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見てはいけないもの

「流れ星きれいだったね!」


アリは一晩経ってもまだ興奮しているようだった。

「シアは何をお願いしたの?」とアリが聞いてきた。

「お願い事を教えたら叶わなくなっちゃうんだって。」

と私が教えるとアリは両手で口を押さえた。


祭は終わった。

宿屋は帰る客たちでごった返している。

「食堂混んでそうだね…」と、私が諦めかけていると、

「お腹空いた!!」とアリが叫んだ。

「今行くよ…」


私はムイに声をかけて1階に向かった。

受付前では女性客たちが列をなしていた。


食堂は思ったより空いていた。

今日はバイキング形式のようだ。

(人が多くてさばききれなかったか)


アリと妖精たちに「あれ取って!」「これも!」と指示をされながら盛りつけていたらいつの間にか山盛りになっていた。

女性客が私の方を見てクスクス笑っている。

(好きなだけ笑うがいいさ)


ムイが遅れてやって来て「すごい量ですね!」と言った。

「残さず食べなさいよ。」と私はアリたちに言った。

「小さいから全部は無理だよ!」と言っている。


私は無心で皿の上にあるものを食べた。

私は食事を残すのが嫌いだった。

どんなに嫌いなものでも、不味いものでも完食してやろうという精神はある。

(残すこともあるが)

特に人の作ってくれたものはできるだけ残したくない。

だって私のために作ってくれたんだから!

素材一つ一つに生産者さんたちの思いが詰まっている。

簡単に目の前に料理として出されるものも、たくさんの人が関わっている。

遡れば中東で石油を掘ってる人まで関係している。

だって燃料がないと輸入できないし、輸入できないと食べられないものが多い。

そう思うと世界中の人が私のためにたくさんのものを生産してくれている。


当たり前なんてない。

すべてのものに感謝。


(お腹がきつい)


「シアさんすごいすごい。」

ムイが手を叩いて褒めてくれた。

「お昼ごはん要らないかも。」


バイキングとは恐ろしいものだ。

いろんな種類を並べられるとどうしても少しずつ取りたくなってしまう。

パンに米に焼きそばにタコヤキって炭水化物祭だ。

(デブにバイキングは禁止の方針で頼みたい)


私はふぅふぅ言いながら「少し部屋で休ませて。」と言った。

ムイが「私は本屋に行ってきますね。」と言うとルアンがついていった。

残った私たちは窓からぼーっと外を眺めていた。

この宿屋は街の出入口の近くでこの部屋から街を出入りする人たちがよく見える。

今も女性たちが通りを埋め尽くしている。

(何やってるんだろ)


私はよく見えなかったので窓を開けてみた。

なんだか、嫌な予感がした。


国王の馬車が見えた。

(やっぱり)


後ろに白い馬に乗った例の金髪男がいた。

男はすぐに私に気がついた。

かなり近くなった所で私は殺気を感じで窓を閉めた。

トンッと窓に何か当たって落ちていった。

下から「キャーー」という声が聞こえる。

(私のせいで誰か怪我をした?!)

私は急いで窓を開け下を見てみた。


下には若い女性が赤いバラのような花を1輪持っていた。


金髪男は振り返り残念そうな顔をして手を振った。

バラを拾った女性は倒れそうだった。

(バラの棘で私を殺そうと?!)

毒がついていて女性が倒れそうになったのかもしれない。


私は急いで通りに出た。

バラを持った女性に近づくと、

「勇者様からお花をいただけるなんて、嬉しすぎて倒れるところでしたわ。」

「私なんて手を振ってもらいましたのよ。」

(元気そうだな)

花をよく見ると棘なんてなかった。


(こんなに大勢の前で人殺しなんかしないか)


私は部屋に鍵をかけるのを忘れたので部屋に戻った。

ふと、指輪が赤くなっているのに気がついた。

嫌な予感がして急いで戻ると案の定泥棒が出てきたところだった。


泥棒は私に何か投げつけた。

私は捕縛スキルを使った。

泥棒はそこでイモムシのようにもがいた。


(機嫌の悪いときにようこそ、悪人よ)


