小さな1歩
シエナは店で暇そうにしていた。
「こんにちは!」
私が声をかけると嬉しそうに「いらっしゃい!」と言った。
私はさっそく薬草の苗を見せた。
「これは!!」
シエナは「どこでこれを…」と珍しそうに見ている。
「山で採ってきたよ。」と言うと麓に魔物の群れが棲んでいて近づけないのだと教えてくれた。
「シアさん見かけによらず強いのね…」
と言うので「眠らせる魔法が使えるの。」と適当なことを言っておいた。
「なるほど!」とシエナは疑いもしない。
(いい子だ)
私はこれが40個あって、シエナの庭で育ててほしいと伝えた。
雪が積もると枯れるので直植えは管理が厳しいと伝えた。
そして私が昨日描いた設計図を見せた。
「崖の窪みに生えていたからこういう感じで植えたらどうかなって思ってるんだ。」
「崖?!」とまたシエナが驚いたので「ロープを降ろして…」とまた適当なことを言った。
ムイが小声で目が泳いでますよ。と言った。
「それなら裏にちょうどいい小屋があります!」とシエナは嬉しそうに言った。
(知ってるけどな)
シエナは店を準備中にして裏にまわった。
「お店はいいの?」と聞くと「こっちの方が大事!」と言われた。
「これなんですけど、どうでしょうね?」
「いいね!」
(知ってたけどな)
小屋を見ながら「雪が積もらないように」とか「手が届く高さに」とか「日が当たるように」などと設計図に手を入れていった。
「これなら知り合いの大工に頼めばすぐだと思います!」
と言ってから「木材を買うお金がなかった…」と言った。
私は銀貨をひとつかみ出してこれで足りるか?と聞いた。
「銀貨1枚でお釣りが来ます!!」と、また驚いた。
(またやっちまった)
シエナは「借金してきます!」と言って出ていこうとしたのでムイと全力で止めた。
(デジャヴだな)
「この地で薬草を増やすのが目的だから、増えてお金に余裕ができたらでいいよ!!」と言った。
シエナは「神様だ…」と感動している。
私たちは知り合いの大工を訪ねた。
シエナはさっきの設計図を見せて作ってほしいと頼んだ。
ちょうど明日空いてるので作ってやると言ってもらった。
私は銀貨1枚を渡し、「足りますか?」と聞くと「お釣りを」と言ったので「めんどくさいのでいらないです。」と言ったらまた驚かれた。
大工の男は「じゃあマツヤニを塗って…ここを金属で補強して…」と更に改良した設計図を描いてくれた。
私たちは「では明日よろしくお願いします。」と言って大工の家を出た。
シエナはルンルンで歩いていた。
「明日の朝、苗を運ぶのを手伝ってもらえる?」
と聞くと「もちろんです!」と答えた。
店のことを聞くと「休みにするから大丈夫です。」と言ってくれた。
ご両親とも早くに亡くなって一人であの店を引き継いで暮らしているという。
私たちは宿屋の場所を教えてそこで別れた。
私とムイはこの前行った食堂へ向かった。
娘は私たちのことを覚えていて「今日は何にします?」と聞いた。
私は「他におすすめはありますか?」と聞くと「任せて!」と厨房に入っていった。
今日もこの店は繁盛している。
すぐに美味しそうな料理を運んできた。
「今日のメインは魚だよ!」
海はそんなに近くないが漁師たちがここまで売りに来ると言う。
私たちは楽しく食事をした。
────
翌朝、時間より早くシエナはやって来て、
「待ちきれなくて!ごめんね!」と言った。
私とムイは笑顔で迎え、「ではこれをお願いします。」と木箱を1つ渡した。
3人でシエナの店まで運んだ。
歩きながら「この店は〜」と街の名物なんかを教えてくれた。
(あとで買いにいこう)
よろず屋に来るとすでに裏に大工が来ていた。
「お待たせしてごめんなさい!」
大工も珍しい仕事だったから早く着ちゃったと言った。
大工は腕がいいようでみるみるうちに出来上がっていった。
途中でシエナはお茶を用意してくれた。
私はそうだろうとチョコレートを出した。
2人は珍しそうに口に入れ「どこで買った?」と聞いてきた。
私は「国から持ってきたので…」と、濁した。
「そんな貴重なものをありがとうございます。」とゆっくり楽しんでいた。
(みんな大好きチョコレート)
午前中のうちに完成してしまった。
4人で苗を並べてみる。
「完璧ですね!」
ムイが嬉しそうに言った。
私は持ってきていた他の薬草の種も渡し、「家の中で育つか試してみて」と渡した。
「必ず増やしてみせます!」
と言うので、
「これは試しにやってみるっていうだけで、ぜんぜん失敗しても問題ないからね!」
私は焦ってシエナに言った。
「失敗したら、また試行錯誤して再チャレンジすればいいだけだから!」
と、昨日採った種を渡した。
「この種は?」
(またやっちまった)
「えっと…それは…」と、困っていると、
「季節を間違えた薬草がいたみたいで。」とムイが助け舟を出してくれた。
