賢者
私は順調に仕事をこなしていた。
できるだけ命を奪わず、普段の生活に支障のない呪いを心がけた。
ときどき悪魔はやって来て私を褒めては褒美を置いていった。
暗くジメジメしていた地下室は悪魔の持ってくる褒美で少し明るくなった。
私の一番のお気に入りは元の世界のスノードームに似ている。
メロンほどの大きさのガラスの球体の中に可愛らしい家の模型と少女と犬のような動物が数匹いた。
元の世界のそれとは違うのはその少女や動物が飛んだり跳ねたり自由に動き回っていることだ。
私は暇をみつけるとそのスノードームを眺めた。
小さな少女は楽しそうに動物たちと遊んでいる。
(私もこうやって何も考えずに遊んでいたかったな)
ムイは相変わらずいつもの笑顔で依頼を持ってくる。
ときには甘いお菓子とお茶と一緒に。
どうやら私は想定よりいい仕事をしているらしい。
時間があれば魔物狩りに出かけレベリングをしている。
いつの間にか生霊として行ったことがある場所には瞬時に移動できるようになった。
よくわからないスキルも増えていた。
・使役 Lv1
(使役ってなんだろう?)
私は本棚へ向かい辞典のようなものを探した。
”他のものを使い仕事をさせること”
そう書かれていた。
(他のものを使うって人とか魔物を操ることができるってことかな?)
私はどうしても試してみたくなり魔物を探しに行った。
すぐにキツネのような魔物をみつけ念じてみる。
(私の言うことを聞きなさい…)
キツネは私の思うまま走り回ったり転がったりした。
かわいい姿で言うことをきくのを見て連れて帰りたくなった。
(ククルにみつかったらきっと怒られるな)
私は連れて帰るのは諦めた。
魔物そのものの能力を超えた命令はできなかった。
羽が生えているわけでもないキツネに空を飛べと言っても無理だった。
(そりゃそうか)
私は人でも試してみることにした。
近くに小さな村がある。
農作業中の娘をみつけた。
私はその娘にもいろいろやらせてみた。
(歌い踊れ…)
その娘は見事に歌い踊った。
いつの間にか彼女の周りには人だかりができ、一緒に歌う者や踊る者が現れた。
キリのよいところで解放すると周りの人たちは彼女に拍手をした。
しかし彼女はポカンとしてなぜ人に囲まれているのかも拍手をされているのかもわからない様子だった。
(使役されている間の記憶はないということか?)
私は他にも何人か試してみたが使役されている間の記憶はとんでしまうようだった。
(使い方次第ではあるけど使えそうだな…)
私はしばらくスキルのレベルアップに励んだ。
────
いつしか私のレベルは50を超え、身分証のアイコンも増えていた。
録画や録音のような機能やテレビ電話のような機能も増えていた。
友達もいない私にとってはいつ使うのかわからない機能だったが。
────
いつものように依頼をこなすためにある王国に来ていた私は酒場である噂を聞いた。
「原因不明の呪いが流行ってるらしい。」
「俺の仲間もやられた…あいつは腕が震えるようになって剣を使えなくなったんだ。」
「僧侶様でも治せないのか?」
「お手上げらしいぜ…」
(原因不明の呪い…私のことかな…?)
どうやら呪いの噂が人々の間で問題になっているようだ。
「解明のために賢者様が王都に呼ばれたらしいぜ。」
「賢者様が来てくれるならなんとかなりそうだな!」
(賢者様…)
私はなぜか嫌な気持ちになりすぐに仕事を終わらせ屋敷に戻った。
そしてムイを探した。
「ねぇムイ、ちょっと聞いてもいい?」
「シアさんおかえりなさい。どうされました?」
「賢者様ってどんな人?」
ムイはいつもの笑顔ではなく真顔になり
「賢者がどうしました?」
と聞いてきた。
私は酒場で聞いた噂話を聞かせた。
ムイは真顔のまま
「賢者は厄介なやつです。」
と言い、私にこの場で待つように言い何かを探しに行った。
戻ってきたムイは水晶を持っていた。
「お見せしますね。」
そう言うとなにやら呪文を唱えた。
すぐに水晶から動画のようなものが映し出される。
そこには悪魔とムイがいた。
そしてもう一人、青い髪の容姿端麗な若い男が映っていた。
「こいつが賢者です。」
賢者というから老人をイメージしていたが違ったようだ。
賢者は長い杖のようなものを悪魔とムイに向けている。
なにやら呪文を唱える賢者。
悪魔は
「ここは引くぞ!」
と言うとムイとその場から消えた。
「ご主人様より強いわけではありませんが相当な力の持ち主です。」
ムイは気をつけるように言い水晶を片付けた。
(相当な力の持ち主か…)
会いたくないなと思った。
今までの魔法使いや僧侶とはレベル違いなのは私にもわかった。
青い髪の男…
賢者…
王都にやってくるという。
(王都の依頼がなければいいけど…)
私は強くならなければいけないような気がしてまた狩りに出かけた。
(もっと強くならなければ…)
しばらくムイは仕事を持ってこなかった。
悪魔と一緒に出かけてる様子も増えた。
私は王都には近づかずにいろんなスキルを試したりレベルを上げたりして過ごした。
そしてふと青い髪の男を思い出しては身震いした。
(呪いの解明…私をみつけて殺しに来るのかな…)
恐怖心からがむしゃらにレベルアップをした私はレベル70になっていた。




