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魔法使い

私は天井をみつめている。

身体は疲れているはずなのに眠れない日が続いている。


初任務から3日ほど経っていた。


まだ次の任務の話は来ていないので私は仕事部屋にある本を読んだりククルの仕事を手伝ったりして時間を潰していた。


生霊としてレベリングする気持ちにもなれずに。



(だめだ…気になって眠れない…)


私はベッドに横になったまま目を閉じた。

今となっては自由自在に生霊になることができる。


私はこの前のあの男の安否を確認するために例の王国へと向かった。


見たいような、見たくないような。

現実を知るのが怖かった。

しかし忘れることもできない。


太陽が東の地平線から現れ、私を照らし始めた。


(もう朝か…)


男の家を見つけた。

質素な小屋に男は一人で住んでいるようだった。


しばらく見ていると男は目を覚ました。

そして寝床を出ると朝食の支度を始めた。


(よかった!歩いている!)


あの日、私はこの男の両足に傷を負わせた。

真っ赤な血が流れるのを見た。

しかし男は歩いていた。


(もしかして夢だったのかな?)


私は自分のしたことに自信がなくなってきた。

得意の妄想癖が発動したのかと疑っていると男は朝食を終え、ズボンをめくり包帯を替えだした。


(夢じゃなかったか…)


あの日の攻撃は致命傷にならなかった。

安堵の気持ちとともに不安がよぎる。


(まだ悪魔討伐を諦めてなかったらどうしよう…)


案の定その男は教会に向かった。

そして討伐の仲間を懲りずに待つようだ。


(任務は失敗か…)


これでは私が悪魔に役立たずと思われてしまう。


かと言ってこの男を殺す気にはどうしてもならなかった。


(どうしよう…)


私は考えあぐねた結果、試しに違うことをしてみた。


(この男が悪魔を討伐しようとするたびに足に激痛がはしり歩けなくなりますように…)


念じることしかできなかった。

集中して何度も唱えた。


「あ、足がっ!誰かっ!助けてくれ…」


そう叫ぶと男はその場に倒れた。

額には大きな脂汗をかいていた。

激痛にもがいている。


(成功した??)


程なくして教会の神父と思われる男にみつけられ男はベッドに寝かされた。

神父は男にこう言った。


「これは呪いです。とても強力な…私にあなたを癒やすことはできません…」


男は涙を流し助けてくれと叫び続けた。


(神父では癒せない強力な呪い…)


私はこれでよかったのかわからぬまま家路についた。



帰るとムイが部屋にいた。


「シアさん、お疲れ様でした。」


いつもの笑顔だった。


私は疲れた体を渋々起こしムイの方を見た。


「初任務完了ですね!ご主人様も喜んでおられますよ。」


「完了…したの?」


私はあれが正解だったのだと思い知らされた。


「はい、脅威はもうありません。ありがとうございました。」


ムイはそう言うと次の依頼の資料を置いていった。

次も頑張るように言われたがまだそんな気持ちにはなれない。


私は重い足を引きずりあの地下室へ向かった。


────


(魔法使い ナヤリタン)


次の標的だ。

悪魔を殺す魔法を研究しているらしい。


私はため息をつき地図を見てみた。

この魔法使いのいる場所はこの前の王国より遠い。


(少しレベルアップしていかないと途中で力尽きるかもしれないな)


私はまた身分証を取り出してみた。


身分証は前回見たときと様子が変わっていた。

見慣れないアイコンが増えている。


MAPと時計とコンパスの機能が使えるようになっていた。


(私の世界よりハイテクではないか…)


MAP機能は現在地はもちろん目的地を入力するとナビゲーションのようなものが発動するようだ。

なんて便利なんだろうか。


スキルも追加されていた。


・物体干渉 Lv1

・呪詛 Lv2


(呪詛はわかるけど物体干渉ってなんだろう?)


もしかして!と思い私は生霊になってみた。

そして近くにあった本を持ち上げてみた。


「やった!」


本は以前と違い通り抜けることなく持ち上げることができた。

どうやら生霊としても物に干渉できるようになったようだ。


いろいろ試してみたが意識が働いている場合にのみ物体に干渉する力が発動するようだ。

何も考えずに持とうとしても前のように通り抜けてしまう。


試行錯誤の結果、鞄を身に着けた状態で生霊になれば持っていくことができるのがわかった。

ククルの前でいろいろ取り出してみたがククルには何も見えないようだった。


(物も霊的な次元に持っていけるのか)