「それはラッキーでしたね!」
と種を眺めていた。
「葉っぱを切るとそこからまた生えてくる種類もあったので、少しずつ採取して店で売ってみます!」とシエナは嬉しそうに言った。
大工はチョコレートをもらって嬉しそうに帰っていった。
「じゃあ私たちもこれで。」
シエナは深々と頭を下げて「ありがとうございました!」と言った。
(うまく増えて病人が減るといいな…)
────
私たちは帰る途中にシエナが勧めてくれた店に寄った。
名物という食べ物を片っ端から買って宿屋に帰った。
「お昼ご飯にしよう。」
食べたことのないものばかりであっという間に平らげてしまった。
「午後から何をしようか…」
(病院を助けてあげたい気持ちはあるけどここにずっといるわけにもいかないし…)
「エトさんのお手伝いになること何かないでしょうかね。」
ムイも同じことを考えていた。
一時的ではなく恒久的に続く何かがほしい。
薬をあげてもいいけどいつかはなくなるだろうし。
その日は何か使えるものがないかと街のまわりの森を歩き回ってみた。
森は木ばかりで他の植物はなかった。
チュンに薬になる魔物とかいないの?と聞いてみた。
チュンは悩んだが「人間に倒すのは無理だよ。」と言った。
そういえば山の麓に魔物の群れがいるって言ってたっけ。
「山の麓に行こうか。」
アリが出てきて「魔物退治だね!」と嬉しそうに言った。
私は遠視で巣の場所を確認した。
そして近くの岩陰に瞬間移動した。
人の気配がないことを確認し、「アリいいよ!」と言うと「待ってました!」と黒い熊になった。
チュンも飛んでいって「支援するわ!」と楽しそうだった。
私が何かする出番はなかった。
狼のような魔物は20匹ほどいて人間を襲った形跡が見られた。
「かなり獰猛な種類だったんだね。」
(倒してないからわからないけど)
「これで山にも入れるようになりますね。」
(ムイも何もしてないけど)
巣の中のからアライグマのような獣が出てきて、「助けてくれてありがとうございました。」と言って倒れた。
見ると血だらけだった。
私とチュンは急いで駆け寄り回復魔法を使った。
アライグマはゆっくりと目を開けた。
「あれ?治ってる!」
私は「あなたは何者?」と聞くと「私の言葉が聞こえるのですか?」と言った。
聞こえるよね?とムイたちに聞くと、「なんのこと?誰と話してるの?」と言われた。
「獣使いっていうスキルのおかげね。」
チュンは私のスキル一覧を見てそう言った。
スマホに私のスキル一覧をリンクして表示してみたのだ。
ムイは初めて見る私のスキルを見て「これほどとは…」と絶句していた。
アライグマは「何かお礼をさせてください。」と言ったがアライグマに何ができると言うのか。
「山には詳しい?」と聞くと「私の住まいがあります!」と言うので山を案内してもらうことにした。
山は魔物のおかげで人間が来なかったと言う。
(やっちまったな)
その山にはダンジョンの入口があった。
人間が来た形跡は全く無く、入ると草がわんさか生えていた。
私はアライグマの巣まで行き(人間にはみつけることができない)と呪いをかけた。
「魔物を倒しちゃったから人間が来るかもしれない。ごめんね…」と謝ると、
「私は死ぬところでした。人間には気をつけます!ありがとうございました!」と言ってくれた。
私たちはアライグマに別れを告げてダンジョンに戻った。
中は温かい草原のようだった。
薄暗いのにたくさんの植物が生える不思議な場所だった。
「広そうだから今日は帰って明日出直そうか。」
と言うとアリが「ごはん!」と言うので例の食堂に向かった。
────
「今日も来てくれたね!」と娘は嬉しそうに言った。
(他に店を知らないし)
「このお店、居心地がよくて美味しいし。」と言うと嬉しそうだった。
「今日は新作があるけど試してみる?」と言われ、
「それでお願いします!」と言った。
あのダンジョンを人間に教えたらたくさんの人が来るだろう。
そしたらあのアライグマの家族は殺されてしまうかもしれない。
人間とはそういうものだ。
弱いものには容赦しないで潰しにかかる。
自分の利益を優先して他のもののことなんて考えない。
そこから争いは生まれて傷つけ合う。
生き残るのは強者のみ。
私はため息をついた。
アリがそんなにお腹空いた?と心配そうに聞いてきた。
「ちょっと考え事してただけだよ。」と小声で答えた。
すぐにテーブルは新作メニューでいっぱいになった。
「今日はいい魚介が入ったのよ!」と娘は料理の説明をしてくれた。
ほとんど何を言ってるのかわからなかったがどれも美味しかった。
(明日ダンジョンに行ってからあの山のことを考えよう)
その日の夜、アリはセキとスマホのゲームで遊んでいた。
「セキ!爆発するやつがいるよ!弓でやっつけて!」
通話をしながらサバイバル生活を楽しんでいた。
(スマホ使いこなしてますな)




