穴の先
私たちは予定より早くこの街を出ることにした。
この街でやりたいことをやり尽くしたからだ。
私は宿屋の受付の女性に早めに部屋を出ると伝えた。
「すぐに精算をしてお釣りを持ってきますね!」と言ったので受け取った。
それから私は銀貨をひとつかみその女性に渡した。
女性は驚いて「これは?!」と聞いた。
私は「きっとこれからお客が増えると思います。どれくらい先かはわかりませんが、それまでここを潰さないでください。」と言って頭を下げた。
女性はすぐに裏から男の人を連れてきた。
「主人です!」と紹介してくれた。
そして銀貨を見せて「お客さんが増えるかもって」と言った。
ご主人は「実はあなた方を最後に宿を閉めようと思っていた。」と話してくれた。
私は「ではこのお金がなくなるまででいいので宿を続けてくれませんか?」とお願いをした。
ご主人は「こんなに…どうして…」と聞いた。
私は「この街が好きになりました。もっともっといい街になってほしいと思っています。それには宿屋は必要なんです!」と笑顔で言った。
2人は「ではもう少しがんばってみます!」と頭を下げた。
私とムイは「お世話になりました。」と宿を出た。
「シエナやエトに挨拶しなくていいんですか?」とムイに聞かれて、「また来ればいいじゃん!」と言った。
ムイは「そうですね。」と言って微笑んだ。
私たちはあの不格好なソリを探した。
「もしかしてこの雪山…」
私は辺りに人がいないのを確認して(出てこい)と念じた。
雪山からそれは現れた。
不格好なボロボロのソリが。
幌が破れてズタズタになっていた。
私は幌を新しく少し丈夫に作り直した。
(この先はもっと寒いだろう)
私はロバを迎えに行った。
庭にいた従者に「お世話になりました!また来ると思います!」と、声をかけて雪国に戻った。
私は「またよろしくね。」と毛布をかけて括りつけた。
頭を撫でると鼻息とよだれをかけられた。
(こいつ 変わってないな)
私たちは北に向けて出発した。
すぐに森に入り、街は見えなくなった。
「ちょっぴり寂しいね。」アリが言った。
「また会いに行こう。」
────
2時間くらい進んだところで休憩することにした。
ロバに餌と水をあげた。
回復魔法もかける。
私たちは宿屋の女性にもらったサンドイッチを食べていた。
「晩御飯までに次の街につくかなー」アリはご飯の心配をしているようだった。
「着かなかったら屋敷に戻って一晩過ごしましょ。」とチュンが言った。
(最悪そうしよう)
私たちは食べ終わるとまた雪の中を進んだ。
マップを見ると次の村まで10kmくらいだった。
その先に大きな街もあるようでそこまでは30kmもなかった。
(街まで余裕で行けそうだな)
「今日はこの大きな街まで一気に行ってみよう。」
ムイは「日が暮れる前に辿りつけそうですね。」
と笑顔を見せた。
その瞬間前に道がなくなった。
「ギャーーー」
ルアンがまた風魔法で助けてくれて地面につく直前で私たちは止まることができた。
ゆっくりと地面に降ろしてくれた。
「ここは?」
と、上を見ると遠くに光が見える。
「穴に落ちたね!」アリが楽しそうにそう言った。
(穴に落ちた)
「風魔法で上がりますか?」
「いや、瞬間移動で…」と言ってると目の前にその子はいた。
私は声も出せずに固まった。
みんな不思議がって私の視線の先を見る。
アリが「レイ!!」と言って飛びついた。
が、その子はアリをハエでも叩くようにパチンと跳ね飛ばした。
沈黙が流れた。
「レイ…じゃない…」
すごく似ているけどレイではなかった。
その子は私たちにツメを出して威嚇している。
後ろから男がやって来た。
ゴツい体にウサギの耳がついていた。
(コスプレ?!)
「どうしたんだ?」と言い終わると私と目が合った。
男は地面に手をついて「殺さないでー!」と叫んだ。
私たちはあまりの出来事に声が出なかった。
「殺さないよー!」とアリが出てきた。
私はそのウサ耳男を鑑定してみた。
・名前 モリス
・年齢 146
・種族 魔族 ハイラビット種
・レベル 52
(コスプレではないようだ)
ムイは何かを察し、「私はムイ。ここからはるか向こうの大陸から来た旅人です。」と自己紹介した。
アリも「ボクはアリ!よろしくね!」と笑いながら言った。
妖精たちはウサ耳男のまわりを飛んでいた。
男はゆっくりと顔を上げ、妖精たちに驚いていた。
「精霊?いや、妖精??」
「見えるの?!」
と私が驚くと「人間以外には見えるわよ。」と言った。
(聞いてないし)
私も「シアです。北にある街に向かっていました。」と言って上を見た。
「落ちてしまったんですね。お怪我はありませんか?」とウサ耳男は心配してくれた。
どうやら私たちに敵対心がないと判断してくれたようだ。
チュンはいつものように「私たちを誰だと思っているの?私は光の妖精 チュン。こちらは風の妖精ルアン。私たちがついていて怪我なんてするわけないでしょう?それとも私が美しすぎて強く見えない?失礼しちゃうわ!」とまくし立てた。
ウサ耳男は「それは失礼しました。私はモリス、この子はユイ。ここに住む魔族の一族です。」と自己紹介してくれた。
「あなた方は人間ではないと感じましたが。」とモリスが言うと、ムイは「いかにも」と言った。
ユイという少女はまだこちらを警戒していた。
「この先に上に上がれる道があります。」と教えてくれた。
ムイは「ありがとうございます。」と言って去ろうとしたので、私は「ちょっと待って!」とこの人たちにレイの話をした。
