薬草
朝から街の中を見てまわっていた。
朝食付の宿屋だったのでお腹いっぱい食べてきた。
通りには店がたくさん並んでいた。
私たちは順番に見ていった。
チュンはアクセサリーを売ってる店が気に入ったようで離れようとしなかったので似たようなものを出してつけてやった。
チュンは上機嫌で飛び回った。
食品を売ってる店に来た。
魚や肉の加工品が豊富に並んでいた。
ビーフジャーキーみたいな干し肉があったので1つ買ってみた。
「銅貨2枚です。」私はムイを見た。
ムイは店主に銅貨を渡した。
芋や人参のような根菜はあったがほうれん草のような葉物の野菜は売っていなかった。
武器屋を見つけて入ってみた。
中には剣やナイフも売っていたが商品のほとんどが弓だった。
店主が近づいてきて「どんなものをお探しですか?」と聞いてきた。
私は小さなケース付のナイフを買った。
「銅貨10枚です。」私はムイを見た。
ムイは銅貨を渡した。
店を出ると、ムイが「私は主人という設定だったと思うのですが。」と睨んできた。
「次から自分で払います…」
私は反省したふりをして買ったナイフをベルトにつけた。
本屋に行くとムイが食いついた。
たくさん買おうとしていたので「3冊くらいにしておきなよ。」と言うと悩みに悩みぬいて3冊選んでいた。
小腹が空いたので屋台で何か買うことにした。
ちょうど焼鳥のような串焼きが売っていた。
「あれ食べたい!」
私は屋台に駆け寄った。
「3本ください。」「あいよ!銅貨3枚だよ。」
私はムイの方を見ないでそっと支払いをした。
ムイはうんうんと頷いていた。
1本ムイに渡した。
通りの真ん中は広場のようになっていてベンチが置いてあった。
「あそこで食べよう。」
私たちはベンチの雪をはらい座って食べた。
アリが「甘じょっぱくておいしいね。」と、もりもり食べていた。
「薬屋はないね。」
通りを一通り見たが薬草を売ってる店にもなかった。
防具屋で薬草や回復薬はどこで買えるのか聞いてみると、「よろず屋にあるよ」と教えてくれた。
その店は通りの端にあった。
入ると食器やトンカチのような工具から紙や筆なども売っていた。
いろいろあって楽しい店だった。
店主に薬草はあるかと尋ねるといくつか見せてくれた。
「なかなか入荷しないんですよ。」
と言う。
小さな回復薬の瓶は銀貨1枚だという。
(ぼったくりだな)
私は持ってきた薬草や他の薬を見せた。
店主は驚いてそれらを見た。
店主は『シエナ』という名の若い女性だった。
私たちが旅の商人だというと話を聞きたがった。
「ちょっとあがらない?」と言ってすぐ隣にある居室に案内してくれた。
シエナはお茶を出してくれた。
私とムイは上着を脱いでお茶をごちそうになった。
ムイは海の向こうの大陸から来たと設定した話をシエナに聞かせた。
シエナはここでの生活の話を聞かせてくれた。
一見幸せそうに見えるけど病院は病人でいっぱいだと教えてくれた。
薬がなくてなかなか治らず、そのまま亡くなってしまう人も少なくないと言う。
私が「薬を卸しましょうか?」と聞くとシエナは喜んだが、「そんな資金なかったわ。」と舌をペロッと出した。
「では試供品だと思って使ってみて。」といくつか渡した。
シエナはその品を確かめ、「こんな貴重品!ここの商品全部買えるよ!」と笑った。
私たちはシエナに感謝を伝え病院に行ってみることにした。
────
街のはずれにあるその病院はどことなく薄暗く陰湿なイメージを与えた。
中に入るとそこにはたくさんの人がいて病室から溢れた人が廊下で寝ていたりした。
病人たちはイライラしてる様子で叫んだり奇声をあげたりしていた。
「ひどいですね…」
「ヒーラーはいないのかな?」
と探してみたが見当たらなかった。
どうやら人間界では回復魔法の使える人は多くないらしい。
居ても多くは王都に呼ばれて行ってしまうと看護士のような人が教えてくれた。
私は横で叫んでいたおじいさんに回復魔法をかけてあげた。
おじいさんはケロッとして立ち上がり病院から出ていった。
看護士はびっくりして私を見た。
「僧侶様でしたか!」
(やっちまった)
ついいつものくせで魔法を使ってしまった。
私は口ごもり「薬屋です…」と答えた。
「よかったら他の人も診てもらえませんか?」と両腕を掴まれた。
(逃げられないな)
私は奥の診察室のようなところへ連れて行かれた。
チュンが出てきて「栄養不足ね」と教えてくれた。
