北の大地
今日もリビルドは平和そうだった。
相変わらず街の女子たちは勇者をアイドルか何かだと思っているようでキャーキャー言っていた。
私は元の世界でアイドルには興味がなかった。
顔やスタイルがいい人たちを見て、「すてき!」ではなく、「そうですね」という感情しかなかった。
別に見た目がいいだけで「ムカつく」とか「ウザい」とまでは思わなかったが。
私はブスだったので人の容姿に関するあれこれを言わなかった。
(だって自分が言われるのが嫌だったから)
魔王は地下室に遊びに来ていた。
勇者の動向がまったくつかめないからである。
「シアよ、商人にでもなるかね?」
魔王はいいこと思いついた!みたいな顔をしている。
(何か嫌な予感がする)
「そろそろ旅に出たくなったじゃろ!」
「別に」
「そうかそうか!旅に出たいか!商人になってあの大陸を見聞してまいるがいい!」
(行きたいなんて言ってないのですが魔王様)
────
それから私の商人化計画が始まった。
設定はこうである。
・旅の商人である
・この屋敷のある大陸『サザナ』からはるばるやって来た
・特産の茶葉や珍しい薬草なども扱っている薬屋
・仕入れのために新たな大陸にやって来た
・ムイは主人で私はそのマネージャーのようなもの
・魔族(呪物含む)であることは隠す
・高度なスキルは隠す
・羽や牙は隠す
・魔王軍であることは隠す
他にも細かくルールを決めた。
セキは見た目が子供なので留守番。
アリは熊禁止で同行。
「チュンも目立つから留守番かな。」
と私はキラキラを振りまいているチュンを見ながら言った。
「それは心配ご無用よ!」
と言って、妖精の凄さを混ぜつつ自分は姿を消すことができて指定した人物にだけ見えるようにしたり自由に設定できると力説した。
「ムイさんにだけ見えるようにして消えるわよ!」
と言うと本当に見えなくなった。
気配すらしなくなって、私の気配感知ではみつけられなかった。
ムイは「ここにいますよ。」と言うがまったく見えない。
「じゃあ私とムイにだけ見えるようにしてあとは全消しで。それでもいい?」
と聞くと「もちろん!」と喜んだ。
留守番が決まってからのセキは落ち込み「みんなずるい」といじけていた。
私はハピリナの長老に預けることにした。
セキは「長老大好き!」と喜んだ。
カリナにおいしいものをたくさん作ってもらいなさいと言うとアリが「いいなぁ〜」と逆に羨ましがった。
この世界には身分証を読み取る機械のようなものがあるという。
名前と種族くらいしか読み取れないらしいが検問などで使われているそうだ。
私は以前『クロ』という名の身分証を偽造して使っていた。
名前を変えようかとも思ったがいつもの調子でボロが出そうなのでやめた。
私は本物そっくりのカードを作り中のデータをいじれるように改造した。
スマホのようなものを出して「これに入力したら反映されるよ」と言ってムイに渡した。
ムイはいつもモニターを触って操作していたのでスマホの操作もすぐ理解していた。
・名前 ムイ・ライト
・年齢 25
・種族 ヒューマン
・レベル 51
私は「レベル低すぎじゃない?」と聞くと、「人間の一般人には高い方だよ。」と言われた。
確かに通話機能を持ってる人はほんの少しだった。
「ライトって悪魔からとったの?」と聞くと、ムイは照れ笑いしていた。
私はムイに倣って自分のカードにも情報を入力した。
・名前 シア・セキレイ
・年齢 18
・種族 ヒューマン
・レベル 35
「どうかな?」とムイに見せると「従者っぽくていいですね。」と褒めてるのか、けなしてるのかわからない答えが返ってきた。
セキは自分の名前が入っていたことに喜んでいた。
私はもう一台スマホを出してセキに渡した。
元の世界にあったような機能を追加して、「ここをタップするとお話ができるよ。」と教えた。
セキは「ママがいる!」と喜んでいた。
ビデオ通話は人がいないときにしか使えないと注意をした。
