんだか嫌な気持ちになるところだった。

この気持ちを変えてくれる、素敵な食堂を今求めている。


「いいにおいがするのはどこ?」とアリに聞いてみた。

「どこも似たような感じだね。」


肉料理に飽きていた。

早く屋敷に帰りたいという気持ちが強くなった。


「ここでいいか」と中へ入ってみた。

昨日と違い街は閑散としていた。

店の中もそれは同じだった。


やばい。

客がいないからいつものように「あれと」「これを」と人の料理を指差して注文ができない。


私は「任せた」と言ってメニュー表をムイに渡した。

ムイも、よくわかってないくせにメニューを指差して「これとこれを」と、なんだかスマートに注文していた。

(やるな)


待っていたら例のごとく肉料理が並んだ。

いや、お肉好きですけどね。

こう肉ばっかりだとさすがにね。


みんなも似たようなメニューに飽きてしまったようでテンションが上がらないまま食べ終わった。


「明日は王都に行こう。」

(そして早く任務を終わらせて帰ろう)


あの勇者の態度はいったい何なんだ?

私を怒らせて反応を見ているのだろうか?

あのわけのわからない作戦で私を油断させて一気に攻めてくるつもりだろうか?

それとも油断した私から情報を搾り取ろうとしているのか。


メイヤは単純にまだ見ぬ魔王討伐のために召喚されたと言っていた。

うちの魔王ミュキラス討伐のためではないということだろう。


あんなに敵視して恐れた勇者がなんだか予想と違っていて全然スッキリしない。


これもあちらの作戦なんだろうか。


私は久しぶりに王都にある城を遠視で見てみた。

やはり城の中はまったく見えない。

結界が幾重にも張ってあるようで呪いも通らない。


私の作戦としては「おいそこの薬屋!いい噂を聞いてるぞ!城に来い!」みたいなイメージでいたのだが、すでに私の顔は勇者に知られている。

あと大事なのは私が『なんなのか』と言うところまでわかっているのかどうかということになる。


この旅で薬屋っぽく過ごせていない。

それもこれも薬自体が流通していなくて珍しく高価なものだからだ。

ここで薬を出せば金持ちは群がるかもしれない。

金持ちたちは独占しようとするからもっと価値が上がるかもしれない。

庶民にはいつまでも手に入らない。


私がここでずっと商売ができると言うならば安価でホイホイ売るのは可能だろう。

しかしそうではない。

一時的にここで商売したってここに住むのみんなのためになれるとは思わない。


私一人の力ではとうてい無理な話である。


薬屋の男は最近まったく手に入らないと言っていた。

つまり王都で何かあったということだろう。

そこに勇者が関係してるのかどうか。

そこも探れたら探りたい。


私はベッドの中であれこれと考えて眠れなくなってしまった。


(明日は朝が早いのに…)


私は無理やり目をつぶった。


────


やはり寝不足になった。

眠いけどみんなと約束したので起きないと。


私たちはここでの最後になる朝食をいただいた。

今日はバイキングじゃなくてホッとした。


食べ終えると荷物をまとめて受付に行った。

「すこし早いけどたつことにした。前金は返さなくていい。」と告げた。

受付の人は「お気使いありがとうございます。」と、丁寧に見送ってくれた。


(さぁ、ソリを掘り出すぞ)


ソリは案の定埋まっていた。

(出てこい)と、念じると出てきた。

今回は壊れている様子はない。

(いい子だ)

私は前回のようにロバを迎えに行った。

(もう撫でてあげないんだから!)


ソリは順調に北へ向かっていった。

みんな疲れているのか、気持ちが沈んでいるのか、口数が少なかった。

アリと妖精たちは私のコートの中で眠っているようだ。

この子たちも寝不足なのかな。

(いや、ぐうぐう寝てたな)


ムイが昨日のダンジョンの話をした。

「あそこは死んでしまったダンジョンかもしれません。」と言った。


私が前に言ったようにダンジョン内の生態系が崩れると中の魔物がいなくなってしまうという。

ボスについてはダンジョンが壊れていないのでどこかにいるかもしれないけど。ということだ。


破綻してしまったということだろう。

あそこには植物がまったくなかった。

小さな生物は何を糧にしていたのだろうか?