私は泥棒を着ているものを1枚ずつ脱いでいくように念じた。

脱いだ服をチェックする。

指輪やネックレスなどのアクセサリーから金のボタンなど色々出てきた。

ズボンのポケットからはたくさんの財布が出てきた。

(四次元ポケットかい)


パンツ1丁になった男に「まだあるか?」と聞くと首を横に振った。

(さすがにないか)

私は自分のものだけ取り返した。

部屋に戻り紙に『お返しします』と書いた。

ロープを具現化して出した。

廊下に戻り、ロープでぐるぐる巻きにした。

そして、おでこに紙を(誰かが剥がすまでくっついてろ)と念じて貼り付けた。

最後に(私のことは忘れろ)と念じた。


私は部屋に戻った。

廊下から「キャー!」「泥棒?」という声が聞こえてきた。

受付の人が呼ばれたようだ。

(これで持ち主のところへ戻るかな)


人が集まると悪いものも集まってしまう。

人はみんな平等だとか言うやつもいるが全くそんなことはない。

生まれたときから格差は始まっている。

努力で自分の価値を上げられる人もいるだろう。

でも実際そんな人は少ない。

そんなに強くない。

『がんばれば、なんでもできる』みたいなことを言う人がいるけれど、がんばってもできないことはある。

確実にある。


世の中きれいごとばかりだ。

その中で何も考えずにほんわか暮らせている人は幸運だ。

知らなくても良いこともある。

汚いものは見なくていいなら見たくない。


(私も汚いものに気がつかないで生活できてたらここにはいないな)


と、考えたらここにいる私は幸運だったな。と、思えた。

生きていればいいこともある。

それに気がつけるかどうかなのかもしれない。


(呪っていてよかった)


こんなことを思う日が来るなんて人生わかったもんじゃないな。


────


ムイがたくさんの本を持って帰ってきた。

旅はまだ続くのに…


お腹も落ち着いてきたので街の探索の続きでもしようか。

私はムイを誘った。


ムイは「いい本がありまして。」と、ご機嫌だった。

アリが「本嫌い」とぼそっと言い、「私に本なんて必要ないわ!」とチュンが言う。

それをルアンがニコニコ眺めている。

(今日も平和です)


今日は薬屋を探そうと思っている。

国王が直々に遊びに来るような街だ。

それなりに手をかけてもらっているだろう。


薬屋があった。

中にはほとんど商品が並んでいなかった。

「何をお探しですか?」と若い男が出てきた。


ムイは『薬屋の設定』の話をしている。

「と言うことでどんな商品があるのか勉強させてもらおうと思いまして。」と、ムイと男は空になっている棚をみつめた。


「ご覧の通りでございまして…」

と、男は寂しそうに棚を眺めている。

「以前は王都から卸してもらっていたのですが、最近は全く…ないものはないと言われまして。」

「なんのお役にも立てずに申し訳ない。」と男は言った。

ムイは「お話を聞けただけでも助かりました。」と言って店を出た。


「ここにも薬はないようですね。」

と、ムイが腑に落ちない感じで言った。


(王都は民を守る気がないのかな)


「早めに王都に向かう?」と私が聞くと、

「その方が早いかもしれませんね。」とムイが言った。


通りにあったベンチに座る。

マップを確認するとここから王都まで30kmくらいだった。

「半日かからないで着きそうですね。」とムイが言うと、

「今日はここの美味しいものを食べるからダメ!」とアリが怒った。


「明日にしようか。」私は諦めた。

ムイも「そうですね。」と諦めた。


「私はお昼ごはん食べられそうにないからムイとどこか行ってくる?」と妖精たちとアリに聞いた。

「お昼は何か買ってきて宿で食べてもいいわよ。」とチュンが言うと、「ボクもそれでいいです。」とルアンが言った。

アリは渋々「じゃあボクもそれでいい。」と言った。


私たちはまだ見ていないお店をまわってみた。

相変わらず野菜はほとんど売られていない。

かなり内陸に入った街なので魚も売っていない。


(ここの人たちは肉でできているのか)


