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チュンの過去

「勇者についての考察 意見交換会を始めます。」


「はーい!」とアリだけ手を挙げた。

私たちには状況整理をしないといけない出来事が多すぎた。

「勇者が私を見ていた件についてですが、あれは確実に前に目が合ったときと同じ感覚でした。おそらく私が『誰なのか』はわかっていないが、『前回目が合った人』というのはわかっていると思われます。」

ムイが「私もそう思います。」と言った。


「私はあの勇者からシアへの敵対心は見えなかったわ。」とチュンが言った。

「ボクもどちらかというか、好意というか好奇心というか、興味があるような目で見ていたように思います。」とルアンが言った。


アリは「ボクはあの勇者なんか嫌い。」と言った。

(同意見です)


「しかし指輪は赤くならなかったのですよね?」と、ムイが聞いた。

「最初壊れてるのかな?って思ってたけど泥棒に遭ったときには赤くなったの。もしかしたら距離があったからかもしれない。もっと近づいてみないとわからない。」と正直な感想を伝えた。


「勇者について他に何か意見はありますか?」

みんな首を横に振っていた。


「では次の議題に移ります。レストランの悪魔についてです。」

私がそう言うとチュンがビクッとした。


「チュン、説明してもらえる?」

私はチュンを見た。


チュンはなんとも言えない表情でこう始めた。

「私があの悪魔、メイヤと会ったのは今から400年くらい前だったかしら…まだ魔王ゼスが誕生する前よ。」

私たちは静かにチュンの話に耳を傾けた。


「メイヤも若くてね、人間たちに悪さばかりしていたわ。

その時の私のご主人様は国王の息子、王子に仕えていたの。

すごくかわいい子でね、素直で優しくて大好きだったわ。

王子が10歳のときに王妃様が病気になっちゃってね。私は回復魔法とかありとあらゆる魔法を試したけど全然効果がなくて…」と、そこでチュンは泣きだしてしまった。


「やつれて、元気がなくなって、本当に別人のようになってしまったの。

私は王子のために研究したり実験したり、原因を突き止めようと必死だったわ。

それでやっと原因がわかったの…」チュンは震えていた。


「あのメイヤが呪いをかけていたの。それも遊び感覚で…

その時の私には昇華が使えなくてね…

呪いを解くために必死に調べまわったわ。

やっとのことで『浄化』を覚えることができたの。

私はやった!と思ったわ。これで王妃様を助けられると思ったの。

でもわかるでしょ、悪魔の強い呪いには『浄化』では足りなかったの。

王子は助かるって思っていたのに、助からないって言われて。

王子は荒れたわ。私なんて見たくもない。使えない。こっちにくんなって…」チュンの涙は止まらない。


「そして主従関係を破棄されたの。

私は要らない子。使えない子。そう思ってすごく悲しかった。

何よりも悲しいのが心優しい子だった王子が闇落ちするって言うのかしら、部屋から出てこなくなって…

『殺す』とか『死ね』とかずっとブツブツ言っていてね。」チュンはこらえきれず言葉が止まってしまった。

みんなは静かに次の言葉を待った。


「私は主従関係を切られてしまったし、近寄ることもできなくなってね。

でもせめて王妃様を助けたかったの。

私は『昇華』の存在をその頃知ってね、私に伝授してくれる人を探し回ったわ。

幸いなことに王妃様は苦しみながらもまだ生きていてくれてね。


私はある聖女に出会うことができて彼女に『昇華』を伝授してもらえたの。

すごく嬉しかったわ!すぐに王妃様のところへ行って『昇華』をしたの。

王妃様はすぐに元気になったわ。笑うようになって…走り回れるようになって…なったのに…」チュンは両手で顔を覆った。


「私が『昇華』を使えるようになる前日に王子は自害していたというの…」私はチュンに「辛かったらもういいよ。」と言った。

チュンは「最後まで話すわ。聞き取りにくくてごめんなさいね。」と言って続けた。


「しばらく伏せられてたのよ、王室ってそういうことをよくするの。

王子は病気で亡くなったとしばらくして発表があったわ。

私はそんなことも知らずに、王妃様の横で、毎日、毎日、ニコニコと笑っていたのよ!」チュンはテーブルをバンッと叩いた。


「私が守るべきは王子だったのに…私は何も知らずに笑っていたのよ…

拒否されても、物を投げつけられても、それでもそばにいればよかった…


私は王子の話を聞いてから何もできなくなってね。

誰に仕えるわけでもなくフラフラしていたの。

その時にある噂を聞いたの。

メイヤは王妃様を殺そうとはしていなかった。

苦しいけれど死ねない呪いをかけていたの。それも仲間との遊びで。死んだら負け、みたいなね。


そんな遊びのために王子は自分で自分の命を絶ってしまった。

私はずっとメイヤのせいでって、私のせいじゃないって言い聞かせたの。

人のせいにして自分の罪をなかったことにしようとしたの。」


「私は死ぬ覚悟でメイヤのところへ行ったわ。

一言文句を言わないと気が済まなかったの。


私はメイヤをみつけて言ったの、『あなたの遊びのせいで王子が死んだ』ってね。

そしたらあの悪魔ったら王妃様にかけてた呪いのことすら忘れてたの!!