「キノコとか苔とか、それなりにあるみたいですけどね。」と、ムイが教えてくれた。

「昨日のダンジョンにはそれもなかったよね。」


謎ばかりのダンジョンだった。

しかしもう足を踏み入れるべきではない気がしている。


このまま忘れよう。

きっとそれがいい。


順調に進んでいたので昼前には到着できそうだった。

王都に近づくにつれて道もなんだか整備されている感が出てきた。

雪が積もっていてわかりにくいが舗装されているような印象を受ける。

街灯もついている。


ここだけは立派か。


すぐに白くて美しい城が見えてきた。

今まで見てきたどこよりも大きい。


こんなに厳しい自然環境の中でこれだけ発展できたなんてここの先人たちはきっとすごい人ばかりだったのだろう。


私たちはソリのまま行けるところまで行ってみた。

中には馬もたくさんいて、旅人の馬も預かってくれると言ってくれた。

ソリも保管してくれるという。

私たちは手間賃を払い、ロバにしばしの別れを告げた。

(ロバを粗末に扱う人には嫌なことが起きる)と念じた。

早速さっきお金を渡した男が転んでいた。

気のせいだといいのだが。

(ロバよ 強く生きてくれ)

時々様子を見に来ようと思った。


王都での生活の拠点を探さないといけない。

宿屋を卒業して何か賃貸の一軒家なんかを借りてもいいかもしれない。


「今日はとりあえず宿を取ろう。」

私とムイはこの城下町を腐るほど見てきたので何がどこにあるかはほとんど把握していた。


宿屋は2軒あったので良さそうな方をチョイスした。

「1泊銀貨1枚になります。」

(高い!)


私たちはいつものように1人部屋を2つ用意してもらった。


今日の部屋は3階だった。

エレベーターやエスカレーターが懐かしい。


部屋の中はきれいだったが銀貨1枚の価値があるのかどうかわからなかった。


宿には若い女性のお客と魔法使いや戦士のような冒険者風情の人が多くいた。

(近くにダンジョンでもあるのかな)


私たちは部屋に荷物を置いて何か食べに行くことにした。

店の中も腐るほど見ていたのでどこで何が食べられるかもわかっていた。


「何か食べたいものはある?」

「肉以外」とアリが答えた。

(これは重症だ)


私はパンケーキのようなものを出す店に向かった。

近くに来ると甘くていいにおいがした。


「美味しそう!」アリの感情が復活した。

中は若い女の人でいっぱいだった。


ここでもいつもの勇者の噂でもちきりだった。


私たちはいつものように人の食べている料理を指差して注文した。

フルーツのようなものが乗っているパンケーキだった。

(フルーツが採れるの?)


もしかしたら城内に温室みたいなものがあるのかもしれない。

私たちが久しぶりにスイーツを堪能していると後ろの席からあの祭での出来事を話している人がいた。


「ウインクされた人がいたんですって!」

「まぁ!勇者様がそんなことを!」

「お花をもらった人もいるとか。」

「私は手を振ってもらった人がいるって聞いたわ。」

「珍しいわねぇ!」


話を聞いていると最近の勇者は無愛想のようだった。

前のように笑顔で対応してくれなくなったと言っていた。

(最近ここの様子も見てなかったもんな)


私たちは満足して店を出た。

「美味しかったですけど、高かったですね。」

パンケーキ2人前で銅貨50枚だった。


どうやら王都の物価はかなり高いらしい。

銀貨の残りは袋一つ分。

ざっと銀貨200枚くらいだろうか。


「とりあえず宿で作戦会議ですかね。」

私たちは宿屋に戻った。


私は部屋を(防音室)にし、(だれも覗くことができない)という呪いをかけた。


勇者の察知能力はかなりすごい。

私がどれだけ気配を消していてもある程度の距離まで近づくとすぐにバレてしまう。

(呪物探知装置とかあるのかな)