セキは「わかった!」と喜んでアリといろいろ試していた。
私はGPSのような機能もつけてお互いの位置がマップに表示されるようにした。
(努力の末に開発してきたみなさん、こんなに簡単に作ってしまい申し訳ありません)
セキが暇したらかわいそうだと簡単なゲームも入れた。
ブロックを積み上げて揃えて消すゲームや、自由にブロックを配置して建築やサバイバル生活を楽しむゲームをスマホに入れた。
(素晴らしいゲームたちをパクってごめんなさい)
アリも欲しがったが「お留守番するご褒美」と言ってセキ専用にした。
「行くまで貸してあげなよ。」と言うと2匹で仲良く遊んでいた。
私とムイは商人っぽい服装を研究し、何着か出してトランクに詰めた。
歯ブラシや手鏡を用意していると「これななんですか?」とムイが歯ブラシを興味深く見ていた。
「歯を磨く道具だけど。」と言い、ここの人たちは何で歯を磨くのか聞くと「主に枝とかですね。」と答えた。
枝の先をほぐしてブラシのようにすると言う。
(原始人かい)
私はムイにも歯ブラシを渡した。
ムイは嬉しそうに目を輝かせ、「使うのが楽しみです!」と言った。
「あとはお金だよね。」
私はムイも連れてあの草原のダンジョンに行った。
「薬草をみつけて採って。」と言うとみんな楽しそうに採取をした。
チュンは飛びまわり私がみつけたこともない珍しい草を採ってきた。
「薬草は得意なのよ!まずこれは傷薬に使うレアな薬草よ!」と次々と薬草の説明をしていった。
みんな真剣に聞いていたが私の頭には入ってこなかった。
(全部ただの草にしか見えない)
私とムイは行きつけの薬草屋に行って買い取ってもらった。
「今日は特に珍しいものを持ってきたな!」と店主の目が輝いた。
私たちは両手にいっぱいの銀貨を受け取った。
「それだけあれば半年は暮らせるな!」と店主はガハハと笑った。
屋敷に戻りお金もトランクに入れた。
「あと必要なものある?」とムイに聞いたが、「私も旅は初めてで。」と言った。
きっと生まれてからずっとニヤと一緒に悪魔の世話をしてきたのだろう。
「あとは現地で調達しよう!」
最初は気が進まなかったこの作戦だが、準備をしているうちに楽しくなってきた。
明日は船を出そう。
(そして出発だ)
また私は船酔いすることを思い出して気持ち悪くなった。
その日は早めにベッドに入った。
────
翌朝1番でハピリナに行き、セキを長老に預けてきた。
セキは泣き出しそうなのを一生懸命我慢して笑顔で手を振ってくれた。
その姿を見て私が号泣してしまった。
泣き叫ぶ私をセキから引きはがし、ムイは「いってきます。」と言って屋敷に戻った。
悪魔に挨拶をすると青い石のついた指輪をくれた。
「悪意を感じると赤くなる。」とその効果を説明してくれた。
私はアクセサリーに慣れてなくて薬指につけるのを躊躇い中指にはめた。
(薬指はいつかのために取っておかないと)
ククルはサンドイッチのお弁当と苦団子をたっぷり持たせてくれた。
「いってきます!」
私たちはリビルドの近くにある島に瞬間移動した。
────
できるだけ船の移動は避けたかったが、船で行かないと怪しまれると思ったので近くて目立たないこの島を選んだ。
私はこの世界の船はリサーチ済みなので『大きすぎず小さすぎず遠くまで行けそうなサイズ』の船を出した。
金持ちの薬屋が持てそうな最大限をイメージした。
ムイは船が初めてだという。
アリも初めてで喜んでいた。
チュンは「船は嫌いなのよね。」と言っていたが乗り込むと「ここに椅子を出して」とか「ここにベッドを出して」と船の中にドールハウスさながらの装備を出させた。
船の運転なんてやったことないので(オートパイロット機能)と念じた。
船はゆっくりと動き出しリビルドの大陸に向かってスピードを上げていった。
ムイもアリも大喜びで船旅を楽しんだ。
私は案の定船酔いをしたようで船室で休んでいた。
「ついたら起こして。」