お肉は大好きで毎日食べてもいいけれど、他のものがあってこそだと私は思っている。


主に焼鳥やチャーシューのような肉ばかりの昼食になっていた。


「この近くにダンジョンはないんですか?」と、ムイに聞かれたので探してみることにした。


遠視で見ると雪ばかりで代わり映えのない景色だった。

針葉樹ばかりで動物も少ない。

狩りで生きていくには辛い環境のようだ。


ここから東に50kmくらい先のところに1つあった。

「王都より遠いところにあったけど、行ってみる?」

と聞くと「行きたい!」と、アリが答えた。


私はダンジョンの中に人間がいないか見てみた。

人の気配はまったくない。

マップ上ではここが最寄りの街になっている。

(ダンジョンに行きそうな人いないもんな)


この街からも優秀な人は王都に引き抜かれて行ってしまったのだろうか。


「面倒だからこのまま行くね!」と言って私はカーテンを閉じた。

そのままダンジョンの入り口に来た。

ここはどうやら遺跡タイプのようだった。

大きな石が積まれていた。


中は外ほどではないがひんやりとしている。

植物は生えていない。

大きな石のレンガを積み上げてできたような建物だった。

こういうところはトラップが多い。

私は「そこ踏まないで」「こっちに寄って」と指示を出しながら進んだ。

ここの魔物はアンデット系のようだ。

ゾンビのようなものが歩いてきた。


(こっちの世界で見るのは初めてかも?)


チュンが光魔法を当てるとキラキラと消えていった。

「このダンジョン、何かおかしいわ。」


ムイがこんな魔物は見たことがないと言った。

確かに人の形をした魔物はほとんど見ていないかもしれない。

「進んでみよう。」と私が言うと、みんな真剣な顔をして「はい!」と答えた。


チュンが大活躍だった。

通路が狭いのでアリには物理的に無理だったが「あいつら気持ち悪い。」と言ってカゴから出てこなかった。


チュンがキラキラを振りまいている。

(光魔法って見ていて洗われる気がするなぁ)


ほとんど人のようなゾンビが次々と出てきた。

「これ、やっつけていいやつなんだよね?」

と私が聞くと、みんなわからないと言った。

遠視で確認するともう少しで開けたところに出る。


「倒さないで一気に駆け抜けよう!」

私たちは迫りくるゾンビたちを避けながら全力で走り抜けた。

開けたところに出た。


ボトッ

と、音がする方を見るとゾンビが落ちてくる。

「上に何かあるね。」

「でもあの穴から行くのはどうでしょうね。」

ゾンビはその穴から次々と落ちてくる。


ルアンが風魔法でみんなを運んでくれている。

何か上に行ける策はないかと探していた。


「あそこ、かすかに光っているわ。」とチュンが何かをみつけた。


四角く光が漏れている。

「ドアっぽいね。」と私が言うとバーンッと向こう側に四角いドアだったっぽいものが倒れた。

「風魔法で飛ばしました。」

と、私たちを運んでる最中のルアンが言った。

私たちを吹き飛んだドアの上に降ろしてくれた。


そこは通路になっていた。

ゾンビの気配はない。

私たちは中央方面に伸びているだろう通路を進んだ。


突き当りにドアがあった。

上部はガラスになっていて向こう側がみえる。

ゾンビがたくさんいる。

魔法陣が見えた。

そこから死体の様なものが現れる。


「あれなんだろう?」と、私が聞くと、

「転移魔法ね…」とチュンが教えてくれた。

「どうする?」中にはゾンビがうじゃうじゃと歩き回っている。


「私の心が倒すなって言ってるんだよね。」と私が言うと、「実は私も」とチュンが言ってみんな頷いていた。

「帰ろうか」


私たちはそこから瞬間移動して部屋に戻った。


何か嫌なものを見てしまった気がする。


(あの魔法陣の転移先は…)


私は考えるのをやめた。




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