「まず大事なのがシアさんのことをなんだと思っているかですよね。」

と、ムイが顔をしかめて言った。


「それがわからないと何も始まらないかぁ。」

と、私が言うと、

「会って話せばー?」と、アリが無邪気に言った。

「あいつのこと、なんか嫌いだけど、シアのことやっつけようだとか思ってなさそうじゃない?」

(アリは純粋ないい子だな)


「それが作戦ですべて演技かもしれないでしょ。」

と私が言うと、

「演技なら相当気持ち悪いですね。」と、ムイがまだ顔をしかめていた。


「お金も少なくなったし、薬屋っていう設定を守るならどこかに卸すか店を構えるか…」と私が言うと、ルアンが「ライバル店舗はどんな状況でしょうか?」と聞いてきた。

この王都には薬屋があったはずだ。

医者も存在しているはず。


私は薬屋を遠視で確認してみた。

前に見たときは生活雑貨と一緒に薬草や薬っぽいものも売っていたはずだ。

棚に並んでいるものは…

塩や何だかんだわからないスパイスのようなものが少しと…

前に見たときより何も置いていない棚が増えているようだった。

私は見てもらった方が早いと思い、スマホにその様子を映した。


「繁盛しているようには見えませんね。」と、ムイが何やら考えながら言った。

「これならボクたちがお店を出したら繁盛しちゃうね!」と、アリは目を輝かせて言った。

「繁盛すると思うわ。儲かっちゃうわ。」と、チュンも目を輝かせていた。

(人間の国ではお金は大事かもしれないけど)


「みんなはお店やってみたい?」

と、聞くと「うんうん!!」と、店番もできないメンバーたちが頷いていた。


「ムイの気が進まないならやめるけど。」と、言うとムイはしばらくスマホを操作しながら考え込んでいた。


「私たちの目標は一般人として城に潜り込むことです。こっちの手の内がバレているのかいないのかわからない今、多少のリスクは気にしないで行動しちゃってもいいかもしれませんね。」と、ムイが空き店舗をみつけてそう言った。

「行ってみる?」と聞くとみんな楽しそうに「行ってみよう!」と言った。


────


空き店舗は大きな通りから少し中に入ったあまり目立たない場所にあった。

よく見ると大きな通り以外は空き店舗がたくさんあった。

かつてはここも賑わっていたかもしれない。


「たくさんあるね。」と私が言うと、

「安いところにしますか?」と、ムイが聞いてきた。


賃料は30日間で銀貨10枚から30枚くらいだった。

表の通りだとその倍はしていて、私たちの資金だと1回稼ぎに帰らないと無理かもしれない。

「複製で増やせばいいのに。」とチュンが言った。


確かにお金を複製したらいくらでも作れる気がする。

簡単だし。

(私のチート級スキルがあれば生活するにはそれも必要ないけど)


「できるだけお金は自分の力で用意したいんだよね。」と私が言うと、「そうだと思ったけどさぁー」と、チュンは微笑みながら言った。


ルアンが珍しく「ここがいいです。」と言ってきた。

普段ならこういう時には黙って見ていることが多いルアンだったから理由を聞いてみると、

「方角や出入口の位置、この壁の色が…」と、まるで風水を語る霊媒師のように説明しだした。


「じゃあここにしようか?」

私たちは張り紙に書かれた連絡先に向かった。


そこはアニメやゲームで出てくる『ギルド』のようなところだった。

壁には依頼書みたいなものが貼ってあり、魔物の毛皮を3枚とか依頼内容が書かれていた。


私たちが空き店舗のことを聞くと、「まず住人登録が必要ですね。」と言われた。

どこでやるのか聞くとここでもできますよ。と言うのでやってもらった。

紙に名前や職業を記載した。

「これで申請しておきますね。では賃料ですが」と、家賃の他に保証料や管理料など合わせて初回は銀貨50枚だと言われた。

ムイはすぐに銀貨を渡した。

「裏通りで商売するのは大変かもしれないよ。」とお金を払ってから言われた。

(せめて払う前に言わんかい)


