女の願い
ゴゴゴゴゴ…
「ムイ!床が!」
と言った瞬間に落ちた。
それはまるで空を飛んでいるようだった。
私は急いでアリを掴んで胸元に押し込んだ。
急に体がふわっと浮いた。
心地よい風に包まれていた。
(あ、死んじゃったのかな…)
目の前にムイが逆立ちの状態でこっちを見ていた。
「シアさん、何が?」
暗闇の中を温かい風に包まれてゆっくりと降下していく。
「このままゆっくり降ろすね。」
ルアンが風魔法で助けてくれたんだ。
私はそのまま身を任せた。
アリが「寝ちゃいそうなくらい気持ちいいね。」と言った。
「ほんと気持ちいいね。」チュンも眠そうな顔をしている。
「みんな、しっかりして!」
私が叫ぶとみんなビクッとした。
ほのかに明かりが見える。
「ほら!何か見えてきたよ!」
そこは丸い空間だった。
真ん中に宝箱みたいな物があるだけだった。
ルアンは風魔法を解いた。
私たちは宝箱をみつめる。
探知してみたがトラップはみつからない。
「どう思う?」
私はムイに聞いてみた。
「怪しいですね。」
ムイも怪しんでいる。
アリはさっきやらかしたのでおとなしくしている。
チュンとルアンもクルクル飛び回ってにおいを嗅いだりしている。
「この部屋にも出口が見当たりませんね。」
ムイがまわりを見渡してそう言った。
「開けてみる?」
みんな頷いている。
私はそっと開けてみた。
中は空っぽだった。
「空っぽだね。」アリががっかりして言った。
私は何か仕掛けがないか中をのぞき込んだ。
私は何かに掴まれて宝箱の中に吸い込まれた。
咄嗟にムイが私の足首を掴んだがムイも中に吸い込まれたようだ。
「まってー!」
アリも落ちてきた。
続けてチュンとルアンもついてきた。
「落ちてばっかりだね!」アリは楽しそうだった。
またルアンが風魔法をかけてくれた。
今回はすぐに下についた。
そこも円形で壁中にドアが並んでいた。
トラップの反応はないけどさっきのように何かあるかもしれない。
「開けてみるしかないね。」
私はドアの1つを開けた。
別のところのドアも開いた。
(もしかして)
私はドアの向こうへ行ってみた。
さっき開いたドアからこの部屋に戻ってきた。
ムイも適当なドアを開けて入ってみた。
違う場所のドアからこの部屋に入ってきた。
「なにこれ!おもしろいね!」アリは喜んでいる。
チュンもドアをパタパタ開けては閉めている。
「どういうことかしら?」
チュンが首を傾げていた。
ルアンは飽きちゃったようでさっきの干し肉の残りを食べている。
ムイはカバンからペンを取り出してドアを開けては印を付けだした。
「何か法則があると思います。」
私はムイに指示されたドアを開ける。
チュンも支持されてドアを開ける。
ムイは「うーん」と何かを考えている。
「ここのドア、奇数なんですよね。1つペアができなくて残るドアがあると思うんです。」
私たちはドアを開けっ放しにして次々と開けていった。
「あったね、残ったドア。」
「開けてみますね。」とムイが慎重に開けた。
「あれ、開かないですね。」
「押してみて。」と私が言うと、向こう側へドアが開いた。
そこからは今までと違い向こう側が明るい。
「部屋があります!」
ムイはドアを開けたまま「行ってみましょう。」と言ってみんなを通してからドアを閉めた。
そこは誰かの家のようだった。
まるで今もそこに誰かがいるような。
私たちは警戒しながら部屋の中を探索した。
玄関のドアは押しても引いても開かなかった。
「ちょっと休憩しようか。」
私はそう言って椅子に座った。
ムイも向かい側の椅子に座り、
妖精たちとアリはテーブルの上で寝転がった。
「疲れたね。」私は眠くなって居眠りしそうだった。
急に玄関のドアが開いた。
みんなは一斉にドアをみつめる。
「あら、お客様!ごめんなさい、ちょっと留守にしてました。」
そこには小太りの優しそうな女の人が立っていた。
「今お茶を淹れますね。」
私たちは声も出せす彼女をみつめた。
ムイが「勝手にお邪魔して申し訳ありません。」と、言い自己紹介を始めた。
