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エト

私は重大なことを忘れていた。

人間たちの前で高度なスキルは禁止だった。


今日はエトを連れてダンジョンまで行かなくてはいけないかもしれない。

瞬間移動なしに。


瞬間移動なしに。


この雪の中をザッと数キロ歩かなくてはいけない。

「エト、断ってくれないかなー」

と言ってるとムイは、「歩きたくないだけでしょ。」と言った。

(バレてる)


私たちは宿屋で朝食を済ませ、エトの家に向かっていた。

今日は雪も降っていなくて晴れていて気持ちのいい朝だった。


行く途中に昨日の雪だるまを見ると子供たちが集まっていて雪玉をぶつけて遊んでいた。

ニンジンは誰かに盗まれて顔は福笑いのようにマヌケ面になっていた。

手袋もよく見たら雪玉をぶつけているこの中に履いている子がいた。

バケツも時間の問題だろう。

(人間 許さん)


エトの家につき、ノックしようとしたらドアが開いた。

「お、おはようございます。」

私はびっくりして声がひっくり返ってしまった。

後ろでムイがクスクス笑っていた。

(こういうところニヤにそっくりだ)


「おはようございます!父も行きます!」

とエトと父親は準備万端で家から出てきた。

母親が「無理しないですぐ帰ってらっしゃいね。」と心配そうに言った。

エトは「薬屋さん、すごい即効性のある万能薬を持ってるから大丈夫よ!」と笑った。

(回復魔法ですが)


私たちはエトの母親に手を振り出発した。

エトの父親は狩猟を仕事にしているそうで森には詳しいという。

「あの辺は獰猛な奴らが多くて…獲物も棲みつかないしで近づいてなかったんだよ。」と教えてくれた。

エトが「シアさんが魔法で眠らせてくれるから大丈夫よ!」と言った。

(あ、全部倒しちゃったの言ってないや)


小一時間歩き山の麓にたどり着いた。

「魔物の気配がしないな。」

父親は弓を構えて前に進む。

(倒しちゃったからね)


そしてついに魔物の亡骸をみつけた。

大量に。


「何が…もしかしてダンジョンから大きな魔物が出てきてやっちまったのか。」

父親は私とムイを見る。

「とりあえず慎重に進みましょう。」

とムイが言うと「そうだな。」と言って父親は先頭を進んでくれた。


難なくダンジョンの入口についた。

「これが!!」

親子は初めて見るダンジョンに大興奮だった。

「ダンジョンお嫌いなんですか?」

とムイに聞かれて「普通の人は近づかないな。」と言った。

人間たちの一般人にはそういう認識なのだろう。


「では先に見てまいりますね。」

と、ここではムイが先頭になった。


ダンジョンに消えていったと思えばすぐに戻ってきて、

「入口付近は安全です。」と言った。

親子は明らかにワクワクして中に入っていった。


中に入ると「なにこれーー!!」と大興奮だった。

「あったかいよ!お父さん!」

「あったかいな!!エト!!」

(明るい家族だ)


「奥に行くと魔物が出てくるので。」

と言ってるそばで小さめの昆虫タイプの魔物が出てきた。

すぐに父親が弓で倒してくれた。

(この父親強いな)


「奥に行くと魔物もだんだん強くなります。」

と言うと、「行ってきたんですか?!」と聞かれて、

「い…一般論です。」と私は答えた。

(人間 めんどくさい)


「ここの草、よく見ると薬草が混じってるんです。」

と言うと、「どれですか?!」とエトが食いついてきた。


私はチュンの指示で、「これとこれと…」と数種類の薬草を取ってみせた。


「すごい…こんな場所があったなんて…」

エトは泣きそうになった。

「みんなに教えないと!」

と言うので、

「みんなで来るのは構いません。しかしダンジョンとは言え取りすぎると生態系が崩れます。

植物を糧としている小さな虫や魔物が息絶えると、その上の魔物も息絶えます。そしてどんどん広がってやがて荒れ地になるでしょう。」

と私は言った。


人間とは欲の深い生き物だ。


「そして独り占めしようとする人が出てくるかもしれません。街の外から強欲な人が来ないとも限りません。何があるのか予測はできません。」

私は続ける。

「利益を生むとわかれば今度は人間同士の争いが生まれます。より多く、より良いものを人は欲しがります。

それは必要以上に根こそぎに。


私はそんな光景をたくさん見てきました。強い者だけが得をして、弱い者は何も与えられない。

それだけならいいでしょう。最悪の場合、弱者は排除されます。」

と私が言うと、「排除…殺されちゃうの?」とエトは震えていた。


「ダンジョンは誰のものでもありません。マナーを守ってみんながうまく利用できるならそれが1番です。」

と言い、私は続けて、

「私はその判断をあなた方にお任せしたい。あなた方は独り占めするような人ではないと感じました。」

と、エト親子を真剣な目でみつめた。


「あなた方は悪い人たちではない、ではないがゆえに悪知恵の利く人たちに騙されるかもしれません。


どうか、人を疑うことも忘れないでください。」


みんな黙って聞いていた。


私は、「では!薬草を少しいただいてから帰りましょうか!」と元気よく言った。


ムイも元気よく、「はい!」と返事をした。


(あ、どっちが主人かわからなくなってる)