仕組みはさっぱりわからないがこれからは身分証を持ち歩ける。

困ったらすぐに地図やコンパスが使える。


できることが増えて単純に嬉しかった。


私はまた森へレベルを上げるために魔物狩りに出かけた。

呪詛のレベルも上げるために今までとは違う倒し方もやってみた。


爆発しろ!とか霧になれ!とか果てには消えろ!というのも成功した。

どこに消えたのかわからないが魔物は一瞬で消え去った。

小さな魔物からはじめて熊サイズの魔物までは消すことができるようになった。


消すのは簡単だった。

しかしスキルのレベル以外はまったく上がらなかった。

どういうシステムなのかわからないが消し去ると他のステータスは上がらないようだ。


(消すのはやめておこう)


まんべんなくレベルを上げたかったからだ。


私は落ちている枝や石を使い魔物にぶつけることを覚えた。

どうやらこの方法のほうが刺すイメージで倒すより魔力の消費が少ない。


そうしてまた3日ほどレベリングした結果、私のレベルは30になっていた。


(そろそろ次の依頼をこなさないと…)


数日前の落ち込んだ気持ちは不思議なことに薄れていた。

目に見える自分の成長を嬉しく思い、ワクワクした気持ちになっていた。


前の世界での私は成長したいとも思わず、日々をダラダラと過ごすだけだった。

だからとても新鮮だった。

もっとできるようになりたいという欲求もできた。


いろんな本を読みあさったがスキルの取得方法を明確に書いているものはなかった。

どうやら特殊な行動に伴って突然発動するらしい。


繰り返し魔物を倒しているとスキルも増えていった。

炎攻撃や毒攻撃などの属性攻撃、そして瞬間移動というスキルも覚えた。


瞬間移動は初めは数cmくらいの移動しかできなかったがレベルが上がるにつれて移動できる距離は増えていった。

移動の距離が増えると魔力の消費も大きくなるので頻繁には使えないだろう。


この先、私のことを感知する相手がいるかもしれない。

そんなときに使うのがいいかもしれない。



私は準備万端で意気揚々と次の標的のもとへ向かった。

前回より遠い場所だったがレベリングの効果があり、数十分で到着することができた。

そこは町から離れた丘の上にある小さな家だった。

中にいたのは肖像画のとおりの白髪で髭もじゃの小さなおじいさんだった。


「もう少しで完成だ…」


その魔法使いは鍋で何かをかき混ぜながらブツブツと何かを唱えていた。


(完成したら私がまずいことになる!)


殺さずにどうやって阻止したらいいのか考えた。

殺すのは簡単だけど魔物のようにはいかない。

きっと殺してしまえばまた眠れない日々が続くだろう。


(呪文を唱えようとしたら口が閉じますように…)


私は魔法使いから魔法を奪うという選択を取った。

このおじいさんはもう魔法使いとして生きていけなくなってしまうのだが死ぬよりいいだろう。


私の呪詛は成功したようで魔法使いはモゴモゴと声を出そうと必死だ。


鍋をかき混ぜていた手を止め、口を手でこじ開けようとしている。


「これはいったいどうしたものか」


声を出せたことに魔法使いは驚き、すぐにまたモゴモゴしている。


「魔法が使えないというのかっ!!」


魔法使いはすぐに何が起きたのかわかったようだ。

何度も試しては憤怒している。


「なんてこった!ちくしょー!」


魔法使いは家を出てどこかに走っていった。


私は追いかける。



町についた魔法使いは一軒の小さな家に入って行った。


「おい!頼む!魔法が使えなくなった!助けてくれ!!」


そこには老婆が眠そうな顔で椅子に腰掛けていた。


老婆はびっくりして飛び上がり魔法使いにことの成り行きを話させた。

そしてモゴモゴと呪文を唱えられない様子を見た。


「これは…呪いのようだね…」


老婆は顔をしかめ魔法使いに向かってそう言った。


「呪いだと?なぜ私が!

どうにか解いてくれ!!」


魔法使いは懇願するが老婆は首を横に振る。


「わしじゃどうにもならん…すまん…」


二人は言葉も出せずに床をみつめた。

魔法使いは何も言わずに家に戻って行った。

老婆は本棚から分厚い本を取り出しページをめくっては首を振りため息をついた。

解決策を探そうとしているようだがみつからないようだった。


私は魔法使いの家に戻ってみた。

魔法使いは相変わらずモゴモゴと呪文を唱えようともがいていたが口は一切開くことはなかった。

諦めきれない様子で何度も何度も試すがモゴモゴするばかりだった。


私は居たたまれない気持ちになりその場をあとにした。


(成功したのに…やっぱり気持ちのいい仕事じゃないな…)


────


屋敷に帰るとムイがまた目の前で待っていた。


「お疲れ様でした。」


笑顔でそう言うとまた次の依頼を置いていった。


私は依頼の確認をする気持ちにもなれず、その日は寝ることにした。


(終わりはあるのかな…)


答えのない疑問を胸にその日は眠りについた。


静かな夜はふける。




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