私は「がんばります。」と言って鍵を受け取って出てきた。

久しぶりにワクワクする気持ちになった。

みんなを見ると早く行こう!という顔をしていた。


「では参りましょうか!」


────


店の中は薄暗く埃っぽかった。

「まずは掃除ですね。」

ムイはすでに雑巾を持っていた。


この店は店舗の裏に倉庫になる部屋と2階に居室のような部屋もあり住むのにも十分な広さだった。

「狭いわねぇー」とキラキラを振りまきながらチュンが言った。

(あなたのサイズなら豪邸でしょ)

と思ったが言わなかった。


前の住人が置いていっただろう道具類も結構あった。

「掃除道具もあるね。」


私たちは掃除を始めた。

私がきれいになれと念じればすぐにきれいになりそうだったけど、自分たちの手で掃除をした。

きっとその方がこの店に愛着がわく。


小一時間かけて部屋はきれいになった。

「宿屋から荷物を運びましょうか。」


私たちは宿屋から荷物を運び出した。

「この時間に言われても」と受付の人がゴネるのでもう一泊分のお金を支払って出てきた。

「ケチねぇ!」チュンが怒っていた。

相手も商売だからしかたない。


私たちは気を取り直して途中で店で使えそうなものも買っていった。


大荷物を抱えて店に戻った。


「その板どうするの?」と私が買った大きめの板を見てアリが聞いた。


看板にしようと思っていると言うと大事なことを思い出した。

「お店の名前!」


私たちは案を出し合った。

自分たちの名前を入れるとか、チュンは長ったらしい舌を噛みそうな名前も提案していた。


「『薬屋』だけでいいんじゃない?」と、私はめんどくさくなってきて言った。

全員が「だめ!」と言った。

みんな、なんだかんだ楽しんでいる。


私はもちろんこの店舗も(防音室)に加工し、(見えないものの目から見えない)仕様にした。


ムイが「薬屋ライト」と、ぼそっと言った。

(『薬屋』と、かわらないじゃないか)


いくつか候補が上がったので多数決を取ることにした。

みんな自分の案に手を上げるので、私がムイの案に手を挙げた瞬間に名前が決まった。


『薬屋 ライト』誕生


私は看板のイメージを紙に描いた。

みんないいね!と賛成してくれた。

「私にお任せください。」とルアンが名乗り出てくれたので任せることにした。

ルアンは風魔法を使い、器用に彫刻を始めた。


私たちは置いてあった棚の補修や配置などを替えながら店の中を改造していった。

これも私の具現化で一発の仕事だったが、みんなで案を出し合いながら作るのは楽しかった。


「お腹すいたー」とアリが言った。

今度はチュンが「私に任せて!」と、さっき買った小麦粉や砂糖を持って2階に行った。

「シア、料理の道具を出してー!」と2階から叫んでいる。

私が元の世界で見たものを出したのでこの辺で売ってるわけがない。

私はチュンに言われるまま必要な道具を揃えてあげた。

電化製品についてどうしようか考えた。

みんなに意見を聞くと「私はコーヒーメーカーが」とムイが言い、「私はシャワーが欲しいわ」と、チュンが言い、「それは何ですか?」とルアンが言った。

人間たちに聞かれるとめんどくさい。

「魔法で動かしていますって言えばいいじゃん」とアリが言った。

(便利な言葉だな)


私たちは居室には部外者を入れない。と言うことで居室には必要なものを置いた。

寝室は1つしかないけど贅沢は言えない。

ムイが「せめて仕切りを…」と言うので真ん中にカーテンをつけてやった。

チュンはここにもドールハウスを希望したので小さめのものを出してあげた。

「3階建てね…」

「1人1フロアずつにしたら?」と言うと、アリと妖精たちは「ボクが上!」「いやボクが!」と、もめだした。

勝者はもちろんチュンだった。


だいたいのゴールが見えてきた頃、チュンのオーブンからチンッと音がした。

部屋はいい匂いに包まれた。

美味しそうなカップケーキが出来上がった。

「これも売ろうよ。」と、アリがもぐもぐしながら言ったが、薬屋より流行りそうだったので却下した。


私たちのお店が形になってきた。


私はカップケーキをつまみながら思った。


(やっぱり何かを作るのって楽しいな!)




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