そしてなんて言ったと思う?

『ごめん』って、謝ったのよ!!そして涙を流して悔いたの!!自分のせいで若い命を奪ってしまったと悔いたの!悪魔のくせに!!」チュンは怒り狂っている。


「それからメイヤは人が変わったように悪いことをしなくなったわ。

国王と王妃様がこれ以上悲しまないようにって2人を陰ながら守っていたわ。

それは2人が寿命で亡くなるまでずっとね。」

部屋は静まり返っていた。

私は途中から(あれ?)と、なっていた。


(もしかしてメイヤって、根は悪いやつじゃないんじゃ)


「それから私は何かあるたびにメイヤをみつけてネチネチ言ったの。『人でなし』って。」

(人じゃないけどな)


「それが関係してたのかはわからないけど、『引退する』って私に言いに来たの。悪魔を引退って、なんなのよ!

意味がわからないじゃない!

そして、メイヤは姿を消したの。からのさっきの再会よ!」と最終的にはチュンは怒っていた。


私たちは何も言えなくなった。

ここでチュンになんて言ってあげるのが最善なのかわからなかった。


「悲しいことを思い出させてごめんね。」とだけ言った。


当時のチュンのことを思うと胸がはちきれそうになる。

大事な人が死んでしまうだけでも苦しいのに。

助けてあげられなかったと自分を責める気持ち、そして人のせいにしたい気持ち。

きっとメイヤを責めてる裏で自分のことも責めていたのだろう。

なんて悲しい出来事だろうか。


「メイヤはどれくらい引退していたことになりますか?」とムイが聞いた。

チュンは悩んで「私が封印されるちょっと前だから…300年は経つのかしら?」と言った。

私は逆算した。

王妃がどのくらい苦しんでいたのかはわからないけど90年くらいはメイヤはチュンにネチネチと責められていたのだと…


(どっちもどっちな気がしてきた)


確かに悪いのはメイヤだろう。

それは変えられない事実。

遊びで呪うなんて!!絶対にしてはいけない。

しかし反省してるし、改心してるし…


私の頭では解決しなかった。

とりあえずチュンが昇華を覚えることができたのはメイヤきっかけなのはわかった。


アリは空気を読めなかった。


「メイヤって今はいい人なんじゃない?」


チュンは口を開けて目をパチパチさせている。


みんなちょっと思ったけど言えなかった言葉だ。

沈黙が流れる。


「メイヤの胸騒ぎって何でしょうね?」

とムイがその空気をぶち壊した。

「勇者じゃないって言ってましたね。」

とルアンがやっと口を開いた。


「まさかゼス復活の兆しとかあったりしてね。」

と私は冗談で言った。


その時である。

私は心臓を突き刺されるような感覚がして苦しくなった。


「息が…できない…」

そのまま目の前が暗くなった。


────


私は真っ暗な中にいる。

身動きはまったくとれないし、声も出せない。


しかし何かを感じる。

何かすごく大きな力。

そして邪悪な力。


私はそこから逃げたかったが体は動かない。


真っ暗で。


怖い。


怖い…


────


「シア!シア!?」


(私を呼ぶのは誰?助けて!)


私は目を開けた。

目の前にみんなの顔があった。


「シア!よかった!!死んじゃったかと思ったよ。」アリが泣いている。

私は体を起こした。

いつの間にか倒れてしまったようだった。


「大丈夫?」

チュンが回復魔法をかけてくれている。


「ありがとう、楽になったよ。」

私は立ち上がってみた。

(大丈夫だ)