野菜に含まれている栄養が足りなくなるとイライラしたり血圧や血糖値に異常が出てしまうと言う。
私は看護士に「野菜が足りないから起こる生活習慣病です。」とチュンの言うままの言葉で教えた。
看護士は「やっぱりそうなのね。」と暗い顔をした。
チュンが必要な栄養素の多い薬草を選んでくれた。
私は看護士にそれを渡した。
薬草を与えているふりをして回復魔法をかけてまわった。
病人たちは次々と元気になって退院していった。
私はハッと気がつき、
「商売上がったりですよね…」と言った。
看護士は大笑いして私の背中を叩いてきた。
「すぐに病人でいっぱいになるから気にしないで!」と言った。
(それもどうなのよ)
病院は静かになった。
看護士は「あぁー!!」と叫びだした。
「薬草代が払えません。」と、泣きそうな顔をしていた。
「借金してきます!」と言うのでムイと全力で止めた。
(いい人だなぁ)
看護士は『エト』と自己紹介をしてくれた。
私たちも名前を言っていなかったことに気づき自己紹介した。
空になった病院を閉めて「せめて食事をごちそうします。」と自宅に案内してくれた。
「病院いいの?」と聞くといつもこの時間には閉めてしまうと言った。
「今日は入院患者もいないし!夜勤もなし!」と喜んでいた。
医者らしい医者は居ないという。
ほとんどが一人体制でどうしても酷い時には二人になるときもあるけど、と言った。
(さっきのは酷い時ではないのか)
5分ほど歩くとエトの家についた。
中には母親がいて料理をしていた。
エトが事情を説明すると母親は感激したようで私の両腕を掴みブンブン振りながら感謝を告げてくれた。
「たくさん作るからちょっと待っててね!」
と言って材料を足していた。
エトはお茶を出してくれた。
「たいしたものは用意できないけどね。」
とエトが言うと、
「愛情だけはたくさん入ってるわよ!」
と言った。
明るい親子だ。
私はチョコレートを持っていることに気がついてテーブルに出した。
「これは薬ですか?」と不思議そうに見ている。
「食べてみて」と言うと、おそるおそる口に入れた。
「なにこれ!甘くて美味しい!」
母親も1つ摘み口に入れた。
「食べたことない味と食感!!」
二人ともとても喜んでくれた。
「父にも1ついいですか?」と言うので残りを全部あげた。
テーブルに料理を並べていると父親が帰ってきた。
エトは私たちを紹介してテーブルについた。
母親は奥から小さなイスを1つ持ってきて座った。
「お口に合うといいのですが!」
私たちは遠慮なくいただいた。
アリを見えないように膝の上に出してこっそり食べさせた。
エトは今日の病院での出来事を父親に話して聞かせた。
「猟のついでに薬草がないか探しているんだがな。」と、雪の中にはほとんど無いと言った。
(根本的な問題があるな)
お腹いっぱい食べて私たちはエトの家をあとにした。
そのまま私たちは宿屋に戻った。
────
「この国は思ってたより豊かじゃないかもしれないね。」
私が言うとムイは頷き、「せめてヒーラーが何人かいるといいのですがね。」と言った。
ヒーラーは王都に連れて行かれる。
きっと王都だけは豊かに暮らしているのだろう。
こんなに大きな街でさえ十分に機能していない。
「私たちにできることはないようですね。薬も高価なものみたいだし、売り出しても町の人には買えないでしょうね。」ムイは悲しそうな顔をした。
「なんとかしてあげたいけどね。」
私はチュンに「寒い地方でも取れる薬草はない?」と聞いた。
チュンは考えて「山の上にならあるわよ。」と言った。
(過酷そうだな)
私はマップを見てみる。
ここから3kmくらいのところに山があった。
そんなに大きな山ではなかったが「多分あると思うわ。」とチュンが言うので、明日探しに行くことにした。
アリはスマホ貸して!と言い、セキとビデオ通話をはじめた。
セキは「ムキムキになったよ!」と言って筋肉を見せてくれた。
確かに細かった体に筋肉がついている。
よく見ると背も伸びて子供っぽさがなくなったようにも見える。
(長老…どんな訓練させているんですか)
────
翌朝、外は良い天気だった。
気温は高くないけど天気がいいと暖かく感じる。
私たちは装備を整え山に向かった。
「シアはパンツスタイルも似合うわね!」と自分には女性としての美しさがなんとかかんとかで似合わないのよ〜と私のスノーウェアの中でドヤ顔をしていた。