チュンは船酔いを治す魔法をかけてくれたがまたすぐに気持ち悪くなってしまうので「ついたら治してあげる。」と諦めた。
1時間ほどで大陸が見えてきたようだ。
私は起こされ甲板に出た。
「あれが港だね。」と船が行き交う場所を目指した。
私は少し沖で錨を下ろした。
このサイズの船が着岸できそうな場所がなかったからだ。
船室に鍵をかけ小舟に荷物を積んで水面に下ろした。
ムイは舟を漕いだことがなかったので行きたい方に行かずみんなを笑わせた。
なんとか着くことができたので漁師たちの舟の邪魔にならないように少し離れた場所に舟をつけた。
ロープで近くの岩に括りつけた。
(盗まれるかもしれないな)
私はそっと(盗もうとすると悪いことが起きる)と呪いをかけた。
────
港は漁師たちとその家族で活気づいていた。
私たちは挨拶をし「船で渡ってくるなんて珍しい」と言われた。
他に港はあるのか聞くと「漁師の港しかない」と言われた。
とりあえず私たちは馬車を探した。
「ないね。」
ここの人たちはどうやって移動しているのか。
やっとみつけたがそんな貴重な存在を譲ってくれるはずがない。
私たちは『現地で馬車を調達』という設定を諦めて次の大きな街を目指して歩いた。
人目がなくなった場所で大き目の荷車とみすぼらしいロバを出した。
これなら盗賊に金持ちだとは思われないだろう。
私とムイは並んで前板部分に座り手綱を握った。
ロバが疲れないように(ほとんど重さを感じない)仕様にした。
道行く人に「不格好な馬だな」と笑われた。
この世界にはロバは存在してなかったようだ。
(まぁいいか)
途中でククルにもらったサンドイッチを食べた。
これでしばらくはククルの料理が食べられない。
私は少ししんみりとした。
ここはまだ雪がないが段々と寒くなるのがわかった。
私たちは持ってきていたコートを羽織り、ロバには毛布をかけてくくりつけてやった。
「寒くない?ごめんね。」と、撫でると鼻息とよだれをかけられた。
(心配して損した)
半日かけて次の村にやって来た。
この村にはなんと宿屋がなかった。
途方にくれる私たちを見かねて村長が「うちに来るかい?」と言ってくれた。
私たちは喜んで村長のお世話になった。
お礼にお金を渡そうとしたが断られたので薬を出してせめてもと受け取ってもらった。
この土地ではあまり薬草が取れず薬は貴重なものだと話してくれた。
温かい夕食もごちそうになり、毛布を貸してくれた。
暖炉に近いところで眠るといいと言われ横になった。
下に1枚ひいたとはいえ床の上で寝るのは体が痛かったが疲れていた私たちはすぐに眠りについた。
翌朝、村長はパンとミルクを出してくれた。
私は持ってきていた瓶詰めのイチゴジャムを村長に渡した。
村長はこんなもの食べたことがないと喜んで食べてくれた。
残りはどうぞというと「こんな貴重なものを!ありがとうございます!」と言って受け取ってくれた。
村長に話を聞くとやはり寒さのせいで農作物もあまり取れないらしく、あまり豊かな生活はしていないという。
森で動物を狩り毛皮や肉を売って生活をしている者が多いと話をしてくれた。
私はガオルを思い出した。
あいつもウサギを狩って食料にしてたっけ。
私たちは村長にお礼を言ってその村をあとにした。
────
チュンはずっと私のコートの中に入りアリと胸元から顔を出していた。
「寒いの嫌いなのよ。」と言うのでミニチュアの若い女性が喜びそうな白いコートを出してあげた。
「まぁステキ!」と言って着ていたが、すぐにアリの横に戻った。
「やっぱりここが居心地がいいわ。」とアリとニコニコしていた。
数時間進むと雪景色になった。
「もう荷車では進めませんね。」とムイが言うので車輪を見ると雪に埋まっていた。
私は車輪を外し、スキーのようなものを底面にいくつかつけた。
「これでどうかな?」と聞くとロバは勢いよく前進していった。
「まってー!」
雪が降るので幌をつけた。
(こんな乗り物みたことないな)