「急に倒れて震えていたので心配しましたよ。」

と、ムイが青い顔をして言った。


「ごめんね、もう大丈夫みたい。」


「今日は部屋でおとなしくしてましょうか。」

と、ムイが言うとアリが叫んだ。

「お祭に行けると思ったのにー!」


妖精たちもそわそわしている。

「無理はよくないけどね。」

「行けるなら行きたいけどね。」

「だってお祭なんて久しぶりよね。」

「ボクも数百年ぶりです。」


「お祭行こっか?」

私が言うと、「いいのー??」と、明らかに喜んでいる。


ムイの方を見ると呆れた顔をしていた。

「気分が悪くなったらすぐに宿に戻りますからね!あと、勇者もどこにいるかわからないので警戒してくださいね!」

と、いつもより、強い口調で言った。


────


外に出ると夕日が沈もうとしていた。

大きな通りは人でいっぱいだった。

「スリに気をつけてくださいね。」と、ムイに言われた。

指輪を見ると赤い。

この中のどこかに悪意を持った人がいるようだ。


(スリは転べ)と念じた。

少し離れたところで男が転んでいた。

(盗ったものを返しに行け)と念じた。

転んだ男は「な、なんだよ…」手に財布を持ち女の人の前に差し出した。

女の人は財布を受け取り、「ありがとうございます?」と言っていた。

(なんか違うな)


指輪は青色に戻っていた。


空が暗くなった。

急にバンッという音と共に花火が上がった。

(最後に花火を観たのはいつだろうか…)


5分ほどで花火が終わりスピーカーから司会と思われる女の人の声が聞こえてきた。


『これより星の降る夜祭を開催いたします』


アリが「何か食べようよー」と言った。

私たちはいいにおいがする方に進んだ。


屋台が並んでいる。

焼鳥にイカ焼きにソーセージ。

「全部買って!」アリがカゴをバシバシと叩いている。


私たちは端から順に買い込んでいった。

「あそこに座れそうですね。」

通りにはたくさんのテーブルと椅子が並んでいた。

人々はそこで飲食していいようだった。


私たちは運良く空いてるテーブルをゲットできた。


妖精たちもお祭気分を楽しんでいた。

私も久しぶりなこの高揚感を楽しんだ。


「キャー」という歓声が上がる。

みんなが見ている方向を見ると屋上に人影が見えた。

国王と王妃が手を振っていた。


その後ろにそれはいた。

金髪男だ。

男はまるで興味のないような顔をしていた。

ぼんやりと空を眺めたりしている。


するとピクッとしてこちらを向いた。

また女性たちの黄色い声が響いた。


金髪男はこちらをじっと見て口元に指をあてた。

そして私に向かってウインクした。ように見えた。


私のまわりにいた人たちが「ウインクされたわ!」と喜んでいる。

私は指輪を確認した。

赤くなっていない。

この距離では発動しないのか。


男はまだこちらを見ている。

また口元に指をあてる。

「シア、口にソースついてる…」アリが教えてくれた。

私は急いで拭く。

男はニッコリと笑った。


私は「気分が悪くなったので帰ります!」と言った。

妖精たちは「もう少しいたかった〜」と嘆いたが、

アリが「ボクも気分が悪い!」と言った。

その横で「私もあの男、嫌いです。」とちょっと怒っていた。


私たちは残った食べ物を持って宿に戻った。


────


部屋は2階だったけど祭の様子はよく見えた。

どうやら今はダンスタイムのようだった。

(盆踊りみたい)


ここから国王のいた屋上は見えない。

私はちょっとホッとした。


「あいつ!シアの口にソースがついてるの教えてたね!」

アリは怒っていた。

「あの笑い方が妙にカンに触りますね。」ムイもちょっと怒っていた。


チュンは「私は好きなタイプだけど〜」と言った。

ルアンがぼそっと「金髪に琥珀色の瞳で整った顔立ち、シアさんに雰囲気が似てますね。」と言うと、

アリとムイが「ぜんぜん似てない!」「ルアン嫌い!!」と全力否定されていた。


「でも髪の毛が長かったらそっくりかもしれないわね。」とチュンが言うと、今度は「チュンも嫌い!」とアリに言われていた。


(確かに金髪で琥珀色の目だけど…)


私は勇者のウインクを思い出して吐きそうになった。


パンッと一発だけ花火が鳴って街の灯が一斉に切れた。

街は真っ暗になった。


この世界にはスマホがない。

暗くなったら暗くなったままだ。

(スマホの画面のピカピカがないってすごいな)


ムイが「流れ星見えますね。」と言った。


空にはたくさんの流れ星が見えた。

たくさんの星の中を走っていく星。


それはとても美しいものだった。

しばらくみんな静かに流れ星を見ていた。


「私がいた世界では流れ星を見た瞬間に心の中でお願い事をするんだよ。」と教えた。


みんな何かを願っていた。


私は(みんなの願い事が叶いますように)と、お願いをした。



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