昨日寝る前に猟師たちの服装を真似て上下の防寒具を作った。
(寒くない)仕様にしたのでポカポカだった。
人のいないところまで来ると私は山の上を遠視で確認した。
人の気配はまったくない。
山頂に近いちょうどいい広さのところをみつけてそこに瞬間移動した。
山の上には木も生えておらずゴツゴツとした岩ばかりだった。
チュンはすぐに薬草を探してくれた。
それは崖のようなところにできた窪みにあった。
「根っこごと採ってきて!」とお願いするとチュンはすぐに採ってきてくれた。
3種類くらい集めたところで「ここにはもうないわ。」と言われた。
私は街の近くの森を確認して人のいない所に瞬間移動して戻った。
木箱を出して採ってきた薬草をそのまま複製した。
木箱は薬草でいっぱいになった。
1つ取り出して(種になるまで成長しろ)と念じた。
薬草は白い小さな花をつけ、やがて種をつけた。
「うまくやれば増やせるよね?」
チュンは「土の上に種が落ちればね。」と言った。
この雪の中で増えることはこの薬草にとっては奇跡みたいなものなのかもしれない。
逆に土さえあれば増やせるということだ。
私は木箱を抱えよろず屋に向かった。
木箱ごと複製してムイにも持たせた。
歩いているうちに地面に植えても雪が積もったら枯れるな、ということに気がついた。
私はムイにそう言うと「それは問題ですね。少し考えてからにしましょうか。」と言われ1度宿屋に戻ることにした。
宿屋の店主が「まぁたくさん!お疲れ様です。」と声をかけてくれた。
私たちは軽く会釈をして部屋に入った。
「さてどうしようかな。」
私たちは生息していた状況を思い出した。
「あの崖の窪みを再現したらいいんですよね?」
と、ムイが言ったけど壁に穴をあけるわけにもいかない。
「温室があれば早いんだけどね。」
雪が積もらず日光があたる場所がいい。
アリが「お腹空いたー」と言うので先にお昼ご飯を食べることにした。
カフェのようなお店でパンを食べている人をみつけそこに入ることにした。
中は若い女性やカップルでいっぱいだった。
ちょうど奥の席が空き、案内された。
「この街は若い人が多いですね。」
とムイが言って察したように下を向いた。
(長生きできないのかもしれない)
私たちは相変わらずメニューがわからないので、人が食べてるものを指して「あれとあれと」と注文をした。
隣のカップルがクスクス笑っている。
(そんなの慣れっこだもんね)
陰口の耐性はかなり高い自信がある。
言いたいことは言わせておけばいい。
熱いお茶とサンドイッチのようなものがテーブルに並んだ
。
アリがみつからないように(他の人には見えない)と念じた。
私はアリをテーブルに出してみたが誰も気がつかない。
(最初からこうすればよかった)
アリは喜んでチュンと並んでもりもり食べた。
この街は野菜が少ないけど肉料理が抜群に美味しかった。
宿屋に戻った私たちはまだ方法を考えていた。
アリが「温室を出しちゃえばいいじゃん。」と言った。
人間の前でそんなことはできない。
私はシエナの家を遠視で確認した。
あのよろず屋が家になっていると言っていた。
シエナの家は2階建てだった。
(ベランダでもあればいいのに)
そんなに都合良くはいかなかった。
しかし裏手には空き地があって倉庫のような小屋があった。
以外と広い敷地のようだった。
雪は山ほどではないが積もっている。
直にはやはり植えられなさそうだ。
「小屋の壁に板を打ち付けて棚みたいにして鉢植えを置こうか。」
と絵を書いて見せた。
鉢植えは売ってるかな?と見たが花屋すらない。
「持ってきたことにしますか?」
「そうだね。旅の商人だから何でもありだね!」
と、私が言うと「何でもはちょっと…」と苦笑いをされた。
「この薬草は少しの土で育つわよ。」とチュンが教えてくれたので小さめの植木鉢を作り、複製した。
木箱から苗を取り出して植えてみる。
「土が足りないな。」と言うので複製して増やした。
40個ほどの植木鉢が完成した。
「あとは木材とか釘とかトンカチとかですかね?」
釘と工具はよろず屋にあった。
木材はシエナに聞いてから考えよう。
私は鉢植えを1つと小屋の改造図を持ってシエナの所に向かった。
(断られたらエトに頼めばいいか)
私は断られるかもということを考えないで計画をしていた。
(なんとかなるさ〜)