女の人はムイに握手を求め「私はナト、ここの家の者です。」と言った。
ムイは手を出し握手をしている。
アリが続けて「ボクはアリ!よろしく!」と言って握手をしている。
チュンとルアンも自己紹介をして握手をしている。
みんなの視線が私に集まった。
急いで「シアです。お邪魔してます。」と言った。
女の人は「シアさんよろしくね。」と優しく言って私と握手をした。
お茶をみんなに出してくれた。
妖精たちとアリには小さなカップに注いでくれた。
いいにおいがする。
「いただきます。」と言ってお茶を飲んだ。
(すごく美味しい)
私は喉が乾いていたので飲み干してしまった。
みんなも同じように飲み干した。
「あらあら喉が乾いていたのね、かわいそうに。」
と言っておかわりを淹れてくれた。
なんだか不思議な気持ちになった。
焦って出口を探さないといけないのに動きたくなくなった。
誰も何も言わない。
まったりとした時間が流れた。
ポーンポーンと時計が鳴った。
12時だった。
「あの、私たち出口を探しているんです。」
と、今までの話を一気にした。
女の人は「うんうん」と聞いていて私が話し終わると「大変だったわね。」と言った。
また沈黙が流れた。
ムイが「出口を知りませんか?」と聞いた。
女の人は「もちろん知っているわ。」と言いドアを指した。
「でも、まだ帰れないわ。うちの主人に挨拶していないもの。」と言った。
「ご主人はどちらへ?」とムイが聞くと女の人は泣きだしてしまった。
私はハンカチを差し出し、背中をさすってあげた。
「主人は帰ってこないの。」と言った。
「だからドアを開けて待っているの。」と続けて言った。
「探してきてあげる!」とアリが言った。
みんなはアリを見た。
女の人は「いいの?」と、泣きながら聞いた。
私は心を決めて、「どこに向かったのか?あとご主人の特徴を教えてください。」と言った。
女の人は寝室から2人で写っている写真を持ってきた。
「この人、背が高くてね、かっこいいでしょ。」と笑った。
そこには幸せそうに笑っている2人がいた。
「どこに行くと言って出かけたんですか?」と私がもう一度聞くと、
「魚を釣ってくるって。岩場に深い穴が開いていて、そこにたくさん魚がいるんですって。」
と、女の人は話してくれた。
「探しに行って来ますね。」と立ち上がった。
女の人は「ありがとう!」と言ってドアを開けてくれた。
私たちは外に出ることができた。
そこはダンジョンの入口だった。
私たちのコートが置いてある。
「やったわね!帰れるわね!」
チュンは出ていこうとした。
「待って!あの人の旦那さんを探したい!」と私は言った。
チュン以外が頷いている。
「しかたないわねぇ!」
と言って戻ってきた。
「釣り場ってもしかしてあの突き当りの滝のあったところですかね?」
ムイが言うので「私もそう思う。」と言った。
私たちは再びダンジョンの奥へ向かった。
滝のある水場に出た。
私たちは探してみたが見えるところにはいないようだった。
チュンとルアンが飛び回り壁や滝の近くまで行って探してくれた。
「滝の裏に通路があるわ!」
と言ったが滝まで行く道がない。
ルアンが「僕に任せて!」と風魔法で滝まで運んでくれた。
私たちはビシャビシャになりながら滝の奥の通路に出た。
チュンが私たちに何かキラキラをかけると服が乾いた。
「2人ともありがとう。」
私たちは奥に進んで行った。
奥に行くと男の人が倒れていた。
私たちは駆け寄った。
何か嫌な気配がする。
「みんな待って!」
みんなはすぐに止まってくれた。
「何かいる!」アリが叫んだ。
ドンっと音がして大きな蛇が落ちてきた。
(罠??男の人はおびき寄せるためのエサ?!)
私たちは戦闘態勢になった。
蛇は何か紫色のものを飛ばしてきた。
私にかかり服がジュッと言って溶けた。
「酸だわ…気をつけて!」
みんな紫色のものを避けながら攻撃をあてている。
しかし皮が硬いのかまったく効いてる感じがしない。
(蛇の弱点ってどこ?!)