モリスが「お時間があるのなら私たちの集落に寄っていきませんか?」と言ってくれた。
私はどうしてもこの少女のことが聞きたくて、「ぜひ!」と返事をした。
モリスはやって来た方向に私たちを案内してくれた。
薄暗いところを通り抜けると下に向かう階段が見えた。
その先は急に明るくなって集落が見えた。
地下へと続くいくつもの階段。
大きく下にえぐられる形で大きな空間があった。
そこには木が生え、草も生えていた。
小さな家が並び、同じように耳の生えた人たちがたくさんいた。
わたしたちは階段を降りていった。
不思議な空間だった。
さっきまで雪の中にいたのに、ここは暖かかった。
よく見るとここのみんなは軽装だった。
「温かいでしょう。この地下に熱源があるみたいでここだけ暖かいんですよ。」と話してくれた。
私は地熱発電を思い出した。
下にいた獣耳の人たちは私たちを不思議そうに眺めた。
「モリス!だれ?」
小さな男の子が近づいてきてモリスの足に絡みついている。
「お客さんだよ。」
「お客さんって何?」
と今度は背中にぶら下がった。
モリスは「うーん。新しいお友達かな。」と言った。
男の子は「やったー!」と喜んでいる。
集落の中心にベンチのようなものが並んでいた。
「こちらへおかけください。」
私たちは腰かけた。
近くにいた垂れ下がった犬耳の女性に「飲み物を」と頼んでいた。
「何から話しましょうかね。」
モリスは語りだした。
私たちは静かに耳を傾けた。
「あれは2年くらい前でしょうか…」
モリスが畑仕事をしていると急に光って小さな猫のような魔物が落ちてきたという。
モリスはどうにか両手で受け止めてその子を見ると首にペンダントが2つぶら下がっていたという。
モリスはユイの首元を指した。
確かに2つの赤と青のペンダントがぶら下がっている。
「転移アイテムよ」とチュンが小声で言った。
「誰かがこの子をこの集落に託したんだと思って大事に育てました。」
猫だったその子に自分たちのような姿になれるよと変身のしかたを教えたという。
すぐに覚えて今の姿になったらしい。
名前もわからなかったのでモリスが『ユイ』と名付けた。
「もしかしたらこの子にはこのペンダントの本当の持ち主、もう一人の家族がいるのではないかとずっと思っていました。」
(それがレイ?)
「その子を呼んでもいいですか?」
モリスはびっくりして「連れてこれるのですか?!」と聞いた。
私は頷いた。
モリスはユイに「家族がいるとしたら会いたいかい?」と聞いた。
ユイは「わかんない。」と言って俯いた。
モリスは私をみつめ、「お願いします。」と言った。
私は遠視でレイを探す。
レイはメメちゃんのところにいた。
私はそこに瞬間移動をした。
レイは驚いていたがすぐに「シア!!」と飛びついてきた。
私はレイの頭を撫でて「がんばっててえらいよ!」と言った。
レイは「見て!メメちゃん大きくなったよ!」と言った。
あの小さくてか細かった芽が伸びて葉をつけていた。
「すごいよレイ!」
レイは嬉しそうに笑った。
「帰ってきたの?」と聞かれ、私は「家族が居たら会いたい?」と聞いた。
「会いたいけど、お父さんとお母さんは…」と暗い顔をした。
「レイにそっくりな女の子がいるの。」と教えた。
レイは「会いたい!!」と言った。
私はすぐに瞬間移動をして戻った。
────
戻るとレイはすぐにユイをみつけた。
ユイもレイを見ている。
2人はゆっくり近づいてにおいを嗅ぎあった。
レイは私の方を見て頷いた。
レイはユイの顔をみつめて「あなたを知ってる」と言った。
ユイも「私もあなたを知ってる」と言った。
────
私たちは2人を見守った。
少しずつ自分の話を聞かせているようだった。
並ぶと本当にそっくりで同じ服を着せたらどっちがどっちなのかわからないかもしれない。
ユイは自分の首にかかったペンダントを取ってレイに見せている。
レイは青い方を選んだ。
ユイは青いペンダントをレイにかけてやった。
レイは立ち上がり「帰る」と言った。
「えぇ??もう??」
と聞くと「すぐにまた遊びに来る。」と言った。
(瞬間移動覚えたんだっけ…)
ユイはレイの手を握った。
レイもユイの手を握り返した。
2人はおでことおでこをぶつけた。
モリスはレイに「いつでもおいで。」と言った。
「ありがとうございます。」とレイはモリスにお辞儀をした。
(成長している!レイが大人に!!)
嫌な予感がして鑑定してみた。
・年齢 16歳
この前見たときは10歳だった。
(ケーキ6個作ってもらわないと)
レイは私に抱きつき「旅、がんばってね。」と言って消えた。
私たちは呆気にとられた。
ユイが近づいて私に抱きついた。
「レイを助けてくれてありがとう。」
私は「レイには私も助けられてるからおあいこだよ。」と言った。
ユイはモリスのところに走っていった。
私は「ありがとうございました。レイが来たときにはよろしくお願いします。」と言って頭を下げた。
ムイもお辞儀をしている。
モリスは「もちろんです。あなたがたもいつでも遊びに来てください。」と言って微笑んだ。
────
私たちはモリスの案内で地上に戻ることができた。
モリスと別れると、アリが怒っていた。
「レイが遊んでくれなかった!!」
私はアリを撫でて「また今度ね。」
と言った。
ソリは北へ向かう。
「急げば間に合いそうですね。」
私たちは村を通りすぎた。
次の街へとソリは進む。
(間に合わなかったらククルのご飯を食べに行こう)