「ムイ様、薬草を探して参ります。」と付け加えた。

ムイは私を白い目で見て、「手遅れ」と口をパクパクさせた。


エトも笑顔を取り戻して薬草探しを始めた。

父親は弓を構えたまま魔物狩りに専念した。


エトは勉強熱心でメモをとり、絵を描きながら薬草の知識を頭に入れていた。

「これはどういった効能が?」「副作用は?」「似ている毒草は?」と次から次へと聞いた。

私はあたふたしながらチュンが耳元で囁く言葉をそのまま説明して聞かせた。


「シアさんはすごいですね。」と弓を構える父親を見ながらつぶやいた。

「私は病人に水を飲ませるくらいしかできませんでした。」と泣きだした。

「毎日毎日弱っていく人たちに何もしてあげることができませんでした。そして…彼らは…」と言ったところで私はエトを抱きしめた。


「えらかったね。がんばったね。」と頭を撫でた。


エトはその場で号泣した。

父親はそれに気がつき、わざと気がつかないふりをした。


ムイも見ないように薬草を探していた。


私は泣き続けるエトに黙って寄りそった。

(私なんかがこんなすごいことをしてきた人に偉そうに言える言葉なんてない)


エトは急に笑いだした。

「たくさん泣いたら元気になっちゃいました!」

(強い子だな)


父親はそれに気がつき、「そろそろ帰るかー!」と叫んだ。

エトは「はーい!」と大声で返事をした。


帰り道にも「ダンジョンで気をつけることは?」「こんな時にはどうすれば?」とあれこれ聞いてきた。

(念じればどうにかなる)なんて言えなかったのでムイに任せた。


街につくとエトの父親は「信頼できる者とこれからのことをよく考えます。」

と言った。

私は頷き、「ありがとうございます。」と深々と頭を下げた。

エトはそれを見て「お父さん何を言ったのよ!」と父親をバンバン叩いていた。

私は笑った。

ムイも笑った。

エトも、父親も笑っていた。


(この親子の笑顔がいつまでも本物でありますように)


私たちは「ではこれで…」と言って別れようとした。

エトは私の腕を掴み、「連れて帰らないとお母さんに叱られる。」と怯えて言った。

昼食を作って待ってるというのだ。

ムイは無言で頷いている。

私は「では遠慮なくごちそうになります。」と言った。


家に帰るとすぐに母親はエトを抱きしめた。

「おかえりなさい」

「ただいま」

テーブルは料理でいっぱいになっていた。


父親は「手を洗ってから!」とつまみ食いをしそうな娘を叱りつけた。


楽しい食事になった。

エト親子は明るくて漫才を見ているようだった。

ムイも大声で笑っていた。

(珍しいな)


気がつくと日が暮れ始めた。

エトが「いけない!夜勤頼まれていたんだ!」と言い出した。

「休みって言ってなかった??」

私が心配すると「今日は頑張れる気がします!」と言って薬草を握りしめた。

私はエトを抱きしめてそっと回復魔法をかけた。

「頑張りすぎないでね。」

エトは静かに頷いた。


私とムイは取ってきた薬草をすべてエトに託した。

「こんなに!いいんですか?」と母親はまた私の腕を掴みブンブン振った。

(いい親子だな)


「なんだか元気がわいてきました!」とエトは腕を振り回している。

(回復魔法かけたからな)


私たちは病院の前でエトと別れた。

エトは私たちが見えなくなるまで手を振っていた。


────


「うまくいくといいですね。」

ムイはスッキリした顔を見せた。


「きっと大丈夫だよ。」

私は本気でそう感じていた。


「お腹いっぱいで晩御飯無理かも…」と私が言うと、

「晩御飯は別腹でしょ!」とアリが私を叩いた。


「今日は何か買って宿で食べようよ。」

と私が言うと、妖精たちが出てきて「あれとこれと」と注文をつけた。

私たちはいろんな店で美味しそうなものを買った。

(いや、買わされた)


お腹がいっぱいだったはずなのに、美味しそうなものを目の前にすると食べたくなる。

宿屋の食堂のテーブルを借りて買ってきたものを広げたのである。


「いただきます!」

と言って唐揚げのようなものを口に入れた。

「それ狙ってたのにー!」とアリがまた私を叩いた。

「早い者勝ちだよ!!」

私たちはまた楽しく食事をした。


その日は早めにベッドに入った。


私は夢を見た。

あのダンジョンに多くの人が来て、みんなで仲良く薬草を採っている夢だった。


(きっと、大丈夫)





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