私は柔らかそうなところを探すが見当たらない。
蛇は大きな口を開けて噛み付いてきた。
私は口の中に飛び込んだ。
「シアさん!!」
みんなの叫び声が聞こえた。
私は(一番強いやつ)と念じて攻撃を放った。
蛇の頭は吹っ飛んだ。
ドサッという音と共に蛇は倒れた。
「シア!大丈夫?」アリが紫色のものでベタベタになっているのを見てアリが聞いた。
私は「毒耐性あるから大丈夫!!」
(そういう問題じゃないだろ)
と思いながら答えた。
私は水魔法を当ててベタベタを落とした。
チュンがまたキラキラをかけて乾かしてくれた。
「それよりも男の人!」
その人はギリギリ蛇の下敷きになっていなかった。
ムイが脈をとると「かすかに触れます!」と言った。
私とチュンは回復魔法をかけた。
チュンは解毒魔法や麻痺解除などありとあらゆる回復系の魔法をかけた。
まったく効かない。
呪いを疑って昇華まで発動したけどぜんぜんだめだった。
「奥さんの元に運んでみよう。」私がそう言うとみんな頷いた。
アリが黒い熊になって男の人を背負った。
私たちはあの魔法陣に向かった。
来たときと同じように細い道の先の通路までルアンの風魔法で運んでもらい、チュンにキラキラで乾かしてもらった。
男の人はまったく動かない。
「急ごう!」
魔法陣を踏むとそのまま落ちていった。
ルアンがまた風魔法でゆっくり降ろしてくれた。
「さっきと同じように!」
私たちは宝箱に飛び込んだ。
アリは男の人を先に入れ、ハムスターに戻った。
また風魔法でゆっくり降下した。
ドアの部屋まで来た。
「大きくなるとドアを抜けられない。」とアリが言うと、
「次は私が!」と言ってムイが男の人を背負った。
「ドアを開けるよ!」
私たちはさっきと同じ方法で開かないドアを探した。
またドアが一つ残った。
「開けるね。」
と私はドアを押した。
私たちは急いでドアの向こうへ行った。
そこにはさっきの女の人がいてムイが背負っている男の人のところへ駆け寄った。
「ベッドに寝かせます!」と言ってムイはゆっくりとベッドに下ろした。
女の人は「起きて!」と、男の人を揺さぶる。
ムイが脈をとっている。
「触れていますね。」
私たちは何もできずにただ見守った。
(何かできることは)
もう一度回復系の魔法をかけてみたが効かない。
私はハッとして『不死鳥の恩恵』を思い出した。
女の人を一旦離して『不死鳥の恩恵』を発動してみた。
(お願い!目を覚まして!)
男の人は炎に包まれた。
それはとても優しい炎だった。
私たちはその美しい炎をただみつめた。
ゆっくりと炎は消え、そこに1枚の金色の鳥の羽が舞い落ちた。
私はそれを拾った。
男の人はゆっくりと目を開けた。
女の人は男の人に抱きついて大声で泣いた。
「いったい何が?」
男の人は女の人の頭を撫でて「大丈夫だよ、泣かないで。」と言った。
女の人が少し落ち着いたのでここに来るまでの話をした。
「そんなことが…私は釣りに行って…大きな蛇に襲われて…そこから記憶がありません。」と言った。
「どこか痛いところとかありませんか?」とチュンが聞くと「釣りに行く前より元気です!」と答えた。
私たちは「ではそろそろ」と立ち上がった。
男の人がお待ちください!と言って引き止めた。
「おい、あれを」
と女の人に言うと、女の人は奥から小さな箱を持ってきた。
「これを」と言って私に渡そうとした。
「私は受け取れません!」と言ったが、
男の人が「父の遺言で誰かに命を助けてもらったら渡せと言われているので。」と言って私の手に押しつけた。
ムイが「ありがたくいただきましょう。」と言った。
みんなも頷いている。
私は小さな箱を受け取り、「ありがたく頂戴いたします。」と言って頭を下げた。
女の人がさっきのようにドアを開けてくれた。
「おじゃましました!」とアリが言ってペコリと頭を下げた。
私たちも「お邪魔しました」と言ってドアの向こうへ出た。
ドアはパタンと閉じてサラサラと消えていった。
私たちはダンジョンの入口に出た。
コートがそこに置いてある。
「帰ろうか!」と言ってルアンを見た。
「ルアンはどうするの?」と聞いてみた。
「うーん」と悩んでいる。
「決まるまで一緒にいる?」と聞くと嬉しそうに「そうする!」と言った。
チュンがルアンに見えなくなる魔法をかけた。
「これで他の人には見えないわよ。」と言った。
「その魔法ならボクも使えるのに〜」と言って笑った。
私とムイはコートを着て外に出た。
外は真っ暗だった。
遠視で確認して街の近くまで瞬間移動をした。
「疲れたね。」
私はぐったりしてみんなに言った。
みんなも「うんうん」と言ってそれから宿屋につくまでみんな黙っていた。
宿屋に戻ると受付にはもう人がいなかった。
私たちは部屋に戻りベッドに倒れ込んだ。
私たちは泥のように眠った。
すでにお日様が顔を出しかけて明るくなってきていた。
しかし誰も起きることはなかった。
(男の人…助かってよかったな)