そこは気にしないことにした。
車輪を外したことにより明らかに目線が低くなった。
アリがもっと高くしてよ!と言うので途中で改造をした。
足したり引いたりしているうちに不格好な乗り物ができた。
(素人感があって逆にいい)
私はこっそり(よく滑る)と念じた。
そしてロバには回復魔法をかけた。
勢いが増してすぐに大きな街に出た。
私たちは近くの森にロバと不格好なソリを残し街へ入って行った。
街は村とは比較にならない人がいた。
魚や肉がメインで売られ野菜はほとんど売っていなかった。
(ここの人たち栄養足りてるのかな)
この街には宿屋があった。
一人部屋を2つ用意してもらい少し休憩することにした。
しばらくしてムイと合流し今後の作戦会議をした。
ムイがふと「熱いコーヒーが懐かしい。」と言うので「持ってきたよ。」と言って挽いた状態の豆を出した。
「シアさん!」と目を輝かせていた。
私はカップとドリップできる道具を出して、炎魔法と水魔法をかけ合わせお湯にしてコーヒーを淹れてあげた。
ムイは深く息をして匂いと味を楽しんだ。
「もうこれがないと生きていけません。」と疲れたサラリーマンみたいなことを言った。
────
私たちはしばらくここを拠点にしようと決めた。
店舗を借りて薬屋を出す案も出た。
街の様子を見てから決めようということになった。
しばらく乗らないだろうと思ったので人の気配がないのを確かめ瞬間移動してロバを屋敷に置いてきた。
外に小屋を建てて、庭の手入れや掃除を担当している従者に世話を頼んできた。
すぐに街に戻りムイと合流して街の中を探索することにした。
夕方になり寒さが増してきた。
食堂からいい匂いがしてくる。
お腹がペコペコだった私たちはまず食事をとることにした。
奥の席を選びメニューを見た。
何か名前が書いてあるかどんな料理なのかさっぱりわからない。
店員の娘がやってきて注文を聞いてきた。
私たちが困っていると「どこから来たの?」と聞いてきた。
ムイは設定通りの話を聞かせた。
「旅人なんて珍しいね!」と言い、「商人くらいは来てるでしょ?」と聞くと「めったに来ないねぇ」と言われた。
「おすすめをいくつか持ってくるね!」と娘は言い、厨房へ戻って行った。
「そういえば宿屋はガラガラだったね。」
と私が言うと、
「悪目立ちしないように注意したほうがいいですね。」
とムイが言った。
店の中は常連客でいっぱいだった。
みんな楽しそうに酒を飲み肉を食べていた。
私たちのテーブルにも美味しそうな料理が並んだ。
他の人たちに気づかれないようにアリとチュンも食べた。
「おいしいね」と小声でアリが喜んでいた。
やはり野菜は少なかったが私たちのお腹は美味しい料理で満たされた。
娘にしばらくいるのでまた来ると言ってお会計をした。
銅貨25枚だった。
この世界は銅貨100枚で銀貨1枚の価値だという。
銅貨と銀貨の間にもう1種類硬貨があって私の知らない金属でできていた。
この硬貨は50銅貨と呼ばれていてそのまま銅貨50枚の
価値だそうだ。
宿屋は1泊銅貨30枚だったのでとりあえず銀貨を6枚渡して10日借りることにした。
食べ終えて店を出るとほとんどの店が閉まっていた。
開いてるのは酒場くらいでムイが「行ってみますか?」と言ったが今日はこれで休むことにした。
今日もたくさん移動したので疲れている。
お風呂とトイレは共用だった。
私は女湯に向かった。
お風呂にも客はおらずゆっくり入ることができた。
桶の中でアリとチュンがお湯を楽しんでいた。
「明日ゆっくり街を見て回ろうね。」
と言うと二人ともワクワクした顔をして喜んだ。
(セキも連れてきてあげたかったな)
お風呂から上がるとムイも合流してセキに連絡してみることにした。
「ママ!!」
セキは大興奮で自分とハピリナの話を聞かせてくれた。
ほんの数日しか経っていないのにもう懐かしい。
「それでね!」「うんうん」
セキはがんばっていた。
(私もがんばろう…)




